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第12章 二つ目の地域制覇へ

第21話 入り江のボスのボス

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 ご無沙汰です。
 次もご無沙汰だと思います。
 すみません。

―――――――――――――――――――――――――――

 それから村長さんに後を任せ、すぐに天馬ノワールに来てもらって衛星の案内でクラーケンのあるじ達の元へと向かった。


 衛星の案内で到着したのは入り江から沖にノワールに十分程飛んでもらった小島だった。
 島と言っても小さな岩礁群で、草も生えない岩場だけの島だった。満潮時には海に沈んでしまう島なのかもしれない。

「ここ?」
『そうです』
「でも、誰もいないみたいだけど」
『島の裏側に纏めてあります』

 纏めてって、そんな物みたいに言わなくても。話のできる奴らなんだろ?

 岩場だけの島だけど、大きさはそれなりにある。歩けば端から端まで二~三〇分は掛かりそうだ。
 山のように起伏してるので島の反対側の状況が見えないけど、タマちゃんが言うにはそこにいるみたいだ。
 ノワールに指示してそちらに回ってもらった。

「うおっ! 思ってたより多いぞ! ってあれ? この魔物たちって……」
『マーメイドです』

 ですよねー。あれは人魚ですよねー。粉う事無き人魚ですよねー。
 人魚が黒幕!? 意味分かんねーよ!
 それに何人いるんだ? 百人以上はいるだろ。人魚だから何人でいいよね? それとも分類としては魔物になるのかもしれないから何体って数えるのかな? いや、話せる亜人枠だから何人だろ。
 そんな事はどうでもいいか、初めて人魚を見たから俺もちょっと混乱してるよ。


「なんで人魚が……」
のものらは、元々人間に迫害を受けてました。人魚の肉には不老不死の効能があるという不確かな理由で。事実、人魚の肉には不老不死の効能はあるのですが、正しい調合と、その調合した肉に適合する者だけが不老不死の効果を得られるのですが、適合者は100万人に一人の割合です。まず、適合者などいないと考えた方がいいでしょう』

 不老不死の妙薬を作れる人魚の肉か……不老不死ってなりたいのか? 俺はなりたくないけど、なりたい人はいるんだろうな。
 そりゃ、死ぬまで若くはいたいけど、永遠の命なんて無理だよ。何千年、何万年と経っても死ねないって過酷過ぎるって。精神がもたないよ。

「それで? なんで人魚を捕らえてるの?」
『マーメイドです。このマーメイド達が入り江の主を操っていたのです』
「なんでそんな事を……」

 人魚…マーメイドか。そんな事をしてなんになるんだよ。

『マーメイド達は過去に人間達に迫害を受けたのを教訓にし、人間が海へと進出しないようにしたのです』
「そんなのどうやってするんだよ。確かにこの世界の人達は、現在は海の幸は毒だと思ってて食べないように……もしかして、それをマーメイド達が!?」
『そのようです。もう千年以上前からのようですが、マーメイド達が海岸の魔物を『魅了』や力による実力で支配し人間を海に近づけないようにした一方で、人間には態と毒の魚介類を獲らせ殺そうとしていたようです」

 千年前以上からか……それは凄いな。
 しかも、人間がこれだけ海の幸を食べなくなるほど徹底してやってたんだな。凄い執念を感じるよ。それぐらい虐待を受けてたんだな。

「でも、それだけで人間が海の幸を食べなくなるのかな? 誰かが食べれば美味いって分かるんだし、ここの村の人達だって食べてたんだろ? 若布だって砂浜に打ち上げられれば採って食べたりするだろうに」
『打ち上げられた海草には必ず毒入り魚介類を付けてたようです』

 避けて食べれば食べられるけど、そんなのが一緒だと食べる気も失せちゃうか。
 何気にこの村の人達も飢えちゃいないから、態々そんなものを食べないか・・・ん!? それも人魚達の作戦?

「もしかして、偶に魔物を獲らせたり、その時に少しの魚を混ぜたりしてたのも、もしかして……」
『マーメイドの仕業のようです』

 やっぱりか! そこまで徹底してたんだな。
 それを千年も徹底すれば海の幸を食べなくなるか。
 山人が毒キノコを判定するのに食べた経験からするのに似てなくもないか。何事も経験する事によって蓄積されて行くからな。
 それを千年以上徹底されれば、海の幸が食べられないようになるのか。
 でも、他の国から…・・・そうだった、そんな心配はいらなかったよ。
 人魚が知ってるかどうかまでは知らないけど、それほど輸送手段が発達していないこの世界では腐らせずに輸送するなんてできない。
 干物にすればできるだろうけど、この村を見ても干物なんて何処にも無い。魚に頼らずとも飢えない程度の食料は確保しているからだ。

 ではどうする。俺は今後も魚を食べたい。
 俺の場合は衛星に言えば何でも食べられるけど、まだまだ食糧難のこの世界では魚介類も食べられれば食糧難も改善されるかもしれない。
 輸送についても、街道整備は終わってるから今までよりも早く運べるだろうし、何と言っても美味い物を皆で食べたいじゃないか。

「タマちゃん。このマーメイド達の邪魔さえなければ人は海の幸を食べ始めるかな」
『初めは難しいでしょうが時が経てば食べるでしょう』

 そうだよな。千年かけて魚介類は害があると思わされて、魔物に邪魔されて沖へも出られなくなってるんだから時間は掛かるだろうね。

『しかし、逆にマーメイドを手中に入れれば早々に食べ始めるでしょう』
「え? どういう事?」
『元々マーメイド達は魔物だけではなく人間にも魅了をかけていましたから、また同じ魅了でもかけさせて海の幸は美味しいと広めさせればいいのです』

 どゆこと? 人魚は魔物を使ったり毒を盛って人が海に近付くのを止めてただけじゃなく、人に対しても魅了まで使ってたって事?

「人も人魚に魅了されてたの?」
『マーメイドです』
「むぐ…マーメイドに」
『その通りです』

 どっち? 答えがその通り? それとも人魚の呼び方?
 まぁ、答えの方だろうね。

「それじゃ海の幸を広めるのに人魚…・・・マーメイドにも一役買ってもらうのか?」
『その通りです』

 今度は間違いなく回答の方だね。

「どうやって?」
『それはエイジがマーメイドの長を丸め込んで・・・・・・垂らし込ん・・・・・・説得を試みて下さい』

 最近のタマちゃんって口が悪くなって来てない? 妙に戦闘的になってるしさ。これなら大阪弁だった時の方がマシだと思えて来るよ。
 花子さんの分からない大阪弁よりもマシだったしね。

「説得ね。最近は交渉にも少しは慣れて来たから行けるかな? ユーも少しは手伝ってね」
「エイジ・・・・・・」
「え?」
「また、呪いが強くなって来たの? 独り言を聞いてたから何の話かはある程度分かったけど、こっちに来たから酷くなったんじゃない?」

 おぅふ、やっちゃってましたか・・・・・・タマちゃんとの会話を口に出してたみたい・・・油断しすぎてた。
 でも、呪いじゃないって思われてたと聞いた気が・・・・・・

「でも、これからは私が一緒だから酷くなってきたら言うんだよ? 勇者の光パワーで呪いなんて吹っ飛ばしちゃうから!」

 うん、気のせいだった。

「うん・・・その時はお願いします」
「うん! まかせて!」

 そう言って背中に抱きついて来るユー。
 うん、ボヨンっていってるよね。いや、ボヨヨンの方が正しいか。
 タンデム最高!
 やっぱりいくら綺麗でも手を出せない、というか出したくないアッシュより嫁候補のユーの方がいいね。
 そろそろ結婚も考えないといけないよね。他にも大勢候補がいるんだけどさ。
 背中の感触をゆっくり楽しむ間もなくノワールがマーメイドの群れに辿り着いた。
 ノワール・・・こういう時はゆっくりでいいんだよ?

 そうはいってもここ何日かはずっと二人乗りだったわけだし、これからも続くんだ。ノワールも今更だと思ってるんだろうね。
 天馬がそこまで考えてるかなんて分からないけど。

「凄いねぇ」
「そうだね、これだけ多いと人魚の有り難味が薄れると言うか・・・」
「あのビキニって凄くない!?」

 あ、そっち。
 確かに貝殻で胸を隠してるだけだもんね。下半身は魚だから隠す必要ないし。あれをビキニと呼んでしまうユーも凄いけどね。
 しかし美人さんが多いねぇ。この世界って人も(亜人も含め)美形が多すぎ! 人魚は昔から美人と相場が決まってるけど、魔物? まで美形が多いと普通人の俺には劣等感しかないわ。
 ユーだって同郷のはずなのに可愛いし胸はデカイしミサイルだし。しかも勇者召喚で来てるからメチャ強いし。
 俺って場違いじゃないの? っていつも感じてるよ。

「それでエイジ。誰と話せばいいの?」
「う~ん、そうだね~」

 マーメイドの群れのところにまで来たのはいいんだけど、全員が微動だにしないんだ。しかも多すぎ。
 これって衛星に拘束してって頼んだから何かして金縛りになってるんだろうと思うんだけど、こんな数が一斉に襲って来たら・・・と思うとゾッとするね。

 ザッと見た感じ一〇〇人はいるね。全員と話すわけにもいかないし、誰と話せばいいんだろ。

『タマちゃん? これって誰と話せばいいの?』

 さっき指摘を受けたから心の中でタマちゃんに尋ねた。

『誰でもいいですが、一番派手なマーメイドが良いでしょう。エイジが触れると金縛りが解けるようにしてあります』
『誰でもいいって・・・・・・だったら言われた通り派手なマーメイドは、と・・・・・・』ビクッ!

 いたー! 派手なのいたー! 真珠の腕輪を五個ずつ両腕に巻いてて、粒のおっきい黒真珠のネックレスをしてて、他のマーメイドがホタテやあこや貝の貝殻なのに対してハマグリぐらいの小さな貝殻を着けてる。
 あれは本意気なの? それともツッコみ待ち?

「あのさ、ユーにはあれが見える?」
「あれ? ・・・・・・きゃー! なにあれー! さすがにアレはないよー」

 アレはユーの許容範囲を超えてたみたいだ。

「でも、エイジと二人っきりの海でなら、考えなくもないけど」

 ギリ越えてはいなかったか。

「アレってリーダーか何かかな?」
「そうね、他とは明らかに違うもんね。たぶんそういう感じなのかも」

 俺が触れると金縛りが解けると言われているので、他の人魚には触れないように気を付けつつ、群れの少し中程にいる派手な人魚へと向かった。
 人魚達は座ったまま全く微動だにしていない。が、目だけは動くようで、俺とユーの動きを目で追っている。
 非常に不気味で気持ち悪い。
 大半のものが下半身の魚部分を抱えるように体育座りをしている。しなっと座ってるものもいたり横たわっているものもいるけど、誰も動いてないし声も出さないから不気味なほど静かだ。

 そんな中、辿り着いた先は派手派手な装飾品を身に纏う人魚だった。
 ブレスレットやネックレスもそうだけど、乳隠しの貝殻に目を奪われすぎてたけど、この人魚だけ小さなティアラを着けていた。
 近付いてようやく気が付いた。でも、それは俺だけじゃなくてユーも同じみたい。

「この人、女王じゃん! だってティアラしてるもん!」
「うん、もっと大きな王冠とかしてくれたら早く気が付いたのに」
「そうよね、他が派手すぎて全然分かんなかった。小さすぎよね」

 確かにユーの言う通り、他の真珠が分かりやすいぐらい派手なのに、ちんまりしたティアラだから気付かなかったもんな。

「だよね。たぶんこの人が女王だと思うんだ。今から金縛りを解くけど、もし襲ってきたら頼むね」
「ええ、まかせて」

『Sir, yes, sir』

 ユーに言った言葉だったんだけど、衛星も返事をしてくれた。
 これで万全だね。

「でも、たぶんじゃないわよ? エイジは『鑑定』してないの?」
「あ・・・・・・」

 そうだった。悪魔の時にもまずは『鑑定』を癖付けろって言われてたのに忘れてたよ。
 ユーはちゃっかり『鑑定』してたんだね。


――ロザリー・R・ロイヤル(海魔族【ロイヤルマーメイド】):LV331 ♀ 2529歳
  HP:2232 MP:4132 ATC:2122 DFC:1865 SPD:2438
  スキル:【統率】【結界】【魅了】【海流】【眷属召喚】【操髪】
  武技:【槍】5/10
 魔法:【水】Max
 称号:マーメイドクィーン


 レベルの割にはステータスが低いんじゃないかというのが第一印象だった。
 でも、彼女たち海で生きる者達は、水の中でもステータスが落ちない。逆に有利な環境を利用する分、実力以上の力を発揮するだろう。
 陸に生きる者は水中では実力の半分も出せない事を考えると、水の中限定だったら最上位に位置する実力なのかもしれない。


 シュババババババババババババババババ・・・・・・

 え? なになに?

 ほんの僅かな間、時間にして一秒か・・・二秒はなかったと思う。
 嫌な記憶を呼び覚ますような聞き覚えのある音がした後、ユーの持つ勇者の剣が派手な人魚の首筋に突き付けられていた。
 全然見えなかったけど、音と結果を見れば何が起こったのかは分かった。俺もそれなりに経験してきたからね。

 金縛りを解いた後、すぐに攻撃をしてきたんだろうね。派手な人魚のステータスから察すると、たぶん【操髪】あたりを使って攻撃して来たんじゃないかな。
 それをユーが迎撃して今に至ると。そんな感じだと思うよ。全く見えなかったけどね。

「くっ・・・殺せ・・・・・・」

 えっ? クッコロさん? こいつ、色々と狙ってんじゃない? 格好といいセリフといい、ツッコミ要素が多すぎるだろ!

「すぐに殺すつもりはない。話を聞くだけだ。素直に答えれば危害は加えない」

 え? 誰? ユーだよね? そんなシリアスなセリフも言えたんだ。

「エイジ、いいわよ」
「えっ・・・・・・あぁ、ありがとう」

 剣を突きつけたままのユーに促され、派手な人魚に話しかけた。

「クッコロさん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 返事はない。
 ユーからはジト目を頂いた。

「エイジ? 私には分かるけど、それって違うよねー」
「ご、ごめん、つい」

 俺にダメ出ししてる間もユーは油断無く警戒している。
 そのせいで派手な人魚は微動だにできずにいた。

「お前ら人間共は我らマーメイドの敵だっちゃ! またあんな酷い目に合うぐらいならここで殺すっちゃ!」
「え・・・えーと・・・ラムちゃん?」
「エ・イ・ジー」
「いやいや、今のは俺は悪くないでしょ。だって・・・・・・」
「この人はロザリーさん。私達にしか分からない話をしても先に進まないでしょ」
「う・・・ごめん」

 俺がユーに謝ってる前では、派手な人魚―――ロザリーさんが目を見開いて驚いていた。

「なんでロザリーだと分かったっちゃ! なんでミドルネームまで知ってるっちゃ!」

 『鑑定』の事は知らないのかな? それとも俺やユーみたいな奴に使えると思われてなかった? しかもミドルネームって・・・
 ミドルネームの”R”って”ラム”だったの!? そこまでは見えてなかったよ。

「俺達は『鑑定』が使えるからロザリーさんの名前や能力が分かったんだよ。勝手に見て悪かったけど、俺達も警戒はしてたから見させてもらった。ロザリーさん、少し話をしたいんだど、いいかな」
「何の話っちゃ! 人間は信用できんっちゃ!」

 無理やり”ちゃ”って付けなくてもいいのにね。マーメイドの女王言葉なのかな?

「信用ね。そうだね、会ったばかりで信用も何もないだろうけど、現状を見てみてよ。命令なら受け入れてくれるの?」
「くっ・・・・・・」
「こちらとしては無理やり言う事を聞いてもらうより、協力者として付き合いたいと思ってるんだけど」
「協力者だと!? バカな・・・・・・っちゃ。人間共と協力関係など築けるわけがないっちゃ!」

 凄く睨んで来るんだけど、綺麗な容姿にこの言葉使いで俺でも全然怖くない。
 過去に人間に負けてたのは、そのへんも関係あるんじゃない?

「協力者とは言ったけど、こっちからの要望は魚介類を食べたいっていうのと、輸送のために船を出したいって事ぐらいなんだ。魚介類を食べる方は何とかなりそうなんだけど、輸送の方がね。船を護れだとか協力しろとは言わないけど、船を襲わないって約束してくれないかな。こっちもマーメイドには手を出すなって言っとくからさ」
「そんな話、信じられないっちゃ! 人間共は我らの仲間をどれだけ虐待し続けたか。忘れたとは言わさんっちゃ!」
「いやいや、何年前の話をしてるのさ。俺なんか最近だし、こっちのユーだって、この世界に来てまだ何年も経って無いのに、昔の話なんて知らないって」

 千年以上前の話なんて知らないっての。

「ならば聞かせてやるっちゃ!」
「いや、長くなりそうだし話さなくていいから。それよりどうなの? こっちの話を聞いてくれるの? そんな難しい話じゃないと思うんだけど」
「魚介類を獲るのと船を襲わない話っちゃね。昔、船に乗る人間共に大勢の仲間が攫われたっちゃ。その船を襲わぬなど出来ないっちゃ!」

 う~ん、かなり根が深いみたいだね。
 でも、千年経っても覚えているんだね。相当恨みが深そうだ。

「ユー、何か良い案は無いかな」
「そうねぇ・・・まずは魚だけにしておいて、船はまたにしたら?」
「う~ん、そうする? でも、船で貿易ができれば文化の発展にも大きく貢献できると思うんだよ」

 うん、俺はこの地域を発展させる使命を受けてるのだ!

「何処と? 何処と貿易するの?」
「えーと・・・それは・・・・・・」
「後回しね」
「・・・・・・はい」

 そうだった。海の向こう側の情報なんて何にも無かったよ。
 でもさ、船の活用術なんて他にもあると思うんだよ。例えば、越えられない山を海路で迂回して行き来できるようにするとか、陸続きでも少し離れた地域への搬送なんて馬車を使うより多くの荷物を運べたりするじゃん。
 船はいると思うんだよな。

「じゃあ、長距離移動の船はあとでもいいけど、魚介類は獲ってもいいよね? 今日も漁をしたけど、大漁だったしね。辞めろと言われてもするんだけどさ」
「バカな事を言うんじゃないっちゃ! 漁をさせぬためにクラーケンを置いてるっちゃ! やれると言うなら勝手にやって死ねばいいっちゃ!」
「いやいや、ホントのさっきまで漁をしてたから。そのクラーケンだっけ? もう僕の仲間になっちゃったから漁にも協力してもらったんだよ」

 クラーケンの海流操作って便利だよね。あれで魚を集めて一網打尽だもん。あれならいつでも大漁だよ。

「そんな戯言ざれごとなど信じないっちゃ! 人間はそうやって嘘をついて我々を騙すっちゃ! もう騙されんっちゃ!」

 騙すつもりなんてないんだけど、根深いものもあるようだし、ちょっとやそっとじゃ信じてくれそうも無いな。

「信じてくれなくてもいいんだけど、人を襲わないって約束してくれたら全員解放してあげるよ?」
「なっ! またそうやって騙すっちゃね!」
「別に殺すつもりなんて初めから無いし、話が終われば解放するよ。入り江の主の主人だというから話したかっただけだから」
「ならば、うちだけでよかったっちゃ! 我が種族全員を捕らえる必要など無いっちゃ!」

 やっぱりこれで全員なんだ。種族全員でこれだけって少なすぎるよな。これも人間がマーメイドを虐待した結果かもしれないな。

「でも、君だって攻撃的だし、他の人達を放っておいたら俺らに攻撃してくるだろ? そしたら俺の加護が迎撃しちゃうから全滅しちゃったかもしれないんだよ」

 衛星からしたらマーメイドは魔物枠だし、迎撃したら素材にしちゃうもんね。衛星が全員を集めたのは正解だと思うよ。

「そんな事ができるわけが・・・・・・」
「できるよね。実際、こうやって全員が捕まってるわけだし。でも、誰も死んで無いだろ?」
「むむむ・・・・・・」
「協力してくれなくていいからさ、邪魔だけはしないでくれる?」
「・・・・・・わかったっちゃ。それで皆を解放するっちゃ」
「うん、ありがとう。じゃあ、全員を解放するけど攻撃はしないでよ? 君達じゃ絶対敵わないから」
「・・・・・・わかったっちゃ」

 大丈夫かな? 念の為、衛星に遠くに運んでもらってから金縛りを解いてもらおうか。

『タマちゃん、このロザリーさんを除いて、マーメイド達を沖まで連れて行ってから解放してくれる?』

『Sir, yes, sir』

 俺とユーとロザリーさんを除いた全員が宙に浮くと、そのまま沖まで浮遊して行った。

「ななななな」
「大丈夫。念の為、沖まで運んで解放する予定だから。それより、無理やり来てもらって不快な思いをさせちゃったから、何か困ってる事があるんなら手伝ってあげるよ」

 経緯はどうあれ、僕自身が迷惑を被ったわけじゃないからね。
 漁村の人達とも協力関係とまでは行かないだろうけど、最低でも不可侵な関係であってほしいから少しでも悪感情を取り除いておきたいもんね。

「に、人間の協力などいらんっちゃ!」

 仲間が浮遊して行く様を見ていたロザリーさんだったけど、手伝うという言葉に反応して俺を怒鳴って来た。
 でも、全然迫力を感じないので、俺としても喚く子供をあやすように対応できた。
 うん、ビビリの俺がここまで普通に対応できるって、ホント見た目のイメージって大切だね。
 本当は凄い実力の持ち主かもしれないけど、見てないから分からないしね。さっきのユーとのやり取りも見えてないしー。

「遠慮しなくていいからね。無理やり集めたお詫びも兼ねてるから」
「人間の力など借りないっちゃ!」
「何かあるんだね?」
「あっても人間にはどうする事もできないっちゃ! 人間がリヴァイアサンに敵うはず無いっちゃ!」
「リヴァイアサン!」

 俺が言おうとしたら、先にユーに言われてしまった。
 そりゃ、ゲームじゃ定番のボスだからね。味方になったり敵になったり、よく登場する水系の大ボスだよ。

「エイジ! 行こう!」
「行こうって・・・リヴァイアサン退治?」
「そう!」
「いやいや、待って。船も無いのにどうやって・・・・・・」
「船ならあるっちゃ」
「ホント! どこどこ、どこにあるの!」

 おいおい、人間に協力しないんじゃなかったのかよ! なんでユーの前でそんな情報を言っちゃうんだよ!

 俺は海の幸を獲りに来ただけなのに、どうしてリヴァイアサン退治に行くはめになってんだ? どこでどう間違った?
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