ランプの魔人ニケちゃん

くじぇ

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神決め大会 予選二日目

鴨川糸電話大作戦Ⅲ

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――遡ること『爆発』まで残り10秒

「これ、マジでヤバい……」

 目の前の壁の時間を示す赤文字は刻一刻と減っていっている。その数字が減るにつれて、俺の心臓の鼓動は高まっていた。以前、神島に刺された時は、一瞬の出来事だった。何が起きたか分からず、自分が死んだことにも気づかなかった。でも、今回は違う。確実に『死』に自分が近づいている実感がある。

「どうしたらいいんだ……」

 何か、何か手段は……考えろ、考えろ。

「俺の『天界力』、あるんだろ! 頼む! 頼む!」

 壁に手を置きながら俺は叫んだ。時間はもう『5秒』もない。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお」

 その瞬間、俺の両手がほのかに光った……ような気がした。

『どん』

 『爆発』は凄まじいものだった。衝撃で俺は地面に倒れた。両手はかろうじて俺の体に繋がっているものの、感覚はない。血が凄まじく流れている。感覚がないだけましか……。意識が遠のく。遠くで鶴太郎さんと佐藤さんの声が聞こえる。そして俺は意識を失った。



『……拓真くん』

 誰かが俺を呼んでいる。暗い。でも……。

『心配だよ、拓真くん』

 光が見える。温かい光が近づいてくる。その光が俺を包み込んだ。

「拓真くん? 拓真くん!! 鶴太郎さん! 拓真くんが目を、目を覚ましました!」

 白い天井だ。お助け部の天井。ベッドの上に俺はいた。右手をニケが両手で握っている。

「……ニケ、俺は……」

 そういえば、俺の手はどうなって……なんともない。『特殊天界桃』の効果なのだろうか。

「目を覚ましたか、青年」

 鶴太郎さんが部屋に入ってきた。鶴太郎さんは『桃』を持っている。『特殊天界桃』だろうか。

「……つ、鶴太郎さん。死ぬかと思いましたよ」

 俺は素直に言った。

「すまない」

 鶴太郎さんは俺の言葉を聞くなり、すぐに頭を下げた。

「私も少し急ぎ過ぎた。危うく、君を死なしてしまうところだった」

「そうですよ! 拓真くんが死んじゃったら私……。こんな無茶なことは止めてください!」

 ニケは声を荒げて鶴太郎さんを責めた。だが、実際には俺は死んでいない。こうして体も回復している。

「ニケ、俺は大丈夫だから」

「でも……」

 ニケは不満そうな顔をしながら俺の方を向いた。

「それより、ニケの方の修行はどうだったんだ?」

「え? 私は……」

 ニケは下を向く。結果はよくなかったようだ。

「ニケくんは、どうも『天界力』を自力で引き出すことが出来ないようなのだ」

 鶴太郎さんが答える。『大魔神の交渉』の代償か……。

「ニケ、鶴太郎さんに『大魔神の交渉』のことは?」

 俺の言葉に鶴太郎さんは驚いた。

「『大魔神の交渉』!? ニケくん、まさか使ったのか?」

「……はい」

 ニケは頷いた。鶴太郎さんは驚いている。

 鶴太郎さんは、俺とニケが出会った日のことを知らない。知っているのは、昨日、現神の神島が俺の前に現れたということだけだ。

 俺は、ニケと出会った日に起こったことを話した。神島に殺されたこと。ニケが来た理由。そして、俺を生き返らせるために、ニケが『大魔神の交渉』を使い、その代償として、『寿命と能力』をさし出したことを。

「そうだったのか……」

「鶴太郎さん、『大魔神の交渉』って一体なんなのですか?」

 俺は素直な疑問をぶつけた。ニケは『魔人が生涯に一度しか使えないもの』と言っていたが、それ以外は分からない。

「『大魔神の交渉』に現れる大魔神の名前は『大魔神パマン』。奴は、あらゆる願いを叶える」

「……『大魔神パマン』」

 ニケも知らないという顔をしている。

「だが、その代償に『命』を奪う。私が神だった頃、それで多くの魔人が死んだ。魔人になぜそんな力があるのかは私にも分からない。だが、危険な能力ゆえに、それを禁止することにしたんだ」

「そんなことが……。でも、じゃあなんでニケは知っていたんだ?」

 俺はニケに尋ねた。

「『元』神様に教えてもらったんだ」

「拓郎の奴、なぜそんな危険なことを……」

 鶴太郎さんは頭を抱えていた。でも、それをニケが知らなければ、俺はここにはいない。その時、俺は昨日のことを思い出した。

「でも、確か、昨日……ビクトリアって魔人と戦った時、アイツも知っているようじゃなかったか?」

「……た、確かにそうだね……え、私、言ってないよ、なんで、え!?」

 ニケは焦っている。なぜ知っているか、それはもうそういうことだろう。俺はピンときた。

「おそらく、ビクトリアは、神島と繋がっているのだろう」

 鶴太郎さんが俺の思考を代弁するように言った。その可能性しかない。そして、あのビクトリアが恐れていた『トオル』とかいう男。アイツも……。

「だが、知っているにしても、『大魔神の交渉』が成功する確率は限りなく『0』には違いない」

「わ、私、そんなこと『元』神様からは何も……」

 ニケは震えている。おそらく、あえて言わなかったのだろう。それを知っていたのであれば、ニケは『大魔神の交渉』であんなにも強気に魔神パマンと交渉出来なかったに違いない。

「私が知っている中では、君が『2人目』だ」

 鶴太郎さんは、そう言いながら、二本の指を立てた。

「そ、そのもう一人の方は、何をお願いするために『大魔神の交渉』を使ったのでしょうか?」

 ニケが尋ねた。ちょうどその時、部屋のドアが開いた。

「拓真さん、大丈夫ですか? ホントにすいません。」

 佐藤さんだ。入ってくるなり、深々と頭を下げて、俺に謝ってきた。

「いや、もう体の痛みはないし、大丈夫ですよ! 頭を上げてください」

 体は驚くほど回復していた。

「ニケくん、さっきの質問だけどね」

 俺と佐藤さんのやり取りが終わるのを待っていた鶴太郎さんが話し始めた。

「はい!」

「私が話すより、本人の口から話してもらった方がいいだろう、なぁ、『シュガー』」

 誰のことを言っているのだろう。俺とニケは顔を見合わせる。そして、

「あ、あの鶴太郎さん、『シュガ-』って?」

 俺がそう言いかけた時、俺の目の前にいた女性がメガネを外した。

「鶴太郎さん、その名前、久しぶりですね」

「え!? 『シュガー』ってもしかして」

 ニケは左手を口に当てて、震える右手で指をさした。

「はい、私のことです。私、『元』魔人なんです」

 目の前にいた『佐藤さん』は、ニコリとしながらそう言った。 
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