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【動き出す思惑】
3:蹴散らす風
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空戦競技チャンピオン戦テロリスト襲撃事件から一週間が過ぎた。
オルフ=ヒンメルはメモと地図を頼りに、目的地へと向かう。
ミルレンシアの首都メルテナに来るのは四年ぶりだ。終戦してミルレンシア軍が解散。除隊させられて、故郷に戻ってからはずっと来ていなかった。
生活もあったが。守れず、焼け野原になった首都を見るのが辛かったというのも、来なかった理由かも知れない。
だが、駅を降りるとそれなりに建物が建ち並び、完全に傷は癒えないまでも復興していっている姿を見て、彼はほんの少しだけ安堵した。
目的地はメルテナの中心地から遠く離れた郊外だ。駅からここまではバスを乗り継いでやって来た。
重要施設が集まっていた中心地からは離れているせいか、空襲の傷痕も少ないように思える。ややまばらではあるが、古い建物が建ち並んでいた。
道なりに歩いて、坂を登る。この坂を登り切れば、目的地のはずだ。
「あぁん?」
オルフは眉をひそめた。こんな、人も少なそうな場所だというのに妙に騒がしい。
若い女の金切り声。怒声。
早足で坂を登っていくと、目的の場所と同じところに、人だかりが見えてきた。
チッと舌打ちをして、オルフはずかずかと人だかりへと向かう。詳しくは分からないが、状況から考えてどうせろくでもないことになっているのだろう。
「ですからっ! 私は何も知らないって。何度も言っているでしょうっ! いい加減に帰って下さいっ!」
「そんなことを言わずに、何か一言」
「あなた達に話すことなんて何もありませんっ! 帰ってっ!」
そんなやり取りを聞くだけで、オルフは胸くそ悪いものを感じた。十人ほどの男の隙間から、黒い髪を伸ばした若い女の顔が見えた。彼女は歯を食いしばっている。
喧噪から少し離れたところで、オルフは立ち止まった。
「お前らあっ! 寄って集って女囲んで何をしているっ! 帰れと言われているのにしつこく集るんじゃねえぞボケっ!」
こっちの気配にはまるで気付いてなかったらしい。男達は一瞬、背中を丸めてからオルフに向き直ってきた。
「あ、あなた突然誰ですか?」
「私達は怪しいものではありません」
「先日の空戦競技会襲撃事件の関係者に取材をお願いしているところです」
「私達は、新聞記者なんです」
やはりそういうことかと、オルフは眉を吊り上げた。
「やかましいっ! なら、相手が今どういう状況かも分かるだろうがっ! それを土足で心を踏みにじるような真似しやがってっ! 何が『お願い』だっ! お前らがやっていることはただの恐喝だっ!」
はっきりと、言ってやる。
だが、その言葉が癪に障ったのか、彼らは不機嫌に表情を歪めた。
「こっの。黙って聞いていればいい気になりやがって」
「どこの誰だか知らないが。何様だと思ってやがる」
「これ以上、俺達の仕事の邪魔をするというのなら、痛い目も覚悟して貰うぞ?」
オルフは鼻で嗤った。
「群れて相手を囲まねぇと何も出来ないゴミバエのくせにほざくな。やるってんなら、やってやろうじゃねえか? そっちこそ、痛い目は覚悟しておけよ?」
そう言って、オルフは背負っていた荷物を地面に落とす。割れ物は無いので、問題ない。
荷物が地面に接するのと同時に、オルフは真っ直ぐに突進した。
記者達の顔が驚愕に染まる。口先だけで、何も覚悟が決まっていなかった証拠だ。
反射的に、中途半端に構えようとした、オルフに一番近かった男の頬をフック軌道で殴打する。
その男の首は盛大に捻れ、その場に崩れ落ちた。
「ひっ?」
その隣にいた男から、悲鳴が漏れた。
ちょっとはいい勘しているとオルフは思った。そうだ。次の獲物はお前だよっ!
その場で上半身を落とし、がら空きになっている腹に拳を突き出す。
「ぐっ! あっ?」
この手応えは、相当に効く奴だとオルフはほくそ笑む。彼自身、この地獄の苦しみは何度も味わったことがある。食らえば息をするのも苦しく、立ち上がれない代物だ。
二人を仕留めたところで、オルフは足を止めない。足を止めれば、彼らの攻撃の的になりかねない。そんな風に立て直す余裕が、彼らにあるかは、はなはだ怪しいが。
少し後退して、残った連中の表情を確認する。どいつもこいつも、戦意を喪失し、恐怖の色がありありと浮かんでいた。
にいっと、オルフは笑みを浮かべる。威勢がいいのは最初だけか。こいつぁ、鶏撃ちよりも楽な仕事だな。
「おらあああああぁぁぁぁっ!」
悲鳴を上げる男達の中に、オルフは吠えながら、再び飛び込んでいった。
オルフ=ヒンメルはメモと地図を頼りに、目的地へと向かう。
ミルレンシアの首都メルテナに来るのは四年ぶりだ。終戦してミルレンシア軍が解散。除隊させられて、故郷に戻ってからはずっと来ていなかった。
生活もあったが。守れず、焼け野原になった首都を見るのが辛かったというのも、来なかった理由かも知れない。
だが、駅を降りるとそれなりに建物が建ち並び、完全に傷は癒えないまでも復興していっている姿を見て、彼はほんの少しだけ安堵した。
目的地はメルテナの中心地から遠く離れた郊外だ。駅からここまではバスを乗り継いでやって来た。
重要施設が集まっていた中心地からは離れているせいか、空襲の傷痕も少ないように思える。ややまばらではあるが、古い建物が建ち並んでいた。
道なりに歩いて、坂を登る。この坂を登り切れば、目的地のはずだ。
「あぁん?」
オルフは眉をひそめた。こんな、人も少なそうな場所だというのに妙に騒がしい。
若い女の金切り声。怒声。
早足で坂を登っていくと、目的の場所と同じところに、人だかりが見えてきた。
チッと舌打ちをして、オルフはずかずかと人だかりへと向かう。詳しくは分からないが、状況から考えてどうせろくでもないことになっているのだろう。
「ですからっ! 私は何も知らないって。何度も言っているでしょうっ! いい加減に帰って下さいっ!」
「そんなことを言わずに、何か一言」
「あなた達に話すことなんて何もありませんっ! 帰ってっ!」
そんなやり取りを聞くだけで、オルフは胸くそ悪いものを感じた。十人ほどの男の隙間から、黒い髪を伸ばした若い女の顔が見えた。彼女は歯を食いしばっている。
喧噪から少し離れたところで、オルフは立ち止まった。
「お前らあっ! 寄って集って女囲んで何をしているっ! 帰れと言われているのにしつこく集るんじゃねえぞボケっ!」
こっちの気配にはまるで気付いてなかったらしい。男達は一瞬、背中を丸めてからオルフに向き直ってきた。
「あ、あなた突然誰ですか?」
「私達は怪しいものではありません」
「先日の空戦競技会襲撃事件の関係者に取材をお願いしているところです」
「私達は、新聞記者なんです」
やはりそういうことかと、オルフは眉を吊り上げた。
「やかましいっ! なら、相手が今どういう状況かも分かるだろうがっ! それを土足で心を踏みにじるような真似しやがってっ! 何が『お願い』だっ! お前らがやっていることはただの恐喝だっ!」
はっきりと、言ってやる。
だが、その言葉が癪に障ったのか、彼らは不機嫌に表情を歪めた。
「こっの。黙って聞いていればいい気になりやがって」
「どこの誰だか知らないが。何様だと思ってやがる」
「これ以上、俺達の仕事の邪魔をするというのなら、痛い目も覚悟して貰うぞ?」
オルフは鼻で嗤った。
「群れて相手を囲まねぇと何も出来ないゴミバエのくせにほざくな。やるってんなら、やってやろうじゃねえか? そっちこそ、痛い目は覚悟しておけよ?」
そう言って、オルフは背負っていた荷物を地面に落とす。割れ物は無いので、問題ない。
荷物が地面に接するのと同時に、オルフは真っ直ぐに突進した。
記者達の顔が驚愕に染まる。口先だけで、何も覚悟が決まっていなかった証拠だ。
反射的に、中途半端に構えようとした、オルフに一番近かった男の頬をフック軌道で殴打する。
その男の首は盛大に捻れ、その場に崩れ落ちた。
「ひっ?」
その隣にいた男から、悲鳴が漏れた。
ちょっとはいい勘しているとオルフは思った。そうだ。次の獲物はお前だよっ!
その場で上半身を落とし、がら空きになっている腹に拳を突き出す。
「ぐっ! あっ?」
この手応えは、相当に効く奴だとオルフはほくそ笑む。彼自身、この地獄の苦しみは何度も味わったことがある。食らえば息をするのも苦しく、立ち上がれない代物だ。
二人を仕留めたところで、オルフは足を止めない。足を止めれば、彼らの攻撃の的になりかねない。そんな風に立て直す余裕が、彼らにあるかは、はなはだ怪しいが。
少し後退して、残った連中の表情を確認する。どいつもこいつも、戦意を喪失し、恐怖の色がありありと浮かんでいた。
にいっと、オルフは笑みを浮かべる。威勢がいいのは最初だけか。こいつぁ、鶏撃ちよりも楽な仕事だな。
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悲鳴を上げる男達の中に、オルフは吠えながら、再び飛び込んでいった。
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