22 / 44
【動き出す思惑】
22:模擬戦に向けて(2)
しおりを挟む
新型のブリッツ・シュヴァルベ試作機は無事に完成し、オルフ達は一度目の試験飛行を行った。
オルフは加減気味に基本的な空戦機動を行い、大まかな機体性能を推測する。限界はまだ見極めていないが、総合的に見れば、恐らくはヤハールの新型戦闘機である剣鷹と遜色が無い代物だろう。
試験飛行の後、新型ブリッツ・シュヴァルベはハンガーに戻された。機体各部に損傷が無いかを確認されている。
その様子をオルフは遠巻きに眺め、物思いに耽っていた。
「浮かない顔だな」
「ああ、あんたか」
オルフの隣に、オーエンが寄ってきた。
「何か、機体に懸念でもあるのか? なら、言ってくれ。事故に繋がりかねないようなものは、勝負以前に見過ごせない」
「いや、大丈夫だ。そうか、すまん。そんな風に見えているのか」
オルフは嘆息した。
「模擬戦のことなら心配無用だ。俺は、別の事を考えていた。昨日の夜、ハクレの野郎に気になることを聞かされた」
「気になること?」
オルフは頷く。
「襲撃事件に使われた機体のエンジン。あれの出所が、まだどうしても分からないんだとよ。失踪してからの中尉の消息とか、分からないことは他にも色々とあるんだが。中尉以外にも、消息不明な連中がいるらしい。具体的に誰か、までは纏めきれていないらしく、詳細は分からねえけど」
そう言うと、オーエンの表情は強張った。やはりこいつも、嘘を吐くのが下手な男だとオルフは思う。
「悪い。もし何か知っているようだったら、訊いてみたかったのは確かだ。残骸になったあの機体を見たときも、あんたはそんな顔をしていたから、ひょっとしたらって思っただけで。もしそうだったとしても、無理強いして聞くつもりは無い」
「そうか。顔に出ていたのか。だったら、あのカイっていう男にも、そう思われているんだろうな」
「多分な」
「プレアデン重工にも、捜査の手は伸びたのだろうか?」
「ああ、そっちはもう調べたと言っていた。んで、シロだってよ」
それを聞いて、オーエンは呻いた。
そんな彼の様子に、オルフは小首を傾げる。
「プレアデン重工に変な疑いがかけられるのを避けたかったから黙っていた。っていう訳じゃないのか?」
「いや? その通りだ。その通り、なんだがな」
舌打ちして、オーエンは腕を組んだ。
「すまない。俺にも、どう話せばいいのか考えがまとまらない。この話は、後で話をさせてくれ。そうだな、模擬戦が終わったら、そのときにでも話そう」
「分かった」
踵を返し、作業に戻っていくオーエンを見送って。自分も、気持ちを切り替えようとオルフは思い直した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その晩、シン=キリマは寝台の中でほくそ笑んでいた。
ブリッツ・シュヴァルベ試作機の試験飛行は日中に確認している。なるほど、敗戦国の人間が造ったにしてはまともに飛ぶ機体ではある。彼らも、口だけのつもりではなかったらしい。
しかし、剣鷹の敵ではない。そう、キリマは判断した。速度は遜色無い。そして、機動性は剣鷹が上だ。
ブリッツ・シュヴァルベの戦い方というものは、先任のパイロット達から聞かされている。あの機体は高い上昇性能と降下性能を活かし、それこそ燕のように舞って攻撃してくる。戦法としてはシンプルなのだ。
だが反面、そういう尖った性能をしているが故に、他の機動は劣る。格闘戦、特に巴戦となれば圧倒的に剣鷹に分がある。ここで、ブリッツ・シュヴァルベの速度が剣鷹より勝るようなら、逃げられるという展開も有り得るかも知れない。しかし、大きく違いが無いというのなら、そんな真似はさせない。
「勝つのは俺だ」
囁くように言って。シンは燃える闘志を鎮め、目を瞑った。
オルフは加減気味に基本的な空戦機動を行い、大まかな機体性能を推測する。限界はまだ見極めていないが、総合的に見れば、恐らくはヤハールの新型戦闘機である剣鷹と遜色が無い代物だろう。
試験飛行の後、新型ブリッツ・シュヴァルベはハンガーに戻された。機体各部に損傷が無いかを確認されている。
その様子をオルフは遠巻きに眺め、物思いに耽っていた。
「浮かない顔だな」
「ああ、あんたか」
オルフの隣に、オーエンが寄ってきた。
「何か、機体に懸念でもあるのか? なら、言ってくれ。事故に繋がりかねないようなものは、勝負以前に見過ごせない」
「いや、大丈夫だ。そうか、すまん。そんな風に見えているのか」
オルフは嘆息した。
「模擬戦のことなら心配無用だ。俺は、別の事を考えていた。昨日の夜、ハクレの野郎に気になることを聞かされた」
「気になること?」
オルフは頷く。
「襲撃事件に使われた機体のエンジン。あれの出所が、まだどうしても分からないんだとよ。失踪してからの中尉の消息とか、分からないことは他にも色々とあるんだが。中尉以外にも、消息不明な連中がいるらしい。具体的に誰か、までは纏めきれていないらしく、詳細は分からねえけど」
そう言うと、オーエンの表情は強張った。やはりこいつも、嘘を吐くのが下手な男だとオルフは思う。
「悪い。もし何か知っているようだったら、訊いてみたかったのは確かだ。残骸になったあの機体を見たときも、あんたはそんな顔をしていたから、ひょっとしたらって思っただけで。もしそうだったとしても、無理強いして聞くつもりは無い」
「そうか。顔に出ていたのか。だったら、あのカイっていう男にも、そう思われているんだろうな」
「多分な」
「プレアデン重工にも、捜査の手は伸びたのだろうか?」
「ああ、そっちはもう調べたと言っていた。んで、シロだってよ」
それを聞いて、オーエンは呻いた。
そんな彼の様子に、オルフは小首を傾げる。
「プレアデン重工に変な疑いがかけられるのを避けたかったから黙っていた。っていう訳じゃないのか?」
「いや? その通りだ。その通り、なんだがな」
舌打ちして、オーエンは腕を組んだ。
「すまない。俺にも、どう話せばいいのか考えがまとまらない。この話は、後で話をさせてくれ。そうだな、模擬戦が終わったら、そのときにでも話そう」
「分かった」
踵を返し、作業に戻っていくオーエンを見送って。自分も、気持ちを切り替えようとオルフは思い直した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
その晩、シン=キリマは寝台の中でほくそ笑んでいた。
ブリッツ・シュヴァルベ試作機の試験飛行は日中に確認している。なるほど、敗戦国の人間が造ったにしてはまともに飛ぶ機体ではある。彼らも、口だけのつもりではなかったらしい。
しかし、剣鷹の敵ではない。そう、キリマは判断した。速度は遜色無い。そして、機動性は剣鷹が上だ。
ブリッツ・シュヴァルベの戦い方というものは、先任のパイロット達から聞かされている。あの機体は高い上昇性能と降下性能を活かし、それこそ燕のように舞って攻撃してくる。戦法としてはシンプルなのだ。
だが反面、そういう尖った性能をしているが故に、他の機動は劣る。格闘戦、特に巴戦となれば圧倒的に剣鷹に分がある。ここで、ブリッツ・シュヴァルベの速度が剣鷹より勝るようなら、逃げられるという展開も有り得るかも知れない。しかし、大きく違いが無いというのなら、そんな真似はさせない。
「勝つのは俺だ」
囁くように言って。シンは燃える闘志を鎮め、目を瞑った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 五の巻
初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。
1941年5月、欧州大陸は風前の灯火だった。
遣欧軍はブレストに追い詰められ、もはや撤退するしかない。
そんな中でも綺羅様は派手なことをかましたかった。
「小説家になろう!」と同時公開。
第五巻全14話
(前説入れて15話)
日本独立戦争記
三河晃司
SF
「私たちがかつて失った言語を、文化を……祖国を今、取り戻す時だ」
2042年の春
失われた日本を取り戻すために、霜崎 宗谷率いる「日本解放戦線」所属の精鋭小隊『第三歩兵小隊』は、二年間続く連邦との独立戦争へその身を投じていた。
最新の試作脳神経直結型侵入通信デバイス「アユハシステム」を頭の中に抱えた彼らは、反転攻勢の要として、最前線へと突き進む。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
蓮の水葬
SaKI
ミステリー
「真相を全てお話します」
「ただし、私は私を可笑しいとは思いません」
戦後復興のシンボルとして、東京タワーが完成(竣工)した昭和33年。
不倫を続ける夫と、ひとりの"女"であり続けた母。
救われるのは、誰か?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる