『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

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「白い魔人と黒き少女の出会い」編

57話 「ファテロナ侍従長の性癖」

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「人間、嘘はつけないもんだな。その子の首にあるのも精神術式のジュエルだろう?」


 クイナの首にあるリボン型チョーカーにも緑色の石がある。

 彼女も可愛いので、スレイブ館にいた白スレイブの一人なのは間違いない。


「白スレイブに友達の設定を刷り込んでいるんだな。その歳でたいしたもんだよ」

「な、何のことですの! 言いがかりはやめてくださいませ!」

「しらばっくれるなよ。オレにはわかっているんだぞ。お前が白スレイブに、どっぷりはまっている『中毒者』なのはお見通しだ。この子も二千万で買ったそうだな」

「っ!! どうしてそれを!?」

「モヒカンに全部聞いている。そろそろ諦めろ」

「あの店主…! 守秘義務があるはずなのに!」

「どう誤魔化しても事実は変わらない。お前がこの子を奪ったことも、スレイブを友達代わりにしていることもな」

「くっ…」


 その言葉にイタ嬢の顔が重く沈んだ。

 他人に自分の弱点を突かれるとこれほどまでに痛いのかと、歯を食いしばって耐えている様子がうかがえる。


(ちょっとかわいそうだが、当然の罰だな。自分のやったことを悔い改めるがいい!!)


「あ、あなたに…! あなたには関係ないでしょう!」


 それでも抵抗してきた。そうでもしないと理性を保てないのだろう。

 案外まともな神経をしているようで、逆に意外に思えたくらいである。


「そんなお前にプレゼントだ。ほら、この子の代わりにこれでも抱いていろ」


 さきほど拾ったヌイグルミを突きつける。


「なっ、それは…! どうしてあなたが持っているのですか!?」

「扉の前に投げ捨ててあったぞ?」

「そんな! ちゃんとわたくしのお友達部屋に入れておいたのに!!」

「誰かが捨てたんじゃないのか? だからさ、お前はみんなに嫌われているんだって。現実を直視しろよ」

「あなたには…」

「ああ、関係ないな。お前がオレに関わらなければ何をしようと問題なかった。好きにすればいい。だが、この子はオレのものだ」

「その子は、わたくしが買いました!!!」

「買ったことは認めたな」

「先に買ったのは、わたくしです!」

「開き直りやがって。先に予約していたのはオレだ」


 両者ともサナを離さない。

 掴まれているサナは、至って無表情であるが。


「プラスアルファで八千万を示談金として渡したから、もう文句はないだろう」

「ありありですわ! 友達はお金で売りません!」

「よくその台詞を言えるな。契約書にサインをしたはずだぞ」

「拒否します! あれは無効です!」

「ワガママお嬢様かよ。まあいい、勝手に出て行くさ」

「ぎゃあああ! 止まりなさいーーー! ずるずるずるーー」


 止まるわけがない。簡単に引っ張られる。

 そこでイタ嬢はさっそく援軍を呼ぶことにした。



「ファテロナ、ファテロナ、緊急事態よ! 賊よ! 助けて!」



(ファテロナ? ここに来る間に何度かその名前を聞いたな。たしかマキさんくらい強いって話だが…)


 すると近くの部屋のドアが開き、一人の女性が出てきた。

 深緋色の髪をしたショートカットの女性で、癖毛なのかパーマをしたように強いウェーブがかかっている。

 顔は衛士たちが言っていたように紛れもなく美人だ。まったく足音を立てずに歩く姿から、一瞬で暗殺者か忍者だということもわかった。

 だが、アンシュラオンには、一つだけわからないことがあった。



(どうして―――【裸】なんだ?)



 イタ嬢が呼んだファテロナという女性は、服を着ていなかった。

 かろうじてブラジャーとパンティーは身につけているが、それ以外は生まれたままの姿だ。


「お嬢様、お呼びでしょうか(ビシッ)」


 眼鏡を上げる動作をするが、そこに眼鏡はないのでエア眼鏡上げである。

 だが、裸だ。


「敵よ、賊よ! 捕まえて!」

「お嬢様に仇なす者、けっして許しはしません!(ビシッ)」


 格好良くポーズを決める。

 だが、裸だ。


「って、ファテロナ、その格好はなんですの!? どうして裸なの!?」

「野党に襲われて身包みを剥がされました」

「一緒に帰ってきたじゃないの!」

「屋敷の中で襲われました」

「そんな馬鹿な!?」

「目の前に賊がいることが、その証拠です」

「そんな! ファテロナまで襲われたの!? なんて鬼畜な!」


(初対面のはずだけどなぁ…)


「はっ、お嬢様! その手に持っているものは、まさか!」

「なに? どれのこと?」

「それです。その下着です」


 ファテロナがイタ嬢が持っている下着を見て驚く。アンシュラオンが拾った薄紫色のものだ。

 たしかに下着を持って歩くという状況は異常だが、その驚愕ぶりも異常だ。


「ああ、この下着はこの人が…」

「私が投げ捨てたはずなのに、なぜお持ちなのですか!!!」

「頭に被っ……え? 投げ捨てた?」

「はい。洗濯したお嬢様の下着を盗み出し、通路に投げ捨てました」

「なぜ、そんなことをしたの?」

「拾った男性の誰かが、それを使ってイヤラシイ液体をぶっかけ、また洗濯籠に戻すまで待っていたのです」

「イヤラシイ液体? なんですの、それ?」

「白くてどろっとしたものですが…ご存知なかったのですね。それならそれで私としてもまた興奮…いや、心が痛むところです。あとは穢されたブツをこそっと持ち出し、お嬢様のタンスの中に仕舞い込む予定でした。それを見たお嬢様がどんな反応をするのか…はぁはぁ、楽しみでなりませんでした!」

「何を言っているのかわからないわ! どういうことなの!?」

「はっ、お嬢様! その手に持っているヌイグルミは…!」

「ああ、これね。これはこの人が…」

「私が投げ捨てたはずなのに、どうしてここに!」

「外に投げ捨てて……え?」

「お嬢様が大切にしているお友達のヌイグルミを、ニヤニヤしながら殴り飛ばし、蹴り飛ばし、扉に叩きつけても気づかない御姿に、私がどれだけ興奮したことか…!! はぁはぁ!! なんて鈍感な!」

「な、何を言っているの? 意味がわからないわ!!」

「よいのです。それでよいのです。お嬢様はそれでよいのです! この馬鹿、たのしー!」

「馬鹿?」

「いえいえ、なんでもございません! この私だけはお嬢様の味方! 何があっても味方なのです!! ぐへへへ」


 ファテロナは、はぁはぁしながらヨダレを垂らしている。


(想像していたキャラと違うな)


 美人という情報しか聞いていなかったので、普通の侍従長をイメージしていたのだが、まったく違うキャラであった。


「はっ、あなたの持っているネックレスは…!」

「ん? これ? さっきあっちで拾ったよ」


 ファテロナが【緑のネックレス】を見つめる。


「あっ、それはファテロナのスレイブ・ギアス!! どうしてあなたが持っているの?」

「だから拾ったんだけど…」

「それは私が投げ捨てたスレイブ・ギアス!! か、返してくださいませ!」


 ここまでくれば薄々感づいていたが、やっぱりファテロナが自分で捨てたらしい。

 いらないので普通に返す。


「はい、返すよ」

「ああ、私の大切なスレイブ・ギアス―――」


 ファテロナが大切そうにネックレスを握り締め、頬ずりしたあとに―――


「ああああああああああ! こんなもの!!」


 投げ捨てた。

 しかもこの世でもっとも憎いものを相手にしたかのように、思いきり叩きつけた。


「ええええええ!?」


 それに驚いたのがイタ嬢である。驚くのも無理はない。行動が謎すぎる。

 だが、裸のファテロナは、さらに顔を紅潮させて悶える。


「ああああ! お嬢様の驚く声! それが私にとっては…あああ! サイコウ!!」


(このお姉さん、乳首が立ってるな。興奮しているのか?)


 気のせいでなければ下着が若干濡れている気がしたが、そこにはもう触れないことにした。


「というか、スレイブ・ギアスって取っていいの?」

「はい、お客様。このスレイブ・ギアスというものは、精神が一定値以下でないと効かないのです。よって、私にはまったく意味がありません」

「全部のギアスがそうなの?」

「スレイブ・ギアスの質が問題なのです。この都市で取り扱っているジュエルは質が並なので、私には使えないということです。もっと上質のものならば効果は発揮されますし、自分で取り外せません」

「なるほど。貴重な情報だ」


(そういえばロリ子ちゃんにかかっていた術式も、あまり強いものじゃなかったな)


 ロリコン妻のジュエルを思い出す。質はもちろん、かかっていた術式も弱かった。

 単純に精神術式が難しく、機械で扱えるものには限界があることと、ジュエルそのものの質に問題があるのだろう。


「お姉さんはスレイブなんでしょ?」

「その通りでございます」

「それで成立するものなの?」

「ギアスがあろうとなかろうと、スレイブであることには変わりありません!(ビシッ)」


 ビシッと教えてくれた。

 だが、裸だ。


「どうして裸なの?」

「さっき服を脱ぎ捨てました」

「もしかして、このメイド服とナイフもそう?」

「ああ、そうです! お嬢様からいただいた大切な物!! それが無造作に投げ捨てられ、大勢の人間に踏みつけられる!! なんて、なんて―――」


 ぐっと身を縮込ませてから―――



「―――カイカン!!」



 ぐわっと両手を広げて高ぶる感情を表現。

 そして、アンシュラオンが一言。


(うん、変態だな)


 この世界には変態ばかりいる。

 変態が変態を呼ぶように、至る所に変態ネットワークが生まれているようだ。

 せっかくラブヘイアと別れたばかりなのに、また新しい変態との出会いが生まれてしまった。


(美人のお姉さんだからいいか。胸も大きいしね。というかイタ嬢のやつ、自分のメイドに好き勝手遊ばれているな。なんだか本当に哀れに思えてきたよ)


 ファテロナは完全にイタ嬢で遊んでいる。

 今も困惑している少女の顔を見て、ニンマリとした下卑た表情を浮かべているので、真性のSの可能性もある。


―――――――――――――――――――――――
名前 :ファテロナ

レベル:54/65
HP :1040/1040
BP :680/680

統率:C   体力: E
知力:C   精神: C
魔力:D   攻撃: D
魅力:C   防御: F
工作:B   命中: B
隠密:A   回避: B

【覚醒値】
戦士:0/0 剣士:2/3 術士:1/2

☆総合: 第七階級 達験たつげん級 暗殺者

異名:イタ嬢様の侍女長、毒殺のファテロナ
種族:人間
属性:風、虚、滅
異能:ハイブリッド〈混血因子〉、護衛、毒殺、暗殺、分身、物理カウンター、毒無効、お嬢様への忠誠、お嬢様のトラウマを抉る趣味、お嬢様への歪んだ愛情表現、お嬢様の泣き顔は最高に快感、奇行癖、暴走
―――――――――――――――――――――――


(まずい。姉ちゃん寄りの人だ)


 いろいろと女性を見てきたが、ここにきてパミエルキ側の人間に直面する。相当歪んでいそうだ。

 ただ、その対象が他人ならば特に問題はない。


(『毒殺のファテロナ』か。なかなか怖い異名だな。オレには毒は効かないからいいけどね。ただ、この人は『ハイブリッド〈混血因子〉』なんだな。術士の因子もあるから、なかなかの手練れだ)


 『ハイブリッド〈混血因子〉』は、剣士が生まれながらに術士の因子も持つことを意味する。

 この場合、通常の因子とは異なり術因子の劣化があまりないのが特徴で、修練すれば剣も術も相当なレベルまで使いこなすことができる。

 マキとはだいぶHPや能力が違うが、同レベル帯の武人であることは明白だ。これらの違いは戦士と暗殺者の耐久力の差である。

 彼女は強い。が、そのファテロナはイタ嬢に夢中のようだ。


「盛り上がっているようだから、オレは帰るよ。部外者がいたら邪魔だろうし」

「あっ、お待ちなさい!! ファテロナ、ファテロナ! この変態を止めて!!」

「………」

「ファテロナ、聞いているの!?」

「ううっ!!」


 ファテロナが突如、ぶわっと涙を流す。


「な、なんで泣くの!?」

「実はさきほどから、こそっと隠れてずっと会話を聞いておりました」

「聞いていたなら話が早いわ! あいつを倒しなさい!」

「わかっております。わかっております。ついにお嬢様にも【本当のお友達】ができたのですね!!」

「えーーー!? 何を聞いてたの!?」

「お友達と喧嘩をするまでになるなんて。ようやく、ようやく、普通の友達が!! フ・ツ・ウの! ノーマルの!! 極めて普通のお友達が!! できたのですねえええええ!」

「やめてぇええええ! 普通よ! ずっと普通だったもの!!!」

「いいえ、違います!」

「っ!!」

「こんなものは友達じゃないのです! こんなものは!!」


 ヌイグルミを引ったくり、床に叩きつけ、何度も足蹴にする。

 哀れ、ヌイグルミはズタボロになって中から綿が飛び出る。ついでに目玉も飛び出る。


「オスカルーーーーー! わたくしの友達がーー!」

「こんなものは友達じゃないのです!」

「わたくしのオスカルに何をするの!?」

「こんなものに毎晩話しかけ、『明日は一緒に遊びに行こうね』とぎゅっとしたりして、お嬢様はいったい何歳なのですか!!」

「やめてーーー!! 言わないでーーーー!」

「本当の友達とは、もっとこう、お互いをわかり合うために時間をかけるもの!! スレイブなど所詮は友達ではないのです!! ほら、この通り、スレイブ・ギアスなんて何の意味もない!」


 床に落ちているネックレスを踏みにじる。

 ガシガシと何度も足蹴にした。


「…うっ、うう…うう……ファテロナの馬鹿あぁああああ! うあぁああああ~~~~ん!!」

「ああああ! かわいそうなお嬢様!! もっと、もっと泣いてください!! 泣き叫べ!! ぐひゃひゃひゃ、やっはぁぁああぁぁぁっぁああああ!! たまんねー!」


 身悶えるファテロナ。


(帰ろう。こいつはもう終わりだ)


 助けを求めた侍女長に攻撃され、イタ嬢様の心はズタズタだ。

 当然の罰であるがもう飽きたので、さっさと帰ろうと思った。

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