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第07章 チームエイジ
第24話 バーンズさんにカミングアウト
しおりを挟む商談が終わった頃、クラマとマイアが戻ってきた。コウホウさんの姿は見えない。
エルダードワーフの里は秘匿されているから魔族やバーンズさんを連れて行く事はできないし、クラマとマイアも合流できた事だから、このまま戻ろうと思う。が、コウホウさんに話しておかないと次から困るんだけど、クラマとマイアの様子を見る限り、今日はもうコウホウさんに会えない気がする。
それでも一応確認の為に聞いたみた。
「コウホウさんは? ちょっと話がしたいんだけど」
「何やら用があると言っておったのぉ」
「はい、今日は手が離せないからリーダー殿によろしくと言ってましたわね」
絶対嘘なのは分かってるけど、火中の栗を拾いに行く気にはなれない。コウホウさん、冥福を祈っております。
秘密の道の合言葉を全員に教えて、街道に出ると、そのまま街道を横切り森に入った。
今日もバーンズさんがいるからヨウムに頼むのは夜になってからだな。
「しかし、魔族を奴隷とは、エイジも変わっとるのぉ」
「ええ、精霊や妖精の従者だけでは足りなかったのでしょうか」
クラマとマイアに魔族を紹介すると、いきなり煽られた。ちょっと嫌味も入ってるみたいだ。
「ちょっとした成り行きでね」
「魔族ですと!」
あ……バーンズさんには内緒だった。
「魔族はどこです! どこにいるのです! 早く逃げませんと!」
いや、ずっと一緒にいますけど……この際だ! カミングアウトしてしまおう!
「バーンズさん、落ち着いてください。説明しますから」
「いや、しかし、落ち着いてる場合ではありませんぞ!」
「魔族について説明しますから落ち着いてください」
何度か言い聞かせて、興奮するバーンズさんをやっと落ち着かせた。
「これは、本当は言いたくなかったんです。でも、これからも一緒にやって行くバーンズさんには話しておいた方がいいと思ってお話します」
「……わかりました。今回の幻のエルダードワーフとの交渉にも成功し、機密事項ばかりですが、まだあるのですな」
「はい。そうなんです」
「……分かりました。私も覚悟を決めましょう! なんなりとお話ください」
バーンズさんは決死の覚悟を決めた表情で俺に向き直り姿勢を正した。
「実は……」
「はい」
「実は、一緒に来た四人は魔族なんです」
「はい」
「え? 知ってました?」
「はい」
「なーんだ、そうならそうと言ってくださいよ」
「はい」
「あれ? ちょっとバーンズさん? どうしたんですか?」
「はい」
「なんか目の焦点が合ってませんよ」
「はい」
「ちゃんと聞いてます? はい、以外もしゃべってくださいよ」
「はい」
「だから、ちゃんと話してくださいって」
「はい」
「無駄じゃ、エイジ。その男は既に意識がないぞえ」
「え?」
クラマに言われ、バーンズさんをじっくり見ると、無表情で「はい」「はい」と繰り返してるだけだった。
目も開いてて返事もするから、さすがはバーンズさん、肝の据わった人だと思ってたが、違ったみたいだ。
マイアに気付けしてもらって、バーンズさんを無理やり起こしてもらった。
「大丈夫ですか?」
「……はい、嫌な夢を見ておりました」
「……そうですか」
「魔族が武器商人として私と働いているのです」
「……そうですか」
「いやあ~、おかしな夢でしたな」
「……バーンズさん」
「ん? なんですかな? エイジ様」
「それ…夢じゃないんです」
「ん?」
「この四人は魔族なんです」
俺の言葉と共に【変身】を解除する四人の魔族。
途端に肌の色が緑に変わって行く。
また気を失いそうになるバーンズさんをマイアが何とか繋ぎとめた。落ち着く香りが俺の所にも届いたからマイアの得意なスメルかパヒュームを使ったんだろう。
百戦錬磨のバーンズさんでも魔族というキーワードは気絶ものだったようだ。しかも四人いるからね。
「落ち着いて聞いてください。この魔族の四人は、俺と契約していて絶対に人には危害を加えません。信じてください」
「……」
「この魔族の四人は味方です。俺達の味方なんです。信じてやってもらえませんか?」
「……」
「今回の件はバーンズさんも知っての通り、秘密が多すぎるのに腕の立って信頼できる仲間がいなかったのですが、この四人が自ら志願してくれたのです」
「……」
「ダメですか?」
「……エイジ様」
「はい!」
「契約とおっしゃいましたな。それはどんな契約なんでしょうか」
「はい、この四人は俺の奴隷として契約しています」
「! なんと! 魔族を奴隷ですと!」
「はい、この四人は先日王都で処刑された事になっています。変身で人の姿に変えていますが、バレれば俺もタダでは済まないでしょう。だけど、この四人は俺が処刑から助けた事を恩義に感じてくれて俺の奴隷になって協力してくれると約束してくれました。既に奴隷にもなっています」
少し嘘も入れてしまったが、大体あってると思う。これでダメならバーンズさんとはお別れになってしまうだろうな。なんで言っちゃったかなぁ。クラマが口を滑らせたから……でも、口止めはしてなかったもんな。そんなヒマ無かったし。
「奴隷…ですか……それは、また、なんとも、凄い。国家公認冒険者とはそこまで凄いのですな」
魔族を奴隷ですか。と項垂れ首を振るバーンズさん。
そして、顔を上げると決意を決めて答えてくれた。
「わかりました! ここまでお膳立てされたのでは、私に断る理由はございません。エルダードワーフの作る武具という夢のある商売にも携われるのです。ここは商人として引き下がるわけにも行きませんな。乗りかかった船です、私も協力させて頂きましょう」
「ありがとうございます、バーンズさん」
バーンズさんとガッチリ握手をして、今後の協力を誓い合った。
なぜか魔族の四人も泣いていた。声を押し殺して嗚咽する魔族の四人。
確かにお前達の事だけど、泣くほどの事じゃなかったと思うよ。ほら、クラマとマイアなんてシラ~っとしてるし。
その後、衛星に料理を出してもらって八人で夕食を摂った。
久し振りに俺の、というか衛星の料理を堪能したクラマとマイアが少々煩かったが、何事も無く食事を終え就寝。
今日の簡易小屋の割り振りは、俺とクラマとマイアで一つ。魔族四人で一つ。バーンズさんは一人で寝た。流石に魔族と分かったら一緒に寝るのは抵抗があったようだ。俺の方にはクラマとマイアが寄せ付けなかった。
「久し振りの添い寝じゃ、邪魔するでない」
「そうです、野暮ですわよ」
んー。俺も久し振りに野郎ばかりの状態から解放されるので、クラマとマイアの提案を受け入れた。
そして、夜のうちにヨウムに頼んで移動してもらい、ハイグラッドの町までバーンズさんを送って行った。
バーンズさんにエルダードワーフから受け取った剣と槍を全部渡し、販売に関しては全て任せる事にした。
俺達は、町に入らずそのまま森に入り、ヨウムの前に送ってもらった。
ヨウムを魔族に紹介し、今後移動するときは協力するようにも言っておいた。そして我が家に戻り、今後の予定を話し合った。
「これで、四人の仕事は分かってくれたと思う。それで、仕入れの方もできないかと思うんだけど、何かアテはない?」
「仕入れと言いますと、エルダードワーフに渡すものの事ですね」
「うん、そうなんだ。酒と素材と料理だね。酒と料理は、明日連れて行く居住区で何とかなるんじゃないかと思ってるんだけど、鉱物素材のアテが無いんだよね」
そうなんだ。酒は酒蔵も作ってるから、そこから出してやればいいと思ってる。料理も食材さえ渡せば居住区の料理係が協力してくれるんじゃないかな。
問題は鉱物素材。鉱山なんて知らないし、掘り方も知らないからね。
「さようですね…一つ思い当たる場所はございます」
「あー、あそこか。すぐに分かったぜ。でもよぉ、いいのか? あそこは魔王様の管轄地じゃなかったか?」
「「あっ!」」
ビランデルにヘリアレスが言った言葉で何かを思い出すガレンダとタレラン。
魔族四人ともが知っている場所があるようだ。しかも、そこには鉱物があるのだろう。
魔王様って……そういや、魔王退治に勇者が召還されてるんだよな。勇者VS魔王ってどうなってるんだろう。
プリかシェルに聞けば分かるかな? ユーはもうその枠から出てるから知らないだろうしな。
「魔王って、やっぱりいるんだね。当然強いんだろうね」
「もちろんです。魔王様の前では勇者でも赤子扱い。我々魔族の戦士が百人束になっても勝てないでしょう」
「だな。あの強さは反則だぜ。俺もあの強さに憧れて剣を始めたんだからな」
「私も同じです。魔王様は魔族の憧れです」
「力だけではありません。魔法も最強なのです」
強ぇーじゃん、魔王! そんなの勇者でもどうにもならないんじゃないの?
「そんなに強いんなら人間がなんで滅ぼされてないの? 魔王って戦争嫌い?」
「戦争は…どうなのでしょう。戦う事は好きなようですが、戦争が好きかと言われれば……」
「好きに決まっている! だから私は魔王様のためにフィッツバーグを拠点に戦争を起こそうとしていたのだ」
「そうだ! 私もそう思ったからこそ、ガレンダを手伝ったのだ」
「それは違うと思うぜ。魔王様はよ、戦う事が好きなんだ。弱い奴らが群れて来たってよ、魔王様が喜ぶわけねーぜ。魔王様は強い者と戦いたいだけだと思うぜ」
「し、しかし、氷の国ヒュートンでは大層お喜びになったと聞いてるぞ」
「あー、あれか。あれは俺も参加してたんだけどよ、氷の国ヒュートンが召還した勇者がえれー強くてよ、しかもあれだ、あそこにゃ氷龍がいただろ。勇者と戦って、氷龍と戦って、そりゃ嬉しそうに戦ってたぜ」
俺の問いにガレンダとタレランが答え、それをヘリアレスが全面的に否定してしまった。
勇者に氷龍って……そんな連戦で喜ぶ魔王? 魔王って戦闘狂なの?
「では、あれは! 西のシャーレンドはどうなのだ。あそことの戦争もお喜びになったと聞いてるぞ」
「シャーレンドには私が行った。あそこの勇者も強かったが、魔王様の前では敵では無かった。私達では敵わなかったが、魔王様にかかれば一分ともたなかったな。非常に気落ちされてたが、シャーレンドの西海岸沖にリヴァイアサンを見つけた時には誰よりも先に走って行かれた。それはそれは嬉々として走って行かれたよ」
「戦争が好きでは無い……」
「そんな……では、我々のやった事は……」
「そうだな、レギオン族はあまり戦場に出ないからうまく伝わってなかったんだな。あんまり先走った事をすると魔王様に一族を滅ぼされちまうぞ?」
やっぱり魔王ってバトルマニアなんだ。絶対に近付かないぞ! あ、俺はステータスだけ見ても、こいつらとドッコイだから見つかっても鼻で笑われる以下だろうな。たぶん、透明人間の如く無視されるだろうな。
「では! 強者を見つけるとお喜びになられるのだな!」
「ま、喜んでくれるだろうな。だが、俺達が束になっても勝てない人間なんていねーだろ」
「それもそうか…たしかにそうだな」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「「「エイジ様!」」」
「はい?」
え? なになに? 今なんで呼ばれたの?
そんな話よりさ、お前達のこれからの仕事の話をしようよ。ね?
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