8 / 36
魔人 ニケ編
神島とニケⅤ
しおりを挟む
無理だ……。私には……。どうしたらいいの? 部屋に戻り、魔法のランプを見つめる。あと、1時間で決断しなくてはいけない。私は、どうしたら……。
――2時間前
「お前には、コイツを殺してきてほしいのだ!」
この人は何を言っているんだろうか。突然のことに思考が停止しそうになる。
「え? あー、えっと……」
言葉に詰まる。この子が『元』神様の子ども? そして、私がこの子を殺す?
「困惑するのは分かる。だが、お前がやらなければ、コイツはワシが殺しにいく」
そう言いながら、神島さんが私の肩に手を置く。
「!?」
私が殺さなければ、神島さんが殺しにいく? この子はどちらにしても助からないの?
「……あの、なんで殺すんですか?」
単純な疑問だった。命を奪うということは相当な理由があるに違いないと思ったからだ。
「は? なんで殺すか? 邪魔だからだよ! それ以外にあるか?」
何かおかしなことがあるか?という風な顔で私に問いかける。この人にとって、人間の命は『その程度』なのだろう。
「いや、でも、この子は何にも関係ないんですよね? 今は人間として生きているだけで……」
必死で考えを改めてくれないか願う。
「関係ない? そんなわけあるか。コイツは今回の神選別の候補者の一人。 あとな、今でこそ、『人間界』で生活しているが、人間ではない。 俺と同じ『天界人』だ。神に成りうる可能性がある」
この子に対して、神島さんが相当固執していることは分かった。だけど……やっぱり間違ってる。間違ってるよ。
「だからって、殺すなんて……そうだ! 候補者なら、魔人がつきますよね! その魔人の子がかわいそうです!」
とにかく、殺させるわけにはいかない。必死でそう訴えた。
「は? 話聞いてたか? 奴は、『天界人』。魔人はつかん」
「!? じゃあ、彼には能力があるんですか?」
「いや、それはない。奴は生まれこそ、『天界』だが、生まれてすぐに『人間界』に落とされた。もちろん、『元』神が、俺に子どもを始末されるのを感じてのことだったんだろうな。」
「ひ、ひどい……。だったら、なんで」
「なんで殺すかって? それはな。コイツが、神選の奴らに一目置かれているからだ。能力が覚醒したら、次の神に最も近いのはコイツなんだとよ」
大体わかってきた。この人は、『恐い』んだ。この子が持つ神の素質に恐れているんだ。
「だ、だからって。大体、前の神様だって、消す必要なんてなかったのに」
「何を言っている? 『元』神だった者が周りにいたら、俺が神をやりづらいだろう? つまり、邪魔だろ? 邪魔なら消す。なにか間違っているか?」
「あなたはなんでそんな考え方しかできないんですか!」
声を荒げて、肩の手を振り払う。怒りの感情が高まる。
「おい」
神島さんに胸倉をつかまれた。そのまま上にあげられる。足が宙に浮いている。苦しい。
「俺は神だ。お前をどうすることだってできるんだぞ。お前が殺さなければ、俺が殺す」
こ、この人は本気で私を殺そうとしている……。……意識が飛びそうだ……。
「お前は殺しにいくか、ここで一生俺に奴隷のように扱われるかどっちか選べ。まぁ、見事、殺すことが出来たとすれば……。少しは、お前の待遇も考えてやろう。時間がない。3時間やる。選べ」
そう言うと、胸倉を離し、突き飛ばした。勢いで壁にぶつかる。
「うっ」
「分かったら、さっさといけ!」
「……はい」
そう言うと、私は自分の部屋に戻った。
どうしたらいいんだろう……。私が行かなくても、あの子は殺される。でも……。私が殺すことなんて……。どうしようもない現実に涙が出る。私は弱い……。
魔法のランプ……。何が魔法だ……。私に、"力"があれば……。
「もうっ!」
そう言いながら、魔法のランプを壁にぶつける。どうしようもない。
「あああああああああああああああああああ!」
考えていてもしょうがない。私が行かなかったら、あの子は殺される。でも!
「私が殺すと言って、殺さずにいれば……!?」
そうか! そうだ! 私が行って、彼をどこかへ隠そう! そして、神にするんだ! 私が、彼を!
「……でも……」
神島さんが殺しにくる。それは避けようもない。いっそ、殺したと嘘の報告をすれば、時間は稼げるかもしれない。
「そうだ! その限られた時間で、彼を『天界人』として目覚めさせれば!」
何も算段はない。計画性もない。でも、やってみなければ分からない。そうと決まれば……。
「魔法のランプに、『振り向きの香水』をかけて……」
魔法の使えない私は、売られているこの香水で彼と出会うしかない。
「あとは……」
部屋の押入れを開ける。中にある段ボールを広げてみる。たくさんの本が入っている。
「これだ!」
昔、遠出した時に、旅の商人が売ってくれた『魔人と人間』の本。『人間界』で人間と出会う魔人のノウハウが書かれている。
「私は、絶対に、彼を神様にする!」
それらを魔法のランプに詰め込み、私は部屋を後にした。
――大広間
「そうか。覚悟は決まったか」
神様はニヤニヤしている。
「……はい」
悟られないように、緊張した表情を作る。
「所詮、お前も自分がかわいいということだな。はっはっは」
神島さんは、椅子にふんぞり返り、私を見下すような視線で言い放った。
「では、行ってきます」
「せいぜい、頑張るこったな」
そうして、私はあの青年がいる人間界『京都』へ降り立った。
「……行くか。奴はアイツの息子を殺すなんてことは絶対に出来ない」
神島はそう言うと、ニケの後を追うように人間界に向かった。
「俺がこの手で殺す」
――2時間前
「お前には、コイツを殺してきてほしいのだ!」
この人は何を言っているんだろうか。突然のことに思考が停止しそうになる。
「え? あー、えっと……」
言葉に詰まる。この子が『元』神様の子ども? そして、私がこの子を殺す?
「困惑するのは分かる。だが、お前がやらなければ、コイツはワシが殺しにいく」
そう言いながら、神島さんが私の肩に手を置く。
「!?」
私が殺さなければ、神島さんが殺しにいく? この子はどちらにしても助からないの?
「……あの、なんで殺すんですか?」
単純な疑問だった。命を奪うということは相当な理由があるに違いないと思ったからだ。
「は? なんで殺すか? 邪魔だからだよ! それ以外にあるか?」
何かおかしなことがあるか?という風な顔で私に問いかける。この人にとって、人間の命は『その程度』なのだろう。
「いや、でも、この子は何にも関係ないんですよね? 今は人間として生きているだけで……」
必死で考えを改めてくれないか願う。
「関係ない? そんなわけあるか。コイツは今回の神選別の候補者の一人。 あとな、今でこそ、『人間界』で生活しているが、人間ではない。 俺と同じ『天界人』だ。神に成りうる可能性がある」
この子に対して、神島さんが相当固執していることは分かった。だけど……やっぱり間違ってる。間違ってるよ。
「だからって、殺すなんて……そうだ! 候補者なら、魔人がつきますよね! その魔人の子がかわいそうです!」
とにかく、殺させるわけにはいかない。必死でそう訴えた。
「は? 話聞いてたか? 奴は、『天界人』。魔人はつかん」
「!? じゃあ、彼には能力があるんですか?」
「いや、それはない。奴は生まれこそ、『天界』だが、生まれてすぐに『人間界』に落とされた。もちろん、『元』神が、俺に子どもを始末されるのを感じてのことだったんだろうな。」
「ひ、ひどい……。だったら、なんで」
「なんで殺すかって? それはな。コイツが、神選の奴らに一目置かれているからだ。能力が覚醒したら、次の神に最も近いのはコイツなんだとよ」
大体わかってきた。この人は、『恐い』んだ。この子が持つ神の素質に恐れているんだ。
「だ、だからって。大体、前の神様だって、消す必要なんてなかったのに」
「何を言っている? 『元』神だった者が周りにいたら、俺が神をやりづらいだろう? つまり、邪魔だろ? 邪魔なら消す。なにか間違っているか?」
「あなたはなんでそんな考え方しかできないんですか!」
声を荒げて、肩の手を振り払う。怒りの感情が高まる。
「おい」
神島さんに胸倉をつかまれた。そのまま上にあげられる。足が宙に浮いている。苦しい。
「俺は神だ。お前をどうすることだってできるんだぞ。お前が殺さなければ、俺が殺す」
こ、この人は本気で私を殺そうとしている……。……意識が飛びそうだ……。
「お前は殺しにいくか、ここで一生俺に奴隷のように扱われるかどっちか選べ。まぁ、見事、殺すことが出来たとすれば……。少しは、お前の待遇も考えてやろう。時間がない。3時間やる。選べ」
そう言うと、胸倉を離し、突き飛ばした。勢いで壁にぶつかる。
「うっ」
「分かったら、さっさといけ!」
「……はい」
そう言うと、私は自分の部屋に戻った。
どうしたらいいんだろう……。私が行かなくても、あの子は殺される。でも……。私が殺すことなんて……。どうしようもない現実に涙が出る。私は弱い……。
魔法のランプ……。何が魔法だ……。私に、"力"があれば……。
「もうっ!」
そう言いながら、魔法のランプを壁にぶつける。どうしようもない。
「あああああああああああああああああああ!」
考えていてもしょうがない。私が行かなかったら、あの子は殺される。でも!
「私が殺すと言って、殺さずにいれば……!?」
そうか! そうだ! 私が行って、彼をどこかへ隠そう! そして、神にするんだ! 私が、彼を!
「……でも……」
神島さんが殺しにくる。それは避けようもない。いっそ、殺したと嘘の報告をすれば、時間は稼げるかもしれない。
「そうだ! その限られた時間で、彼を『天界人』として目覚めさせれば!」
何も算段はない。計画性もない。でも、やってみなければ分からない。そうと決まれば……。
「魔法のランプに、『振り向きの香水』をかけて……」
魔法の使えない私は、売られているこの香水で彼と出会うしかない。
「あとは……」
部屋の押入れを開ける。中にある段ボールを広げてみる。たくさんの本が入っている。
「これだ!」
昔、遠出した時に、旅の商人が売ってくれた『魔人と人間』の本。『人間界』で人間と出会う魔人のノウハウが書かれている。
「私は、絶対に、彼を神様にする!」
それらを魔法のランプに詰め込み、私は部屋を後にした。
――大広間
「そうか。覚悟は決まったか」
神様はニヤニヤしている。
「……はい」
悟られないように、緊張した表情を作る。
「所詮、お前も自分がかわいいということだな。はっはっは」
神島さんは、椅子にふんぞり返り、私を見下すような視線で言い放った。
「では、行ってきます」
「せいぜい、頑張るこったな」
そうして、私はあの青年がいる人間界『京都』へ降り立った。
「……行くか。奴はアイツの息子を殺すなんてことは絶対に出来ない」
神島はそう言うと、ニケの後を追うように人間界に向かった。
「俺がこの手で殺す」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる