上 下
33 / 42
第一章 始まりは最悪?

第三十三話 温もりの……

しおりを挟む
あいつら、フィオーネが持ち帰った神代遺物アーティファクトに夢中で、俺のことなんて忘れてちまってるんじゃないか?

目の前に現れた巨大な魔法陣を見て、その先に繋がっている先にいる奴らを思い浮かべると、俺は急に気が重くなる。
ちょっとした誤解でこんなにも長い間、気まずい空気感が続くとは思ってはいなかった。
もしかしたら、もう例の痛シャツのことなんて忘れてしまってるかもしれないが、どうも、これまで人との付き合いを避けて来たせいか、寄り添い方がわからないのだ。

それに、正直、もうアミラのこともそんなに気にしていないし、あいつが謝って来たら許そうと考えていたが、そもそも話しかけてすら来ないから現状で停滞してしまっている。
さすがに、作戦の日までには解決しないとな……。

「はぁ~…………」

俺は魂がそのまま抜け出てしまうんじゃないかと思うくらいに大きく息を吐くと、そのまま、ちょうど完成された巨大な魔法陣へと歩み寄る——。


……。

……えいいち!

一瞬、視界全体が純白の世界に覆われた後、徐々に世界が着色されていく。
それと同時に広がる周囲の音によって、俺は意識を覚醒させた。

「無事だったのね! 栄一!」
「だから言ったじゃないですか。フィイは自ら先に帰って来ただけで——」
「まぁ無事だったならいいじゃないか」

目の前で鮮やかな色を動かし、鮮やかな音を出す3つの像。
それは安堵の表情を浮かべている3人だった。

状況を見るに、やはり、俺のことは蚊帳の外ではあるが、何か悪い気分はしない。
自分が信頼を置く人たち、ちょうど両親のような存在が、目覚め側に穏やかな雰囲気の元、話しているのを見たかのような、そんな優しい空気を感じる。
転移魔法を使った作用かどうかはわからないが、とてもポカポカする。

「でも指輪を取ってくるだけにしたらやけに遅かったから!」

(あれ? もしかして俺を心配してくれてたのか?)

そこでようやく状況を読み込めた俺は、3人に歓迎されていると知ってなんだかこそばゆい気分になった。
予想外に出来事に違和感も感じているのだろう。
だが、仲間に迎えられるというのは悪い気分じゃない。

「そりゃあ、あれじゃあないですか? 自分の存在に気づいてない裸の女性が目の前にいるんですから……」
「栄一くんならあり得そうな話だね」
「……エロいち…………。ぷぷぷ」

いや、どうやら俺は間違っていたみたいだ。
あるいは歓迎されているのかもしれないが、俺をあざ笑うかのようにして見てきている3人を、俺は仲間とは思えない。
断じて認めない。

「お前ら、いい加減にしろよ? これを研究できなくていいのか?」
「おおお!! それは例の!?」

そう、俺がポケットから取り出したのは今回の作戦の目標である、例の魔術指輪マジック・リング。俺が持っている指輪とついになっていて、様々な効果を発揮するほか、能力を付与する能力、つまるところの、テンプレ女神の能力が詰まった至高の指輪だ。もし正常に使いこなせたらの話だが、これさえあればもはやチートとかそういうレベルでは強さを測れないほどの力を手にするかもしれない。リスクを犯して手にした甲斐があるというものだ。

「もうこれの能力は触れたことで手に入れたわけだし、ペアとなった時に発揮する能力くらいにしか利用価値がないんだよなぁ。こんなもの持っていても災いの元だろうし、今壊しちゃおっかなぁ~」
「それだけはやめてくださいいいい!!」

なんだかデジャブだなこの展開。
この指輪を人質にした時の女神の反応とそっくりだ。

あの時も、圧倒的不利な状況下で、この指輪の価値を頼りに脅して……ちょうどいい。
この状況を利用して、ここ数日の問題を解決しておこうか。

「この指輪を渡すのに一つ条件がある」
「それってずるくないかね? 私たちの協力なしではその指輪は得られなかっただろう?」
「そうですよ!」

全く、あまちゃんだなこの師弟コンピは。

「だが、今この指輪は俺の手の中にある。理解したか?」
「くそったれね!! 男として恥ずかしくないの!? この、こそ泥!」

たまらずアミラも口を挟んできた。
さすがにここまで言われると、少し心が動いてしまうな。
だが、いくら命の恩人であるアミラとはいえ、ここは引けない。

「なあに。そんな難しい要求はしないさ。ただ、誤解を解きたいだけだ」
「誤解?」

アミラはまだ、話に乗る気ではないようだが、フィオーネは俺の言葉に首を傾げて興味を持ったようだ。
しめた。

「そう誤解。例のシャツに印刷された女の子のことだよ」
「うげ。そういえば忘れていました。ロリコンだなんて気持ち悪いのでとりあえず死んでもらえませんか?」
「だから違うんだって!」

全くもう。これだから二次元に理解のない奴は困る。

「俺が好きなのは、この絵に描かれた女の子だけで、現実の小さい女の子にはコレッポチも興味はないんだ!!」

ふぅ。言ってやったぞ。これで誤解も解けてうまく行くは……ず?

3人を見ると、皆一様にこれまでにないほどに顔を引きずっていた。
まるでどうしようもない変態を見た時の女子のような反応だ。

「……つまり。あんたは絵の中の女の子に恋してるってわけ? きっしょ!」
「栄一くん。さすがの私でもカバーしきれないよ。きっしょ!」
「キモいちさん……。きっしょ!」

「嘘だろ!?」

さすがにこんな展開は予想してなかった。
この世界にはない価値観だから理解できないのか?
別に、現実の女の子に危害を加えるわけじゃないんだし、いいじゃないか!

「いやいやいや、俺の故郷では割とよくある話で、誤解されがちだけども、現実よりもはるかに上をいくこの絵に恋してるものたちは、むしろそれよりも下の存在である現実の女の子には興味がないから、つまるところは無害で安心っていうか——」
「もうわかったわよ」

俺の必死の弁明を中止したのはアミラだ。
見ると、何がおかしいのか、3人とも顔を揃えて笑っている。
二次元嫁はそんなに気持ち悪いのか!?

「いや、その、でもな」
「栄一さんが悪い人じゃないってのはわかってますよ」
「そうだよ。エロいちくんが本当に外道だったら、今頃私たちは性奴隷にされているだろうしね!」
「ちょっとヤユさん!」

どうやら、誤解はもともとなかったみたいだ。
こんなことでずっと悩んでいたとは。

「さっき栄一くんが帰ってくる前にみんなで話してたんだ。なんとなく気まずい空気になって、それを打開できずに余計に気まずくなって……」
「だからこれを機に改善しようって! 栄一さんは女性に酷いことをするような人じゃないですもんね!!」

「二人とも……」


やっぱりみんなもただ気まずかっただけで、別に俺を本気で嫌ってるわけじゃなかったんだな。
なんだかホッとした。

俺はそうして胸をなでおろしながらも、こっそりみんなにはバレないように、ポケットの中のまだ若干温かみを帯びている布を、念入りに奥へと押入れた。
僕は女性に酷いことはしません!

「ま、まぁ、そうゆうことよ! それで、指輪の効果はどうだったのよ? どんな能力を保有しているの?」

アミラは相変わらず素直になれないみたいだが、まぁ、もうこれがアミラだし、アミラなりに誠意を見せてくれているんだろうからもうこの件は良しとしよう。

「私も気になるな」

ヤユにもせがまれたので、説明を始めようかと思って今、ようやく気付いたのだが、自分でもどんな能力を手に入れたのか把握してなかった。
さて、どうしたものか。

「指輪に触れた時、おそらく、さっき手に入れたステータスプレートの効果だと思うんだが、脳内に声が響いたんだよ。『能力獲得』とかなんとか。でもその時はそれどころじゃなくて聞いてなかったんだ」
「あぁ、それだったら、もうステータスプレートの使い方のイメージはついたと思うんで、実物のステータスプレートを使ってみたらどうです? もう使えるはずですよ! プレートならみんなで見れますし」

イメージがついたから使えるって、そんなに簡単なものなのか。
まぁ、自称ではあるものの、確かに魔道工学のスペシャリストらしいフィオーネが言うのだから、とりあえず試してみようと、俺はカバンから例の名刺サイズほどの黒光りするプレートを取り出し、みんなに見えるように机に置く。

「えっと……。ステータス、オープン!」

俺はイメージを膨らませるために(カッコつけるために)別に必要でもない呪文というか技名を唱えて、ステータスプレートに魔力を供給した。
目を閉じ、集中して、自分のステータスを見るイメージを意識する。
ステータス。力量。技量。能力……。

すると間も無くして、目をつぶっていても伝わるほどにそのプレートが光を放ち始めた。
その光が止むのを間も無くして、互いに頬で押し合い、食い入るようにしてプレートを見ていた3人が、一斉に悲鳴をあげる。

「「「えええええええええええ!?!?!?」」」

ん?
何か不具合でもあったのか?
それとも、俺の能力が予想以上にかすかったとか?
まぁ、今時、携帯にすら指紋やら顔やらパスワードやらで他人が使えないようにしているというのだから、女神の指輪の能力を、他人である俺が獲得することが不可能でも、なんら不思議ではない。
だが、そうだとしたら残念な話だ。

一人でがっかりしていた俺は、未だに大きく開いた口と目をを塞がずに、プレートを凝視してなにやらブツブツと呟いている3人を見て、俺は疑問が受かんだ。

「何でそんなに驚いてんだ? まぁ確かに勇者どもと比べて俺の基本ステータスはかなり低かったけど——って、うおい!?!?」

3人の目から出る透明なビームに貼り付けられていたプレートを、俺はスッと取り出して見てみると、そこには現実離れした情報が記されていた——。



【山田《やまだ》 栄一《えいいち》】
筋力: 10000
体力: 10000
魔力: 10000
魔法耐性: 10000
知力: 1000
技能: 魔術指輪吸収、魔石吸収、魔力共有、空間転移、念話、回復加速、体力増進、衝撃吸収、痛覚緩和、思考加速、遠目、身体強化、身体加速、条件指定式爆弾、気配隠蔽、気配感知、鋼鉄防壁、雷束、火炎弾、火炎砲弾、火炎散弾、言語理解、能力値計算、魔石鑑定
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...