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神決め大会 予選九日目
シュガーとメープルⅡ
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――神様宮殿 神の間
あの日、私は鶴太郎さんと神の間で翌日のスケジュールの確認をしていた。
「鶴太郎さん、そういえば、昨日の自由時間はどちらへ?」
「自由時間……? そういえば、私は何をしていたかな?」
聞いたのは私のはずなのに、鶴太郎さんは笑顔で問いかけてきた。
「忘れちゃったんですか?」
「最近、働きすぎかもな」
笑いながら鶴太郎さんは言った。そんな雑談をしていると、扉を叩く音がした。
「失礼します」
メープルだった。その顔は険しい。
「神様、一つお尋ねしたいことがあります」
部屋に入り、私に一瞥もくれることなく、彼女はそう言った。
「メープルか、君は自分の職務はもう終わったのかい?」
鶴太郎さんが優しく彼女に投げかけた。メープルは、現在、他の魔人を管理する管理職の役目を担っていた。
「神様? なんで私じゃなくて『彼女』を選んだの?」
鶴太郎さんの投げかけを無視し、彼女は語気を強めてそう言った。
「それはもう何度も君に説明したはずではないか。彼女が私にとって適任だったからだと」
「適任? その子のどこが。能力だって私の方が優れてる」
メープルがこうやって鶴太郎さんのもとを尋ねてくるのはどうやら初めてではないらしい。私を見下すメープルの目を見て、そこにもう昔のメープルがいないことを改めて感じた。
「確かに、君の方が優れているかもしれない。だけど、それだけで私はシュガーを選んだわけではない」
「なんなのよ……。なんなのよ!!!」
取り乱すメープルとは対照的に、鶴太郎さんは冷静だ。
「すまない。私はまだやることがあるので。これでいいかな?」
「……あげるわ」
メープルが何かを言った。その声は小さい。
「ん? なにか言ったかい?」
「神様に私の力をみせてあげるわ」
「!?」
メープルは体に天界力をまとった。それは目に見えるほどだ。
「はあああああ」
「メープル!! アナタ、何をしようとしてるか分かっているの!!!」
私は思わず、メープルに叫んだ。その瞬間、メープルの姿が消えた。
『ゴッ』
鈍い何かがはずれるような音がした。気づけば、鶴太郎さんの目の前にメープルがいる。
「……言っても無駄か」
「うう……」
殴りかかってきたメープルを鶴太郎さんは片手で止めていた。その反動で、メープルの肩が外れたようだ。苦痛でメープルは顔をゆがめている。
「君がいかに天界力をまとっても、私にはかなわない。なぜなら、私は神だからだ」
「……」
「本来であれば、こんな行為許されることではない。だけど、君が秘書にこだわるのには何か理由があるんだろう。だから、今夜はこれで……」
鶴太郎さんがそう言うと、メープルは捕まれていた手を振り払った。私たちと距離をとるメープル。その手には、魔法のランプが握られている。
「いつのまに『魔法のランプ』を」
「『いでよ、大魔神』」
「な、なぜ君がその『言葉』を!?」
その瞬間、魔法のランプは強烈な光を放った。そして、大量の煙が部屋を覆い尽くした。
「浄化」
鶴太郎さんの言葉に部屋の煙が晴れた。
「つ、鶴太郎さん、一体なにが」
「シュガー、今から君が見ることは絶対に他言してはいけない」
「え?」
困惑する私に、鶴太郎さんは前を指さした。その先には、メープルと身長を2メートルを優に越す、『何か』がいた。黄色の髪に、紫の体。今まで見たことがない。
『ふふふ。お前が我を呼びだした魔人か』
その声は、部屋全体を震わす大きさだ。
「ああ、そうだ! よかった、『あの人』が言ったことは本当だった」
「『あの人』? 一体誰が君に『大魔神の交渉』のことを!?」
「『大魔神の交渉』?」
初めて聞いた。鶴太郎さんは頭を抱えている。
「なぜ、なぜだ。この情報を知っているのはごくわずかのはず」
『お前の願いを言え! 聞いてやろう!』
『何か』はメープルに向かって再び声を発した。
「私を神にしなさい!」
「!?」
「つ、鶴太郎さん!」
私は、何がなんだか分からなかった。だけど、その願いが危険すぎることだけは分かった。
「……『大魔神の交渉』というのは魔人に備わった能力の一つだ」
「そんなものがあったなんて」
「私も信じられない。それは迷信だとばかり思っていたものだから」
鶴太郎さんは額に汗をかいていた。その汗を拭いながら私にそう言った。
「でも……」
「そうだな、目の前で起きていることは現実だ」
「ごちゃごちゃとうるさいな! というか、魔神! 早く願いを叶えろよ」
メープルはイライラしながら叫んだ。
「……命を賭けられるか?」
「は?」
「今、『命を』って」
メープルはあっけにとられている。私は鶴太郎さんの方を見た。
「……」
鶴太郎さんはその様子をじっと見ている。
「命? ばっかじゃないの? 私は、神になりたいのよ! 命を賭けたら、神になってもしょうがないじゃない!」
「それがお前の答えか? お前も欲にまみれた魔人だったようだな」
「どういうこと?」
その瞬間、魔神がメープルの前に手をかざした。その瞬間、メープルの体から光が吸いだされていく。
「ま、まずいぞ!」
「え!?」
鶴太郎さんは、目にも止まらぬスピードで魔神のもとに向かった。魔神に向かって拳を振りかざす。拳は光をまとっていた。本気だ。身体向上パラメータアップで上げたパワーを全て拳に集めたのだろう。
「彼女から離れろ!」
『これは交渉だ。部外者は口を出すな!!』
メープルに向けていた手を、殴りかかる鶴太郎さんの方に向けた。そして、受け流すように、手を動かす。
「うおっ」
『どごおおおおおおおおおん』
鶴太郎さんはそのまま壁にぶつかった。その衝撃で壁が崩れ落ちる。
「メープル!」
私は、その隙をついて、メープルを助けようとした。でも……。
『では、さらばだ』
魔神はそう言うと、跡形もなく消えていった。力が抜けたように倒れるメープルを私は支えた。
「メープル!! メープル!!! ……嘘でしょ」
メープルは死んでいた。その姿は、眠っているようにも見えるほど自然だった。
メープルは、私の友だちだった。もちろん、彼女が間際までそう思っていたかどうかは分からない。でも、私は友だちでいたかった。小さい頃、一緒に通学していたあの頃に戻りたいと何度も思った。
その後、『大魔神の交渉』は魔人たちの間で知れ渡り、鶴太郎さんからの直々の禁止令が出されるまで、続いた。その度に、魔人は命を落とした。
恨むべきは、『命』を天秤にかける大魔神。その大魔神の名前は『パパン』というらしい。鶴太郎さんが研究を続けていくうちに、分かった。
あの日、私は鶴太郎さんと神の間で翌日のスケジュールの確認をしていた。
「鶴太郎さん、そういえば、昨日の自由時間はどちらへ?」
「自由時間……? そういえば、私は何をしていたかな?」
聞いたのは私のはずなのに、鶴太郎さんは笑顔で問いかけてきた。
「忘れちゃったんですか?」
「最近、働きすぎかもな」
笑いながら鶴太郎さんは言った。そんな雑談をしていると、扉を叩く音がした。
「失礼します」
メープルだった。その顔は険しい。
「神様、一つお尋ねしたいことがあります」
部屋に入り、私に一瞥もくれることなく、彼女はそう言った。
「メープルか、君は自分の職務はもう終わったのかい?」
鶴太郎さんが優しく彼女に投げかけた。メープルは、現在、他の魔人を管理する管理職の役目を担っていた。
「神様? なんで私じゃなくて『彼女』を選んだの?」
鶴太郎さんの投げかけを無視し、彼女は語気を強めてそう言った。
「それはもう何度も君に説明したはずではないか。彼女が私にとって適任だったからだと」
「適任? その子のどこが。能力だって私の方が優れてる」
メープルがこうやって鶴太郎さんのもとを尋ねてくるのはどうやら初めてではないらしい。私を見下すメープルの目を見て、そこにもう昔のメープルがいないことを改めて感じた。
「確かに、君の方が優れているかもしれない。だけど、それだけで私はシュガーを選んだわけではない」
「なんなのよ……。なんなのよ!!!」
取り乱すメープルとは対照的に、鶴太郎さんは冷静だ。
「すまない。私はまだやることがあるので。これでいいかな?」
「……あげるわ」
メープルが何かを言った。その声は小さい。
「ん? なにか言ったかい?」
「神様に私の力をみせてあげるわ」
「!?」
メープルは体に天界力をまとった。それは目に見えるほどだ。
「はあああああ」
「メープル!! アナタ、何をしようとしてるか分かっているの!!!」
私は思わず、メープルに叫んだ。その瞬間、メープルの姿が消えた。
『ゴッ』
鈍い何かがはずれるような音がした。気づけば、鶴太郎さんの目の前にメープルがいる。
「……言っても無駄か」
「うう……」
殴りかかってきたメープルを鶴太郎さんは片手で止めていた。その反動で、メープルの肩が外れたようだ。苦痛でメープルは顔をゆがめている。
「君がいかに天界力をまとっても、私にはかなわない。なぜなら、私は神だからだ」
「……」
「本来であれば、こんな行為許されることではない。だけど、君が秘書にこだわるのには何か理由があるんだろう。だから、今夜はこれで……」
鶴太郎さんがそう言うと、メープルは捕まれていた手を振り払った。私たちと距離をとるメープル。その手には、魔法のランプが握られている。
「いつのまに『魔法のランプ』を」
「『いでよ、大魔神』」
「な、なぜ君がその『言葉』を!?」
その瞬間、魔法のランプは強烈な光を放った。そして、大量の煙が部屋を覆い尽くした。
「浄化」
鶴太郎さんの言葉に部屋の煙が晴れた。
「つ、鶴太郎さん、一体なにが」
「シュガー、今から君が見ることは絶対に他言してはいけない」
「え?」
困惑する私に、鶴太郎さんは前を指さした。その先には、メープルと身長を2メートルを優に越す、『何か』がいた。黄色の髪に、紫の体。今まで見たことがない。
『ふふふ。お前が我を呼びだした魔人か』
その声は、部屋全体を震わす大きさだ。
「ああ、そうだ! よかった、『あの人』が言ったことは本当だった」
「『あの人』? 一体誰が君に『大魔神の交渉』のことを!?」
「『大魔神の交渉』?」
初めて聞いた。鶴太郎さんは頭を抱えている。
「なぜ、なぜだ。この情報を知っているのはごくわずかのはず」
『お前の願いを言え! 聞いてやろう!』
『何か』はメープルに向かって再び声を発した。
「私を神にしなさい!」
「!?」
「つ、鶴太郎さん!」
私は、何がなんだか分からなかった。だけど、その願いが危険すぎることだけは分かった。
「……『大魔神の交渉』というのは魔人に備わった能力の一つだ」
「そんなものがあったなんて」
「私も信じられない。それは迷信だとばかり思っていたものだから」
鶴太郎さんは額に汗をかいていた。その汗を拭いながら私にそう言った。
「でも……」
「そうだな、目の前で起きていることは現実だ」
「ごちゃごちゃとうるさいな! というか、魔神! 早く願いを叶えろよ」
メープルはイライラしながら叫んだ。
「……命を賭けられるか?」
「は?」
「今、『命を』って」
メープルはあっけにとられている。私は鶴太郎さんの方を見た。
「……」
鶴太郎さんはその様子をじっと見ている。
「命? ばっかじゃないの? 私は、神になりたいのよ! 命を賭けたら、神になってもしょうがないじゃない!」
「それがお前の答えか? お前も欲にまみれた魔人だったようだな」
「どういうこと?」
その瞬間、魔神がメープルの前に手をかざした。その瞬間、メープルの体から光が吸いだされていく。
「ま、まずいぞ!」
「え!?」
鶴太郎さんは、目にも止まらぬスピードで魔神のもとに向かった。魔神に向かって拳を振りかざす。拳は光をまとっていた。本気だ。身体向上パラメータアップで上げたパワーを全て拳に集めたのだろう。
「彼女から離れろ!」
『これは交渉だ。部外者は口を出すな!!』
メープルに向けていた手を、殴りかかる鶴太郎さんの方に向けた。そして、受け流すように、手を動かす。
「うおっ」
『どごおおおおおおおおおん』
鶴太郎さんはそのまま壁にぶつかった。その衝撃で壁が崩れ落ちる。
「メープル!」
私は、その隙をついて、メープルを助けようとした。でも……。
『では、さらばだ』
魔神はそう言うと、跡形もなく消えていった。力が抜けたように倒れるメープルを私は支えた。
「メープル!! メープル!!! ……嘘でしょ」
メープルは死んでいた。その姿は、眠っているようにも見えるほど自然だった。
メープルは、私の友だちだった。もちろん、彼女が間際までそう思っていたかどうかは分からない。でも、私は友だちでいたかった。小さい頃、一緒に通学していたあの頃に戻りたいと何度も思った。
その後、『大魔神の交渉』は魔人たちの間で知れ渡り、鶴太郎さんからの直々の禁止令が出されるまで、続いた。その度に、魔人は命を落とした。
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