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第10章 新たなる拠点作り

第11話 中央の砦

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 まず向かったのは未だに壊滅していない二つの砦の内の一つ、中央に位置する砦だ。
 兵士達が徒歩なのでゆっくりとした行軍だが、それでも二時間で到着した。

「本当に魔物が出なかった……イージ卿、どんな方法を使ったのですか。魔法ですか?」
「しかも、今は砦にも魔物が見当たらない。かなり被害を受けてるように見えるのに」
「まさか先方隊がやったのか」
「砦の兵士が踏ん張ったのではないのか?」
「いや、聞いてた魔物の規模から見て砦が残ってるのが奇跡だ」
「砦兵はどこだ」
「そうだ! 負傷兵はいるのか! 衛生兵! 周囲を探して負傷者がいるようなら確保して処置! 輜重兵は避難所の設置だ!」

 馬車を降りるとコーポラルさん達が集まってきて、色んな疑問を飛ばした後、自分達の成すべき事を思い出したように命令を発していた。
 あれ? いつのまにかコーポラルさんの部下が四人揃ってるね。どこにいたのか……馬を連れてるな、という事は馬に騎乗してたのか。確かに行軍の周囲警戒として何頭かいたけど、その中に混ざってたんだな。
 騎乗している騎士は上位の兵士だけだと思ってたんだけど、コーポラルさんの部下って位が高いの? という事はコーポラルさんはそれ以上?
 部隊長クラス以上しか騎乗してないと思ってたんだけど、気のせいだったのかな?

 そんな疑問を抱いてる間に各兵士達はそれぞれの任務に走り回る。
 それでもコーポラルさん以下四名の部下達も俺の傍から離れない。この人達って、どういう立ち位置の人達なんだろ。もしかしてデブチョビより偉かったりして。

 兵士達は大忙しで動き回っている。
 衛生兵は砦に入って行く姿が確認できるし、輜重兵は周囲に簡易建物を作り始める。
 というのも、今いる場所は、砦のこちら側の入り口前。円筒形の砦からは、壁が左右に延びている。おそらく隣の砦と繋がる壁なんだろう。壁というより塀だが、高さが一メートル程度で、魔物を防ぐための塀と言うには低すぎる。厚みこそ五○センチぐらいあるみたいだけど、あんな高さなんて人間でも越えられるだろうに、意味あんのか?

「へぇ、人間も面白いものを作るようになったのね」
 俺が低い塀を見ているとアッシュが横で感想を呟いた。

「面白いって……まぁ、俺も変だと思ってたんだよ」
 こんなに低けりゃ意味無いって思うよね。悪魔でも面白いと思うんだな。

「さすがはエイジ様、やっぱり分かってたのね」
 なにが?

「この塀は、塀の上を魔力の多い者が通過できない結界を張れるようにできてるのね。でも、効果は高さ二○メートルぐらいまでみたいね」
「え?」
「え? 違った?」
「え? いや、あの、その」
「あっ、砦の所だけ低くなってるわね。エイジ様はその事を言いたかったのね」
「え、あ、まぁ、そ、そうだね」

 そんな仕組みになってたの? 言われてじっくり見てるけど、全然分かんないんだけど。
 魔力が多い者が通れない結界か、対象は魔物なんだろうな。兵士だと魔物より魔力が格段に少ないから、塀を越えれば逃げられるような効果もありそうだね。

「お二人とも、流石ですね。そうなのです、砦の部分だけ結界を低くして、砦の二階部分で迎え撃てるようにしてあるのです。ひと目でそれを見抜かれるとは思いませんでした」

 コーポラルさんが賞賛してくれるが、ゴメン、俺は分かってなかったです。実は今もまだ分かってません。
 知ったかぶりがバレないよう、誤魔化すために周囲を見回す。

 今いる場所は砦前の広場で、結構な広さを確保されている。これは緊急時に兵士を纏められるなどの意味があるんだろう。
 その広場に凄い早さで着々と立てられていく避難所建設。簡易テントよりは立派だけど、常時住める家かというとそこまでじゃないという程度の建物がドンドン建っていく。
 魔法使いが土魔法で土台を作り、その工程に工兵が手伝い丸太を立てて持っている。持っている丸太も土台に組み込まれ四本の柱が立つ。その四本の丸太柱を元に高床のスラブを張り、壁も張り、簡易ベッドが設置されていく。屋根は後回しのようだ。もしかしたら、簡易建物なので屋根は付けないのかもしれない。

 そこに負傷兵が続々と送り込まれている。見る見る建っていく簡易避難所が追いつかないほどに。
 やはり、被害は大きかったようだ。でも、こちらに兵士の姿が見られなかったという事は、兵士は皆、砦の中か向こう側にいたのだろう。逃げた領主と違って兵士は必死に魔物と戦ったんだな。

 そんな中、応急処置が終わったと見られる将校がこちらにやって来た。将校でも怪我をしてるんだ、激戦だったんだろうな。

「コーポラル殿。増援、感謝する。それで指揮官殿に謝意を表したいが、いずこにおられるか」
 怪我人将校の視線を追っていると、コーポラルさんからアッシュに行ったか。俺はその間にいるんだけどスルーだな。
 次は順番としてコーポラルさんの部下達を見るんだろうけど、アッシュから視線が動かないね。お前! それどころじゃ無いんじゃないの?

 ようやく視線が動くと、コーポラルさんで一度止まって部下達に移る。またスルーされたか。ま、指揮官は俺じゃなくてデブチョビだからいいんだけどね…グスン。
 コーポラルさんが俺の方を見るから、これはマズいと思って先制攻撃。

「えっと…ファットマシュ…タ……チョビの髭の…太った……あっ! あそこにいる方です!」

 名前は覚えきれなかったけど、本人を見つけたので指を指して教えてあげた。
 まだ柱と床しかできてない建物にテーブルを置いて寛いでたよ。あー、あれは飯食ってるな。
 おい! 我慢するんじゃなかったのかよ! しかも、そんなところに陣取ったら作業の邪魔だよ!

 誰だお前って顔をされたけど、指揮官を見つけたのなら用は無しとばかりに、砦の将校さんはデブチョビの元へ向かって行った。

「イージ卿、私は貴方様が指揮官だと認識していたのですが」
「やめてよ、俺はそんな柄じゃないって。それにいい加減”卿”と呼ぶのは辞めてほしいんだけど」
「それは、私の立場では出来ません。他の者への悪影響となりますから」

 他の者へのって、あなた伍長でしたよね? そんなに影響力は無いと思いますが。
 ずっと俺にベッタリだし、部下は馬に騎乗してたみたいだし、謎が多い人だね。

「それでここはどんな感じ? 他の砦はどうするの?」
「それをイージ卿に決めて頂きたいのです。ここまで魔物に遭遇しなかったのは、貴方様のお陰だと見ておりますから、次も同じ手を使われるのでしょう。それならば、私共が指示を請うのが妥当だと進言いたします」

 固いよ、もっと軽く…は、できないか。軍隊だもんな。
 なんか、こっち来てから敬われるか蔑まれるかの二択なんだけど。一番フレンドリーなのが悪魔のアッシュというのが納得いかないな。

「進言しますと言われても、俺は何にもできませんよ? ここが五つある砦の真ん中だって聞いたから、北に行くか南に行くかを決めてほしいんだけど」
「はい、それをイージ卿にお決め頂きたい」

 マジか! なんで俺が決めんだよ。決定力の無い優柔不断男と自負してる俺に、何を決めさせる気だよ。

「う~ん、どっちと言われても……どっちの方が危険なの?」
「北が壊滅状態です。もう二つの砦には生き残りはいないでしょう。南も一つは壊滅、もう一つも時間の問題かと思われます」
「南はまだ生き残りが?」
「はい、もう時間の問題でしょうか…」
「だったら南に行こう。時間の問題なんだったら、すぐにでも行かないと。道はあるの?」
「はい、この塀に沿って進めば行けますが、馬車が使えるかどうかは分かりません。騎乗して頂く事になりますが、馬には乗れますか?」

 馬に乗れるかだって? 何言ってんだ、俺はずっとノワールに乗ってたんだぞ? 乗馬なんて得意に決まってるじゃないか。領主様に貰った馬にもすぐに乗れた経歴を持つ男なんだぞ!

「ええ、大丈夫です。これでも結構得意な方なんです」
「そうでしたか、では、すぐに準備致します」
 それでも強気で言えないんだよなぁ。

 コーポラルさん達の行動は素早い。ものの五分で支度が整った。
 馬が八頭? 誰の分?
 えーと、俺とコーポラルさんと、部下さん達で六だろ? アッシュを入れても七頭だな。

「アッシュは馬は?」
「私は乗った経験は無いけど大丈夫よ、エイジ様と一緒に乗るから」

 そうだよな、自分で飛べるのに馬なんて乗らないよな。まぁ、二人乗りは今までも何度もやったから大丈夫だろ。

「うん、それでもいいよ。じゃあ行こうか」

 颯爽と全員が乗馬した。やはり二頭余る。一頭はアッシュが乗らなかった分だとして、もう一頭は……マジか、デブチョビが馬に乗ろうとしてるよ。

「コーポラルさん?」
「はい、申し訳ありません。隣の砦に行く事を嗅ぎつけられまして、私には断れませんので用意だけはしました」

 いやいや、無理でしょ! だって、一人で馬に乗れないもん! しかも、そんな身体で馬に乗ったら馬が潰れちゃうよ?

「無理じゃない?」
「はい、無理でしょう」

 分かってて用意したのかよ! あんたも中々意地が悪いな!

 準備に五分、出発待ちに十分。これ以上は、時間も押してるのでデブチョビは置いて出発する事にした。よくここまで辛抱したと自分を褒めてあげたいぐらいだ。
 まぁ、衛星に言って、五つの砦を囲える範囲に守備範囲を広げてもらっておいたから、今から魔物に襲われる事は無いとは思うけど、致命傷を負ってる人にしたら一分一秒を争う事だからね。早く行くに越した事はない。

 待ってるついでにマイア特製HP回復薬も渡しておいた。HP1000を回復させるやつだ。HPが500ぐらいだった王都にいた……名前を忘れたな。マフィアの人で片目片腕だったハゲも、目が見えるようになったし腕も生えたから、生きていれば全回復するんじゃないだろうか。あ、ハゲてはいなかったか。だけど、あの…そうだ! イージ・オージの漫才コンビみたいな名前だったな。確か、ワンパンオージだよ。
 あの人に飲みに連れて行かれて、超酔っ払っちゃって、そのあとやっちゃったんだったな。全然記憶に無いけど。
 いい思い出なのか悪い思い出なのか微妙ではある。あまり思い出したくない過去だな。

 何人いるか知らないけど、それを千本渡しておいた。それだけあれば当面モツだろう。
 小さな小瓶だったから、こんな少量? って顔をされたけど、ここまで魔物が現れなかったのもあって、重傷者から飲ませるように言うと、「はい、間違いなく!」と言ってくれたから大丈夫かな。
 ものは試しと、一度使えば効果のほどは分かるからね。

 だた、アッシュは睨んでたね。HP回復薬でも少しは魂の上昇効果があるんだから気持ちは分かるけどな。丸薬を一個渡して機嫌を取っておいたよ。
 どれもまだまだ沢山あるんだけど、言うと悪魔達が煩いから小出しにしないとね。アッシュにはまだ持ってる事を薄々バレてるとは思うけど、大量に持ってるとは思ってないだろうしね。


 そして、俺はアッシュと二人乗りで、コーポラルさん達五人もそれぞれ騎乗して、まだ陥落してない砦に向かうのだった。

 後ろからはデブチョビの罵声が響くが、振り返る者はいなかった。
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