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第06章 伝説の剣

第04話 シェルの暴走

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 冒険者ギルドを出ると、全員を促し【星の家】に帰る事にした。
 どこに行ってもお土産を催促されそうで、落ち着いて帰還の報告をできそうに無かったからだ。
 それは【星の家】の子供達も同じだろうけど、今晩さえ誤魔化しきれば、明日の夜には猛ダッシュで王都往復をして辻褄合わせができるんじゃないかと思ってるんだ。
 ノワール頼みになるけど、ノワールならそれぐらいやってのけるだろう。

 フィッツバーグの町の門を出ると、トレントの隠す道へと入っていく。
 ユーとプリとシェルは初めてだから驚いて天馬から飛び降り身構えてたけど、大丈夫だからと説得して一緒にトレントが開けてくれた道を通って【星の家】に向かった。

 今日も、途中でサーフェ、ドーラ、プーちゃんが出迎えてくれた。

「エイジ様、お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」
「おかえり~」

「ただいま。何も問題は無かった?」
「はい、問題ございません」
 ドーラが代表して答えてくれる。

「な~に~この子!? なんて可愛いのかしら~。イージ、あなたこの子を早く紹介しなさいよ」
 シェルがプーちゃんに食いついたみたいだ。
 しかし、プーちゃんってドンドン姿が変わって来てる様な……

 とりあえず、三精霊のことをこの道を中心に、付近の森を守ってもらってると紹介した。
 三精霊には新メンバーのユーとプリとシェルを紹介。
 シェルの名前を言った途端、シェルが暴走した。

「プーちゃん!? あなたプーちゃんって言うの~? なにあなた、名前まで可愛いじゃないの! もう反則よ~」
 そう言ったシェルは、既にプーちゃんを抱きかかえている。プリの双子のだし、見た目はシェルも綺麗だから、プーちゃんの可愛さと相まって絵にはなってるよね、内情さえ知らなければ。

「プーちゃん? プーちゃんってもう少し背が高くなかった?」
 そうなんだ、他の二人に比べて少し背が低い程度だったはずなのに、今は七~八歳か? と思うほど小さくなってるんだ。
 シェルが可愛らしいと言うのも肯ける話だ。

「うん、可愛くなった」
「……えーと……」
 俺が戸惑っているとドーラ説明してくれた。

「エイジ様より名前を頂いた恩恵がようやく現れたようです。私達はすぐに出たのですが、プーちゃんの場合は時間が掛かったようですね」
 えーと…わかりません。
 ハテナマークがいっぱい出てる俺にプーちゃんが更に追い討ちを掛ける。

「……プーちゃん、強くなった」
「……」
 説明を求めて見回したが、全員目を合わせてくれない。ドーラもサーフェも俺と目を合わさないように顔を逸らしてるし、マイアも急にクラマと話し出した。
 凄っごくわざとらしい。

 誰にも分からないんだね、了解しましたよ。
 ドーラとサーシェはそのまま別れたが、プーちゃんはシェルが抱いたままだ。
 【星の家】に行ったらそんな子はたくさんいるよ? 大丈夫かシェルは。

 案の定、俺達を見つけた子供達が寄って来た時、目が爛々と輝いたシェルに追いかけ倒される子供達がいた。
 その間もプーちゃんを抱っこしたままだった。
 シェルの狙いは身長一三○以下を対象にしていたが、一○○センチ以下の子供を見つけた時にシェルが壊れた。

「むっほー! ここはな~に~! 天国~? 天使がいっぱいじゃな~い!」
 狼男化まではしていないが、Aランク冒険者のステータスを最大限活用してちびっ子達を追い回すシェル。その間もプーちゃんは抱いたままだ。

 悲鳴を上げて逃げ惑うちびっ子達を、守るように年長組がシェルの前に立ちはだかる。
「あなた達も十分にストライクゾーンなのよ? でもね、あたしの天使ちゃん達があたしを待ってるの。だからゴメンね、今日はキスだけよ~」

 年長組の髪の毛が逆立ってる。
 うん、気持ちはわかるぞ! 頑張れ年長組~!

 ちびっ子を守る年長組が次々と撃沈していく中、ちびっ子達は倉庫を目指して逃げて行く。
 しかし、悲しいかなちびっ子の足は遅い。
 シェルの毒牙にかかって倒れる年長組の犠牲も空しく一人、また一人とちびっ子がシェルに囚われて行く。
 意外に泣いてる子はいないみたいだ。というより、ちびっ子達笑ってるね。ちょっと楽しそうだよ。年長組の犠牲はなんだったんだって思っちゃうよ。

 騒ぎを聞きつけ倉庫からケンが出てきた。たぶん解体作業中だったんだろう、穀物倉庫ではなく解体作業倉庫から出てきたから。
 これも頼まれて新たに建ててたんだ。水場と冷蔵庫と冷凍庫がいるからね、衛星に頼んで別棟を建ててもらったんだ。

「なんでぇ、騒がしいな。ちょっとはしゃぎ過ぎじゃねぇか? まだ作業が残ってんだろ? もう休憩は終わりだ、さっさと作業に戻れ」

 キラ~ン!
 シェルの目が更に光る。もうキラッキラだ。

 そろそろ作業に戻れと叱りに来たんだろうが、タイミングが悪かった。
 ケンもシェルのストライクゾーンだったみたいだ。
 かなり広いストライクゾーンなんだな。俺も好みだって言われてたと思うけど、全然嬉しくないね。

「まぁ~!」
 シェルが今度はケンに目掛けて突進して行く。
 右手にはプーちゃん、左手にはゲットしたちびっ子を二人抱えている。もうやりたい放題だ。
 ただ、救いなのは泣いてるのは年長組だけでちびっ子で泣いてる子がいない事だ。逆にキャッキャと喜んでる。

 ちびっ子も喜んでるし、ケンだったら俺も罪悪感はあんまりないし、見なかった事でいいかな。

 でも、シェルのやつ、両手が塞がってるのにどうするつもりだ?
 ほー、右手のプーちゃんを肩車にして、ふんふん、左手に抱えてるちびっ子をケンに預けて、へ~、ちびっ子ごとケンを身動きでき無いように抱き付いてしまうんだ~。

 うん、これじゃケンは逃げられないね。

 シェルが身動きが取れなくなったケンの唇を奪う。
 突然の事に大きく目を見開くケン。
 ケンの腕からどんどん力が抜けて行き、スルスルと下に下りる二人のちびっ子。
 直近の特等席でジーっと眺めるプーちゃん。

「ごちそうさ…バッフゥ」
 ボゴォォォ! っと満足気にごちそうさまと言いかけたシェルの顔面をプリの鉄拳が襲った。
 シェルが吹き飛ぶ前には、ちゃんとプリがプーちゃんを回収している。

 一○メートル先で屍のように横たわるシェル。プリの眼前では魂の抜け殻になったケンが呆然と立ち尽くす。
 
「ごめんなさいね」と撤収するプリの声も、ケンには届いて無いようだった。


 これだけ派手な帰還をしたんだから、もう帰って来てる事も全員に知れ渡ってるだろうし、まずは院長先生に挨拶しておこう。

 シェルの事は放置して【星の家】に入り、院長室へと向かう。
 今までは院長先生も、子供達と作業をする事はあったんだけど、今はずっと院長室に閉じ籠っている。
 事務作業が山積みになっていたからだ。

 毎日の収穫量や作業完了に伴う在庫の管理。支出と収入のお金の管理。子供達の配置や当番の管理。キッカや卒業した子供達が持って来る魔物や獲物の管理に解体した肉の量の管理。毎月二回、町の農業ギルドや冒険者ギルドで売りさばく物の管理など、すべて院長先生が一手に引き受けているので、今では食事以外で院長室から出る事は無いようだ。

 お金には余裕が出て来て子供達が飢える心配が無くなったのは喜ばしい事なのだが、子供達と触れ合う時間がめっきり減った事は院長先生には悲しい事だった。

「あら、早かったのですね。王都には行って来たのですよね?」
 確かに十日程で帰って来たんだから予想よりは異常なぐらい早い。普通の馬車で行ったとしたら、まだ王都にも到着していない計算になる。
 でも、院長先生は十分にエイジの異常ぶりを知ってるので、大して驚いて無いようだ。

 【星の家】が存在する事自体ありえない話なのに、エイジの家や倉庫が一晩で出来たり、薬草の畑が出来たり、異常な成長を続ける麦やジャガイモがあったり、砂糖があったり。もう驚くのも疲れるぐらいの異常っぷりを見せられているから、十日で王都まで往復して来たと言われても院長先生は大して驚いていない。逆に何度も溜息を吐いて疲れているように見える。

「はい、王都は凄く大きかったし、人も多くてビックリしました。それで、三人仲間が増えたので、その報告も兼ねて来たんですが、院長先生、なにか疲れてません?」
「ええ、さっきまではそれ程でも無かったのですが、あなたが十日で帰って来たものですから少し疲れが出たようです」

 あれだけ盛大に送り出してもらったのに、十日で帰って来たらガッカリもするか。などと、見当違いをしているエイジだった。
 これはやはり、お土産を渡す流れになるのだろうと、そそくさと院長室を後にした。

 【星の家】に建ってる我が家に戻ると、安心感でホッとする。
 やっぱり我が家っていいね。今日はゆっくりしたい所だけど、頑張って王都に行って来よう。

 皆には王都でお土産を買って来るのを忘れたから、もう一度行って来ると伝えて、ノワールで早速王都に向かった。
 もちろんノワールには大急ぎでと注文を付けたから、猛スピードで飛んでくれたよ。
 俺には恐怖以外の何ものでも無かったよ。ずっとノワールにしがみ付いて目を瞑ってたからね。安定感があるとはいえ、流れる景色はずっと見えてるんだ。しかも、途中からは目立たないようにと注文を付けたら、かなり上空を飛んでくれちゃって、王都に着くまでずっと目を閉じてノワールにしがみ付いてたよ。

 その甲斐あって、陽が沈み切る前に王都に着いたよ。
 ノワールって早すぎだ。

 あとはお土産を買うだけだけど、お土産なんて何を買っていいか分からないし、適当にアクセサリーや食べ物を買ってさっさと王都を後にした。
 食べ物って言っても肉か野菜しか無いんだよ。この世界にはお菓子が無いんだよね。パンも硬いし料理も美味しくないしさ。こういうお土産を選ぶ時って本当に困るよ。

 帰りももちろんノワールのスーパーダッシュで帰還する事になり、夜が明けるまでには帰り着いたけど、精神的にはもの凄く疲れたから、帰るなりすぐに寝たし、次の朝までゆっくり寝たよ。

 ユーとプリは町に行ったみたいだけど、シェルはずっと子供達と一緒に作業してたみたい。ここに住むとか言い出しそうで怖いんだけど。

 そんな事もあって、ちゃんと動き始めたのは戻って来てから三日目になってからだった。
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