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第12章 二つ目の地域制覇へ

第20話 また従者?

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 その日は村の中に簡易小屋シンプル・バンガローを出してユーと一泊した。
 村長の家に誘われるかと思ったが、「海神様を泊めるだなんて滅相もねぇづら!」と、拒否されたのだ。
 この村の家々には風呂が無いようだし、俺達としても簡易小屋シンプル・バンガローの方が良かったのでちょうど良かった。

 因みに、代表して話してた男がこの漁村の村長だった。


 そして迎えた翌朝。
 男衆を引き連れ海へと繰り出した。
 メンバーは昨日海に出た男衆全員。
 乗り込む船は四~五人乗りの手漕ぎの小船だ。
 よくこんな船で魔物に立ち向かうもんだと感心してしまうが、内海に入ってくる魔物は小物ばかりだそうだから、転覆させられた事はあっても死んだ人間は今まで出てないそうだ。

 武器は銛と魔法。
 海辺に住む人達だけあって、水系や氷系の魔法を得意とする人が多いようだ。
 少ないが風魔法を使う人もいるみたいだ。

 こんな小さな漁村なのにと意外に思ったけど、ここは魔法と魔物のいるファンタジーの世界。
 今更だけど、そういうもんだと納得させられたよ。

 それはさておき、目的のぬしだな。
 村長の要望としては『服従させろ』だったね。
 俺としては衛星が退治してくれるのが早くて面倒が無いんだけど、住んでる人達の要望は聞いておかないとね。

 で、昨夜、タマちゃんに頼んでおいたんだけど、ちゃんとお願い通りにやってくれたかな?

「海神様。そろそろぬしの縄張りに入るべや」

 腰の引けた村長からそう伝えられた。
 村長だけでなく、村民全員が逃げ腰になっている。やはりぬしは怖いんだろう。

 だったら付いて来なくていいのに。と思わなくも無いけど、俺――海神様が行くのだから付いていかなければ。と思ってくれているのかもしれない。
 それとも、俺――海神様がいるのだから安全だと思っているのか。それとも、昨日の魚料理を食うために頑張るとか思ってる人もいるかもしれないね。それほど、昨日の魚料理にはカルチャーショックを受けてたみたいだからね。
 おかわりが無いと分かった時の村民達の落胆と言ったら凄まじいものがあったからね。

「皆の衆! 魚料理のために気張るだべー!」
「「「おお!!」」」

 ……魚料理のためだったようだね。
 人間って、美味いもののためには命を張れるんだね。

 そう感心した時、男衆の鬨に触発されたのか、目前の海面が異様に盛り上がった。
 ここは内海だから波も静かなものだ。そうでないと、こんな小船では進む事さえできないのだから。
 そんないつもは波の静かな海面が急に盛り上がったのだ。元々ぬしの縄張りに入ったと分かってる面々が慌てないはずがない。

「オラやっぱり無理だべー!」
「オラも無理だべ、船を戻してけろー!」
「んだんだ! 皆、戻るべー!」
「ならねぇだ! ここには海神様もおるだで大丈夫だ!」
「んだんだ、海神様はぬしの親玉だべ! なーんも心配いらねぇづら!」
「すったらごと言うけんど、間違いねぇのけ!?」
「昨夜、皆で話し合った結果だべ! 今更グダグダ言うでね!」
「それは、そうだども……」

 昨夜、作戦会議でもしてたのか。
 俺は呼ばれなかったけど(畏れ多いとか言ってね)、村民達の意志は団結してたんだね。

「おめたづは、あの海神様の魚料理を食うっつったべ!」
「「「んだんだ」」」
「だったきや、ここで踏ん張れや!」
「「「オオ!!!!」」」

 やっぱり食って大事なんだな……

 ザザーっと大波を立てて現れたのは、海の魔物の王者として定評のあるクラーケン。タコのようなイカのような足の多い軟体生物のデッカイやつだ。
 どっちかっていうとタコに近いかな。
 というか、魔物と対峙するのって久し振りなんで、結構興奮してる。
 今までだと初めに出会った池の畔とクラマと第二章の初めぐらいだ。
 あとは、魔物の解体済みの死骸か、従者になった奴らぐらいだから、こうやって対峙するって何か新鮮かも。

 なんで、ビビリの俺がこんなに落ち着いてるかって? そりゃ、隣に元勇者のユーがいるからだよ。
 何かあっても今のユーなら簡単に対処してくれそうだもん。
 それに、昨夜のうちにタマちゃんにも伝えておいたんだ。

 『主をこちらに協力的な奴にしてくれ』って。

 魔物を従者にするのは少し抵抗があったけど、それも今更な話しだし、海ならば利用価値もありそうだしね。
 だから、今のこいつは俺の従者になってるはずなんだけど……

『鑑定』

――クラーケン(海魔族):LV83 ♀ 291歳
  HP:622 MP:813 ATC:651 DFC:686 SPD:430
  スキル:【墨噴射】【結界】【多足槍】【海流】【眷属操作】
  武技:【足技】Max
 魔法:【水】Max
 称号:入り江のぬし エイジの下僕しもべ


 いやぁ~、久し振りにレベル二桁のボスクラスを見た気がする。最近三桁ばっかり見てきたから、なんだか逆に新鮮な気がするよ。
 俺よりステータスの低いボスも初めてな気がする。
 でも、海の中限定だったら、俺なら即負けなんだろうけどね。だって、海で使えるスキルなんて持ってないから海の中で戦うだけで負け確定だよ。


 格好良く? ザザザーっと現れたクラーケンだったが、その場から一切動かない。
 ユーには事情を説明していたし、すぐに鑑定もしたのだろうからユーも動く気配は無い。俺の従者だと理解してくれたんだろう。

「かかかかかか海神様ー!」

 逆に事情を知らない村民達は、あわわあわわと狼狽えるのだったが、ここは海の上。しかも小さな小船にはどこにも逃げる場所なんてない。
 突然というか、予想通りというか、入り江の主が現れてパニックに陥る村民達。彼らには入り江の主に対して対抗できる手段などないのだから。

『タマちゃん、このクラーケンにはどうやって命令すればいいんだ?』
『普通に話せば理解します。念話でも通じますが、今は声に出して命令した方が周りの人間を安心させられるでしょう』

 念話って、こいつに念話能力はないんだけど。俺の下僕しもべになったから意思疎通ができるようになったと解釈していいかな。

「クラーケンよ、今からは人間に危害を加えてはいけない。わかったか」

 俺の問い掛けに、一本の足を高々と挙げて答えるクラーケン。
 次に、昨夜タマちゃんから聞いていた内容について確認した。

「お前はここのぬしではあるが、あるじは別にいたのか?」

 そう、タマちゃんが言うには、クラーケンは誰かの命令でこの入り江を封鎖していたようなのだ。
 その誰かは現在捜索中らしいのだが、一晩衛星が捜索しても見つかっていないらしい。

 二つ目の問いにも足を一本高々と挙げて答えるクラーケン。タマちゃんの言っていた事は正解のようだ。
 だったら、直接こいつにあるじの事を聞けばいいんだ。

「そいつは近くにいるのか?」

 クラーケンは足を一本高々と挙げて、二本目の足で方向を示した。
 その回答に即座に反応したのは衛星達だった。クラーケンの示す方向に十の衛星が一斉に飛び立った。

「海神…様……?」

 当然、衛星は俺以外の誰にも見えていない。それは従者となっているクラマやマイアやユーにしても同じ。
 それ故に、これまで何度も呪いだとバカにされ続けてきた。
 だから、そうならないように今回も衛星の事は伏せておく。

「ん? なに? なにも無いけど?」

 衛星の飛び去った方角へ向けてた視線を問い掛けて来た村長に移した。

「入り江のぬしは……」
「ああ、そっちね。それなら大丈夫。今、聞いてたでしょ? もう人間を襲ったりしないから安心して漁をすればいいよ。なんならあいつに手伝わせようか? そうだ、手伝ってもらえばいいんだよ。絶対大漁間違いなし!」
「手伝う……づらか?」
「うん、こいつって【海流】ってスキルを持ってるから、魚をこの入り江に集めさせる事ができると思うんだよね。そうして集めさせて、投網で一網打尽にすれば魚なんて取り放題だよ」
「おぉ…おお……おおおおお!! 魚料理の取り放題づらか! まんず美味そうづら!」

 いやいや、魚料理じゃなくて魚の取り放題ね。気持ちは分かるけど、先走りすぎ!

「でも俺は漁業に関しては知らない事が多いし、誰か代わりに指揮を執ってもらわないとね。村長さん、追い込み漁ってのがあるんだけど知ってる?」
「当たり前ぇだべ。オラこの道五十年だべ」

 釣具も知らないのに、よくそんなに自信満々に言えたもんだね。でも知ってるなら話は早い。後は村長さんに任せよう。

「じゃあ、今からこいつに命令するから、後は村長さんに任せてもいいかな?」
「了解づら。だども、オラたづの言う事も聞いてくれるんだべか」
「うん、それも命令しておくよ。村長さんか、村長さんの指名した人の命令を聞くように言って聞かせておくよ」
「そりゃ有り難てぇべ。こっだら味方がいると百人力だべ!」

 クラーケンを見上げて満面の笑顔を作る村長さん。
 敵だった時は恐怖の対象でしかなかったけど、それが味方になると頼もしい限りなんだろう。
 でもね、村長さん。百人力どころでは無いと思うよ。あんたが百人いてもクラーケンは倒せないからね。

 村長さんの前で宣言通り村長さんか村長さんの指名した人の命令を聞くようにクラーケンに命令した。
 足を一本高々と挙げて了解を示した後、村長さんの指示に従って沖へと向かうクラーケンだった。
 沖へ向かうクラーケンを見送った後、村民達はUターンして桟橋へと向かう。行き先は桟橋より奥の河口近くにある岩陰に隠れた場所で、そこは波も立たずに岩に囲まれている、生け簀にするにはちょうどいい場所だった。

 ならば、先日渡した投網を広げて海底に敷き詰め、魚が来れば一気に引き上げれば大漁となる準備を行なうのだった。

『―――報告。クラーケンの親玉を確保しました。殺しますか? 排除しますか? 抹消しますか?』

 最近よくあるけど、なんなんだよその三択は! 全部同じ意味だから! しかも物騒だし!

『殺しません! 拘束でお願いします。話せる奴なら、会って話も聞いてみたいし。どんな奴か知らないけど話せる奴なんだよね?』
『チッ。では、拘束します。人間の言葉を理解し話せる魔物です。どこで会いますか?』

 なんか舌打ちした!? 最近よくするよね? 何が気に入らないの? 俺の事を超武闘派だと思ってない?

『どこでって、ここじゃダメなの?』
『ダメではありませんが、少し数が多いもので』
『数が多いの!? でも、クラーケンのあるじなんだよね? あるじって一人じゃないの?』
あるじは一人ですが、あるじ一派というか種族のようなものがいます』

 種族!? それを、まんま拘束してんの!? そんな事できんの!?

『だったら、俺がそこへ行くよ。案内できる?』

『Sir, yes, sir』

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