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「英才教育」編
111話 「ロリコンを見極める少女の目」
しおりを挟む「でも、それって職人にとっては嫌なことなんじゃないの?」
「そうかもしれないが、どうせ捨てるもんだ。有効活用したほうがいいだろう? それに失敗作だけじゃない。試作品でまだ店で売れないようなものもある。その包丁もその一つだな」
「アズ・アクス製なのは本当なんだね。ロリコン妻に誓う?」
「なんで妻のほうなんだよ」
「嫌々結婚させられた挙句、犯罪の手伝いまでさせられている彼女への懺悔だよ」
「酷い言われようだな!? 行商人の妻なんだから、あの子もそれなりにわかっているぞ」
「そうなんだ。単純に商売上手なのか。そうでないと務まらないよね」
「で、お前のほうはどうなんだ。その子はスレイブでいいんだよな? そのわりにはギアスがないようだが…」
ロリコンがサナを見る。どうやら彼の認識では、ギアスは緑のジュエルでしかできないと思っているらしい。
肝心のサナはロリコンなど見向きもせず、運ばれてきた料理に釘付けだが。
「スレイブというか、もうオレの妹だよ。白スレイブだから区別はないんだ」
「白スレイブ? 何だそれ?」
「自由に契約を決められる違法スレスレのスレイブ」
「スレスレというか…思いきり抉ってるぞ」
「そうかもね。でも、こっちも裏の抜け道はいっぱいあるみたいだよ。実際にスレイブ商人から持ちかけてきた話だし」
「知らない間に俺より詳しくなっているな…」
「ロリコンが先生だった頃が懐かしいよ。まあ、そんなもんだよね。どっぷりはまったら抜け出せない世界だしさ。ロリコンも、そのあたりで止まっておいてよかったじゃんか」
「たしかにもともと危ない分野だしな。というか、お前もロリコンじゃないか! 今気づいたわ!」
「サナ、お兄ちゃんはロリコンかな?」
「…ふるふる」
「じゃあ、ロリコンは誰かなー?」
「…じー」
サナは目の前の男を見つめる。
事実はいつも哀しいものだ。
「さっきから無反応だったのに、どうしてそこだけは反応するんだ!?」
「サナは頭が良いんだ。真実を言い当てたんだよ」
「…じー」
「やめてくれ! そんな清らかな目で見ないでくれ!」
ロリコンがロリコンであったことを再確認しつつ、食事をしてゆっくりした時間を過ごす。
「この海産物、やっぱり『生』ってわけじゃないんだね」
「ハピ・クジュネからは、まだまだ距離があるからな。乾燥させたものや燻したものを戻して使っているんだろう。それでもグラス・ギースよりはましだけどな」
「たしかにね。サナ、あーん」
「…ぱくり」
「美味しい?」
「…こくり、もぐもぐ」
サナ様は満足げだ。
彼女が満足ならば自分も心が満たされるので、食事とは一緒に食べる相手が重要だと知る。
「ところでロリ子ちゃんは?」
「いや、ちゃんとあいつにも名前があるんだが…」
「面倒だからロリコンとロリ子ちゃんでいいよ。ねえ、これ以上のインパクトがある名前ってあると思う? 芸人なんて所詮、最初のネタ以上のものは生まれない定めなんだよ」
「ネタでやってんじゃないって! お前が勝手に呼んでいるだけだろう」
「で、ロリ子ちゃんは?」
「…あいつはショッピングだ。前にもらった『聖樹の万薬』が高く売れたんだよ」
「ああ、あれか。いくらで売れたの? ねえ、いくら?」
「えと……二百万…かな」
「嘘だね。五百万と見た。しかもまだ残っているだろう?」
「エスパーか!? ねぇ、エスパーなの!?」
「目が泳ぎすぎだよ。べつに差額を請求したりしないから怯えないでいいよ。でも、そんなにするんだね。数百万とか言ってなかった?」
「もともと薬は数が少ないからな。南部で疫病が流行ってるらしくて値が上がったんだ」
「疫病? 怖いな。ここまで来ないよね?」
「それはわからないが、そういった噂もあって高くなっているんだろうな」
「その金を使って豪遊しているんだね」
「豪遊ってわけじゃないが…気分転換だ。オレは倹約家だし、そんなに物欲がないからな」
「その代わりに夜は攻め立てるのか。このロリコンめ」
「お前には言われたくないぞ」
「サナ、ロリコンは誰かなぁー?」
「…じー」
「それはやめてくれ!」
「ロリコンはこれからどうするの?」
「夜まで暇だ。ホテルで待ち合わせだからな」
「それじゃ、昼間は一緒に動こうか。というか、ハピ・クジュネまで一緒に行く?」
「かまわないが、俺は仕事をしながら移動するぞ」
「それでいいよ。オレもこの子にいろいろな体験をさせてあげたいからね。いい経験になりそうだ」
「なんだか最初に出会った頃とは少し違うな。もっとこう、ボインの姉ちゃんを求めているのかと思ったぞ」
「ボインって…いつの時代のおっさんだよ。そりゃオレだって大きいのは好きだよ。三十過ぎくらいの妖艶な感じの人とか最高だよね。でもまあ、それより『愛』のほうが大事さ」
「うんうん、わかるぞ。愛だよな」
「ロリコンと一緒にされるのって…なんかきついね」
「その嫌そうな顔はやめろよ!」
こうして昼間は、ロリコンと適当に街を流して遊ぶ。
心なしかサナも少し楽しそうだった。違う人間との出会いが彼女にエネルギーを与えているようだ。
夜になり、ロリコンが泊まっているというホテルに赴く。
外観は若干アラビア風で、海によく似合うデザインだ。(実際に海はないので少し浮いているが)
アンシュラオンがハビナ・ザマで泊まったホテルほどではないが、それなりに大きくてしっかりしていた。
「これがオレが手に入れた林檎で泊まっているホテルかー」
「もうその話はやめろよ」
「いつもは安宿なんでしょ?」
「まあそうだが…感謝してるって」
「その言葉、忘れるなよ」
「で、お前たちはどうするんだ? ここに泊まるのか?」
「部屋が空いてるなら、ここでいいかな。たまには中級も味わってみたいからね」
「くっそ、なんでそんなに金持ちなんだ!? 昼間も金の使い方がおかしかったぞ」
「くくく、いいだろう。ハンターをなめるなよ。ハローワークで魔獣の素材を売れば、いくらでも換金できるからね」
「なぁ、俺にも安く流してくれよ」
「それって結局、オレが得る金がそっちにも流れるだけじゃん。おごるのと一緒だ」
「そこは持ちつ持たれつでいこうぜ」
「こんなときだけ商売人になるんだから、調子がいいよな」
受付に訊いたところ部屋が空いているそうなので、アンシュラオンたちもここに泊まることになった。
(旅は道連れ世は情け、か。こういう旅もいいもんだな)
ロリコンはすでに「スレイブ仲間」なので、言ってしまえば裏の事情も知っている同好の士だ。
その点でジョイみたいに気を遣わないでいいから気楽である。
そうしてロリ子と合流するために、サナと一緒にロビーでくつろいでいた時だ。
ふと、『一人の美女』が目に入った。
マキや小百合と同じくらいの年齢帯の美人のお姉さんである。髪の毛は濃い紫で、瞳は黄色の虹彩を放っている。
マキが凛々しい、小百合が可愛いとすれば、彼女はとても艶っぽいお姉さんといえるだろう。歩いているだけでも、ついつい見惚れてしまう色気を放っている。
口元にあるホクロもまた魅惑的だ。
(これは…けっこう好みだな。今まで見た女性よりも姉ちゃんに少し似ているか?)
大人の色気があり、胸もかなり大きい。たぶんマキより大きいかもしれない。
やはり自分の理想は姉なので、ついつい比べてしまうのは仕方ないだろう。
相手もこちらの視線に気づいたようで、目と目が合う。
「…っ」
女性は一瞬だけ驚いた様子を見せたが、少しずつ落ち着いたようで静かに目を逸らした。
(おっと、『姉魅了』効果が出ちゃったか。このスキルって許可なく発動するから不便といえば不便だよね。あんな美人のお姉さんに好かれるなら大歓迎なんだけど、無駄に刺激するのは悪いかな)
そして視線を外すと、ちょうどロリ子が戻ってきたところであった。
ロリ子はロリコンを見つけると、手を振りながら歩いてきた。
「あらロリコン、どうしたの? まだ早いんじゃない?」
「ああ、実はあいつとまた出会ってな」
「あいつ?」
「ブシル村で会ったあいつだよ。ロリ子が包丁を売ったやつだ」
「えっ! あの人が!? どこにいるの?」
「ほら、あそこだよ」
※アンシュラオンの脳内変換によって、ロリコンの本名は「ロリコン」、ロリコン妻の本名もすべて「ロリ子」に変換されています。これによって夫婦間の会話が面白いことになっていますが、どうぞご了承ください。
「やぁ、久しぶりだね」
「まさかこんなところでお会いできるなんて、感激です!」
「自己紹介がまだだったね。オレの名前はアンシュラオン。こっちは妹のサナだよ」
「…こくり」
「ふわぁあああああ!? か、かわいぃいいいいいいい! なんですか、この可愛い子は!? うわぁあ、ふわふわしてる! やわらかーい! いい匂いもする!」
「…むぎゅっ」
ロリ子がサナに抱きつく。
褒めてくれているし、女の子同士の触れ合いなので嫌な気はまったくしない。むしろ眼福でもある。
「ああ、すみません! あまりに可愛くて…! 改めまして、私はロリ子と申します。よろしくお願いします!」
「元気にしてた?」
「はい、おかげさまで元気にしておりました。アンシュラオンさんは、今は何をしていらっしゃるんですか?」
「気ままな二人旅だよ。妹ともども職業はハンターだね。適当に魔獣を狩って暮らしてるんだ」
「それは素敵ですね! 憧れます!」
「オレたちもハピ・クジュネまで行くから、ロリコンと一緒に行こうかって話していたところなんだ。二人きりの旅を邪魔するようで悪いけど、どうかな? 護衛はちゃんとするよ。これでもホワイトハンターだからね」
「ほ、ホワイトハンターですか!? そ、それはむしろこちらが申し訳ないです。そんなすごい人に守ってもらうなんて!」
「いいのいいの。どうせついでだしね」
「なんだよ、ホワイトハンターだったのか?」
「ロリコンはあんまり驚かないね」
「明らかに討滅級っぽい魔獣を倒していたからな。やっぱり本当だったんだなって思ったくらいさ。最初から破天荒なやつだったし、いまさら驚かないさ」
「ちなみにあの時の心臓がこれだよ。ほら、サナのペンダント」
「ええええええ!?」
「そっちに驚くのはおかしくない?」
「ちくしょう! こんな綺麗な宝石になるなら、あの時に買っておけばよかった!」
「………」
「ん? どうした?」
「ああいや、ちょっとね。さっきあそこに胸の大きな美人が座っていたから、少し気になってね」
「やっぱりボインが好きなんじゃないか」
「オレはべつにロリコンじゃないからね」
「そこは抉らない約束でしょ!?」
(あの女の人、いなくなっちゃったな)
ロリ子が来たタイミングで、さきほどの美女は外に出て行ったようだ。
たしかに関係ない女性ではあるが、妙に沈んだ表情がとても気になった。何か悩みがあるのかもしれない。
(とはいえ、いちいち気になった女性全員を追っていたら、それこそ旅どころじゃない。サナのためにマキさんたちすら諦めたんだ。今はサナの教育を最優先だ)
豊満な胸に顔をうずめる感覚が懐かしいが、今はぐっと我慢である。
代わりにサナを抱きしめれば、それだけで幸せ一杯の気分になれる。
「ロリコンたちは、もうホテルで休むの?」
「ああ、そうするつもりだ。お前は違うのか?」
「夕食は一緒に食べたいけど、終わったらちょっと行ってみたい場所があるんだ。【カジノ】がどこにあるか知ってる?」
「おいおい、カジノはやばいぞ」
「知ってるよ。ギャングが仕切っているんだよね?」
「それを知っていて行くつもりなのかよ。とんでもないな」
「どんなところか見たいし、せっかく賭場があるなら稼がせてもらおうかなって。サナを育てるのにもお金がかかるしさ」
「まあ、お前なら大丈夫だとは思うが、気をつけろよ。場所はあとで教えてやるよ」
「うん、ありがとう」
「ホテルのレストランにでも行くか。ここはステーキが美味いぞ」
夕食はロリコン夫妻と一緒にいただく。
すでにロリコンが尻に敷かれている気もするが、なんだかんだ二人は上手くやっているようである。
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