新生のブリッツ・シュヴァルベ

漆沢刀也

文字の大きさ
上 下
3 / 44
【動き出す思惑】

3:蹴散らす風

しおりを挟む
 空戦競技チャンピオン戦テロリスト襲撃事件から一週間が過ぎた。
 オルフ=ヒンメルはメモと地図を頼りに、目的地へと向かう。
 ミルレンシアの首都メルテナに来るのは四年ぶりだ。終戦してミルレンシア軍が解散。除隊させられて、故郷に戻ってからはずっと来ていなかった。

 生活もあったが。守れず、焼け野原になった首都を見るのが辛かったというのも、来なかった理由かも知れない。
 だが、駅を降りるとそれなりに建物が建ち並び、完全に傷は癒えないまでも復興していっている姿を見て、彼はほんの少しだけ安堵した。

 目的地はメルテナの中心地から遠く離れた郊外だ。駅からここまではバスを乗り継いでやって来た。
 重要施設が集まっていた中心地からは離れているせいか、空襲の傷痕も少ないように思える。ややまばらではあるが、古い建物が建ち並んでいた。
 道なりに歩いて、坂を登る。この坂を登り切れば、目的地のはずだ。

「あぁん?」
 オルフは眉をひそめた。こんな、人も少なそうな場所だというのに妙に騒がしい。
 若い女の金切り声。怒声。
 早足で坂を登っていくと、目的の場所と同じところに、人だかりが見えてきた。
 チッと舌打ちをして、オルフはずかずかと人だかりへと向かう。詳しくは分からないが、状況から考えてどうせろくでもないことになっているのだろう。

「ですからっ! 私は何も知らないって。何度も言っているでしょうっ! いい加減に帰って下さいっ!」
「そんなことを言わずに、何か一言」
「あなた達に話すことなんて何もありませんっ! 帰ってっ!」
 そんなやり取りを聞くだけで、オルフは胸くそ悪いものを感じた。十人ほどの男の隙間から、黒い髪を伸ばした若い女の顔が見えた。彼女は歯を食いしばっている。
 喧噪から少し離れたところで、オルフは立ち止まった。

「お前らあっ! 寄って集って女囲んで何をしているっ! 帰れと言われているのにしつこく集るんじゃねえぞボケっ!」
 こっちの気配にはまるで気付いてなかったらしい。男達は一瞬、背中を丸めてからオルフに向き直ってきた。

「あ、あなた突然誰ですか?」
「私達は怪しいものではありません」
「先日の空戦競技会襲撃事件の関係者に取材をお願いしているところです」
「私達は、新聞記者なんです」
 やはりそういうことかと、オルフは眉を吊り上げた。

「やかましいっ! なら、相手が今どういう状況かも分かるだろうがっ! それを土足で心を踏みにじるような真似しやがってっ! 何が『お願い』だっ! お前らがやっていることはただの恐喝だっ!」
 はっきりと、言ってやる。
 だが、その言葉が癪に障ったのか、彼らは不機嫌に表情を歪めた。

「こっの。黙って聞いていればいい気になりやがって」
「どこの誰だか知らないが。何様だと思ってやがる」
「これ以上、俺達の仕事の邪魔をするというのなら、痛い目も覚悟して貰うぞ?」
 オルフは鼻で嗤った。

「群れて相手を囲まねぇと何も出来ないゴミバエのくせにほざくな。やるってんなら、やってやろうじゃねえか? そっちこそ、痛い目は覚悟しておけよ?」
 そう言って、オルフは背負っていた荷物を地面に落とす。割れ物は無いので、問題ない。

 荷物が地面に接するのと同時に、オルフは真っ直ぐに突進した。
 記者達の顔が驚愕に染まる。口先だけで、何も覚悟が決まっていなかった証拠だ。
 反射的に、中途半端に構えようとした、オルフに一番近かった男の頬をフック軌道で殴打する。
 その男の首は盛大に捻れ、その場に崩れ落ちた。

「ひっ?」
 その隣にいた男から、悲鳴が漏れた。
 ちょっとはいい勘しているとオルフは思った。そうだ。次の獲物はお前だよっ!
 その場で上半身を落とし、がら空きになっている腹に拳を突き出す。

「ぐっ! あっ?」
 この手応えは、相当に効く奴だとオルフはほくそ笑む。彼自身、この地獄の苦しみは何度も味わったことがある。食らえば息をするのも苦しく、立ち上がれない代物だ。
 二人を仕留めたところで、オルフは足を止めない。足を止めれば、彼らの攻撃の的になりかねない。そんな風に立て直す余裕が、彼らにあるかは、はなはだ怪しいが。

 少し後退して、残った連中の表情を確認する。どいつもこいつも、戦意を喪失し、恐怖の色がありありと浮かんでいた。
 にいっと、オルフは笑みを浮かべる。威勢がいいのは最初だけか。こいつぁ、鶏撃ちよりも楽な仕事だな。
「おらあああああぁぁぁぁっ!」
 悲鳴を上げる男達の中に、オルフは吠えながら、再び飛び込んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 五の巻

初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。 1941年5月、欧州大陸は風前の灯火だった。 遣欧軍はブレストに追い詰められ、もはや撤退するしかない。 そんな中でも綺羅様は派手なことをかましたかった。 「小説家になろう!」と同時公開。 第五巻全14話 (前説入れて15話)

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―

EPIC
ファンタジー
建設隊――陸上自衛隊にて編制運用される、鉄道運用部隊。 そしてその世界の陸上自衛隊 建設隊は、旧式ながらも装甲列車を保有運用していた。 そんな建設隊は、何の因果か巡り合わせか――異世界の地を新たな任務作戦先とすることになる―― 陸上自衛隊が装甲列車で異世界を旅する作戦記録――開始。 注意)「どんと来い超常現象」な方針で、自衛隊側も超技術の恩恵を受けてたり、めっちゃ強い隊員の人とか出てきます。まじめな現代軍隊inファンタジーを期待すると盛大に肩透かしを食らいます。ハジケる覚悟をしろ。 ・「異世界を――装甲列車で冒険したいですッ!」、そんな欲望のままに開始した作品です。 ・現実的な多々の問題点とかぶん投げて、勢いと雰囲気で乗り切ります。 ・作者は鉄道関係に関しては完全な素人です。 ・自衛隊の名称をお借りしていますが、装甲列車が出てくる時点で現実とは異なる組織です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

鉄翼の猛禽が掴む空

鳴海邦夫
ファンタジー
大昔、戦争といえば国々の航空戦力は龍に乗る龍騎士が主流となっていた、地上の主力だった甲冑を纏う機甲兵、騎兵、攻撃魔法による支援攻撃を行う魔法兵も今では歴史の中の話となっていた  だが時代が進み、人類自らの叡智による科学発展は、魔法技術の継承を阻んだ事により衰退を招き、竜騎士は龍から飛行機へと変わり、魔法技術を応用する機械技術は極小数になった。  完成した軍用機を各部隊へ引き渡す為に、空輸補助任務(通称.回送屋)に就く主人公ノラ  航空機を回送もあれば、連絡機として飛ぶ事もある。前の戦争の傷が時々心に揺さぶりをかける それでも、ノラは飛べる限り、任務がある限り飛び続ける。  時々危険な物語ーー  Nolaで投稿改訂を加えたものを投稿しています

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...