ランプの魔人ニケちゃん

くじぇ

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魔人 ニケ編

神 拓真とニケⅡ

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……。

 かなり長い時間、ニケに抱きしめられている。

 いい匂いがする。

「……あ、あのー。そろそろ離しますね。というか、すーはーすーはー止めてください」

 頬を赤く染めながら、上目遣いで俺に言う。どうやら、俺は夢中で嗅いでいたらしい。

 いや、まて。俺は、こんなにも女子に対して、普通に接することが出来たのか。女子に対して免疫がなかった俺はどこにいったのだ。冷静になれ! 俺!

「……すまん。ありがとな。だいぶ、落ち着いた」

 俺を見つめるニケはそういうと安心したような表情をする。

「よかった」

「それより、俺が死んだあと……って。いや、そもそも俺って死んだのか?」

 気持ちが落ち着いてきた俺は、状況を整理するためにニケに尋ねた。

「うん」

 下を向きながらニケが答える。

「そうか……。でも、今、生きてる。なんで俺は生きて……」

「『大魔神の交渉』を使ったの!」

 間髪入れずに、ニケが言い放った。

「『大魔神の交渉』?」

 聞いたことがない。当たり前のことではあるが、その交渉によって俺は助かったらしい。

「そう。私たち、魔人は生涯に一度だけ『大魔神の交渉』を使うことが出来るの。」

 いつの間にか、ニケの手にはランプがあった。

「それで俺を生き返らせたのか?」

「そう」

「そうだったのか……」

「でも、どうしてそこまでして俺を……」

 見ず知らずの人間の為に、生涯に一度の、その『大魔神の交渉』とやらを使用する。俺がニケの立場だったら出来ない。

「……アナタは『元』神様の子どもだから」

「そもそも、そもそもだよ、俺が『天界人』って話、本当なのか? 俺が『元』神の子どもっていうのも。」

 忘れていた。これも大事なことであり、聞いておきたいことだった。

「!? なんで知っているの?」

 俺は、ニケの過去、『神選』のこと、死んでいる間に見た全てをニケに伝えた。

「正直、拓真くんがなぜそんな映像を見れたのかはわかんない」

 ニケにも分からないことはあるらしい。

「そうか……」

「でも、その後の暗闇の中をさまよい、ギロチンにっていうのは、多分、神島さんの能力だと思う。」

「どういうことだ?」

「神島さんは神様として様々な能力を使うことが出来るの。私は、その全てを知っているわけではないけど、その暗闇の中でもう一度殺すというのは、本来、罪人に使う能力なの。」

 あの野郎、とことん俺のことが邪魔だったらしいな。

「罪人……」

「そう。もし、そのギロチンで死んでいたら、拓真くんの存在自体が消えていたよ。だから、よかった、間に合って」



「……俺は、これからどうしたら……」

「どうしたらって? 『神選』を勝ち上がって、神様になるんじゃないの?」

 ニケには感謝しているが、そんな簡単なことではない。

「もうなにがなんだか」

「困惑するのは分かるよ。でも、私は神様になってほしい」

 俺を見つめるニケ。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「そもそも、神様なんて俺には」

 自分が生きる意味を見出していないのに、神様になんてなれるはずがない。そこまで、出来た人間でもないことは自覚している。

「大丈夫だって! 拓真くんは、なんたって『元』神様の……」

「子どもだからってか? 関係ねーよ!どっちにしたって、アイツは俺を捨てたんだ!」

 思わず、声を荒げてしまった。それにニケが驚く。

「ニケだって知らなかったんだろ? アイツに子どもがいるってことを!」

「そ、それは……」

 そうだ。あんな奴、親でもなんでもない。感情が高まっていく。

「お、俺はアイツにとって『いらない存在』だったんだよ! だから!」

『パシ』

 そう言い放った時、ニケが俺の頬を叩いた。力はこもっておらず、弱弱しかった。

「なにすんだ……よ」

 ニケは涙を目にいっぱいためている。

「『元』神様は、魔人として欠陥品の私を『魔人』として扱ってくれたの。誰よりも優しい神様だったの! だから、そんなこと絶対ない! 絶対あるはずない! だから……」

 ニケが俺を見つめる。涙が止めどなく流れている。

「……ニケ」

 俺の手がニケに触れた瞬間、頭の中にビジョンが流れてきた。



『これで今回の神選も安心や。ほなな。』

 神島が去っていく。これは、ニケの視点か?

 神島はこちらを見ながら言った。つまり、アイツは知っていたのだ。ニケが部屋にいることを。

 しばらくして、ニケがクローゼットの扉を開けた。

『拓真くん!』

 俺に駆け寄るニケ。

『ぐ、あああ』

 声にならない声で俺は視点も定まっていない。

『だめだ。なんで、あんなにすぐに神島さんが。このままじゃ死んじゃう』

『も、もう、アレしかない。どうしようもなくなった時の秘策だったけど』

 アレというのが『大魔神の交渉』なのだろう。

『……大魔神様、お願いします』

 そうニケが呟くと、ニケの魔法のランプが光り出した。

 強烈な光と共に、大きな魔人が現れた。アラジンなどに出てきてもおかしくない。立派な魔人だ。

『お主の望みを叶えよう』

 声が部屋中に響く。某マンガに出てくる緑の龍のようなフレーズである。

『大魔神様! この人を、神 拓真くんを助けてください!』

 その声に、大魔神が俺の方を向く。

『……その青年は、ここで死ぬ運命と出ておる。ゆえに、その望みを変えるには対価が必要だ』

『対価……。それでも、それでも大丈夫です!お願いします!彼を助けてください!』

『よかろう。では、魔人としての能力を頂こう!』

『そ、それで拓真くんが助かるなら!』

『……お主、能力の質が低すぎる。これでは望みの対価にはならん!』

『だ、だったら、どうすれば! お願いします! 私が持っているモノで拓真くんが助かるなら!』

『ならば! お主の寿命を捧げよ!』

 は? 寿命? 何言ってんだ、この魔人は。やめろ、ニケ。俺はそんな立派な人間じゃない。

『寿命って……』

『やめてもいいぞ。運命を変えるとはそういうことだ。誰しも、自分が一番かわいい存在。そういうやつをワシは何人も見てきた。お主がこれを聞いて、やめたとしてもワシは責めはせん』

『ち、違います!ただ、『次の神様が決まる』までの間だけ、その間だけは私が生きていなきゃいけないんです。この子を神様にしなきゃいけないんです』

 なんで、なんでだよ、ニケ。

『……お前さんはなぜそこまでする』

 そうだ。ニケがなぜそこまでしてくれるのか。

『……この子を神様にすること。それが、今の――――――だからです!』

 まて、大事なところが聞こえなかった! なんて言ったんだ、ニケは。

『……そうか。よかろう。お前の魔人としての能力及び、寿命を対価に……その望み聞き入れよう!!!! あと……少しおまけもしといてやる! さらば!』

 その言葉の同時に、再び、光が部屋を包む。



「――くん、拓真くん! どうしたの?」

 ニケの揺さぶりで我に返った。何だったんだ、今のは。

「あ、今のは。そ、それより、ニケ、お前、俺の為に寿命を……」

 コイツは俺の為に、全てを捧げて……。

「!?」

「見えたんだ。自分でもなんでか分からないけど、お前に触れた瞬間に」

ニケに見えたままを伝える。それを聞くとニケはとても喜んだ。

「やった! やったよ! それは、『天界人』が最初に使える能力だよ! 大魔神様のおまけってこれだ!」

「そんなことよりも、なんで! ニケ、なんでだよ! なんで、そこまで俺の為に!」

「……それが、今の私にとっての『生きる意味だから』」

 まっすぐに見つめる目にもう涙はない。決意に満ちた強い目をしていた。

「……生きる……意味?」

「そう、拓真くんを神様にし……」

 そう言いかけて、ニケは俺に体を預けるようにして倒れこんだ。

「おい! ニケ! おい!」

 ニケはその場で気を失った。
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