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「愛の約束」編

76話 「サナと買い物 その2『ロリータ服』」

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 サナの教育をしながらさらに進むと、次はアクセサリーを売っている露店があった。


「ここにも寄ろうな」

「…こくり」


 サナと一緒にアクセサリーを見る。

 これだけならば妹のために立ち寄った光景に見えるだろう。だが、実はアンシュラオンにも用がある店である。


(スレイブ・ギアスをはめるものが欲しいな)


 サナに付けるギアス用のアクセサリーが欲しいのである。

 多くのスレイブは標準の首輪やチョーカーなどにジュエルをぶら下げている。

 あれでは一目見てスレイブだとわかるし、男も女も同じように付けているので面白みがまったくない。

 サナもスレイブには違いないが、すでにアンシュラオンの妹になったのである。それはもうスレイブを超えた存在だ。普通ではつまらない。


(もともと白スレイブは、秘密裏に跡取りにされる用途にも使われる。その意味で、すでにサナはスレイブじゃない。オレの本当の妹になったんだ。ただ、ジュエルを付けることは保険にもなるから絶対に外せないものだ)


 今のところサナはアンシュラオンに逆らう様子はない。可愛がるだけならば、このままでも問題はなさそうだ。

 しかしながら野良猫がそうであるように、首輪をしていないと連れさられる危険性がある。それが善意か悪意かはともかく、身分を証明する必要があるのだ。

 仮にあのままイタ嬢のスレイブになっていれば、それだけで身分証明となり、周りの人間は不用意に手を出さなくなるだろう。

 手を出せば、領主の娘という地位と権力に対して喧嘩を売ることになる。それが抑止力になるのだ。

 それと同じようにサナにジュエルを付けることで、アンシュラオンの所有物であることを外部に示すことができる。彼女に手を出せば即座に自分が敵になるぞ、と教えるのだ。

 また、強いジュエルを付けておけば探知もしやすくなる。さらわれても追跡できるし、救出も容易になるだろう。

 その意味を含めてギアスは必要なのだ。サナを守るため、誰かに奪われないために。


(しかし、あからさまにスレイブ用のものを付けるのは嫌だ。サナは特別だから、特別なものでないといけない。女の子だし、おしゃれもしたいだろうしな)


 あくまでファッションにもこだわりたいし、普通のスレイブだと思われるのも嫌だ。

 そこで何かないかを探しているというわけだ。


(腕輪や足輪もいいけど、万一手足が切れたら取れちゃうし…あまり取れないところがいいな。…そうなると、やっぱり首か。スレイブ・ギアスも多少は考えられているんだな)


 人間にとって一番安全な場所は首付近である。ここに何かあれば致命的なので、必然的にダメージを避けようと身体が勝手に動くからだ。

 普通のスレイブ・ギアスも、ちゃんとした意味があって首になっているわけだ。一番邪魔にならない場所ともいえる。


(首はいいにしても、せめて違うものにしたいな。何かないかな?)


「…じー」

「サナ? 何か欲しいのがあったか?」

「…じー」


 サナが何かをじっと見ている。


 それは―――【ペンダント】


 紐に吊るされているのは、中央に穴があいた中身なしの銀色のペンダントトップ。素材は何かはわからないが、それなりに頑丈そうだ。

 穴にジュエルをはめこめば、かなり綺麗なペンダントになるだろう。銀色もサナの肌の色によく似合う。


(これはちょうどいいかもしれないな。強度という点に関しては若干弱いが…サナが見ているってことは気に入ったということだろう。こういったものは好みが大切だ。ひとまずこれをキープしておこうか)


「おじさん、これちょうだい」

「おう、いいもんを見つけたな。そいつは掘り出しもんだぞ」

「良い物なの? 金属だから?」

「それもあるが、どっかの遺跡から見つかったもんらしいんだ。だから文字通り、掘り出しもんだ。がははは!」

「遺跡なんてあるの?」

「おうよ。このあたりにはゴロゴロあるぞ。西側よりも東側のほうが遺跡は多いからな。『イクター〈掘り探す者〉』とかがお宝を見つけてくるんだわ。まあ、考古学の先生とかも見つけるけど、あっちは自分で管理しちまうからな。両者の争奪戦ってわけだ」

「へー、これって発掘品なんだね」

「実際のところはトップの部分だけがそうだな。紐はこっちが勝手につけたんだよ。見つけた時には壊れていたみたいでな。真ん中にも、もしかしたらジュエルがはまっていたんじゃないかって話だが…ないものはしょうがないわな。代わりに付けるのもあれだし、こうやって枠だけ置いてあるんだ」

「じゃあ、もともとジュエルをはめるタイプだったんだ。これは都合がいいや。いくら?」

「そいつは三千円だな」

「よし、買った!」

「まいどあり!」


(アクセサリーと思えば適当な値段かな?)


 物価はまだよくわかっていないが、まったく問題ない値段なので購入を決める。


(これだけだと不安だな。一応、他のものも買ってみるか)


 それからサナに似合いそうなブレスレットや指輪なども買い、その店を後にした。



 少し歩くと、今度は服飾店が並んでいた。


「そうそう、サナの服を買おうな。下着もないんだよな」


 サナの服は優先度が高い買い物だ。一番高いのは下着だろうか。まったく替えがないので早めに買わねばならない。

 店の中から女性物を専門に扱うところを選ぶことにする。やはり男性より女性のほうが服に興味があるらしく、店の数も多い。


「ここでいいかな?」


 大きめなテントのような店舗に入って周囲を見回すと、子供用の服も置いているようだった。


「いらっしゃいませ」


 出てきたのは、多少お年を召したご婦人…正直に言うと還暦を過ぎている女性であるが、さすが服の店をやっているだけあって、それなりに小奇麗な格好をしていた。

 店主は二人を見ると優しく笑って出迎えてくれた。まさに孫を見るおばあちゃんの目だ。


「この子の服を適当に見繕ってよ」

「あらま、可愛い子だわね。こんな綺麗な子は見たことないわ」

「そうでしょうとも。オレの妹だからね! 当然だよ!」

「あらあら、あんたも可愛い顔をしているね。こりゃ気合を入れないとね」

「気合入れてよろしく! 下着もないから、十着くらいちょうだい!」

「はいはい、任せてちょうだいな」


 営業トークだろうが、サナを褒められて嬉しくないわけがない。アンシュラオンは気分良く服を見て回る。

 何もしなくても普段着は店主が選んでくれるだろうから、自分が見るものはお出かけ用とか、そういった特別なものである。

 今まで子供服売り場に行ったことなどないので、目新しいものばかりで少し気分が高揚してくる。

 自分の服を選ぶのとはまったく違う楽しい体験だ。


(サナは何でも似合いそうだけどな。小百合さんから借りた着物なんて日本人っぽくてすごくいいけど…借り物だし、それだけというわけにもいかない。ほかにもいろいろと買おうっと)


 そうして子供服を見ていくわけだが、なぜかふらふらと一つの場所に吸い寄せられていた。


 そこは―――『フリフリ系の服』があるエリア


 可愛い服、特にフリルが付いた少女らしい服。もっと限定してしまえば【ロリータ服】だ。

 グラス・ギースの衣料店には、けっこうこうした衣装が存在している。その理由は、イタ嬢の趣味だからである。

 サナが着ていた寝巻きにしてもフリルが付いていたし、ベルロアナは可愛い系の服が大好きなのだろう。それに影響を受けて全体的に増加傾向にあるのだ。


(どうしてオレはこんな場所に…!! だ、駄目だ! 身体が言うことを聞かない!! 手が、手が伸びる!!!)


 そして、白いフリルの服を手に取った。スカートもヒラヒラがたくさん付いており、アンシュラオンの心の奥底をくすぐってくる。


「サナ、これなんかどうだ?」

「………」


 サナの上から合わせてみる。

 するとそこには、とろけそうなほど可愛い子がいた。かつて夢見たフリフリ少女である。

 地球時代の休日、外を出歩くと必ず親子連れに出会った。その時、誰の趣味なのかロリータ服を着ている子供をよく見かけたものだ。

 それが可愛くて、自分に娘ができたらぜひ着させようと画策していたものだが、結局夢半ばで終わった哀しい経験がある。

 その反動が―――爆発!


「か、可愛い!! 凶悪なまでの可愛さだ!! サナは天使なのか、それとも悪魔なのか!! くううぉおおお!! 可愛すぎる!! これは買うぞ! 絶対買うぞ!!!」


 領主がスレイブをメイドにしたり、イタ嬢が友達にすることを散々罵倒していた男なのだが、すでにそんなことはすっかり忘れている。

 自分の趣味でロリータ服を大量に買い漁っている謎の少年の姿は、端から見るとかなり怪しい。

 顔が女の子のように可愛いのでまだ許されるが、これがおっさんだったら即逮捕レベルである。


「はぁ、幸せ…。サナちゃん、可愛いよぉ…うちの子、可愛すぎるでしょ。何を着せても似合うから困っちゃうよなぁ…デレデレ」


 結局、サナの服を二十着以上買ってしまった。

 ちなみに十五着はロリータ服であるので、ほぼアンシュラオンが選んだものだ。

 だが、そこに後悔はまったくない。


(この充実感は何だ? これをサナに着せることを想像すると…オレはもう感動と興奮で倒れてしまいそうだ。ああ、最高だ! サナちゃん、超可愛い!!)


 徐々にラブヘイア大先生側の人間になりつつあることを、彼はまだ知らない。

 変態とばかり接していると、自分も同じようになっていくよい見本である。


「…じー」


 そんなアンシュラオンをサナはじっと見つめていた。

 妹への愛情が爆発している兄を見て、彼女が何を思ったのかはわからない。


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