ランプの魔人ニケちゃん

くじぇ

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神決め大会 予選一日目

鶴太郎と神 拓郎Ⅰ

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「私か……私はね『元』神様なんだ」

「つ、鶴太郎さんが『元』神様……」

 まさかの告白に俺は戸惑っていた。しかし、鶴太郎さんが『元』神様だとすれば、あの『桃』の不思議な効果も頷ける。

「唐突にこんなことを言ってすまない。そして、私は、君の親父を知っている。私は、君の親父である『神 拓郎』の前の神なのだ」

「『神 拓郎』……それが、俺の親父の名前……」

「少年。君は、父親に捨てられたと思っているかもしれないが、それは間違いだ」

「間違い?」

 鶴太郎さんは申し訳なさそうな顔で俺に言う。

「そうだ。彼は君を救うために、君を人間界に落としたんだ」

「救うためって一体どういうことですか! 俺の……その拓郎って人と鶴太郎さんの間に一体何が!」

「お、落ち着きたまえ」

 語気を強めてしまった俺に対して、鶴太郎さんが静止を促した。確かに、少し興奮しすぎてしまった。

「言葉で説明するよりも実際に『た』方が早いだろう。あの日、何が起こったのかを」

 そう言うと、鶴太郎さんは俺の手を取り、自分の肩に置いた。その瞬間、ビジョンが頭の中に流れ込んできた。



――???年前 『天界』 神様宮殿 カフェ前



「こ、ここは……」

 以前の映画館のような場所で『た』のではなく、そこに実際に居る。そんな感覚だ。

「ここは『天界』にある『神様宮殿』のカフェの前だ、少年」

「え?」

 後ろから声が聞こえて振り向くと、そこに鶴太郎さんがいた。

「つ、鶴太郎さん!」

 いや、待てよ。この鶴太郎さんは過去の鶴太郎さんではないか? そもそも、この能力自体、まだ使いこなせたわけではない。

「少年、私は、君と同じ存在だ。私のビジョンを君にせながら、私もている」

「そんなことが……」

「まぁ、元だけど、神をやっていたからね。そんなことより、この時の私と、君の親父である『神拓郎』はこの日、ある話をするためにここにきたんだ」

「ある話?」

「そうだ。とにかく、中に入ろう」

 鶴太郎さんに促され、俺たちはカフェの中に入った。


 カフェの中は、いたって普通の人間界にもあるような内装であった。ただ、飲み物や食べ物は見たことがなく、ここが人間界とは異質な場所であることを物語っている。

「あそこの席だ」

 そう言いながら、鶴太郎さんが指をさす。その先には、2人の青年がテーブル席に向かい合って、話していた。

「後ろの席が空いているから、そこに我々も座ろう」

「分かりました」

 鶴太郎さんの後をついていく。こちら側からでは、親父の顔は見えない。鶴太郎さんは、若いが今とほとんど変わらない。

 席に着くと、鶴太郎さんが話を聞くように促した。



「まぁ、雑談はこの辺にしておいて。で、話ってなんだ?」

 過去の鶴太郎さんが話し始めた。

「良い話と悪い話、どちらから聞きたい?」

 神拓郎が話始めた。ニケの過去の時と変わらない声だ。

「じゃあ、良い話から聞こうか」

「……実はな。子どもが出来たんだ」

「こ、こ、こ、子ども!!!」

「!?」

 思わず、驚いた俺に正面に座る鶴太郎さんがニコニコしている。おそらく、俺のことなんだろう。

「誰の子だ!」

「いや、知ってるだろ?」

「……すまん。『カスミ』ちゃんだろ?」

「そうだ」

 神拓郎の声はなんだか照れたような声だ。カスミ、それが俺の母親……。母親の名前……。

「そして、明日、その子どもが生まれるんだ」

「はあああああああああああああああああああ!? まじかよ!」

 鶴太郎さんの声に店内にいたお客さんたちが振り向く。店内が一瞬静かになるが、それがなかったかのように、元に戻った。

「声がでけーよ。『気づかずの魔法』を使わせるなって」

 元神様と、次期神様であるゆえに、顔は割れているらしい。が、魔法で無かったことにしたようだ。

「しかし、いいなぁ!お前は!」

 神拓郎の小言を無視して、鶴太郎さんは続ける。

「何がだよ」

「愛する人がいて、守るべき存在が出来て、その上、明日の就任式で神様になるだろ? こんなに幸せなことがあるもんか!」

「キザなセリフだな」

 神拓郎が鼻で笑う。だが、そこに悪意はこもっていない。

「鶴太郎だって神様時代には相当モテてたじゃないか」

「それは、『神様』だったからさ!」

 この2人の会話を聞いていると、なんだかお互いが友達のようだ。

「少年。君の思っている通り、私たちは立場は『元』神と神というものだったが、友達だったんだ」

「『だった』?」

 鶴太郎さんは静かにうなずく。


権威譲渡会けんいじょうどかいが終わって、俺はもう神じゃなくなった。明日の就任式で、お前は新しい神になる。そうなったら、今までみたいに気軽に会うことも出来なくなるな」

「それはどうかな?」

「どうかなって。まさか、お前、俺を補佐に置く気か?」

「……ご名答!」

「しゃあねぇな」

 まんざらでもないような鶴太郎さんの返事だ。

「お願いしますよ、先輩!」

 おどけるところは俺に似ている……のかもしれない。

「で、悪い話ってのは?」

「やっぱり悪い話からするべきだったな」

 楽しそうな雰囲気から一変し、その話がどれほど悪い話なのかが伝わってくる。

「なんだよ、そんなに悪い話なのか」

「……まあな」

「何があったんだ」

「……昨日こんなものが届いたんだ」

「なんだこれ」



「少年。実際のモノがこれだ」

 そう言いながら正面に座る鶴太郎さんが一枚の紙をこちらに差し出してきた。その紙は所々に血しぶきが飛んでいる。

「鶴太郎さん、これって」

 血しぶきの飛んだ『それ』を見て、なぜか俺の鼓動が早くなった。

「そうだ。君たち一家への『殺害予告』だ」

「……」

キサマ ノ カゾク ヲ ミナゴロシニ スル
ヤメテ ホシクバ カミ ヲ ジタイシロ

 読みづらいがこれが『殺害予告』だということは分かる。



「……こんなの悪戯だろ」

 過去の鶴太郎さんが口を開いた。

「俺だってそう思いたい。だけど……」

「心配だよな」

「ああ」

「……まぁ、こんなもの、俺が神だった頃にも来たことがあるから、気にすんなよ」

「……だけど」

「分かった! じゃあ、俺が明日の就任式の時に、お前の愛する人のそばにいてやるよ!」

「……悪いな」

「暗い、暗いぞ! 俺だけじゃなくて、部下だったやつも見張りとして置いておくから、お前は安心して就任式に出席してこい!」

「ありがとな」

「明日、早いだろ? 今日はこれで帰ろうぜ! 暗いぞ! 神になるやつがこんなことでくよくよしていてどうするんだって!」

「ああ、そうだな! じゃあ、いくか! 今日は俺に出させろよ」

「お、あざっす」

 2人は立ち上がり、店を出るようだ。2人の話す声はどんどん遠くなっていった。



「……鶴太郎さん。そして、どうなったんですか」

 正面に座っている鶴太郎さんに尋ねる。鶴太郎さんは下を向いていた。

「……」

「鶴太郎さん!!!!」

「……少年。……すまない」

 顔を上げるものの、その顔は決して良いことが起こったようには見えなかった。

「は!?」

「大丈夫だったんですよね!! ただの悪戯だったんですよね!! 鶴太郎さん!!!」

 立ち上がり、問い詰める。その問いに対する返事は、俺が聞きたくない返事だった。

「……私は。私は……君のお母さんを守れなかったんだ」
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