『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

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「英才教育」編

122話 「ホロロの神 その2『肯定する者』」

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 ホロロに案内され、金貸し業者の建物に到着。

 事務所にも何人かいたので軽く尋問すると、あっさりと隠し部屋を教えてくれた。そのお礼に実験台にはせず、さくっと蒸発させてあげる。

 隠し部屋には金属製の金庫があったが、当然そんなものは意味がないので、簡単に破って中身を頂戴する。

 中には札束と借用書の山があった。


「現金は…えーと、三十億くらいかな? 思っていたより少ないかも」

「この街には、いくつか金融業を行っている業者があるようです。資産を分散して管理しているのかもしれません。あとはハローワークがないので紙幣が刷れないのも影響しているのでしょう」

「ああ、そっか。あくまで街に集まってくる金を管理しているだけなのか。他に流れる金も多そうだね」


 ハローワークがすごいところは、その地域における通貨の流通量を調整管理していることだ。それによって物価の大幅な変動を抑止できる。

 ハピナ・ラッソにはハローワークがないので、その分だけ金融業を自由に行うことができる反面、巨大組織の後ろ盾もないため、他の国や都市からやってくる金を集めることしかできない。

 資金の大半は都市の運営に回され、ギャング団が実際に使える金はそう多くないのだろう。そう思うとあまり旨みがあるとは思えないが、人間は他者を支配する欲求を持つものだ。

 自分の街を持つだけでも彼らは満足だったのかもしれない。少なくとも搾取される側からは脱することができる。


「今から他の事務所に行くのは面倒だし、これくらいで我慢しておくかな。あまりやると街そのものが機能しなくなりそうだしね。そういえば、ホロロさんも金を借りていたんだっけ?」

「恥ずかしながら…」

「借用書もたくさんあるね。ホロロ・マクーンは…これかな? はい、ぼんっと燃やして終わり。どうせ取り立てる連中もいなくなったし、あくまで書類上のことだけど、これで借金はなくなったね。すっきりだ」

「しかし、借りたのは事実です。それも私の弱さゆえなのです」

「理由があったんでしょ? 気にすることはないよ。人間って余裕がないと普段とは違う考え方をしちゃうもんだしね。べつに君が悪いわけじゃない」

「ですが…私は私欲のために人を殺めました」

「それがどうしたの?」

「…え?」

「人殺しが悪いなんて誰が決めたの? 人を殺すことは手段の一つにすぎない。売買交渉や取引における最上位の強硬手段であり、人が最後に拠り所にする最高の手段でもある。脅迫や示威行為、戦争もすべて利益を得るための手段さ。人類史上、今まで正義や思想で行われた紛争は一つもないからね」


 実際のところイデオロギーで発生した戦争は一つもない。それは建前であって、人間は必ず裏側の本音で動いている。

 人と物を奪い、支配する。上位に立つ。あるいは侵略から守る。

 それ以外の目的で争いは起こらないのだ。それが人間である。


「もし人を殺す行為自体が悪ならば、自然災害での事故も星の過失、それを管理している女神様の犯罪行為になっちゃうよ。でも、違うでしょ? 女神様はオレたちを愛している。それは無限の愛だ。死を超えたものだ。人の本質がもっと大きいことを女神様自身が示してくれている」

「そうかも…しれませんが…」

「ホロロさん、地上世界は歪んでいるんだよ。どこの星も同じさ。人間が暮らす以上、善だけが存在するわけじゃない。闇があって悪があって不完全さがある。それがあまりに大きく理不尽だから、どうしても抵抗できないことが起きる。君はきっと、そんな状況だったんだろうね」

「私は…そこまで物事を考えて動いていたわけではないのです。ただ…世界が憎かった。壊したかったのです」

「武力、権力、金。この三つが世界を牛耳っている。そのどれかを持っていないと人生は厳しいものになるよね。特にこんな場所で女性が暮らすのは大変だ。そんな世界に失望するのも仕方がないことだよ。誰もが自分のことで精一杯だからね」

「その…通りです。誰も助けてはくれない。助けることを請う自分さえ…嫌いでした。だから私は…」

「よくやった!!」

「…っ」

「君はあらがおうとした。大嫌いなものに対して戦いを挑もうとした。何もしないで倒れることをよしとしなかった。無責任なやつはその不条理に耐えろって言うけど、オレはそうは思わない。力だよ。力が必要なんだ。力がなければ何も成し得ないんだ。守ることもできない」



―――「だから、君は正しい」



「もし、その結果として人を殺したことを悔やんでいるのならば、【オレが許す】よ。さっきも言ったけど、オレが殺した数に比べれば些細なものさ。たいしたことはない」

「………」

「でも、オレはべつに人が嫌いなわけじゃない。馬鹿だし愚かだし、くだらない連中だとも思うけど、それ自体は気に入っているんだ。世界がどんなに不条理でも力を持てば見え方も変わってくる。君は戦ったことで、その世界の一端を垣間見たはずだ。どうだい、『綺麗』だっただろう?」

「綺麗…?」

「そうだ。闇を知ったからこそ、その先が見える。本気で戦った者にしか見えない世界があるんだ。それこそ世界の真なる姿、闘争の先にある『無限の可能性の世界』だよ」


 ホロロは、目を見開いてアンシュラオンを見る。

 初めて見た時から眩いばかりの光を放っていたが、その光はさらに強まって、視神経から自分の魂にまで直接届いた気がした。

 はっきりと見える。くっきりと見える。ぼやけていた世界の輪郭が見えていく。

 それと同時に身体が熱くなり、熱病に侵されたように頭がふらふらしてくる。


「君が借金をしたのは何のため?」

「病気の…母のためです」

「なるほどね。お母さんは近くにいるの?」

「はい、この街の病院にいます」

「うん、わかった。そこに連れていってもらえるかな? どこまでやれるかわからないけど、君に『力』とは何かを見せてあげよう」

「は、はい」


 ホロロは高鳴る心を必死に抑えながら、アンシュラオンたちを病院にまで連れていく。


(そんなこと…あるわけがない。助けてもらっただけでも偶然が過ぎるのに)


 たまたま出会った。偶然助けてもらった。こんなことは一生に一度あるかどうかの奇跡だ。

 それが何度も起きるわけがない。今こうしていることも夢か幻にさえ感じる。

 しかし、どうしてだろうか。なぜか期待してしまう。

 病院に戻ると、病室の壁は壊れたままで、これが幻ではなかったことがよくわかる。

 その病室のベッドでは母親が寝ていた。取り巻きの男が適当に乗せただけなので布団がずれているが、それ以上の変化はない。

 だから、病気であることも変わらない現実である。


「この人がお母さんだね」

「…はい」

「見た感じ、五十歳ちょっとかな? まだまだ若そうだ。寝ているところ悪いけど、ちょっと診せてね」


 白い少年がゆっくり近づき、恭しく母親に触れる。

 あれだけの殺生をしたにもかかわらず、女性に対しては菩薩のような柔和な表情で優しく触れるから不思議だ。

 そして、呟く。


「ああ、これなら楽勝だ」

「はぁ…はぁ……はあ」


 その言葉でまたホロロの血圧が上がっていく。

 嘘だ。ありえない。ありえるわけがない。

 どんな医者でも治せないと言われた。無理だと言われた。かろうじて延命させるために麻薬で痛みを消すことしかできなかった。

 それが、それが、それが―――



「……ぁあ、なんだか……長く寝ていた気がするね。うーーーん! はぁっ…ふぅうう!」



 母が起きる。

 ゆっくりではなく、がばっと。

 それから伸びをして、上半身のストレッチを始めるではないか。


「どう? 腫瘍は全部治したけど、痛みはない? まあ、いわゆるガンだね。オレは素人だからよくわからないけど、たぶん末期だったから危なかったよ。でも、もう大丈夫。治ったはずさ」


 以前、領主城で女の子たちを癒した行為と同じである。

 命気は特に細胞系に強く、ガン細胞に関しては一瞬で癒すことができる。自分自身の場合は肉体の再生も容易なので、この程度は宣言通り楽勝だ。


「…ああ、わかるよ。わかる。あなた様が治してくださったんだねぇ。ありがたや、ありがたや」

「いやいや、拝まなくていいよ。たいしたことじゃない。ほら、立ってみて。足は大丈夫?」

「あらま、なんてこと。前より元気になったみたいだわ! ほら、ほら!! ジャンプもできるわ!!」

「あはは、元気だね。まだまだ寝込む歳じゃない。これからもがんばってね。もちろん治療費なんていらないよ。オレは医者じゃないしね」

「ああ…あなた様は…まさに【神様】のような御人だねぇ」

「っ―――!!!!」


 その瞬間、ホロロの中で凄まじい電流が走った。

 アジトで出会ってから感じていた想いの源泉が、ここで何か明確にわかったのだ。



―――神



 自分が求め、求め続けて、結局見限ってしまったもの。

 だが、強く否定すること自体、それを信じている証拠なのだ。信じていたからこそ、強く否定しなければ否定しきれないからだ。

 脳が弾けたような、心臓が爆発したような、強烈で絶句するほどの衝撃。

 ジィイイイインッと身体が痺れ、じんわりとしたアツアツの熱量が心を満たし、ついに決壊。


「………」

「ホロロさん、泣いているの? やっぱり痛かったんだね」

「痛みは…無くて…」

「いいや、痛かったんだよ。よくがんばったね。ほら、もう大丈夫。オレがいるから大丈夫だよ」


 アンシュラオンが、そっと抱きしめる。


「わ、わた…し……」

「身体の力を抜いて。身体を預けて。そう、もっと。もっと。心を預けて。女性一人でギャングに立ち向かうなんて簡単にできることじゃない。ずっとがんばっていたんだね。よしよし」

「ぁっ……っ……ぁぁ……」


 自分よりも小さな体躯なのに、すごく大きくて。

 どんなにあらがっても壊せなかった現実の壁を一瞬で壊して。

 今も自分の中にあった気丈さや頑固さ、怒りや憎しみすらも受け止めて。

 全部を溶かして吸い取ってしまう。


(神は…いた。神はいる。そう、この御方こそ―――神なのだ)


 ホロロはこの瞬間、自分だけの神を見つけた。


(すごっ! なにこの弾力と重さ。マキさん以上は確定だな。胸だけなら姉ちゃんに近い感触だ。ううむ…88点を付けざるを得ない。このおっぱい博士を唸らせるとは…やるな!)


 ただし、神は神でも、おっぱいの神かもしれないが。


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