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神決め大会 予選二日目
鴨川糸電話大作戦Ⅱ
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「さぁ、早く! 青年!」
そう言いながら、鶴太郎さんは俺の背中を押す。『鴨川糸電話大作戦』とは一体……。
「どうも、お待たせいたしました! こちらが担当の拓真となります!」
部屋に着くなり、鶴太郎さんは椅子に座る男性に俺を紹介した。
「どうも。大学4年の峰田です」
男性はこちらを見ながら挨拶をした。なんだか、俺が言うのもアレだが、気弱そうな男性だ。
「えっと、こんにちは。僕が、担当の拓真です」
鶴太郎さんに紹介された通りに俺は自己紹介を行った。そういえば、ニケの姿が見えない。どこにいるのだろうか。疑問を抱きつつも、俺も椅子に腰かけた。
「……ニケくんなら今『修行』中だ」
キョロキョロとしていた俺に鶴太郎さんは耳打ちした。『修行』か……。俺にとっても大事なことだ。
「それよりも、君が今しなければいけないことをしたまえ」
そう言いながら、男性の方を気にかけるように促される。確かに、強くなることも大事だが、それよりも『予選突破』が出来なければ、元も子もない。
「……いいですか?」
男性が訪ねてきた。掛けているメガネをクイッと上げる。
「は、はい! 今回はどのようなご依頼でしょうか?」
「そちらの部長さんにも少し話したのですが……」
「『愛の告白』ですか?」
「あああ、愛の、こここ告白?!?!」
いきなり失礼が過ぎたのだろうか。というか、リアクションがかなりオーバーだ。
「あ、すいません」
「い、いえ、そんな、合ってます、合ってますとも」
峰田さんは、落ち着きを取り戻すようにメガネを上げた。
「ということは、好きな人がいるということですか」
「そ、そうです。じ、人生で初めて好きな人が出来て……その人のことを考えるだけで胸がどきどきを超えて、バクバクで。就職活動も卒業論文も手がつかず……」
「それは大変ですね……」
それほどに想われる『その人』はどんな人なのだろうか。
「そうでしょ、そうでしょ~! そうなんですよ~」
テレビのひな壇芸人のようだ。見ている分には面白い。
「お相手の方はどんな方なんですか?」
「可憐な方なんですよぉ……」
「……」
それで終わりかい!
「お名前とかは?」
「名前は知りません。でも、好きなんです!」
なるほど……。どうしたらいいのだろうか。
「だから! 『鴨川糸電話大作戦』をしようというのだ!」
「それ一体何なんですか! 鶴太郎さん!」
俺は声を張り上げて尋ねた。
「青年! アベックたちにとって『鴨川』とはなんだ?」
「えっと……」
「あ、恋人の聖地ですか?」
峰田さんが答える。
「そうだ! 京都の鴨川は恋人の聖地だ! 峰田氏、今の季節は?」
「夏です!!」
鶴太郎さんの勢いに釣られて、峰田さんも声が大きくなっている。
「つまり……」
「「アベックたちは鴨川沿いで等間隔に座り、愛を語り合う!!!」」
鶴太郎さんは峰田さんとハイタッチを交わした。
「つまりどういうことですか?」
俺は訳が分からず、質問した。
「つまりだ……。私は、明日、鴨川で『鴨川糸電話イベント』を主催し、鴨川の対岸を糸電話でつないで、感謝の思いを伝えられる場にしようと考えているのだ!」
鶴太郎さんは、意気揚々と話している。
「だが、表向きはそうだが、本命は峰田氏のような恋に悩める子羊の為のイベントなのさ!」
「それってもしかして」
「そうだ! 『愛の告白』だ!」
「つ、鶴太郎氏~」
峰田さんは涙をぽろぽろと流している。その涙は嬉し涙なのか。
「開始は午後7時だ! 君は午後7時に北大路橋に来たまえ!」
「は、はい! あ、で、でも、僕の好きな人はどうやって参加させたらいいのでしょう」
確かにそうだ。まだ、峰田さんの意中の相手が誰だかは分かっていない。
「それに関しては!!」
そう言いながら、俺の背中を叩く。
「この拓真くんがなんとかしてしてくれるそうだ」
「拓真くん!! よろしくお願いします!」
峰田さんはまたも涙を流している。そして、俺の手を取り、握り、手をブンブンと振る。
「え、ちょ、え!?」
鶴太郎さんはにこやかだ。
「では、明日! お二人とも、よろしくお願いします!」
峰田さんはウキウキと今にもスキップしそうな勢いで帰っていった。
「というか、普通に帰れるんですね」
俺はふと気づいた疑問をぶつける。
「それは、まぁ、出入り口を部室棟に無理やりつなげているからな」
「そ、そうなんですか!?」
だったら、俺の時も……。
「ああ、それは佐藤さんがしてくれている」
モニター前に座る佐藤さんが手を挙げている。
「僕の時にもつなげてもらっていいですか?」
「……スリルを楽しみたまえ、青年」
「……。って、それは置いといて、峰田さんの好きな人って僕知らないですよ!」
「……いや、青年、君は知っている」
「え?」
「彼女さ」
指をぱちんと鳴らした。その瞬間、部屋が真っ暗になる。
「モニターを見たまえ! 佐藤くん」
「!?」
7台のモニターが一人の女性を映し出した。そこに映っていたのは……
「梅森さん!?」
「ああ」
「そういえば、今日、梅森さんに会ったんですけど、最近、誰かの視線を感じるって……」
「それが彼さ」
「ええ!?」
まさか、峰田さんの意中の相手が梅森さんだったとは思わなかった。
「女性との距離感を間違えてしまう。誰しも最初はあることさ」
鶴太郎さんは遠くを見ながら言った。
「でも、なんで、鶴太郎さんは、彼が梅森さんを好きだと知っていたんですか?」
「なぜ知っていたかについてだが、ここのモニターはこの大学内のあらゆる箇所に仕掛けられた監視カメラの映像が映し出されているのさ。私も梅森氏から相談を受けていてな。彼女の周辺の怪しい人物を探っていたわけさ」
「やっぱり、鶴太郎さんってすごい人ですよね」
俺は改めて、この人のすごさに驚いた。
「褒めても何もやらぬぞ。そして、峰田氏が今日ここに来ることは『未来予知』で分かっていた。だから、明日の企画開催も計画出来たのだ」
「『未来予知』!? そんな能力もあるんですか」
天界人、どこまでも便利な能力があるのか。
「もちろん、見ることが出来る未来には上限があるが、天界人として生まれた時に備わっていた能力さ」
「備わっていた能力……ですか」
「青年、この後、時間は?」
「あ、えっと、梅森さんと夜会うつもりですが、それ以外は何もありません」
「よし、じゃあ、君にも『修行』をしてもらおうか、佐藤くん、頼む」
そういうと、佐藤さんは、机のスイッチを押した。何が始まるのだろ……ん?
「ああああああああああああああああああああああああああ」
ゆ、床が開いて、お、落ちていくうううううううううう。
「落ち着きたまえ、青年」
「え!?」
気づくと、俺はふわふわと浮いていた。鶴太郎さんの声が部屋に響く。
「君には、ここで今から『修行』をしてもらう。」
周りを見渡してみる。周りは殺風景だ。何もない。壁は白い。
「鶴太郎さん、ここで僕は何をすれば」
「それは今から分かる」
「え、それはどういう」
そう尋ねた時、上から自分を覆うように壁が降りてきた。俺は壁に囲まれた。閉所恐怖症というわけでもなのだが、それを発症しそうなくらい圧迫感がある。
「ちょ、鶴太郎さん!?」
「君には、これから、『特殊天界桃』を使わずに、天界力を引き出してもらう」
「『特殊天界桃』を使わずに!? そんなこと出来るのでしょうか」
「やってもらう。その壁は、『天界力』を纏った状態で触れば砂のごとく、崩れ落ちるようになっている」
「砂のごとく……」
とてもそんな風には見えない。触ってみても、コンクリートのように硬い。
「あ、ちなみにだが、危機感を出すために、タイムリミットは『一時間』だ。時間と共に、壁は迫り、最後には『爆発』するようにしてあるからな。君を信じている」
「わ、分かりました」
――30分後
とは、言ったものの……。
「何一つ、手ごたえを感じられない」
『コツは、目をつぶって、体の中で渦を描くようなイメージだ』
鶴太郎さんのアドバイスを思い出しながら、目をつぶる。渦のイメージ、渦のイメージ。
「はああああああああああああああああああああああ」
――所変わって、お助け部
「拓真さん、大丈夫ですかね」
佐藤は鶴太郎に尋ねる。モニターで確認し、いざとなったら助けるつもりでいるが、荒療治ともいえる方法に彼女は戸惑っていた。
「大丈夫さ。彼なら、やれるはずだ。そもそも、これが基礎となるわけだからな。それより、私は寝る」
「え! 鶴太郎さん! 拓真さんが頑張っているのに、それにニケさんだって」
「ニケくんに関しては、もう心配はいらないよ。それに、大丈夫! ちゃんと10分前には起きられるように、目覚ましかけておくから」
「……いいんですかぁ」
「佐藤くん、君も休んでいていいよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて。め、目覚まし、あるんですもんね」
「ああ、任せたまえ!」
――50分後
やばい、やばいよ。全くもって手ごたえがない。てか、ほんとに俺自身に『天界力』なんてあるの? あと、10分? 死んじゃうよ、いや、流石に死ぬなんてことないよね。だって、こんなところで死んじゃうなんて、そんな物語アカンでしょ。うん、きっとそうだ、もしダメでもぎりぎりで助けてくれるんだよね、うん、きっと大丈夫、助けてくれるさ。
「はああああああああああああああああああああああああ!」
――3分前
これだめだわ、多分、俺にそういうのないわ。でも、諦めるわけにはいかない。
「はああああああああああああああああああああああああ!!」
――1分前
「鶴太郎さん! ヤバいっす! あのー、別の修行とかないですかね? というか、聞こえてますか?」
え、助けてくれるよね。流石に焦る。というか、さっきからこっちの問いかけに答えてくれないあたり、めちゃくちゃ心配になるんだけど。
――30秒前
「……。鶴太郎さああああああああああああああああん!」
俺の声は届いていないのか……。
――20秒前
「え、死ぬ? うそでしょ、鶴太郎さあああああああああん! 佐藤さあああああああん!」
――お助け部
「うーん、なんだか大きな音が……って、つ、鶴太郎さん!!!!」
「ん? 何かあった??」
鶴太郎は、体を起こし、モニターを見つめる佐藤の隣に向かった。
「た、拓真くんが……」
「壁から出てきたか?」
「た、倒れてます」
佐藤は真っ青な顔で鶴太郎の方を向いた。
「え!?」
「あ……。やっちった」
目覚まし時計の針は止まっていた。電池が切れていたのである。
そう言いながら、鶴太郎さんは俺の背中を押す。『鴨川糸電話大作戦』とは一体……。
「どうも、お待たせいたしました! こちらが担当の拓真となります!」
部屋に着くなり、鶴太郎さんは椅子に座る男性に俺を紹介した。
「どうも。大学4年の峰田です」
男性はこちらを見ながら挨拶をした。なんだか、俺が言うのもアレだが、気弱そうな男性だ。
「えっと、こんにちは。僕が、担当の拓真です」
鶴太郎さんに紹介された通りに俺は自己紹介を行った。そういえば、ニケの姿が見えない。どこにいるのだろうか。疑問を抱きつつも、俺も椅子に腰かけた。
「……ニケくんなら今『修行』中だ」
キョロキョロとしていた俺に鶴太郎さんは耳打ちした。『修行』か……。俺にとっても大事なことだ。
「それよりも、君が今しなければいけないことをしたまえ」
そう言いながら、男性の方を気にかけるように促される。確かに、強くなることも大事だが、それよりも『予選突破』が出来なければ、元も子もない。
「……いいですか?」
男性が訪ねてきた。掛けているメガネをクイッと上げる。
「は、はい! 今回はどのようなご依頼でしょうか?」
「そちらの部長さんにも少し話したのですが……」
「『愛の告白』ですか?」
「あああ、愛の、こここ告白?!?!」
いきなり失礼が過ぎたのだろうか。というか、リアクションがかなりオーバーだ。
「あ、すいません」
「い、いえ、そんな、合ってます、合ってますとも」
峰田さんは、落ち着きを取り戻すようにメガネを上げた。
「ということは、好きな人がいるということですか」
「そ、そうです。じ、人生で初めて好きな人が出来て……その人のことを考えるだけで胸がどきどきを超えて、バクバクで。就職活動も卒業論文も手がつかず……」
「それは大変ですね……」
それほどに想われる『その人』はどんな人なのだろうか。
「そうでしょ、そうでしょ~! そうなんですよ~」
テレビのひな壇芸人のようだ。見ている分には面白い。
「お相手の方はどんな方なんですか?」
「可憐な方なんですよぉ……」
「……」
それで終わりかい!
「お名前とかは?」
「名前は知りません。でも、好きなんです!」
なるほど……。どうしたらいいのだろうか。
「だから! 『鴨川糸電話大作戦』をしようというのだ!」
「それ一体何なんですか! 鶴太郎さん!」
俺は声を張り上げて尋ねた。
「青年! アベックたちにとって『鴨川』とはなんだ?」
「えっと……」
「あ、恋人の聖地ですか?」
峰田さんが答える。
「そうだ! 京都の鴨川は恋人の聖地だ! 峰田氏、今の季節は?」
「夏です!!」
鶴太郎さんの勢いに釣られて、峰田さんも声が大きくなっている。
「つまり……」
「「アベックたちは鴨川沿いで等間隔に座り、愛を語り合う!!!」」
鶴太郎さんは峰田さんとハイタッチを交わした。
「つまりどういうことですか?」
俺は訳が分からず、質問した。
「つまりだ……。私は、明日、鴨川で『鴨川糸電話イベント』を主催し、鴨川の対岸を糸電話でつないで、感謝の思いを伝えられる場にしようと考えているのだ!」
鶴太郎さんは、意気揚々と話している。
「だが、表向きはそうだが、本命は峰田氏のような恋に悩める子羊の為のイベントなのさ!」
「それってもしかして」
「そうだ! 『愛の告白』だ!」
「つ、鶴太郎氏~」
峰田さんは涙をぽろぽろと流している。その涙は嬉し涙なのか。
「開始は午後7時だ! 君は午後7時に北大路橋に来たまえ!」
「は、はい! あ、で、でも、僕の好きな人はどうやって参加させたらいいのでしょう」
確かにそうだ。まだ、峰田さんの意中の相手が誰だかは分かっていない。
「それに関しては!!」
そう言いながら、俺の背中を叩く。
「この拓真くんがなんとかしてしてくれるそうだ」
「拓真くん!! よろしくお願いします!」
峰田さんはまたも涙を流している。そして、俺の手を取り、握り、手をブンブンと振る。
「え、ちょ、え!?」
鶴太郎さんはにこやかだ。
「では、明日! お二人とも、よろしくお願いします!」
峰田さんはウキウキと今にもスキップしそうな勢いで帰っていった。
「というか、普通に帰れるんですね」
俺はふと気づいた疑問をぶつける。
「それは、まぁ、出入り口を部室棟に無理やりつなげているからな」
「そ、そうなんですか!?」
だったら、俺の時も……。
「ああ、それは佐藤さんがしてくれている」
モニター前に座る佐藤さんが手を挙げている。
「僕の時にもつなげてもらっていいですか?」
「……スリルを楽しみたまえ、青年」
「……。って、それは置いといて、峰田さんの好きな人って僕知らないですよ!」
「……いや、青年、君は知っている」
「え?」
「彼女さ」
指をぱちんと鳴らした。その瞬間、部屋が真っ暗になる。
「モニターを見たまえ! 佐藤くん」
「!?」
7台のモニターが一人の女性を映し出した。そこに映っていたのは……
「梅森さん!?」
「ああ」
「そういえば、今日、梅森さんに会ったんですけど、最近、誰かの視線を感じるって……」
「それが彼さ」
「ええ!?」
まさか、峰田さんの意中の相手が梅森さんだったとは思わなかった。
「女性との距離感を間違えてしまう。誰しも最初はあることさ」
鶴太郎さんは遠くを見ながら言った。
「でも、なんで、鶴太郎さんは、彼が梅森さんを好きだと知っていたんですか?」
「なぜ知っていたかについてだが、ここのモニターはこの大学内のあらゆる箇所に仕掛けられた監視カメラの映像が映し出されているのさ。私も梅森氏から相談を受けていてな。彼女の周辺の怪しい人物を探っていたわけさ」
「やっぱり、鶴太郎さんってすごい人ですよね」
俺は改めて、この人のすごさに驚いた。
「褒めても何もやらぬぞ。そして、峰田氏が今日ここに来ることは『未来予知』で分かっていた。だから、明日の企画開催も計画出来たのだ」
「『未来予知』!? そんな能力もあるんですか」
天界人、どこまでも便利な能力があるのか。
「もちろん、見ることが出来る未来には上限があるが、天界人として生まれた時に備わっていた能力さ」
「備わっていた能力……ですか」
「青年、この後、時間は?」
「あ、えっと、梅森さんと夜会うつもりですが、それ以外は何もありません」
「よし、じゃあ、君にも『修行』をしてもらおうか、佐藤くん、頼む」
そういうと、佐藤さんは、机のスイッチを押した。何が始まるのだろ……ん?
「ああああああああああああああああああああああああああ」
ゆ、床が開いて、お、落ちていくうううううううううう。
「落ち着きたまえ、青年」
「え!?」
気づくと、俺はふわふわと浮いていた。鶴太郎さんの声が部屋に響く。
「君には、ここで今から『修行』をしてもらう。」
周りを見渡してみる。周りは殺風景だ。何もない。壁は白い。
「鶴太郎さん、ここで僕は何をすれば」
「それは今から分かる」
「え、それはどういう」
そう尋ねた時、上から自分を覆うように壁が降りてきた。俺は壁に囲まれた。閉所恐怖症というわけでもなのだが、それを発症しそうなくらい圧迫感がある。
「ちょ、鶴太郎さん!?」
「君には、これから、『特殊天界桃』を使わずに、天界力を引き出してもらう」
「『特殊天界桃』を使わずに!? そんなこと出来るのでしょうか」
「やってもらう。その壁は、『天界力』を纏った状態で触れば砂のごとく、崩れ落ちるようになっている」
「砂のごとく……」
とてもそんな風には見えない。触ってみても、コンクリートのように硬い。
「あ、ちなみにだが、危機感を出すために、タイムリミットは『一時間』だ。時間と共に、壁は迫り、最後には『爆発』するようにしてあるからな。君を信じている」
「わ、分かりました」
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「何一つ、手ごたえを感じられない」
『コツは、目をつぶって、体の中で渦を描くようなイメージだ』
鶴太郎さんのアドバイスを思い出しながら、目をつぶる。渦のイメージ、渦のイメージ。
「はああああああああああああああああああああああ」
――所変わって、お助け部
「拓真さん、大丈夫ですかね」
佐藤は鶴太郎に尋ねる。モニターで確認し、いざとなったら助けるつもりでいるが、荒療治ともいえる方法に彼女は戸惑っていた。
「大丈夫さ。彼なら、やれるはずだ。そもそも、これが基礎となるわけだからな。それより、私は寝る」
「え! 鶴太郎さん! 拓真さんが頑張っているのに、それにニケさんだって」
「ニケくんに関しては、もう心配はいらないよ。それに、大丈夫! ちゃんと10分前には起きられるように、目覚ましかけておくから」
「……いいんですかぁ」
「佐藤くん、君も休んでいていいよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて。め、目覚まし、あるんですもんね」
「ああ、任せたまえ!」
――50分後
やばい、やばいよ。全くもって手ごたえがない。てか、ほんとに俺自身に『天界力』なんてあるの? あと、10分? 死んじゃうよ、いや、流石に死ぬなんてことないよね。だって、こんなところで死んじゃうなんて、そんな物語アカンでしょ。うん、きっとそうだ、もしダメでもぎりぎりで助けてくれるんだよね、うん、きっと大丈夫、助けてくれるさ。
「はああああああああああああああああああああああああ!」
――3分前
これだめだわ、多分、俺にそういうのないわ。でも、諦めるわけにはいかない。
「はああああああああああああああああああああああああ!!」
――1分前
「鶴太郎さん! ヤバいっす! あのー、別の修行とかないですかね? というか、聞こえてますか?」
え、助けてくれるよね。流石に焦る。というか、さっきからこっちの問いかけに答えてくれないあたり、めちゃくちゃ心配になるんだけど。
――30秒前
「……。鶴太郎さああああああああああああああああん!」
俺の声は届いていないのか……。
――20秒前
「え、死ぬ? うそでしょ、鶴太郎さあああああああああん! 佐藤さあああああああん!」
――お助け部
「うーん、なんだか大きな音が……って、つ、鶴太郎さん!!!!」
「ん? 何かあった??」
鶴太郎は、体を起こし、モニターを見つめる佐藤の隣に向かった。
「た、拓真くんが……」
「壁から出てきたか?」
「た、倒れてます」
佐藤は真っ青な顔で鶴太郎の方を向いた。
「え!?」
「あ……。やっちった」
目覚まし時計の針は止まっていた。電池が切れていたのである。
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