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神決め大会 予選九日目
シュガーとメープルⅠ
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――神様宮殿 庭
「シュガーー!!!!」
遠くから女の子がこちらに手を振りながら走ってきた。その子は私を通り抜けて、後ろにいた女の子とハイタッチを交わす。ああ、最近見なかったのになぁ。私は、これが昔の夢だと気づいた。
もうかなり昔だ。だけど、ふとした時にあの子のことを思い出す。そして、そういう時に限って私は昔の夢を見る。今日は、おそらく、あのシアスとかいう女の子のせいだろう。
「メープル! 遅いよ!」
昔の私がそう言った。メープル、それが私の親友だった女の子の名前。黄色の髪色で、三つ編みがトレードマークの彼女。私は彼女のことが好きだったし、彼女も多分、この時は私のことを好きだったと思う。
「ごめん、ごめん! 『お姉ちゃん』が心配して、色々持たせてくれて、はい、シュガーちゃんにもって」
メープルが昔の私に『天界桃』を渡した。私たち魔人は『親』がいない。定期的に神様宮殿に届く魔法のランプ。その中で私たちは育ち、ある程度育つと外に出て、天界のことを学ぶために学校に通う。メープルが言う『お姉ちゃん』というのはそれぞれにつく育成担当の魔人のことだ。
「ありがと! じゃあ、いこっか!」
昔の私たちはそう言って手をつなぎながら、神様宮殿の中に入っていった。この日は確か、『神様学校中等部』のクラス分けの日だったはずだ。ここで上のクラスに入ることが出来ると、将来、神様の元で働ける確率が上がる。私たちの頃はそれが当たり前だった。あの事件が起こるまでは。
――数年後 神様宮殿内 神様学校教室
「シュガー! アナタ、神様の秘書、希望なんですって?」
険しい表情で昔の私に問い詰めるのは、同じく成長したメープルだ。就職試験を目前にして、メープルは私の希望を誰かから聞いたらしい。メープルも神様の秘書を希望していたことを私は知っていた。
「う、うん。神様の秘書をやってみたくて」
私の答えにメープルの表情はより一層険しくなる。
「なんで? 私が秘書希望しているって知っていたでしょ?」
「で、でも、メープルには言ってなかったけど、私もずっとやってみたかったんだ」
メープルが秘書をやりたいことは知っていた。でも、この頃のメープルはなんだか私に強く当たるようになって、私はなかなか自分も同じだと言い出すことが出来なかった。
「……秘書って一人だけらしいの。シュガー、私たち、『友達』だよね?」
そう言いながら、メープルは昔の私の手を握る。この時、はっきり言えばよかったんだ。正々堂々と試験を受けて戦おうって。でも、言えなかった。
――数日後 就職適正試験当日
「では、これより、就職適正試験を始める。神様の秘書を希望する者はA教室に移動するように!」
神選別委員会の役員のお兄さんが声高らかに昔の私たちに叫んだ。希望者は他の部門よりも圧倒的に、神様の秘書希望者が多く、その中に、メープルももちろん居た。
あの時のことがあってから、昔の私とメープルはなんとなく気まずくなって、ほとんど話すことはなくなっていた。
試験は筆記試験から始まり、能力審査、面接と次々に行われた。私は手ごたえはあまりなかったのを覚えている。
だけど……。
「採用は……シュガーに決定した」
私が選ばれた。嬉しかった、だけど、素直に喜ぶことは出来なかった。だって、メープルが隣にいたから。
いつの間にか、昔の私と『私』が同化していたことに気づいた。
「シュガー、私、絶対認めないから」
メープルが睨みつける。
「メープル! ごめん、でも、だからって、アレは使わないで欲しかったの!」
今の『私』だからこそ、言える言葉。もちろん、それはメープルには届かない。それから、私は『あの日』までメープルと会うことはなかった。
鶴太郎さんが神様に決まり、私の秘書としての仕事が始まった。上手くいかないことばかりだったけど、私はなんとか秘書として職務を全うしていた。
そんな時、あの事件が起こった。
「シュガーー!!!!」
遠くから女の子がこちらに手を振りながら走ってきた。その子は私を通り抜けて、後ろにいた女の子とハイタッチを交わす。ああ、最近見なかったのになぁ。私は、これが昔の夢だと気づいた。
もうかなり昔だ。だけど、ふとした時にあの子のことを思い出す。そして、そういう時に限って私は昔の夢を見る。今日は、おそらく、あのシアスとかいう女の子のせいだろう。
「メープル! 遅いよ!」
昔の私がそう言った。メープル、それが私の親友だった女の子の名前。黄色の髪色で、三つ編みがトレードマークの彼女。私は彼女のことが好きだったし、彼女も多分、この時は私のことを好きだったと思う。
「ごめん、ごめん! 『お姉ちゃん』が心配して、色々持たせてくれて、はい、シュガーちゃんにもって」
メープルが昔の私に『天界桃』を渡した。私たち魔人は『親』がいない。定期的に神様宮殿に届く魔法のランプ。その中で私たちは育ち、ある程度育つと外に出て、天界のことを学ぶために学校に通う。メープルが言う『お姉ちゃん』というのはそれぞれにつく育成担当の魔人のことだ。
「ありがと! じゃあ、いこっか!」
昔の私たちはそう言って手をつなぎながら、神様宮殿の中に入っていった。この日は確か、『神様学校中等部』のクラス分けの日だったはずだ。ここで上のクラスに入ることが出来ると、将来、神様の元で働ける確率が上がる。私たちの頃はそれが当たり前だった。あの事件が起こるまでは。
――数年後 神様宮殿内 神様学校教室
「シュガー! アナタ、神様の秘書、希望なんですって?」
険しい表情で昔の私に問い詰めるのは、同じく成長したメープルだ。就職試験を目前にして、メープルは私の希望を誰かから聞いたらしい。メープルも神様の秘書を希望していたことを私は知っていた。
「う、うん。神様の秘書をやってみたくて」
私の答えにメープルの表情はより一層険しくなる。
「なんで? 私が秘書希望しているって知っていたでしょ?」
「で、でも、メープルには言ってなかったけど、私もずっとやってみたかったんだ」
メープルが秘書をやりたいことは知っていた。でも、この頃のメープルはなんだか私に強く当たるようになって、私はなかなか自分も同じだと言い出すことが出来なかった。
「……秘書って一人だけらしいの。シュガー、私たち、『友達』だよね?」
そう言いながら、メープルは昔の私の手を握る。この時、はっきり言えばよかったんだ。正々堂々と試験を受けて戦おうって。でも、言えなかった。
――数日後 就職適正試験当日
「では、これより、就職適正試験を始める。神様の秘書を希望する者はA教室に移動するように!」
神選別委員会の役員のお兄さんが声高らかに昔の私たちに叫んだ。希望者は他の部門よりも圧倒的に、神様の秘書希望者が多く、その中に、メープルももちろん居た。
あの時のことがあってから、昔の私とメープルはなんとなく気まずくなって、ほとんど話すことはなくなっていた。
試験は筆記試験から始まり、能力審査、面接と次々に行われた。私は手ごたえはあまりなかったのを覚えている。
だけど……。
「採用は……シュガーに決定した」
私が選ばれた。嬉しかった、だけど、素直に喜ぶことは出来なかった。だって、メープルが隣にいたから。
いつの間にか、昔の私と『私』が同化していたことに気づいた。
「シュガー、私、絶対認めないから」
メープルが睨みつける。
「メープル! ごめん、でも、だからって、アレは使わないで欲しかったの!」
今の『私』だからこそ、言える言葉。もちろん、それはメープルには届かない。それから、私は『あの日』までメープルと会うことはなかった。
鶴太郎さんが神様に決まり、私の秘書としての仕事が始まった。上手くいかないことばかりだったけど、私はなんとか秘書として職務を全うしていた。
そんな時、あの事件が起こった。
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