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「英才教育」編
86話 「パーティーを組んで傭兵団を作ろう!」
しおりを挟む「それともう一つ、サナもハンター登録したいんだけど大丈夫かな?」
「はい、問題ございません。以前も申し上げたように年齢制限はありません」
「そっか、それなら安心だ。道中に魔獣とも戦うと思うし、せっかくなら登録しておきたかったんだ」
「もしやサナ様も、アンシュラオン様のように強大な力をお持ちなのですか?」
「いやいや、そんなことはないよ。見た目通りかな? 精神的には相当タフだと思うけど、肉体的には普通の子供くらいだね。だからこれから鍛えるんだよ」
「聡明なサナ様のことです。ぜひとも立派なハンターになられるでしょうね」
「そう? やっぱりそう思う? 小百合さんはわかってるなー」
「妻ですからね!」
サナを褒められてご機嫌である。
小百合は、さりげなくこういう気遣いができるので好きだ。
そして、手続きに必要な書類を持ってきてもらう。
「では、こちらにお名前をどうぞ」
「サナ、ここに名前を書くんだぞ。文字は教えただろう?」
「…こくり」
サナを膝に乗せたままペンを渡してあげる。
「…かきかき」
すると迷いなく書き始めた。
練習はさせたが、公的な書類でも動じない精神力はさすがである。
「そう、そうだ! そのまま最後まで…きたぁあああ! ちゃんと書けたな! すごいぞ、サナ!」
「…こくり」
多少形が崩れているものの「サナ・パム」という文字がしっかりと書かれていた。
実は毎日付きっきりで文字を教えていたのだ。
その姿はまるで―――教育熱心な父親
練習していた時もサナが文字を書くたびに「この子は天才だ!」と叫び、喜びで転がり回る姿は完全なる親馬鹿である。恥ずかしくて目も当てられない。
「それではパッチテストを行いますね」
「ああ、そうだったね。これって一番下だった場合はどうなるの? 誰でも無足《むそく》級狩人になるの?」
「一定量以下の場合は、パッチにバツ印が出るんですよ。それだとノンカラーにもならなくて、普段は登録をお断りしています。危ないですからね」
ハンターの最下層は、『無足《むそく》級狩人』。通称ノンカラーハンターである。
しかし最下層だからといって馬鹿にしてはいけない。相手が魔獣である以上、それでも一般人よりは優れた人材であることを示している。
本当に一般人の場合は赤いバツ印が浮き出て、よほど装備などが良くなければ「死ぬ可能性が高いから登録は無理です」と断っているのだ。
どうしてもという場合は自己責任で認めているが、巻き添えを受ける者も出てくるため、あまり歓迎はされないらしい。
「サナはそうなる可能性が高いよね…大丈夫かな?」
「ホワイトハンターのアンシュラオン様がおられるのならば大丈夫です。パーティーを組めば解決できます」
「あっ、そうか。パーティーがあるんだ」
「はい。パーティーはリーダーのランクが重要視されますので、ホワイトハンターがリーダーの場合、何人かバツ印がいても大丈夫です」
パーティーにも【総合ランク】があり、それぞれのハンターランクに割り当てられたポイントの合計によって決まる仕組みになっている。
ホワイトハンターのポイントは一人で500あるので、仮にサナが0であってもパーティー平均は250になる。
全体でノンカラーの10を割らない限り、ハンターとしての活動は普通にできるというわけである。
ただしこれは最低値なので、できれば30~50以上が望ましいとされている。
「サナ様、チクってしますよ。我慢してくださいね」
「…こくり、じー」
小百合がサナにパッチを押し込む。
子供は注射を嫌がる子もいるが、サナは表情一つ変えずに見ていた。
(泣き叫ぶ子をあやす体験もしたかったけど、これはこれで楽でいいかな。面倒なのは嫌いだしね。さて、サナは何色かな? やっぱりバツかな?)
どうせバツなんだろうな、という気分で覗いてみる。もともと期待はしていないので気楽だ。
血が吸われ、その色が―――変わらない
赤にも白にもならず、そのまま無色のまま時間が経過していく。ほんの少し赤みが差したが、やはり無色のままだ。
「あれ? これってどうなの? 駄目ってこと?」
「いえ、サナ様は無足《むそく》級狩人だということです。ノンカラーは、その名の通りに色がないのです」
やはりサナはノンカラーであることが判明。
一番下の階級であるが、ハンターとして認められるだけの資質があるらしい。
「ふーん、そんなもんなんだ。ノンカラーか。バツじゃないならよかったよ。サナ、お前はノンカラーハンターだってさ。ブラックだったらオレのホワイトと合ってよかったけど、こればかりはしょうがないよな」
「…こくり」
「お兄ちゃんがいれば大丈夫だからな。安心するんだぞ」
「…こくり」
そのことに対して、アンシュラオンの反応は薄かった。
もともとランクに固執していたわけでもないし、あくまで便宜的な登録なため一緒に動けるのならば問題ないと思っていたからだ。
だからこそ、まだ気が付いていない。
サナに起こりつつある【異変】について。
「では、ハンター証をご用意して、パーティーに加入しておきます。パーティー名はいかがいたしましょう?」
「そんなの決められるの?」
「はい。ご自由に決めることができます」
「うーん、名前ねぇ…苦手だな。適当にアンシュラオン団…」
言いかけて、やめる。
(いや、駄目だ。あまり目立つ名前は困るぞ)
安易にアンシュラオン団とか名付けてしまうと、姉に見つかる可能性が高くなる。
しかし、名前を付けるのが苦手な男だ。ネーミングセンスにはまったく自信がない。
「うーん、うーん、…うーん。やっぱり保留で。そのうち付けるよ」
「はい。では、仮の番号を付けておきますね。お好きな数字はありますか? 何桁でもかまいませんよ」
「27かな。なんとなく」
地球時代の誕生日、二月七日を指定してみる。
覚えやすいという以外に意味はない数字だ。
「『白の27』で登録しておきました。白はホワイトハンターという意味ですね」
「おっ、案外いい感じだね。ホワイトトゥエンティーセブン。コードネームか何かでありそうだ。まあ、区別がつけばなんでもいいや」
この時は何気なくつけた数字であるが、いずれ『白の27番隊』が最強の部隊を示す名になることをアンシュラオンは知らない。
「アンシュラオン様とサナ様のお二人で255ポイントですので、『白の27』はブルーハンター級パーティーとなります。対外的にはブルーハンターと同程度に扱われるということですね」
「そういえば、このパーティーは『ハンターのチーム』って扱いなんだよね? 傭兵団とハンター団は違うの?」
「便宜的に分けているだけですので、実際のところは大きな差はありませんが、魔獣駆除の依頼は基本的にハンター団に、それ以外は傭兵団が選ばれることが多いですね」
「外から見ると担当がわかりやすいもんね。オレたちも普通の傭兵団として活動できるのかな?」
「はい。お望みであれば両方に登録することができます。ハンターの区分だけでも実力はだいたいわかりますが、傭兵団となるとまた違うランクがございます」
★傭兵団のランク
・S級:国家の軍と同等以上の戦力を保有、または実績ある傭兵が千人以上
・A級:都市の軍と同等以上の戦力を保有、または実績ある傭兵が三百人以上
・B級:街の軍と同等以上の戦力を保有、または実績ある傭兵が百人以上
・C級:町村の警備隊と同等以上の戦力を保有、または実績ある傭兵が五人以上
・D級:三十人以上の戦力を保有かつ、実績ある傭兵が一人以上
・E級:それ以下の傭兵の集団
「へぇ、こうしてみると傭兵団は【数が重要】なんだね」
「はい。個人の対処能力も重要ですが、やはり人数の多さを求められる依頼が多いため、最低限のメンバーを確保することを義務付けています」
ハンターは単独で狩る者も多く、個人の能力が重要視される。罠を使えば強い魔獣を退治することも十分可能だからだ。
一方の傭兵団においては、商隊の警備や盗賊団の排除、あるいは街や都市の警護や戦争の駒の一つとして使われることがあるので、まずは数が求められる。
戦いは数だと誰かが言ったが、それがそのまま評価されるのだ。
「ということは、オレたちは最下位のE級になるのかな?」
「残念ながら書類上はそうなりますが、実際はホワイトハンターがいるということでB級かA級に相当すると思われます。そこは依頼者が個別に判断することになりますね」
「数で判断されるのはどうしようもないね。まあいいや、傭兵団のほうも登録しておいてよ」
「かしこまりました。ハピ・クジュネにはいつ出立されるのですか?」
「このまま準備が終わったら、その足で出て行くつもりだよ」
「えええー!? 早すぎますよ!」
「何事も素早く決断したいからね。ごめんね」
「やはり念書に一筆書いてください!」
「わ、わかったよ」
結婚誓約書を書いてようやく小百合も納得。
無事サナの登録が終わり、ハローワーク・ハピ・クジュネ支部への紹介状も書いてもらう。
外に出てから、サナにそっと訊いてみた。
「サナは小百合さんが好きか?」
「…こくり」
「そうだよな。一緒にいると明るい気持ちになるもんな。早く一緒に暮らせる日が来るといいな」
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