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第08章 魔王

第02話 地下通路の先

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 朝からまずやって来たのはベンさんがいた集落。
 すでに無人となっていて、誰も住んでなかった。元々大した作りで無かった小屋も、全部ボロボロになっていた。
 不思議と誰も住まなくなると家って朽ちるのが早いからな。
 物見台も倒れてたし、俺とベンさんが出て行ってから、すぐに他の人達も出て行ったんだろうな。

 衛星が殺してしまった人を埋めた所に誘導してもらって、皆で手を合わせた。
 別に頼んでないんだけど、俺が手を合わせて拝むと、ユーが真似をして、クラマとマイアも意味も分からないだろうに真似して合掌してくれた。

 次に向かったのは、俺が目覚めた死体の山があった場所。ここにも衛星に誘導してもらった。
 よく覚えてないが、衛星が連れてきてくれたんだから、ここなんだろう。

 そこは結界が張ってあり、柵も巡らせてあって、これ以上通れ無くなっていた。
 周囲は森に囲まれているのに、この一帯だけは綺麗に樹が伐採されていて、かなり広い空き地になっていた。
 見通しのいい空間になっていて建物が一つ建っているだけで、死体の山などどこにも無かった。遠くて分かり辛いが、四角い二階建ての建物で何も飾りっ気が無く、人の気配も感じられなかった。

「ねぇエイジ。ここって何なの?」
「…ここはね、俺がこの世界で初めて目覚めた場所なんだ。死体の山があってね、俺はその中にいたんだ」
「ここ!?」
 驚くユーに対して、クラマとマイアも感慨深げな表情で柵の中を眺めている。

「ここにエイジがのぅ」
「エイジがここで生まれたのですね」
「来た時期は私と同じぐらいだったよね。私の召喚と関係あるのかな。ここって意外と私が召喚されたミュージャメンと近いよ」
「ほぅ、召喚とな。興味深い話じゃの」
「エイジも召喚されたのですか?」
「いや、たぶん違うと思う。死体の中に召喚しないだろうし、誰も見張ってなかったからすぐ逃げたしね」

 考え込む三人は、考えに詰まったのか、さっきから目に入ってる結界の批評を始めた。

「しかしお粗末な結界じゃの」
「ええ、触っただけで壊れそうですね」
「そうなの? だったら中に入って調べてみる? 私もエイジが来た場所って興味あるし」
 ユーが手を出し結界に触れようとする。

「ユー! 待つのじゃ」
「え?」

 パッリ―――――ン

 ユーが結界に触れると結界全体が割れてしまった。
 すると建物から兵士が物凄い勢いで一斉に出て来た。どうやら結界は入るのを防いでたのでは無く、警報の役割をしていたようだ。
 建物を守るようにグルリと建物を囲んで、外側に向けて警戒態勢を取っている。侵入者が来たのは分かっているが、どちらから来ているかは分かってないような警戒態勢だ。

 建物の周辺の兵士はそのままで、更に出て来た別部隊が遊撃隊として周囲に広がって行く。結界の崩壊の原因を探りに出たのが丸分かりだ。
 どうしよう、早く隠れないと。

「どこに行くのじゃ?」
「いや、早く逃げないと。このままじゃ、すぐに見つかっちゃうよ」
 俺は逃げようとしてるのに、三人とも動く気配が無い。

「なぜ逃げる必要があるのですか? エイジはここに用があるのでしょ? でしたら、ちょうど向こうから来てくれたのですし、尋ねてみましょう」
「あの兵士達の服、見覚えがあるの。私がいた城の兵士の服だと思う。ちょうど私も聞いてみたい事があるし、エイジの事も一緒に聞いてみようよ」
 え? 迎え撃つの? ユーはメインが自分で俺がついでになってない?

「【ポレン】&【スメル】」

 周囲の樹々からブワーっと一斉に何かが放出され、香水のようないい香りが辺りを埋め尽くす。
 あっ、それって領主様の息子の祝賀会でやったやつ。確か、全員がマイアとクラマを招待客として認識させた催眠術みたいなやつだ。
 でも、その規模は祝賀会会場の時の比では無く、もっと濃いもので満たされているのが俺にでも分かった。周囲が森だから、森の精霊マイアドーランセが力を発揮できる環境が整っている。
 マイアは続けて起動の言葉を発した。

「【ヘイフィーバー】」

 『『『ハックション!!』』』

 囲いの中にいる兵士達が一斉にくしゃみをした。

「さぁ、行きましょう」

 マイアの一言で颯爽と塀を飛び越えていく三人。
 なに? 三人とも格好いいんだけど。格好いいんだけど、なんで俺を置いて行くかな。メインは俺なんじゃないの?

 ここの兵士達から仲間認定されているのか、誰も俺たちには目もくれず、通り過ぎて行く。
 もしかして透明人間みたいに認識されないようになってるのかと思ったがそうでもなかった。通り過ぎる兵士が敬礼をしてくる。視線は周囲警戒で塀の外に向いてるのに、すれ違う時だけこちらに向いて敬礼をして通り過ぎて行く。
 上官かお客さんのような扱いを感じる。マイアは一体どんな効果の魔法を使ったんだろうな。そんな事を考えながら足早に先を行く三人を追いかけた。

 広場に一つだけ建っている二階建ての建物。
 大きさはそれほど大きくない。ニ○メートル×三○メートルぐらいの二階建て。この建物にこれだけの兵士が入ってたとは思えない。地下室でもあるんだろうか。

 建物に入ろうとすると、周囲を固めていた兵士が、ザザザっと道を開けて入り口に通してくれた。敬礼もしている。ホントどんな効果の魔法なのか凄く気になるんだけど。
 そんな事を考えてる俺などお構い無しに、三人は建物の中に入って行く。俺がメインなんだよな? 俺がここに現れた理由というかルーツを探しに来たんじゃないの? 俺は懐かしさで来ただけだけど、お前達は初めそんなノリしてたよね? なんで俺を置いていくわけ?

 慌てて追いかけて建物に入ると、予想通り地下への階段があった。
 真っ直ぐ下に下りる階段があった。兵士達はこの階段の周りや二階にもいただろうが、下からも上がって来たようだ。今も続々と下から上がって来ている。下から上がって来る兵士もすれ違い様に敬礼してるって事は、マイアの何かが効いてるんだろうけど、こいつらって地下にいたのに効果が届いてたんだな。恐るべしマイアだな。

 三人は俺に構わずズンズン階段を下りて行く。結構長いストレート階段で、たぶん四~五階分ぐらいありそうだ。真っ直ぐのストレート階段なので、下まで見えるから結構怖い。いや、かなり怖い。手摺りが無ければ俺には下りれなかったと思う。

 階段を下りても三人はドンドン先に進んでいく。階段を下りるのに差をつけられ、走って後を追うが全然追いつけない。どんだけ急ぎ足なんだよ、全然追いつかないんだけど
 下まで下りきると、そのまま真っ直ぐに地下通路がどこまでも続いてる。人の気配を感じて後を振り向くと、階段の向こう側は広ーい空地のような空間になっていた。気にはなったが、三人が先に行ってるから先を急いだ。

 地下通路になり三人の速度が上がったのか、俺はずっと走ってるのに全く追いつく気配が無い。三人の姿は見えてるんだ、遠くの方に。でも、差が全然縮まらない。結構ダッシュで走ってるのに全然追いつけない。
 なんなんだよ、あいつらは。趣旨変わってるだろ、絶対。

 二時間…いや、三時間ぐらい走っただろうか。俺も無駄にステータスだけは上がってるから、速さも体力も上がってるし、なんとか完走できた。いや、完走ってなんだよ! なんで俺は走ってたんだよ!
 通路いっぱいの巨大な扉で行き止まりのようで、三人がその扉の前で待っていた。

「三人とも、早過ぎだって。何をそんなに急ぐことがあるんだ…よ?」
 やっと追いついたと思ったら、大きな扉の前でユーが泣いていて、クラマとマイアが慰めるようにユーを囲んでいた。
 予想と違う光景を見せられて言葉に詰まる。

「えっと……どうしたの?」
「ここよ。間違いない。私はここで召喚されたの」
 衝撃の言葉だった。俺が死体の山で目覚めた近くで、ユーが召喚されていたという事実。

 俺の頭を様々な予想が過ぎった。
 ユーは正規に召喚された。しかも俺が目覚めた時期と結構近い時期に召喚されている。
 しかも、この大きな扉の向こうで、ユーが召喚されたとしたら、俺が目覚めた場所と近い。
 ユーがどうやって召喚されたかまでは聞いてないが、召喚には代償が必要なはずだ。その代償とは生贄なんじゃないだろうか。
 多数の人間の死体……それがユーの召喚に対する代償だと考えると辻褄は合う。

 じゃあ、俺は? 俺にユーほど記憶は無いが、日本の記憶はある。ユーも俺もハンバーガセット、コーラ(S)ポテト付きはお互いに知っていた。同じ日本から来たのは間違いない。
 だったら、俺はユーの召喚のついでにこの世界に現れた異世界人? 別についでが嫌なんじゃないんだけど、本来は来なくて良かった人なんじゃないの? 記憶が無いから分からないけど、死んでこっちに来るなら諦めもつくけど、生きてるのにこっちに転送? 転生? いや、姿はまんまだから転送でいいんじゃないかな。召喚でも無いし。
 もし、生きてたのに間違って送られてきたんなら、俺は還してもらえないかな。テレビ見てー。ゲームしてー。
 そのへんも、地図をコンプリートして衛星を進化させたら分かる気がするんだよな。今は聞いても教えてくれないんだよな。誰かバックがいて、そいつが衛星にブロックをかけてるような感じなんだよな。

 ま、それは後だ。どうせ地図をコンプリートするために出発してきたんだし、慌てて結論を出さなくてもいいだろ。
 まずは皆で協力してユーの方を解決してやろう。

「ユー。どうする? このまま中に入りたいの?」
「…どうしよう。勢いで来ちゃったけど、何も考えて無かったな。どっちかって言うと入りたく無いかな、いい思いでも無いしね」
「いい思い出が無いって、召喚勇者として優遇されてたんじゃないの?」
「そうね、衣食住は約束されてたけど、肩身の狭い思いをしてたんだ。だって、私弱かったし」
 確かに出会った時って、それほど強くなかったね。魔族に封印もされてたし。あれってどうやって封印してたんだろ。ビランデル達にもできるのかな。

「一ヶ月ぐらいだったけど、途中から周りの目が冷たくなって、最後の方は一人ぼっちが多かったかな。その後は記憶が無くて気がついたらエイジに助けられてた。だから、助けてくれたエイジにも、鍛えてくれたクラマさんとマイアさんにも凄く感謝してるんだよ」
 チートフェチのユーからしたら召喚された時は嬉しかったんだろうけど、レベルが低いと誰でも弱いからね。そこで挫折したんだろうけど、誰もユーを鍛えなかったんだろうか。レベリングなんて誰でもやるんじゃないの?

「だから、もういいかな。勢いで来ちゃったけど、別に未練も無いし、会いたい人もいないしね。戻ろっか」
 踵を返し、来た方向に戻ろうとするユー。
 珍しく気を使ってるのか、クラマとマイアも無言で付いて行こうとしている。
 そこで、俺が待ったをかけた。

「それがさぁ。今確認したら、ここの奥みたいなんだよね」
 え? っと振り向くユー。

 いや、方向的に怪しいと思って、地図を確認したらこの奥っぽいんだよな。
「何がここなの?」
「一つ目の目的地。位置的には、この扉のすぐ向こうみたいなんだ」
「えっ? だったら……」
 戸惑うユーを他所に、目がキラリと輝くいつもやり過ぎの二人。

「ほ~、この奥という事は、扉が邪魔じゃの?」
「ええ、邪魔ですわね。この邪魔な扉が吹っ飛んだとして、その向こうにあるものが壊れるのは仕方がありませんわね」
「そうじゃの、ふつかで攻略というやつじゃな」

 二日で攻略? んー……不可抗力か! 分かりづれーわ!
 って、不可抗力って何するつもりなんだよ! あ――――

 ドゴ―――――ン!

 クラマとマイアのダブルパンチが炸裂し、巨大な扉が吹っ飛んで行った。
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