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【動き出す思惑】

9:協力者達

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 オルフが地上に戻ると、独房に入っていた人達が戦闘機の開発に協力する気になったと伝えられた。
 作業場所として、格納庫の一角を与えられた。あと、必要な工作機械や必要な時期が分かり次第、それも伝えろと。そういう話になったそうだ。
 オルフが格納庫に向かうと、彼らは手持ち無沙汰気味に立って談笑していた。

「あんたらが戦闘機作りに協力してくれると聞いた。本当にありがとう。感謝する」
 彼らがこちらの存在に気付くや否や、オルフはそう言った。こういう機を逃すと、余計に動きにくくなるというのが、中尉の教えだった。戦いでも何でも、主導権を取りたければ、まずは自分が先手を取れと。

「ふ~ん。空からお戻りかい大将。どうだったよ? 連中の機体は」
 ひょろ長く高身長の中年男が、訊いてくる。

「悪い。あんたの名前は?」
「ああ、モルトだ。モルト=ヒュートってんだよ。よろしくな。主にシュペリの奴と相談して、見積や計画を調整していた。実際に手も動かしていたがな」

「分かった。こっちこそ、よろしく頼む」
「んで? さっきも訊いたが、連中の機体はどうだった?」
「悔しいが、良い機体だった。連中、この戦後四年間で更に高性能な機体を作り上げていた。“鷹“の派生系だって聞いたが、安定性、機動性のバランスは抜群で、その上速度も相当なものだ。戦争末期のどの戦闘機でも追いつけないだろうな。偵察機ならあるいは、とは思うが。操作性も高い。こちらが意図したとおりに、実に素直に動きやがる。完成度が高すぎて、テストパイロットなんざもういらねえんじゃねえかって思うくらいだ」

「ほう、随分と持ち上げるじゃねえか。お前、それでもミルレンシア人か?」
「生粋のミルレンシア人だ。だが、勝負する以上、相手の力っていうのは正確に見積もらなきゃダメだ。そこを感情的に見誤るような真似をすれば、手痛いしっぺ返しを食らうことになる」
「ふん? 冷静なものの言い方だな」
「それが、中尉の教えだったからな」
「なるほど」
 納得したと、モルトは頷いた。

「じゃあ、取りあえず俺達の方も自己紹介といこうか。大将については昨日聞いたし、俺もさっき名乗った」
 おい。と、モルトはたむろしていた男達の中で、一番右にいた男に視線を向ける。
「ストメントだ。ストメント=アッシェ」
「基本的に無口だが、酒が入ると舌が回る。こいつと色々話がしたいなら、酒を持ってくるこったな」
 モルトの補足が続いた。

「スァンツ=マイローだ。飛行機についてはよく分からんが、力には自信がある。力仕事が必要になったときは言ってくれ」
 こちらは、年齢は40くらいか。力をアピールするだけあって、体格も立派なものだった。

「ロペア=クアイン。私はスァンツの旦那とは違い、逆に頭脳労働担当です。よろしくお願いします」
「よろしく頼む」
 こちらは、少し線が細い、二十代半ばくらいの青年だった。

「コクトゥ=フリューゲ。板金や旋盤なら、任せて貰おうか」
 コクトゥは五十代くらいだろうかと、オルフは見積もった。眼光は鋭く、熟練の職人といった雰囲気を感じさせた。

「ハリゲル=オーラント。取り立てて何が得意というわけでもないが。足を引っ張っていたつもりはない。それなりに、色々とやれるつもりだ」
「ヴァイン=アールヴ。俺も、ハリゲルと同じようなもんだ」
「クラペ=ゲーニア。組み立てを担当していた。よろしく」
「マシューガン=ブルファ。俺は、主に銃器の調整とかをやっていた」
「俺で最後か。カロッスエ=ルゲン。塗装を担当していた」
 カロッスエの年齢は40代半ばくらいだろうか。随分と、落ち着いた声と貫禄がある声をした男だと、オルフは思った。

「それで、お前さんはどんな機体なら、連中の戦闘機に勝てると思う?」
「そうだな」
 モルトの問いにオルフは目を細め、考えを纏めた。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 詰め所のデスクに着きながら、カイは傍らに立つ部下を見上げた。
「それで? どうなった?」
「はい。半ば予想されていた通りですが、ブリッツ・シュヴァルベの進化系を造ろうという話になりました。ただ――」

「ただ?」
「やはり、彼らだけで零から戦闘機を開発するというのは不可能だという結論になりました」
「とすると、彼らが聴取で行っていたとおり、事件に使われた機体も構造的な知識はすべてシュペリ一人が握っていたことになるが。一介のパイロットが、その機体についてそこまで詳しく把握しているものか?」
「私も、普通はまず無いと思いますが、オルフ曰く『中尉なら不思議ではない。むしろ当然だ』という話でした」

「オルフはシュペリのようには、ブリッツ・シュヴァルベについて分からないのか?」
「無理だと言っていましたね。そこは流石に、シュペリが異端であって、オルフが普通でしょう」
「つくづく、とんでもない男だったようだな。シュペリ=ラハンという男は」
 戦後の境遇に恵まれていたなら、もっと違う人生を歩んでいた。インタビューに対するトキマの答えではないが、カイには、そんな気がしてならなかった。

「それで? 連中はどうするつもりだ?」
「はい。押収したブリッツ・シュヴァルベの資料の複製を渡せと言ってきました。せめて、それを参考にしないことにはどうにもならないと」
「許可は出たのか? それと、確かそれも色々と散逸したり、終戦直前に連中が焼却処分したせいで、残っている部分は少ないと思うが?」

「そうですね。許可が出るかどうかについては、これから協議するようです。まあ、出てもそれこそ、どこまで用意出来るか怪しいところだと思いますが」
「仮に用意出来ても、厳しそうだな」
「はい。それもあってか、当時にブリッツ・シュヴァルベの設計に携わっていた技術者を探して、協力を仰げないかと言ってきました」

「それもそうか。僅かな可能性として期待していたが、製造はともかくとして設計するのは無茶という話か。俺達が言える話ではないが、前途多難だな」
「全くです」
「設計技術者については、目処は付きそうなのか?」

「そこは何とでもなるのではないかと。彼らを雇っていた企業は、そのまま残っていますから」
「そうか」
 コツコツと、カイはデスクを指先で叩く。

「それじゃあ、連中はしばらくはまた、独房で何もしない日々が続くのか?」
「いえ、そこは流石に。もうこれ以上は、働かざる者食うべからずです。当分は、我々の機体整備を手伝って貰いますよ」
「まあ、当然だな」
 カイは苦笑を浮かべた。
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