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第1章 悪の怪人は異能力者の夢を見るか?
第16話 フレンド申請
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《——えっと……聞こえますか?》
「お、おぉ~? すごいなこれ」
不思議な感覚だ。自分の思考の中に、他人の声が入り込んでくるような……。
初めてのことなので違和感がすごいが、不快とは感じない。ただ、慣れないと混乱しそうではある。
《そのまま『誰かに伝えよう』というイメージで頭の中でしゃべると、思念の発信ができますよ》
《……もしもーし。……聞こえてんのかこれ》
《あ、はい。聞こえてます》
「おお」
思わず、口の方で驚きが漏れた。
何というか……とてもテンションが上がる。やはり、他人が使っているのを見るだけよりも、自分が実際に体験する方が、実感を伴って面白いのだ。
今までどこか蚊帳の外のような思いだったのもあり、余計に嬉しさが大きい。
——牙人の渉への頼み事とは、“思念伝達”を自分にも使えるようにできないか、というもの。
《おー、こりゃ便利だな。五十嵐以外とも話せるのか?》
《で、できます。話したい人を思い浮かべて……。えっと、試しに誰か……寺崎さんとか》
タイムラグも感じない。普通に会話しているのと同じ感覚だ。
感心しながら、牙人は言われた通り頭の中に栞の顔を浮かべ、話しかけるイメージで念じる。
《おーい、聞こえるか?》
《うん。届いてるぞ》
「おぉ、つながった」
電器屋でVRの体験をしたときのように、体がふわふわする。
《ふふっ、こんなにテンションが高い狼谷は初めて見たな》
《そうか? 俺はいつでも人生を謳歌してるぞ》
《いつでも死んだ目をしているじゃないか》
《気のせいだろ》
少し離れたところで、デスクに向かう栞がくすりと笑うのが聞こえる。
そんなに顔に出ていただろうか。なんだか体がむずむずして、牙人は目線を斜め下に向ける。じゃあ、と言って会話を終えた。
目の前で所在なさげにしていた渉に「ありがとうな」と素直に伝える。
「いや、別に……。僕にできるのは、このくらいしかないので……」
渉はそう言って、困ったように笑ってみせた。
「これって具体的にどういう異能力なのかって聞いてもいいか? テレパシーっぽいけど」
「あ、えっと……大体はそれで合ってますけど。もっと正確に言うと、メッセージアプリのサーバーに近いですかね」
渉は、斜め上に目をやりながら続ける。
「僕の異能力はサーバーそのものになっていて、その中に登録された人が思念を送り合える……という感じ、です」
「……つまり、今俺はメッセージを送受信できる集団の中に入れてもらったってわけだ」
「そうなりますね。異能力の対象……僕以外にサーバーのメンバーにできるのは僕が触れた生き物だけで、数も七人までという制限付きですが……」
さっき「そういえば、改めてよろしくお願いします」と渉に握手を求められたことを思い出す。このタイミングでなぜ、と少し疑問に思ったが、あれは異能力の発動条件だったというわけだ。
……いや、こうして話していると、タイミングを逃していただけのようにも思えてくるが……。お世辞にも対人関係が得意ではなさそうとはいえ、さすがにそれはないだろうか。
「まあ、僕は、その……こんな性格なので、七人に達するほどの相手はいないんですけどね。狼谷さんで五人目ですよ」
おそらく、牙人の他の四人はこの事務所の面々だろう。栞、千春、有悟、りこでちょうど四人だ。
“局”の上——本部とやらとは、つながっているわけではないようだ。
「ところで、五十嵐は何してたんだ?」
「え、あ、これですか。ゲームです」
「職場でやっていいものなのか」
渉の言葉通り、デスクに置いてあるスマホには、デフォルメされたキャラクターと操作画面が映っていた。
「依頼とか“局”の仕事に行っていない社員はやることないので……皆さん自由に過ごしてますよ。というか、本来なら出勤する必要もないんですけど」
「あー、確かに、俺も基本呼ばれたら来ればいいとは言われてたな……」
だからこそ、アルバイトとの両立もできているわけだ。
所長たる中村や、秘書のような仕事をしているりこ、依頼に行っていた千春は出勤の必要があるのだろう。牙人と栞も仕事を終えてここにいるのだし。
そう考えると、この事務所で全員が揃っているというのは、なかなかに珍しいことなのかもしれない。
しかし、そうなると別の疑問が浮上する。
「じゃあ、五十嵐はなんでまたわざわざ出勤してるんだ?」
「それは……」
言いよどんだ渉は、少し目を伏せた。
「なんとなく、ですかね」
「……なんとなく、ね」
眉を少し下げて笑みを浮かべる渉に、牙人は台詞を反芻して斜め上を向く。
牙人はふと思い出したように「てか」と口を開いた。そのまま渉のスマホに指をさす。
「それ、俺もやってるんだが、よかったらフレンドならないか?」
「え? ほんとですか」
「ああ。……っと、これフレコ」
「あ、ありがとうございます」
ポケットから取り出したスマホを数回操作してから、画面を渉に見せる。
早速渉が自分のスマホに指を走らせる。十秒ほどしたところでフレンド申請が届いた。すぐに承認を押して「よし」と呟く。
「今度一緒にやろうな」
「はいっ」
破顔した渉に、牙人はサムズアップをしてみせた。
英司の目が覚めた、とりこが言いに来たのは、十六時になる少し前だった。
すぐに全員でラボに向かい、りこが静かに扉を開ける。
「えっ、えっ、何!?」
突然現れた初対面の人物複数人に混乱した様子で、英司は声を上げた。
簡易ベッドの上で上体を起こしている形で、その手はしっかりと枷でつながれている。
「お~、はじめまして少年!」
「うぇっ!?」
「千春、ステイ」
笑顔で大げさに手を振りながらずんずんと近づいていった千春の襟の後ろを、栞がむんずとつかんで引き留める。
「少し落ち着いててくれ」
「は~い」
口を尖らせた千春は気のない返事をして、おとなしくすごすごと引き下がった。
さすが、扱いが手馴れている。
「よう」
牙人は片手を挙げて、目を白黒させる英司に声をかける。
「あっ……狼谷、さん?」
「その通り。記憶ははっきりしてんのな」
「え、はい……。って、ことはここが“局”ですか!? ……っつぅ……」
興奮した様子で言った英司が、小さく呻きながら顔をしかめた。手にかけられた枷を見て「わ、なんだこれ」と漏らしている。
「なんで僕拘束されてんですか? てか、なんで寝てたんだっけ僕……」
「まあ落ち着け……ってのも無理な話だろうから、まずは何があったか説明しようか」
「——うえぇ、まじですか……。“異能力暴走剤”……。そういえばなんかめっちゃ苦しくなった記憶が……」
自分の暴走していたときの様子を聞かされた英司は、なんだかもう泣きそうだ。というか、すでに若干涙目だ。
最初は驚いていたが、徐々に申し訳なさそうに身を縮こまらせていた。
「君の体にも相当な負荷がかかっていたはずだからな。しばらくはあまり体を動かさない方がいい」
「はい……。すみませんでしたっ」
深々と頭を下げる英司は、少し手が震えていた。
「ほんとだよ。おかげでちょっとてこずったし」
「お、おい狼谷!」
牙人の投げやりな発言に、英司がますます小さくなる。
「ま、生きてりゃそんなことばっかだよ。自分が責任持てないことまで気にしてたらキリないって」
「……そうだな。私は気にしていないぞ」
最初からそれを言え、とばかりにジト目で見つめてくる栞に、どや顔を決めてみせる。
「いて」
どすん、と頭に鈍い衝撃が来た。無言でチョップを繰り出した栞は、ふん、と鼻を鳴らした。
英司の顔が少し緩んだところで、本題に入るべく有悟が前に出る。
「……さて、状況説明も終わったところで、ちいと聞きたいことがあるんだがいいか?」
「あ……はい。えっと……?」
再び英司の背筋がピンと伸びる。
「っと、悪いな。俺はこいつらをまとめてる中村ってもんだ」
「狼谷さんと寺崎さんの上司ってことですか」
「おう、そういうこった。……まあ訊かれても困んのはわかってんだが、“局”の規則でな。荷物に“異能力暴走剤”が紛れ込んだタイミングに心当たりなんかはあるか?」
「心当たり、ですか……」
英司は眉を寄せて唸りながら、首をひねった。
「お、おぉ~? すごいなこれ」
不思議な感覚だ。自分の思考の中に、他人の声が入り込んでくるような……。
初めてのことなので違和感がすごいが、不快とは感じない。ただ、慣れないと混乱しそうではある。
《そのまま『誰かに伝えよう』というイメージで頭の中でしゃべると、思念の発信ができますよ》
《……もしもーし。……聞こえてんのかこれ》
《あ、はい。聞こえてます》
「おお」
思わず、口の方で驚きが漏れた。
何というか……とてもテンションが上がる。やはり、他人が使っているのを見るだけよりも、自分が実際に体験する方が、実感を伴って面白いのだ。
今までどこか蚊帳の外のような思いだったのもあり、余計に嬉しさが大きい。
——牙人の渉への頼み事とは、“思念伝達”を自分にも使えるようにできないか、というもの。
《おー、こりゃ便利だな。五十嵐以外とも話せるのか?》
《で、できます。話したい人を思い浮かべて……。えっと、試しに誰か……寺崎さんとか》
タイムラグも感じない。普通に会話しているのと同じ感覚だ。
感心しながら、牙人は言われた通り頭の中に栞の顔を浮かべ、話しかけるイメージで念じる。
《おーい、聞こえるか?》
《うん。届いてるぞ》
「おぉ、つながった」
電器屋でVRの体験をしたときのように、体がふわふわする。
《ふふっ、こんなにテンションが高い狼谷は初めて見たな》
《そうか? 俺はいつでも人生を謳歌してるぞ》
《いつでも死んだ目をしているじゃないか》
《気のせいだろ》
少し離れたところで、デスクに向かう栞がくすりと笑うのが聞こえる。
そんなに顔に出ていただろうか。なんだか体がむずむずして、牙人は目線を斜め下に向ける。じゃあ、と言って会話を終えた。
目の前で所在なさげにしていた渉に「ありがとうな」と素直に伝える。
「いや、別に……。僕にできるのは、このくらいしかないので……」
渉はそう言って、困ったように笑ってみせた。
「これって具体的にどういう異能力なのかって聞いてもいいか? テレパシーっぽいけど」
「あ、えっと……大体はそれで合ってますけど。もっと正確に言うと、メッセージアプリのサーバーに近いですかね」
渉は、斜め上に目をやりながら続ける。
「僕の異能力はサーバーそのものになっていて、その中に登録された人が思念を送り合える……という感じ、です」
「……つまり、今俺はメッセージを送受信できる集団の中に入れてもらったってわけだ」
「そうなりますね。異能力の対象……僕以外にサーバーのメンバーにできるのは僕が触れた生き物だけで、数も七人までという制限付きですが……」
さっき「そういえば、改めてよろしくお願いします」と渉に握手を求められたことを思い出す。このタイミングでなぜ、と少し疑問に思ったが、あれは異能力の発動条件だったというわけだ。
……いや、こうして話していると、タイミングを逃していただけのようにも思えてくるが……。お世辞にも対人関係が得意ではなさそうとはいえ、さすがにそれはないだろうか。
「まあ、僕は、その……こんな性格なので、七人に達するほどの相手はいないんですけどね。狼谷さんで五人目ですよ」
おそらく、牙人の他の四人はこの事務所の面々だろう。栞、千春、有悟、りこでちょうど四人だ。
“局”の上——本部とやらとは、つながっているわけではないようだ。
「ところで、五十嵐は何してたんだ?」
「え、あ、これですか。ゲームです」
「職場でやっていいものなのか」
渉の言葉通り、デスクに置いてあるスマホには、デフォルメされたキャラクターと操作画面が映っていた。
「依頼とか“局”の仕事に行っていない社員はやることないので……皆さん自由に過ごしてますよ。というか、本来なら出勤する必要もないんですけど」
「あー、確かに、俺も基本呼ばれたら来ればいいとは言われてたな……」
だからこそ、アルバイトとの両立もできているわけだ。
所長たる中村や、秘書のような仕事をしているりこ、依頼に行っていた千春は出勤の必要があるのだろう。牙人と栞も仕事を終えてここにいるのだし。
そう考えると、この事務所で全員が揃っているというのは、なかなかに珍しいことなのかもしれない。
しかし、そうなると別の疑問が浮上する。
「じゃあ、五十嵐はなんでまたわざわざ出勤してるんだ?」
「それは……」
言いよどんだ渉は、少し目を伏せた。
「なんとなく、ですかね」
「……なんとなく、ね」
眉を少し下げて笑みを浮かべる渉に、牙人は台詞を反芻して斜め上を向く。
牙人はふと思い出したように「てか」と口を開いた。そのまま渉のスマホに指をさす。
「それ、俺もやってるんだが、よかったらフレンドならないか?」
「え? ほんとですか」
「ああ。……っと、これフレコ」
「あ、ありがとうございます」
ポケットから取り出したスマホを数回操作してから、画面を渉に見せる。
早速渉が自分のスマホに指を走らせる。十秒ほどしたところでフレンド申請が届いた。すぐに承認を押して「よし」と呟く。
「今度一緒にやろうな」
「はいっ」
破顔した渉に、牙人はサムズアップをしてみせた。
英司の目が覚めた、とりこが言いに来たのは、十六時になる少し前だった。
すぐに全員でラボに向かい、りこが静かに扉を開ける。
「えっ、えっ、何!?」
突然現れた初対面の人物複数人に混乱した様子で、英司は声を上げた。
簡易ベッドの上で上体を起こしている形で、その手はしっかりと枷でつながれている。
「お~、はじめまして少年!」
「うぇっ!?」
「千春、ステイ」
笑顔で大げさに手を振りながらずんずんと近づいていった千春の襟の後ろを、栞がむんずとつかんで引き留める。
「少し落ち着いててくれ」
「は~い」
口を尖らせた千春は気のない返事をして、おとなしくすごすごと引き下がった。
さすが、扱いが手馴れている。
「よう」
牙人は片手を挙げて、目を白黒させる英司に声をかける。
「あっ……狼谷、さん?」
「その通り。記憶ははっきりしてんのな」
「え、はい……。って、ことはここが“局”ですか!? ……っつぅ……」
興奮した様子で言った英司が、小さく呻きながら顔をしかめた。手にかけられた枷を見て「わ、なんだこれ」と漏らしている。
「なんで僕拘束されてんですか? てか、なんで寝てたんだっけ僕……」
「まあ落ち着け……ってのも無理な話だろうから、まずは何があったか説明しようか」
「——うえぇ、まじですか……。“異能力暴走剤”……。そういえばなんかめっちゃ苦しくなった記憶が……」
自分の暴走していたときの様子を聞かされた英司は、なんだかもう泣きそうだ。というか、すでに若干涙目だ。
最初は驚いていたが、徐々に申し訳なさそうに身を縮こまらせていた。
「君の体にも相当な負荷がかかっていたはずだからな。しばらくはあまり体を動かさない方がいい」
「はい……。すみませんでしたっ」
深々と頭を下げる英司は、少し手が震えていた。
「ほんとだよ。おかげでちょっとてこずったし」
「お、おい狼谷!」
牙人の投げやりな発言に、英司がますます小さくなる。
「ま、生きてりゃそんなことばっかだよ。自分が責任持てないことまで気にしてたらキリないって」
「……そうだな。私は気にしていないぞ」
最初からそれを言え、とばかりにジト目で見つめてくる栞に、どや顔を決めてみせる。
「いて」
どすん、と頭に鈍い衝撃が来た。無言でチョップを繰り出した栞は、ふん、と鼻を鳴らした。
英司の顔が少し緩んだところで、本題に入るべく有悟が前に出る。
「……さて、状況説明も終わったところで、ちいと聞きたいことがあるんだがいいか?」
「あ……はい。えっと……?」
再び英司の背筋がピンと伸びる。
「っと、悪いな。俺はこいつらをまとめてる中村ってもんだ」
「狼谷さんと寺崎さんの上司ってことですか」
「おう、そういうこった。……まあ訊かれても困んのはわかってんだが、“局”の規則でな。荷物に“異能力暴走剤”が紛れ込んだタイミングに心当たりなんかはあるか?」
「心当たり、ですか……」
英司は眉を寄せて唸りながら、首をひねった。
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