111 / 386
「英才教育」編
111話 「ロリコンを見極める少女の目」
しおりを挟む「でも、それって職人にとっては嫌なことなんじゃないの?」
「そうかもしれないが、どうせ捨てるもんだ。有効活用したほうがいいだろう? それに失敗作だけじゃない。試作品でまだ店で売れないようなものもある。その包丁もその一つだな」
「アズ・アクス製なのは本当なんだね。ロリコン妻に誓う?」
「なんで妻のほうなんだよ」
「嫌々結婚させられた挙句、犯罪の手伝いまでさせられている彼女への懺悔だよ」
「酷い言われようだな!? 行商人の妻なんだから、あの子もそれなりにわかっているぞ」
「そうなんだ。単純に商売上手なのか。そうでないと務まらないよね」
「で、お前のほうはどうなんだ。その子はスレイブでいいんだよな? そのわりにはギアスがないようだが…」
ロリコンがサナを見る。どうやら彼の認識では、ギアスは緑のジュエルでしかできないと思っているらしい。
肝心のサナはロリコンなど見向きもせず、運ばれてきた料理に釘付けだが。
「スレイブというか、もうオレの妹だよ。白スレイブだから区別はないんだ」
「白スレイブ? 何だそれ?」
「自由に契約を決められる違法スレスレのスレイブ」
「スレスレというか…思いきり抉ってるぞ」
「そうかもね。でも、こっちも裏の抜け道はいっぱいあるみたいだよ。実際にスレイブ商人から持ちかけてきた話だし」
「知らない間に俺より詳しくなっているな…」
「ロリコンが先生だった頃が懐かしいよ。まあ、そんなもんだよね。どっぷりはまったら抜け出せない世界だしさ。ロリコンも、そのあたりで止まっておいてよかったじゃんか」
「たしかにもともと危ない分野だしな。というか、お前もロリコンじゃないか! 今気づいたわ!」
「サナ、お兄ちゃんはロリコンかな?」
「…ふるふる」
「じゃあ、ロリコンは誰かなー?」
「…じー」
サナは目の前の男を見つめる。
事実はいつも哀しいものだ。
「さっきから無反応だったのに、どうしてそこだけは反応するんだ!?」
「サナは頭が良いんだ。真実を言い当てたんだよ」
「…じー」
「やめてくれ! そんな清らかな目で見ないでくれ!」
ロリコンがロリコンであったことを再確認しつつ、食事をしてゆっくりした時間を過ごす。
「この海産物、やっぱり『生』ってわけじゃないんだね」
「ハピ・クジュネからは、まだまだ距離があるからな。乾燥させたものや燻したものを戻して使っているんだろう。それでもグラス・ギースよりはましだけどな」
「たしかにね。サナ、あーん」
「…ぱくり」
「美味しい?」
「…こくり、もぐもぐ」
サナ様は満足げだ。
彼女が満足ならば自分も心が満たされるので、食事とは一緒に食べる相手が重要だと知る。
「ところでロリ子ちゃんは?」
「いや、ちゃんとあいつにも名前があるんだが…」
「面倒だからロリコンとロリ子ちゃんでいいよ。ねえ、これ以上のインパクトがある名前ってあると思う? 芸人なんて所詮、最初のネタ以上のものは生まれない定めなんだよ」
「ネタでやってんじゃないって! お前が勝手に呼んでいるだけだろう」
「で、ロリ子ちゃんは?」
「…あいつはショッピングだ。前にもらった『聖樹の万薬』が高く売れたんだよ」
「ああ、あれか。いくらで売れたの? ねえ、いくら?」
「えと……二百万…かな」
「嘘だね。五百万と見た。しかもまだ残っているだろう?」
「エスパーか!? ねぇ、エスパーなの!?」
「目が泳ぎすぎだよ。べつに差額を請求したりしないから怯えないでいいよ。でも、そんなにするんだね。数百万とか言ってなかった?」
「もともと薬は数が少ないからな。南部で疫病が流行ってるらしくて値が上がったんだ」
「疫病? 怖いな。ここまで来ないよね?」
「それはわからないが、そういった噂もあって高くなっているんだろうな」
「その金を使って豪遊しているんだね」
「豪遊ってわけじゃないが…気分転換だ。オレは倹約家だし、そんなに物欲がないからな」
「その代わりに夜は攻め立てるのか。このロリコンめ」
「お前には言われたくないぞ」
「サナ、ロリコンは誰かなぁー?」
「…じー」
「それはやめてくれ!」
「ロリコンはこれからどうするの?」
「夜まで暇だ。ホテルで待ち合わせだからな」
「それじゃ、昼間は一緒に動こうか。というか、ハピ・クジュネまで一緒に行く?」
「かまわないが、俺は仕事をしながら移動するぞ」
「それでいいよ。オレもこの子にいろいろな体験をさせてあげたいからね。いい経験になりそうだ」
「なんだか最初に出会った頃とは少し違うな。もっとこう、ボインの姉ちゃんを求めているのかと思ったぞ」
「ボインって…いつの時代のおっさんだよ。そりゃオレだって大きいのは好きだよ。三十過ぎくらいの妖艶な感じの人とか最高だよね。でもまあ、それより『愛』のほうが大事さ」
「うんうん、わかるぞ。愛だよな」
「ロリコンと一緒にされるのって…なんかきついね」
「その嫌そうな顔はやめろよ!」
こうして昼間は、ロリコンと適当に街を流して遊ぶ。
心なしかサナも少し楽しそうだった。違う人間との出会いが彼女にエネルギーを与えているようだ。
夜になり、ロリコンが泊まっているというホテルに赴く。
外観は若干アラビア風で、海によく似合うデザインだ。(実際に海はないので少し浮いているが)
アンシュラオンがハビナ・ザマで泊まったホテルほどではないが、それなりに大きくてしっかりしていた。
「これがオレが手に入れた林檎で泊まっているホテルかー」
「もうその話はやめろよ」
「いつもは安宿なんでしょ?」
「まあそうだが…感謝してるって」
「その言葉、忘れるなよ」
「で、お前たちはどうするんだ? ここに泊まるのか?」
「部屋が空いてるなら、ここでいいかな。たまには中級も味わってみたいからね」
「くっそ、なんでそんなに金持ちなんだ!? 昼間も金の使い方がおかしかったぞ」
「くくく、いいだろう。ハンターをなめるなよ。ハローワークで魔獣の素材を売れば、いくらでも換金できるからね」
「なぁ、俺にも安く流してくれよ」
「それって結局、オレが得る金がそっちにも流れるだけじゃん。おごるのと一緒だ」
「そこは持ちつ持たれつでいこうぜ」
「こんなときだけ商売人になるんだから、調子がいいよな」
受付に訊いたところ部屋が空いているそうなので、アンシュラオンたちもここに泊まることになった。
(旅は道連れ世は情け、か。こういう旅もいいもんだな)
ロリコンはすでに「スレイブ仲間」なので、言ってしまえば裏の事情も知っている同好の士だ。
その点でジョイみたいに気を遣わないでいいから気楽である。
そうしてロリ子と合流するために、サナと一緒にロビーでくつろいでいた時だ。
ふと、『一人の美女』が目に入った。
マキや小百合と同じくらいの年齢帯の美人のお姉さんである。髪の毛は濃い紫で、瞳は黄色の虹彩を放っている。
マキが凛々しい、小百合が可愛いとすれば、彼女はとても艶っぽいお姉さんといえるだろう。歩いているだけでも、ついつい見惚れてしまう色気を放っている。
口元にあるホクロもまた魅惑的だ。
(これは…けっこう好みだな。今まで見た女性よりも姉ちゃんに少し似ているか?)
大人の色気があり、胸もかなり大きい。たぶんマキより大きいかもしれない。
やはり自分の理想は姉なので、ついつい比べてしまうのは仕方ないだろう。
相手もこちらの視線に気づいたようで、目と目が合う。
「…っ」
女性は一瞬だけ驚いた様子を見せたが、少しずつ落ち着いたようで静かに目を逸らした。
(おっと、『姉魅了』効果が出ちゃったか。このスキルって許可なく発動するから不便といえば不便だよね。あんな美人のお姉さんに好かれるなら大歓迎なんだけど、無駄に刺激するのは悪いかな)
そして視線を外すと、ちょうどロリ子が戻ってきたところであった。
ロリ子はロリコンを見つけると、手を振りながら歩いてきた。
「あらロリコン、どうしたの? まだ早いんじゃない?」
「ああ、実はあいつとまた出会ってな」
「あいつ?」
「ブシル村で会ったあいつだよ。ロリ子が包丁を売ったやつだ」
「えっ! あの人が!? どこにいるの?」
「ほら、あそこだよ」
※アンシュラオンの脳内変換によって、ロリコンの本名は「ロリコン」、ロリコン妻の本名もすべて「ロリ子」に変換されています。これによって夫婦間の会話が面白いことになっていますが、どうぞご了承ください。
「やぁ、久しぶりだね」
「まさかこんなところでお会いできるなんて、感激です!」
「自己紹介がまだだったね。オレの名前はアンシュラオン。こっちは妹のサナだよ」
「…こくり」
「ふわぁあああああ!? か、かわいぃいいいいいいい! なんですか、この可愛い子は!? うわぁあ、ふわふわしてる! やわらかーい! いい匂いもする!」
「…むぎゅっ」
ロリ子がサナに抱きつく。
褒めてくれているし、女の子同士の触れ合いなので嫌な気はまったくしない。むしろ眼福でもある。
「ああ、すみません! あまりに可愛くて…! 改めまして、私はロリ子と申します。よろしくお願いします!」
「元気にしてた?」
「はい、おかげさまで元気にしておりました。アンシュラオンさんは、今は何をしていらっしゃるんですか?」
「気ままな二人旅だよ。妹ともども職業はハンターだね。適当に魔獣を狩って暮らしてるんだ」
「それは素敵ですね! 憧れます!」
「オレたちもハピ・クジュネまで行くから、ロリコンと一緒に行こうかって話していたところなんだ。二人きりの旅を邪魔するようで悪いけど、どうかな? 護衛はちゃんとするよ。これでもホワイトハンターだからね」
「ほ、ホワイトハンターですか!? そ、それはむしろこちらが申し訳ないです。そんなすごい人に守ってもらうなんて!」
「いいのいいの。どうせついでだしね」
「なんだよ、ホワイトハンターだったのか?」
「ロリコンはあんまり驚かないね」
「明らかに討滅級っぽい魔獣を倒していたからな。やっぱり本当だったんだなって思ったくらいさ。最初から破天荒なやつだったし、いまさら驚かないさ」
「ちなみにあの時の心臓がこれだよ。ほら、サナのペンダント」
「ええええええ!?」
「そっちに驚くのはおかしくない?」
「ちくしょう! こんな綺麗な宝石になるなら、あの時に買っておけばよかった!」
「………」
「ん? どうした?」
「ああいや、ちょっとね。さっきあそこに胸の大きな美人が座っていたから、少し気になってね」
「やっぱりボインが好きなんじゃないか」
「オレはべつにロリコンじゃないからね」
「そこは抉らない約束でしょ!?」
(あの女の人、いなくなっちゃったな)
ロリ子が来たタイミングで、さきほどの美女は外に出て行ったようだ。
たしかに関係ない女性ではあるが、妙に沈んだ表情がとても気になった。何か悩みがあるのかもしれない。
(とはいえ、いちいち気になった女性全員を追っていたら、それこそ旅どころじゃない。サナのためにマキさんたちすら諦めたんだ。今はサナの教育を最優先だ)
豊満な胸に顔をうずめる感覚が懐かしいが、今はぐっと我慢である。
代わりにサナを抱きしめれば、それだけで幸せ一杯の気分になれる。
「ロリコンたちは、もうホテルで休むの?」
「ああ、そうするつもりだ。お前は違うのか?」
「夕食は一緒に食べたいけど、終わったらちょっと行ってみたい場所があるんだ。【カジノ】がどこにあるか知ってる?」
「おいおい、カジノはやばいぞ」
「知ってるよ。ギャングが仕切っているんだよね?」
「それを知っていて行くつもりなのかよ。とんでもないな」
「どんなところか見たいし、せっかく賭場があるなら稼がせてもらおうかなって。サナを育てるのにもお金がかかるしさ」
「まあ、お前なら大丈夫だとは思うが、気をつけろよ。場所はあとで教えてやるよ」
「うん、ありがとう」
「ホテルのレストランにでも行くか。ここはステーキが美味いぞ」
夕食はロリコン夫妻と一緒にいただく。
すでにロリコンが尻に敷かれている気もするが、なんだかんだ二人は上手くやっているようである。
0
お気に入りに追加
389
あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる