『覇王アンシュラオンの異世界スレイブサーガ』 (旧名:欠番覇王の異世界スレイブサーガ)

園島義船(ぷるっと企画)

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「白い魔人と黒き少女の出会い」編

29話 「黒き少女、サナ・パム その2」

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(やれやれ、オレの性格が歪んでいるのは間違いないな。だが、人を人として愛せない自覚はある。だからオレはスレイブが欲しいんだ。いいじゃないか、ペットだって家族と言い張る連中がいるなら、オレとそこまで違いはないだろう。体裁よりも心から愛してあげることが重要だ)


 一呼吸置いてから、決断。


(この子にしよう。どのみち他の選択肢はないよな)


 一目惚れは買わないと永遠に後悔するものだ。売り切れて後悔したことは一度や二度ではない。

 そして買ったときは必ず満たされると知っている。


(どんな地雷でもクソゲーでも、自分で買うと最後までプレイしたりする。買った自分を否定したくないから良いところを見つけようとする。これが貰い物だとまったく逆になるけど…あの子の場合は大丈夫だろう。一目惚れなら外見は気に入ったということだし、惹かれる何かがあるということだ。内面はあとから調教すればいいしね。なんとでもなる)


「あの子にする」

「え? アレ…っすか?」

「『アレ』だと? その反応、自分から何かあるって言っているようなもんだぞ」

「ああ、そうっすね…でも、お客さんに嘘はつけないっす」

「その心がけは立派だな」

「これでもプロっすからね。誇りはあるっす」

「問題とは何だ? 処女ではないとかか?」

「それは大丈夫っす。確認済みっす。男はわからないっすけど、女は全部確認しているっす。…こだわるっすね」

「当然だ。重要な問題だ。他人の手垢がついたものには触りたくないからな。で、それより問題なことがあるのか?」

「その…【声】が出ないっす」

「声が? 病気か?」

「わからないっす。医者は問題ないって言うんで精神的なもんかと。あの娘は南で拾われてきた子なんで、その時に何かあったかもっす」

「南…か」


 頭に浮かぶのは、ダビアの話。

 入植者たちと原住民が争い、多くの原住民たちが敗北してスレイブにされているというものだ。

 あるいは単に両親が死んで身寄りがなかったのかもしれない。どちらにせよ楽しい話ではない。


「声が出ないと駄目なのか?」

「目的によるっすが値は下がるっすね。養子とかの場合はっすが」

「買い手が付かなければ、どうなる?」

「成長するのを待って、ラブスレイブのほうに…」

「いくらだ?」

「え?」

「買取で、いくらだ」

「えーと、この子は…三百万っすね」


(これも高いのか安いのかわからないな。声が出ないので安くはなっているんだろうけど…。しかしまあ、あの臭い林檎一個と同じくらいの値段だと思えば安いか)


「会っていいか?」

「もちろんっす」


 男が機器を操作し、扉の術式が解除される。

 視認防止以外にも立ち入り禁止の術式があるらしい。逃げ出さないためと客が勝手に触らないようにだろう。

 まるでペットショップだ。

 来店した客に、お試しで手渡される動物と同じである。そして動物は自分が売り物であることを知らない。


「やあ、初めまして。オレはアンシュラオン」


 驚かせないようにゆっくりと歩き、精一杯の笑顔と優しい言葉で話しかける。

 このスマイルならば、この街にいるお姉さんだったら、いちころだろう。


「………」


 だが少女の表情は変わらない。

 声がしたので一瞬だけ顔を向けたが、またうつむいてしまった。

 そこに活力というものはなく、ただただ無気力しか見られない。


「君に危害を加えるつもりはないんだ。ただ、お友達になろうと思ってさ。お兄ちゃんに名前を教えてもらえるかな?」

「………」

「駄目かな?」

「………」

「にっこり」

「………」


 笑顔が通じない。

 そもそもアンシュラオンのスキルは年上女性には圧倒的だが、年下に効果はない。

 その後、何度かアプローチしたが、すべて無意味に終わった。異世界に来てから、このような反応をした存在は初めてである。

 アンシュラオンは目立つので誰もが目を付ける。人間なら惹かれ、魔獣なら警戒する。どこにいても注目される男なのである。

 それをアウトオブ眼中(死語)

 その新鮮な反応にさらに惹かれる。


(手ごわいね。オレみたいな美少年が話しかけたら、少しは反応しそうなもんだけど…。だが、それもいい。簡単になびかないのは猫みたいで大好きだ。それがデレたときは最高だしね)


 犬も飼っていたが、次に飼った猫から完全猫派になってしまったアンシュラオンにとっては、猫のツンデレは大好物である。

 どんな猫だって最初は警戒をする。でも、慣れてくれば甘えて無防備な姿を見せてくれる。それがまたよいのだ。


(とはいえ、このままでは埒が明かない。初対面の女の子にいきなり使うのは嫌だが、今回は仕方ないな)


 アンシュラオンは、『情報公開』を使用。


―――――――――――――――――――――――
名前 :サナ・パム

レベル:1/20
HP :30/30
BP :0/0

統率:F   体力: F
知力:F   精神: F
魔力:F   攻撃: F
魅力:B   防御: F
工作:F   命中: F
隠密:F   回避: F

【覚醒値】
戦士:0/0 剣士:0/0 術士:0/0

☆総合:評価外

異名:意思無き少女
種族:人間
属性:
異能:
―――――――――――――――――――――――


(サナ・パム。魅力が『B』以外は、完全なる一般人だな)


 さすが美しい容姿をしているので、魅力はBだ。どこか人を惹きつける雰囲気がある。

 魅力B以上は身内以外では初めて見た。アンシュラオンがAなので、それに匹敵する魅力である。

 まだ子供と呼べる年齢だからこの程度だが、成長して大人になればもっと高くなるだろう。

 ただ、それ以外はすべて『F』。最低値だった。


(相変わらず大雑把な判定だよな。子供だろうが大人だろうが、同じF判定だもんな)


 筋力のある男性も成長していない子供も、同じくF。

 実際はかなりの差があるはずだが問答無用でFである。一つの数字の範囲が広すぎて非常に大雑把で困る。

 おそらくこの数値は武人を基準に作られたものなのだろう。だから一般人レベルの差異など感知できないのだ。

 人間にとっては、バッタもカマキリも変わらないのと一緒だ。踏み潰してしまえば、そこに何の違いもない。

 特に武人でもないようなので、見たまんまの子供の腕力しかないと思われる。


(異名が『意思無き少女』…か。声が出ないことと関連がありそうな名だね)


 異名も本当の一般人ではなかなか見かけないものだ。完全モブには異名はまず存在せず、一般人の三割程度の割合でしか付けられていない。

 これがある人間は、良くも悪くも目立つということなのだろうか。


(やっぱり綺麗だ。なんて美しい。容姿は完璧だな)


 相手が反応しないので、そのまま気にせず髪の毛を撫でる。手に吸い付く感触が実にたまらない。

 年齢はまだ十歳になっていないくらい。まだまだ幼さが残った頬は少しふっくらして愛らしく、思わずつついてみたくなるほど柔らかそうだ。

 顔立ちも日本人に似ていて可愛く、艶やかな黒い髪の毛も美しい。日本の美を改めて思い出させてくれる容貌だ。

 アニメの世界でも外国人風の女性は綺麗に見えるが、日本人風のほうがやはり親しみを感じる。

 特にここに来てから、まだそういった風貌の人間を見ていないので、かつての世界への望郷の念を感じさせてくれるのだ。

 総合的に見て、間違いなく(アンシュラオン目線で)超絶に可愛い最高の逸材と思える少女である。


 加えて―――姉とは正反対


 この時のアンシュラオンは気が付いていないが、その少女の容姿も性格も姉とは正反対であった。

 白と黒、まったく違う両者でありながら、どちらもアンシュラオンを惹きつけるもの。

 これが少しでも白に寄っていれば、そこまで魅力を感じなかったかもしれないが、正反対だからこそ惹かれる。

 遺伝子が、魂が、霊が、黒を求めるのだ。


「ちょっと首を触らせてね」

「………」


 アンシュラオンが、少女の首に軽く触れる。


(喉に異常はない。声帯に腫瘍もないし傷もない。脳組織も肺も消化器系も正常だ)


 この時、命気を浸透させて身体の診察を行っていたのだ。

 命気は相手の体内に入っても問題ないどころか、細胞のエネルギーそのものでもあるので、異常があれば治すこともできる。

 特に細胞系には極めて強く、腫瘍などがあれば即座に治すことが可能だった。

 が、異常なし。完全なる健康体だ。


(今のところスレイブ・ギアス以外の術式の形跡は見られない。もっと高度で複雑な術式がかかっていればオレでもお手上げだが、こんな子供にかけられているとも思えない。ならば、やはり精神的なものかもしれないな。あんなモヒカンに捕まれば当然か)


「いつか君の声が聴きたいな」

「………」

「大丈夫。すべてオレに任せてくれ。君を完璧に育ててあげるよ。幸せだと思わせてあげよう。オレにはその力があるからね。…それじゃ、名残惜しいけどまたね。すぐに迎えに来るから待っててね」

「………」


 部屋を出て、再び視認防止の術式が張られる。

 こうなれば外の会話は聞かれないが、聞いたところで少女が反応を示すかは謎である。

 それでも意思は変わらない。


「三百万だな。納金はいつまでにすればいい?」

「予約してもらえれば、一週間以内ならば大丈夫っす!」

「わかった。できるだけ早く持ってくる」

「それはありがたいっす…がっ! な、なんっすか?」


 アンシュラオンがモヒカンの喉元に手をかけ、壁に押し付ける。

 その赤い瞳が冷徹に光った。


「金なんていくらだって用意してやる。だからいいか、それまで絶対に誰にも売るなよ。これはオレのものだ」

「く、首が……うぐっ」


 モヒカンはあまりの圧力に抵抗しようとするものの、アンシュラオンの手はまったく動かない。

 一ミリ、また一ミリと少しずつ締まっていく。


「か、かんべん……してくださいっす…!」

「あの子に一切のストレスを感じさせるな。丁重に扱え。それと、お前の汚い手では絶対に触るな。触るときは消毒をしてから手袋をはめろ。いいな? わかったか? 理解したか? 返事は?」

「わ、わかったっす…! 理解したっす!!」

「オレを甘く見るなよ。もしこの子に何かあったら殺すぞ。お前だけじゃない。ここにあるすべてを破壊してやる。皆殺しだ。オレは外から来た人間だから、お前たちを殺すことに何の躊躇もない。わかったか? あの子はオレのものだ」

「うぐっ……わかった…っす…! だから…!!」

「ふんっ、理解したならいい」


 モヒカンから手を離すと、ずるずると崩れ落ちる。

 殺気も凄かったせいか大量の汗を掻いていた。


「げほっ、げほっ。そのリング、全然効いてないっす! 死ぬかと思ったっす!」

「多少は効いているみたいだぞ。ちゃんと抑制されているようだ。作ったやつはいい腕をしている」

「それでこれっすか!?」

「オレの有り余る意欲を甘く見るなってことだ。滾った魂の炎は簡単には消えない」

「…お客さんの執着がすごすぎるっす。まだお金を払っていないのに強気すぎるっす」

「オレは目的は絶対に成し遂げるし、本当に欲しいものは何をしてでも手に入れる。そのためなら何人死んだってかまわない」

「ぼ、暴力は勘弁してもらいたいっす…!」


 弟は姉よりも少しだけ温和で穏便だ。そう、少しだけ。

 だが、やはり姉弟。自分のために他人を犠牲にすることを厭わない性格は、まさにそっくりであった。


「安心しろ。普通に取引をすれば何もしない。お前みたいな裏の連中はすぐに裏切るから釘を刺しておいただけだ。こんな世界にいるんだ。死ぬ覚悟くらいはできているだろうが、念のための忠告だと思え。だが忠告した通り、裏切ったら殺す。忘れるなよ」

「怖ろしい人が客になったもんっすよ…。いろんな人を見てきたっすが相当イカれてるっす…」

「まともな人間が白スレイブなんて欲しがるか。できるだけ最速、明日の夜くらいにはまた来る。ちゃんと用意して待っていろよ」

「わ、わかったっす…」


 店を出たアンシュラオンの心は熱く燃えていた。

 今まで感じたことのないエネルギーに満ちている。


(サナ・パム。絶対に手に入れる。あれはオレのものだ!!!)


 これが黒き少女サナ・パムとの初めての出会い。

 すべての始まりである。


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