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第04章 20枚の地図~フィッツバーグ活動編
第12話 何の商売にする?
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冒険者ギルドのマスタールームに拉致された俺。
睨む二人に引きつった笑いしかできない俺。
ここは謝ろうか。何に対して? そういえば何で連れて来られたんだ?
「あのー…なんで怒られてるんでしょうか…」
恐る恐る聞いてみた。
原因が分かれば謝る事もできるが、今の状態だと何の事だか分からない。
「「……」」
二人共、答えてくれない。
「あのー……」
「分かってるわよ! 別にあなたが何かしたって訳じゃないの! 私が納得行かないだけなの!」
ランレイさん、かなり苛立ってるね。
「そうだ! 領主の城に忍び込むだぁ? 魔族の結界を解除~? 魔族を二体倒して拘束~? ふざけるな!!」
何もふざけてなんかないけど……忍び込む以外は怒られる事じゃ無いと思うんだけど。
「イージ、早く出しなさい」
「え?」
何も盗んでないよ? それとも何か預かってたっけ?
「えっ、じゃないの。ケーキを出しなさいって言ってるの。もうムシャクシャするからケーキでも食べないとやってられないの! あなたのせいなんだから早く出しなさい」
なにその理不尽な理由! 俺のせいじゃないじゃん!
「私にはウィスキーロックだ!」
「え?」
なに便乗しちゃってんだよ、このおっさんは!
イチゴケーキのホールと、ウィスキーのロックを出した。
だって、出さないと何されるか分かったもんじゃないし、出さないと二人からずっと怒鳴られるのかと思うと、出して楽になりたかったんだよ。
もう負けでいいです。プライドなんてありません。
ランレイさんとマスターにおかわりを出したら、やっと解放された。
帰り際に、必ず報告する事って言われたけど、領主の城に侵入した事を報告する奴なんているわけないだろ!
冒険者カードも更新するようにって言われた。もう付いて来てもくれない。
一階でAランクカードに交換してもらって冒険者ギルドを後にした。
担当はもちろん犬耳アイファね。「ほら、やっぱり私の勘は正しかったでしょ」と胸を張っていた。
ようやく元孤児院に帰り着いた時には、昼を少し回っていた。
昼食は終わってたようで、俺の分は無い。
みんな、俺には優しくないよなぁ。
飯時にいなかったのが悪いんだけど、残してくれててもいいんじゃない? 来るのは分かってるんだしさぁ。
出かける用意をしておくように伝えて、院長室で衛星にチャーハンを作ってもらった。
食休みをゆっくりする暇も惜しかったので、チャーハンをかき込み皆を連れて領主様の城に向かった。
全員で移動するので、ノワール用の幌馬車を衛星に作ってもらって、その幌馬車に乗って移動した。さすがにゾロゾロと『奴隷の首輪』を付けて移動すると目立つのは学習したからね。
向けられる目線は、蔑むような、卑しいものを見るような、凄く気分が悪くなる目線なんだ。ちょっと耐えられない。
隠しても、全員が首に何かを巻いてるとおかしく思われるしね。
もうすぐ外してもらえるんだから、これ以上顔を売る必要も無いし、隠れられるように衛星に幌馬車を作ってもらってノワールに引いてもらってるんだ。
そうして領主様の城に行き、話も通っていたのですぐに『奴隷の首輪』をはずしてもらえた。
でも、全員浮かない顔をしてるんだよね。もっと嬉がってくれてもいいのに。
商業ギルドのカードも一緒にもらった。
金色のカードでキラキラ輝いている。冒険者カードのようにアルファベッドは書いて無かったけど、同じ金色だった。どっちも綺麗だ。
そのまま、どこにも寄らずに元孤児院に戻る。皆、もうどこに行くにも気兼ねしなくていいんだから、これからの事を話し合おうと思ってね。
戻ってきたら、そのまま食堂に集まる。十八名の元奴隷+ピエールと俺。
早速、俺から話を切り出した。
「皆さん、おめでとうございます。僕もホッとしました。あれだけ何とかすると公言したもんだから、首輪を外せなかったらどうしようかと焦ってましたけど、ホント外せて良かったです」
あれ? やっぱり『奴隷の首輪』を外した時と同じく、そんなに嬉しそうじゃないよな。
言ってたやつかな? 放り出されたら野垂れ死ぬ的な事を言ってたよね。そんな事しないのに。
「皆、あんまり嬉しそうじゃないよね。自由になれたんだよ?」
『……』
皆、黙ってる。
「自由になったからと言って、いきなり出て行けとか言わないから、もっと素直に喜んでくれないかな」
「本当ですか!?」
「いてもいいのですか?」
「やっとホッとできました」
「出て行かなくてもいいのですか?」
「また、エ・イ・ジ様の料理が食べられるのですか?」
「安心しましたー!」
「嬉しいです!」
「ありがとうございます」
「………」
「……」
「…」
やっぱり放り出されるのを心配していたのか、いてもいいって言ったら全員が安心したようだ。商売するって言ってたのに、信じてもらえてなかったのかな?
ようやく笑みが零れ出した所で提案した。
「それで、提案なんだけど、これからの事を少し話し合いたいんだ」
全員が静かになって注目してくれる。
「別にこっちからして欲しい事はないんだ。ホント申し訳ないんだけど、皆さんを買ったのは成り行きというか、断れなかったというか。何か目的があって買ったわけじゃないんだ。それでも、俺が買ったのは事実だし、今後についてはキチンとするつもりです」
全員、そうなんだろうと頷いている。
もう五日も一緒にいるし、その間は食事以外だと買い物ぐらいしかしてないしね。衛星の能力も見せてるけど、何も言われないし、魔法と勘違いしてるのかな? 料理を出したりする魔法ってあるんだろうか。収納と思ってるのかな。
「あまり派手に商売しなくても、皆が生活できればいいと思ってるんだ。何かやりたい事ってある?」
俺の提案にざわつきだした。
「エ・イ・ジ様」
「はい」
よく手をあげてくれる女性に呼ばれた。
まだ全員の名前を覚えてないんだよ。だって【星の家】の子供の名前だって二~三人ぐらいしか覚えてないんだよ。一気に十九人の名前なんて覚えられるわけ無いって。
今の人はよく話してくれるからローズさんって覚えたけど、後はピエールのお姉さんのピーチさんぐらいしか覚えてないし。
「今の提案は本気ですか?」
「え? 何をやりたいかって聞いたこと? 本気だけど」
「……エ・イ・ジ様。私達は失敗した事で奴隷になっているのです。その失敗した者の提案など受けない方がよろしいと思います」
溜息交じりにローズさんが言ってくれた事に全員が頷く。
それでざわついてたのね。
「奴隷になっている、じゃなくて、なっていた、ね」
一応、訂正してから話を続けた。
「それはやり方が悪かったとか、支援が足りなかっただけじゃないの? 例えば、料理屋をするにしても、立地条件や仕入れや支度金なんかがあるわけだし、美味しくなければお客さんも来ないけど、目玉商品なんかがあれば結果も違ったかもしれないし。やり方を変えて、やりたい商売をやるのがいいと思うんだけど」
全員、感心して聞いてくれている。
あれ? こんな程度も分かってなかった?
「エ・イ・ジ様。私達はエ・イ・ジ様のご好意で『奴隷の首輪』は外して頂けましたが、エ・イ・ジ様の奴隷である事には変わりないのです。しかし、画期的なご意見も持ってらっしゃるようですし、エ・イ・ジ様が決めてくださると話が早いかと。私達はただ主に付いていくだけでございます」
話しぶりからしても敬語は上手だし、頭も切れそうなのに。やっぱりここでも丸投げされるんだね。 もう、丸投げの環境は勘弁して欲しいんだよなぁ。
でも、商売ね。
【星の家】で採れる小麦かジャガイモを利用できるものだと仕入れも楽だよな。となると、飲食関係?
でも、飲食関係って怖いんだよね、食中毒とかありそうじゃない。この世界って冷蔵庫ってあまり普及されてないようだし、衛星がいるから作ってはもらえるけど、仕入れるまでに腐ってたらどうしようもないしね。
ケーキが作れればいいんだけどなぁ。
!
ちょっと閃いた!
まずは食べてもらおう。
「ちょっと思いついた事があるんだけど、まずは試食してくれる?」
皿とフォークを人数分用意してもらって、イチゴホールケーキを四つ衛星に出してもらった。
大きさはいつもと同じ、直径二十センチぐらいのもの。八等分で丁度いい大きさ。
ずっとイチゴしか見てないから別のものにしようかとも思ったけど、この人達は初めてだから、いいかなと思ってイチゴにした。
俺はさっきもランレイさんが食べてるのを見たし、遠慮させてもらう。
こんな調子だとケーキ屋さんは無理? じゃないよね、一気に食べてる人を見るから胸が悪くなるだけで、売る分には大丈夫なんじゃない? 最悪俺は店にいなくてもいい思うし。
やっぱりケーキを食べた事は無かったみたいで、男も含め、大好評だった。
ケーキを作れないかと、以前衛星に頼んだレシピは英語で読めなかった。だったら材料は?
《衛星、このケーキの材料をホール一個分出して。全部バラで容器分けしてね》
『Sir, yes, sir』
卵六個、イチゴ八粒、砂糖、小麦粉、バター、ミルクが出てきた。
うん、材料を見てもやっぱり作り方なんて分からない。カップケーキやクッキーぐらいなら小学校の授業で作った事があるんだけどなぁ。
「これは何ですか?」
ローズさんが聞いてくる。有難いね、こういう時に仕切ってくれる人がいるのは。
「今食べたイチゴケーキの材料だよ」
「「「えええ!!」」」
全員、驚いている。
やっぱり無理かなぁ。誰も知らないみたいだな。
「これだけで出来るのですか?」
「そうみたいだね」
「どうやって作るのですか?」
「それが分からないんだよね」
「え?」
ケーキは諦めてポテトチップスにする? ジャガイモは沢山あるし、作り方も簡単だもんね。
「全く分からないのですか?」
「全くって訳じゃないけど……」
「では、一度挑戦させて頂けませんか?」
「作るの!? でも、ほとんど分からないんだよ?」
「でも、材料は全部揃ってるのですよね? だったら挑戦してみたいです!」
ローズさん、どうしたの? なんでそんなに粘るの?
「私もやりたいです」
「お許しいただけるなら私も参加したいです」
私も私もと全員がやりたいと言い出した。男もか。
美味かったから自分でも作ってみたくなったとか? 確かにそういうのってあるよね。
ダメ元だしね、一度やってみよう。
《衛星、全員にケーキの材料と、調理器具を出してあげて。オーブンはキッチンにね。ついでにケーキ作りの実演もやってあげて》
『Sir, yes, sir』
あ? これって……凄く分かり易い実演なんだけど。
ついでになんとなく実演って言ってしまったけど、いつもなら俺には見せない作業。前に素材の解体や家の建設を見た時には道具なんて使わないし、高速過ぎて何をやってるか全く分からなかったけど、今回は実演という事で、皆に出したものと同じ調理器具で撹拌などをやっている。ちょっと早回し感はあるけど実に分かり易い。
卵が割れて黄身だけが右の器、白身だけが左の器に浮遊して行く。
氷が入った容器の上で泡立て器が空中で回ってる。
別の器には小麦粉が入る、砂糖が入る、卵が入る、水が入る。
生地が出来上がり型に入れられて行く。
高速で回る泡立て器の容器の中身でミルクがクリームが出来上がっていく。
全員、手を止め実演を呆けて見ている。
型に入れられたケーキが浮遊してキッチンへ飛んで行きオーブンに入る。
「な、な、なんですか! 分かってるじゃありませんか!」
「そうです! なんですか、今の早業は!」
「エ・イ・ジ様は料理人? 確かに料理は素晴らしいですが」
「創作料理人!」
「カリスマ!」
「すご……魔法で料理…」
色んな感想が来たけど、俺だって衛星がこんな実演をしてくれるとか全くの予想外だよ。
因みに俺は冒険者ね。若しくは商人、まさかの農民って事でお願いします。
皆、驚いて手順なんか覚えてないから、皆に紙とペンを渡し、もう一度衛星に実演してもらった。
ペンはボールペンね。だって衛星に言ったら作ってくれたんだからいいじゃん。紙もコピー用紙ね。皆、真っ白な紙に墨に付ける必要の無いペンに驚いてたけどね。
便利だからいいじゃんって言ったら、それ以上反論は無かったよ。不満そうではあったけどね。
紙とペンより今はケーキ作りみたいだから、後から質問攻めにされるかもね。
聞かれても分からないから答えられないけどね。
でも、これで店は決まったな。
ケーキ屋さんだ。
ケーキ屋なら他の店と被る事も無さそうだし、店舗も小さくて済むよね。
後は仕入れルートや価格設定か。
卵とか砂糖の仕入れルートをちゃんとしてないと、商業ギルドって細かそうなイメージだから揚げ足取られそうだよな。
レシピを公開しなければ分からないだろうけどね。念には念をだ。
店舗の購入の件もあるし、やっぱり明日は商業ギルドで相談だな。
睨む二人に引きつった笑いしかできない俺。
ここは謝ろうか。何に対して? そういえば何で連れて来られたんだ?
「あのー…なんで怒られてるんでしょうか…」
恐る恐る聞いてみた。
原因が分かれば謝る事もできるが、今の状態だと何の事だか分からない。
「「……」」
二人共、答えてくれない。
「あのー……」
「分かってるわよ! 別にあなたが何かしたって訳じゃないの! 私が納得行かないだけなの!」
ランレイさん、かなり苛立ってるね。
「そうだ! 領主の城に忍び込むだぁ? 魔族の結界を解除~? 魔族を二体倒して拘束~? ふざけるな!!」
何もふざけてなんかないけど……忍び込む以外は怒られる事じゃ無いと思うんだけど。
「イージ、早く出しなさい」
「え?」
何も盗んでないよ? それとも何か預かってたっけ?
「えっ、じゃないの。ケーキを出しなさいって言ってるの。もうムシャクシャするからケーキでも食べないとやってられないの! あなたのせいなんだから早く出しなさい」
なにその理不尽な理由! 俺のせいじゃないじゃん!
「私にはウィスキーロックだ!」
「え?」
なに便乗しちゃってんだよ、このおっさんは!
イチゴケーキのホールと、ウィスキーのロックを出した。
だって、出さないと何されるか分かったもんじゃないし、出さないと二人からずっと怒鳴られるのかと思うと、出して楽になりたかったんだよ。
もう負けでいいです。プライドなんてありません。
ランレイさんとマスターにおかわりを出したら、やっと解放された。
帰り際に、必ず報告する事って言われたけど、領主の城に侵入した事を報告する奴なんているわけないだろ!
冒険者カードも更新するようにって言われた。もう付いて来てもくれない。
一階でAランクカードに交換してもらって冒険者ギルドを後にした。
担当はもちろん犬耳アイファね。「ほら、やっぱり私の勘は正しかったでしょ」と胸を張っていた。
ようやく元孤児院に帰り着いた時には、昼を少し回っていた。
昼食は終わってたようで、俺の分は無い。
みんな、俺には優しくないよなぁ。
飯時にいなかったのが悪いんだけど、残してくれててもいいんじゃない? 来るのは分かってるんだしさぁ。
出かける用意をしておくように伝えて、院長室で衛星にチャーハンを作ってもらった。
食休みをゆっくりする暇も惜しかったので、チャーハンをかき込み皆を連れて領主様の城に向かった。
全員で移動するので、ノワール用の幌馬車を衛星に作ってもらって、その幌馬車に乗って移動した。さすがにゾロゾロと『奴隷の首輪』を付けて移動すると目立つのは学習したからね。
向けられる目線は、蔑むような、卑しいものを見るような、凄く気分が悪くなる目線なんだ。ちょっと耐えられない。
隠しても、全員が首に何かを巻いてるとおかしく思われるしね。
もうすぐ外してもらえるんだから、これ以上顔を売る必要も無いし、隠れられるように衛星に幌馬車を作ってもらってノワールに引いてもらってるんだ。
そうして領主様の城に行き、話も通っていたのですぐに『奴隷の首輪』をはずしてもらえた。
でも、全員浮かない顔をしてるんだよね。もっと嬉がってくれてもいいのに。
商業ギルドのカードも一緒にもらった。
金色のカードでキラキラ輝いている。冒険者カードのようにアルファベッドは書いて無かったけど、同じ金色だった。どっちも綺麗だ。
そのまま、どこにも寄らずに元孤児院に戻る。皆、もうどこに行くにも気兼ねしなくていいんだから、これからの事を話し合おうと思ってね。
戻ってきたら、そのまま食堂に集まる。十八名の元奴隷+ピエールと俺。
早速、俺から話を切り出した。
「皆さん、おめでとうございます。僕もホッとしました。あれだけ何とかすると公言したもんだから、首輪を外せなかったらどうしようかと焦ってましたけど、ホント外せて良かったです」
あれ? やっぱり『奴隷の首輪』を外した時と同じく、そんなに嬉しそうじゃないよな。
言ってたやつかな? 放り出されたら野垂れ死ぬ的な事を言ってたよね。そんな事しないのに。
「皆、あんまり嬉しそうじゃないよね。自由になれたんだよ?」
『……』
皆、黙ってる。
「自由になったからと言って、いきなり出て行けとか言わないから、もっと素直に喜んでくれないかな」
「本当ですか!?」
「いてもいいのですか?」
「やっとホッとできました」
「出て行かなくてもいいのですか?」
「また、エ・イ・ジ様の料理が食べられるのですか?」
「安心しましたー!」
「嬉しいです!」
「ありがとうございます」
「………」
「……」
「…」
やっぱり放り出されるのを心配していたのか、いてもいいって言ったら全員が安心したようだ。商売するって言ってたのに、信じてもらえてなかったのかな?
ようやく笑みが零れ出した所で提案した。
「それで、提案なんだけど、これからの事を少し話し合いたいんだ」
全員が静かになって注目してくれる。
「別にこっちからして欲しい事はないんだ。ホント申し訳ないんだけど、皆さんを買ったのは成り行きというか、断れなかったというか。何か目的があって買ったわけじゃないんだ。それでも、俺が買ったのは事実だし、今後についてはキチンとするつもりです」
全員、そうなんだろうと頷いている。
もう五日も一緒にいるし、その間は食事以外だと買い物ぐらいしかしてないしね。衛星の能力も見せてるけど、何も言われないし、魔法と勘違いしてるのかな? 料理を出したりする魔法ってあるんだろうか。収納と思ってるのかな。
「あまり派手に商売しなくても、皆が生活できればいいと思ってるんだ。何かやりたい事ってある?」
俺の提案にざわつきだした。
「エ・イ・ジ様」
「はい」
よく手をあげてくれる女性に呼ばれた。
まだ全員の名前を覚えてないんだよ。だって【星の家】の子供の名前だって二~三人ぐらいしか覚えてないんだよ。一気に十九人の名前なんて覚えられるわけ無いって。
今の人はよく話してくれるからローズさんって覚えたけど、後はピエールのお姉さんのピーチさんぐらいしか覚えてないし。
「今の提案は本気ですか?」
「え? 何をやりたいかって聞いたこと? 本気だけど」
「……エ・イ・ジ様。私達は失敗した事で奴隷になっているのです。その失敗した者の提案など受けない方がよろしいと思います」
溜息交じりにローズさんが言ってくれた事に全員が頷く。
それでざわついてたのね。
「奴隷になっている、じゃなくて、なっていた、ね」
一応、訂正してから話を続けた。
「それはやり方が悪かったとか、支援が足りなかっただけじゃないの? 例えば、料理屋をするにしても、立地条件や仕入れや支度金なんかがあるわけだし、美味しくなければお客さんも来ないけど、目玉商品なんかがあれば結果も違ったかもしれないし。やり方を変えて、やりたい商売をやるのがいいと思うんだけど」
全員、感心して聞いてくれている。
あれ? こんな程度も分かってなかった?
「エ・イ・ジ様。私達はエ・イ・ジ様のご好意で『奴隷の首輪』は外して頂けましたが、エ・イ・ジ様の奴隷である事には変わりないのです。しかし、画期的なご意見も持ってらっしゃるようですし、エ・イ・ジ様が決めてくださると話が早いかと。私達はただ主に付いていくだけでございます」
話しぶりからしても敬語は上手だし、頭も切れそうなのに。やっぱりここでも丸投げされるんだね。 もう、丸投げの環境は勘弁して欲しいんだよなぁ。
でも、商売ね。
【星の家】で採れる小麦かジャガイモを利用できるものだと仕入れも楽だよな。となると、飲食関係?
でも、飲食関係って怖いんだよね、食中毒とかありそうじゃない。この世界って冷蔵庫ってあまり普及されてないようだし、衛星がいるから作ってはもらえるけど、仕入れるまでに腐ってたらどうしようもないしね。
ケーキが作れればいいんだけどなぁ。
!
ちょっと閃いた!
まずは食べてもらおう。
「ちょっと思いついた事があるんだけど、まずは試食してくれる?」
皿とフォークを人数分用意してもらって、イチゴホールケーキを四つ衛星に出してもらった。
大きさはいつもと同じ、直径二十センチぐらいのもの。八等分で丁度いい大きさ。
ずっとイチゴしか見てないから別のものにしようかとも思ったけど、この人達は初めてだから、いいかなと思ってイチゴにした。
俺はさっきもランレイさんが食べてるのを見たし、遠慮させてもらう。
こんな調子だとケーキ屋さんは無理? じゃないよね、一気に食べてる人を見るから胸が悪くなるだけで、売る分には大丈夫なんじゃない? 最悪俺は店にいなくてもいい思うし。
やっぱりケーキを食べた事は無かったみたいで、男も含め、大好評だった。
ケーキを作れないかと、以前衛星に頼んだレシピは英語で読めなかった。だったら材料は?
《衛星、このケーキの材料をホール一個分出して。全部バラで容器分けしてね》
『Sir, yes, sir』
卵六個、イチゴ八粒、砂糖、小麦粉、バター、ミルクが出てきた。
うん、材料を見てもやっぱり作り方なんて分からない。カップケーキやクッキーぐらいなら小学校の授業で作った事があるんだけどなぁ。
「これは何ですか?」
ローズさんが聞いてくる。有難いね、こういう時に仕切ってくれる人がいるのは。
「今食べたイチゴケーキの材料だよ」
「「「えええ!!」」」
全員、驚いている。
やっぱり無理かなぁ。誰も知らないみたいだな。
「これだけで出来るのですか?」
「そうみたいだね」
「どうやって作るのですか?」
「それが分からないんだよね」
「え?」
ケーキは諦めてポテトチップスにする? ジャガイモは沢山あるし、作り方も簡単だもんね。
「全く分からないのですか?」
「全くって訳じゃないけど……」
「では、一度挑戦させて頂けませんか?」
「作るの!? でも、ほとんど分からないんだよ?」
「でも、材料は全部揃ってるのですよね? だったら挑戦してみたいです!」
ローズさん、どうしたの? なんでそんなに粘るの?
「私もやりたいです」
「お許しいただけるなら私も参加したいです」
私も私もと全員がやりたいと言い出した。男もか。
美味かったから自分でも作ってみたくなったとか? 確かにそういうのってあるよね。
ダメ元だしね、一度やってみよう。
《衛星、全員にケーキの材料と、調理器具を出してあげて。オーブンはキッチンにね。ついでにケーキ作りの実演もやってあげて》
『Sir, yes, sir』
あ? これって……凄く分かり易い実演なんだけど。
ついでになんとなく実演って言ってしまったけど、いつもなら俺には見せない作業。前に素材の解体や家の建設を見た時には道具なんて使わないし、高速過ぎて何をやってるか全く分からなかったけど、今回は実演という事で、皆に出したものと同じ調理器具で撹拌などをやっている。ちょっと早回し感はあるけど実に分かり易い。
卵が割れて黄身だけが右の器、白身だけが左の器に浮遊して行く。
氷が入った容器の上で泡立て器が空中で回ってる。
別の器には小麦粉が入る、砂糖が入る、卵が入る、水が入る。
生地が出来上がり型に入れられて行く。
高速で回る泡立て器の容器の中身でミルクがクリームが出来上がっていく。
全員、手を止め実演を呆けて見ている。
型に入れられたケーキが浮遊してキッチンへ飛んで行きオーブンに入る。
「な、な、なんですか! 分かってるじゃありませんか!」
「そうです! なんですか、今の早業は!」
「エ・イ・ジ様は料理人? 確かに料理は素晴らしいですが」
「創作料理人!」
「カリスマ!」
「すご……魔法で料理…」
色んな感想が来たけど、俺だって衛星がこんな実演をしてくれるとか全くの予想外だよ。
因みに俺は冒険者ね。若しくは商人、まさかの農民って事でお願いします。
皆、驚いて手順なんか覚えてないから、皆に紙とペンを渡し、もう一度衛星に実演してもらった。
ペンはボールペンね。だって衛星に言ったら作ってくれたんだからいいじゃん。紙もコピー用紙ね。皆、真っ白な紙に墨に付ける必要の無いペンに驚いてたけどね。
便利だからいいじゃんって言ったら、それ以上反論は無かったよ。不満そうではあったけどね。
紙とペンより今はケーキ作りみたいだから、後から質問攻めにされるかもね。
聞かれても分からないから答えられないけどね。
でも、これで店は決まったな。
ケーキ屋さんだ。
ケーキ屋なら他の店と被る事も無さそうだし、店舗も小さくて済むよね。
後は仕入れルートや価格設定か。
卵とか砂糖の仕入れルートをちゃんとしてないと、商業ギルドって細かそうなイメージだから揚げ足取られそうだよな。
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ヤクザだった大宅宗一35歳は死んで記憶を持ったまま異世界の第7王子に転生する。魔力が0で魔法を使えないので、無能者と言われて王族の籍を抜かれ僻地の領主に追放される。魔法を使える事が分かって2回目の人生は前世の知識と魔法を使って領地を発展させながら自由に生きるつもりだったが、波乱万丈の人生を送る事になる
家に住み着いている妖精に愚痴ったら、国が滅びました
猿喰 森繁 (さるばみ もりしげ)
ファンタジー
【書籍化決定しました!】
11月中旬刊行予定です。
これも多くの方が、お気に入り登録してくださったおかげです
ありがとうございます。
【あらすじ】
精霊の加護なくして魔法は使えない。
私は、生まれながらにして、加護を受けることが出来なかった。
加護なしは、周りに不幸をもたらすと言われ、家族だけでなく、使用人たちからも虐げられていた。
王子からも婚約を破棄されてしまい、これからどうしたらいいのか、友人の屋敷妖精に愚痴ったら、隣の国に知り合いがいるということで、私は夜逃げをすることにした。
まさか、屋敷妖精の一声で、精霊の信頼がなくなり、国が滅ぶことになるとは、思いもしなかった。
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