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第10章 新たなる拠点作り

第18話 なんの競り合い?

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「エイジ様?」
「あ……ごめん。ちょっと嬉しくて」

 あまりの感動に泣いてしまってた。
 だって、もう二度と戻って来れないと思ってたのに、戻って来れたんだもん。誰だって泣くだろ。

「俺は一度家に戻ってみる」

 そう言って走り出したんだけど、すぐにアッシュに後ろから抱きかかえられて、そのままアッシュが飛んだ。

「こっちでいいのね?」
「あ、うん。頼むよ」

 なんだろ、アッシュの気遣い? 少し怖くなって、その分頭が冷めた。

「いいのよ、私だってエイジ様の役に立って丸薬をもらわないとね」
「あ、ああ、そだね」

 本気なのか冗談なのか分からないけど、九割は本気だろうね。
 丸薬と言えば、また溜まってるんだろうな。
 市場には流せないから溜まる一方なのに、ドンドンと拡張させてたからな。超希少なマンドラゴラにアルラウネだから張り切る気持ちは分かるんだけど、これ以上作っても意味がない所まで来てると思うのは俺だけだった。
 マンドラゴラにアルラウネを担当している二人の精霊、ベルデとヴェールなんか、マンドラゴラにアルラウネの世話をすると格が上がるとか言ってずっと世話してたもんな。
 だから、マンドラゴラにアルラウネの専用畑から出てこないので、ほとんど話をした記憶が無い。
 それでも、精製した薬は邪魔だからと妖精を使って俺に届けさせてたよな。また、山ほど在庫があるんだろうな。


「あそこだよ。あの家の前で下ろしてくれる?」

 我が家だ。今はクラマ、マイア、ユーと住んでる我が家だ。戻って来れたんだ。
 そうだ! 皆はいるのか? 俺がいなくても住んでてくれてるのか?
 ドアを開けて家へと入る。鍵は掛かってなかった。
 家には内からかける鍵はあっても、外からかける鍵は無い。もし、閉まってるんなら中に誰かがいるはずだ。
 外出時? 鍵なんてかけないよ。ここまで来れる人なんて【星の家】の子達ぐらいだからね。あと、精霊もいるか。だから鍵をかける必要なんてないんだよ。

 どんなド田舎だと思われそうだけど、クラマやマイアが鍵なんて持つと思う? ド田舎なのは否定しないけど、外出時でも鍵は開けっ放しなんだ。
 家にいる時は、ね。寝てるとこを見られるのは恥かしいから掛けるようにはしてたけど、掛け忘れる事の方が多かったと思う。


 家に入ると明かりは無く、真っ暗だった。誰の気配もしないし、留守のようだった。
 誰も帰ってないのか。これはこれで寂しいもんだね。俺がいなくなってから誰も帰ってないんだろうか。

「エイジ様? ここは?」
「ああ、俺の家なんだ。同居人が三人いてね、誰かいないかと思ってたんだけど、誰もいないみたいだね」
「ここがエイジ様のお宅……何も無いのね」

 ぐっ…確かに寝るだけだったしテーブルセットと寝具ぐらいしか無いよ。食事は【星の家】で摂る事が多かったから、ここでは偶にしか食べなかったしね。
 でもいいじゃないか、俺は帰って来てホンワリとしてるんだ。我が家に帰って来たって安心感みたいなものはあるんだから、それでいいじゃないか。

 せっかく戻って来たのでテーブルで茶の一杯でも飲んでから帰るか。
 アッシュにも上がってもらい、二人でティータイムだ。
 明かりは小さな蝋燭に火を灯しただけ。煌々と点けると後で戻って来た事がバレると嫌なんで小さな明かりだけにしている。

 すぐに戻らないといけないんだから、あちこち寄ってる暇は無いんだよ。
 どうせ、戻って来れる手段ができたんだから、いつでも戻って来れるしね。あっちの用を済ませてからゆっくり戻って来るよ。
 心配はかけてるだろうから、誰かに伝言を頼めればいいんだけどな。


 コンコン

 おや? 誰だ? ノックをするぐらいだからクラマやマイアじゃないだろうな。

「だれ? 開いてるよ」
「やっぱりー! やっぱりいたー!」

 ガラッ! と勢いよく開け放たれたドアの向こうには大声ではしゃぐプーちゃんがいた。

「エイジ様ー!」と言って文字通り飛んでエイジに飛びつくプーちゃん。
 マイアが初めに呼び出した三精霊のうちの一人だ。俺の知ってる限り、関わりのある精霊はその後に呼び出し二人と、衛星がトレントを集合させたヨウムの六人だ。いや、マイアも入れて七人か。
 マイアは今言った六人が束になっても敵わない精霊だからな。

 森の精霊マイアドーランセを筆頭に、そのマイアの喚び出した下位の精霊達。光のサンフェアリーのサーフェ、樹のドライアドのドーラ、氷のフラウのプーちゃん、後はマンドラゴラとアルラウネの世話係でドーラと同じく樹のベルデとヴェール、そしてトレントが集合してできたヨウム。ヨウムの場合はトレントの集合体という感じではない。衛星が全てのトレントを融合させて進化させたって感じだから樹の精霊って事でいいかな。

 ヨウムは広範囲で森を管理してくれてるから他の精霊より優秀に見えるかもしれないけど、ヨウムは動けないからね。その分をカバーするために他の精霊より出来る事が多いみたいだ。
 あっ、話が逸れてしまった。今はプーちゃんだね。

「プーちゃん! 久し振りだね。一人なの?」
「うわぁーん! エイジ様! エイジ様! エイジ様ー!」

 猛烈な勢いでエイジにダイブするプーちゃん。
 プーちゃんが小柄な事とエイジが無駄にステータスが高い事が合わさって、エイジが吹っ飛ぶような事にはならなかった。

「プーちゃん?」
「うわぁーん! エイジ様ー!」
「泣いてちゃ分からないよ、ね、ちょっと落ち着いて」
「うわぁーん!」

 一向に泣き止む気配の無いプーちゃん。どうしよ、このままじゃ話もできないな。

「エイジ様? このチンチクリンは何者? 邪魔ならつまみ出すわよ?」
 そう言ってプーちゃんの首を掴もうとするアッシュ。

「ちょ、ちょっと待って、邪魔じゃないから。久し振りの再会で嬉しくて泣いてるんだと思うからちょっと待ってあげて」
「チンチクリンとは誰の事ですか! まさかプーちゃんの事じゃないでありますよね!」

 振り向き様に反論をするプーちゃん。
 あ、泣き止んだ。ある意味アッシュのファインプレー?
 でも、プーちゃんはいつも言葉少ないのに、今日はよくしゃべるんだね。元々こういう性格だったのに隠してたのかな?

「私に張り合うの? 命知らずなのね」
「そっちこそ覚悟はできているでありますか! エイジ様の一の従者のプーちゃんが成敗するのであります!」

 おいおいプーちゃん。アッシュはステータス上ではマイアより強いんだぞ? 煽るんじゃないって。

「待ちなさい! 一の従者は私よ? 勝手に名乗らないで!」
「違うのであります! 一の従者はプーちゃんであります!」

 おいおい、お前達。一の子分みたいに言ってんじゃねーよ! そんな事言ってたらクラマかマイアが出て来るぞ。一番目という意味ならクラマだからな。

「そんなのどっちでもいいから、今の状況を教えてよ」
「どっちでもよくない!」のであります!」

 息ピッタリだな。相性良いんじゃね?

「あなたは精霊なのね。確かに私とは相性が悪そうだけど、それっぽっちの実力では大したハンデにはならないわよ? 撤回するなら今のうちよ」
「あなたは悪魔なのでありますね! 撤回はあなたがするのであります! プーちゃんが一の子分であります!」

 もう子分って言っちゃってるよ。
 悪魔は精霊に対して弱いのか? なんか、そういう話も聞いた事あるような無いような。
 でも、今は先にこの騒ぎを治めようか。面倒だけど時間も限られてるわけだし仕方ないな。はぁ、なんでこんな事になんのかね? 面倒くさいなぁ。

「はぁ、プーちゃん、マイアに告げ口するぞ? プーちゃんが一の従者だって言ってたって」
「ちょちょちょっちょーっと待つのです! マイア様はもちろんですが、クラマ様にも言わないでほしいのであります! お仕置きされるでありますー!」
「だったら、まずは落ち着いて、皆がどこにいるのか教えてくれない? アッシュも。マイアが丸薬やMP回復薬を作ってくれてるんだぞ? アッシュが一の従者だなんて言ってると知れたらもう作ってくれないかもしれないな」
「そそそそそれはダメよ! 二でも三でもいいから丸薬はいるのであります!」

 おいおい、口調が移ってるよ。そこまで動揺しなくてもいいだろうに。

 ようやく二人を黙らせて、プーちゃんから皆の現状を聞けた。

 あれから―――俺がいなくなった日からクラマとマイアはここには戻ってないそうだ。俺を探すために各地を回ってるようだ。偶に俺が戻ってないかヨウムに連絡はしてるそうなので、そうじゃないかという事だった。
 ユーは独自に元勇者の立場を利用して、領主様や王都などをロンド姉弟と共に回っているとの事。クラマやマイアは魔物に精霊だから人間世界はユー達の担当という事だった。
 他の精霊や【星の家】や【星菓子】の人達は、俺がいつ戻って来てもいいように、今まで以上に励んでるそうだ。
 【星の家】周辺の畑の収穫もとんでもない事になってるみたいだし、それに乗じて小麦粉などの加工品の在庫もこの先五〇年分はあるようだ。五〇年分―――【星の家】の分ではなくフィッツバーグ領の住民全部の分らしい。

 回復薬等も半端なくマンドラゴラとアルラウネの秘密の畑の拡充も大変な事になってるようだ。
 マイアと出会った池周辺が全て秘密の畑に変えられたらしい。もう秘密になってないんじゃないかと思うんだが、元々普通の人間では辿り着けないほど難易度の高い森にあったし、今ではヨウムのお陰もあって辿り着ける人間は皆無だろう。
 だからといって際限なく畑を広げるのもどうかと思うが……
 しかし、あまり足を運んでなかったとはいえ、そんな事になってるとは知らなかった。と思って聞いてみると、俺がいなくなってから広がる速度が上がったのだとか。
 いなくなって、まだ十日も経ってないだろうに……それに俺は全く望んでない案件なのに。

 だって市場に流せない薬なんだよ? 在庫も貯まる一方で、喜ぶのは悪魔達だけなのに。

「そういえばヨウムは俺がいた事に気付かなかったのかな」
 そんな疑問にはプーちゃんが答えてくれた。

「そうなのです。プーちゃんもエイジ様を見つけたのは偶然だったであります。いつものように畑の見回りで飛んでると偶然見つけたであります。エイジ様の気配は感じられなかったであります。今までだったらご主人様のエイジ様の気配は近くにいれば分かったでありますのに、おかしいであります!」

 へぇ、そんなのを感じられてたんだ。こっちからはどうなんだろ。
 そう思ってヨウムに問い掛けようと思ったけど、また長くなりそうな気がしたから別の者に切り替えた。

『ノワール!』
 いつもノワールを呼ぶ時と同じく、心の中で強く念じてみた。

『おおおおおおおお!! 主殿かー! どこにおられるのかー!」

 うるさい……

 でも、今までだと何処にいても呼び掛けるだけで現れてたのに、俺の位置が分からないような返答だな。

『家だけど……』
 と答えると、即座に返事が来る。
『すぐに参ります! 絶対にその場を動かぬようお願いいたしまするー!」
 相変わらず暑苦しい。
 天馬は三頭いるが、全員がこのように暑苦しい話し方なのだ。話せなくてよかったと思うが、念話でも暑苦しさは変わらない。

 待つ事、二〇秒。
 ブルルルル。と嘶きを上げてノワールが到着した。
 どこにいたの? 超早いんだけど。

『おおおおおお!! 何処におられたのかー! このノワール、心底心配しましたぞー!』

 時間も無いので暑苦しい挨拶はスルーだ。

「ちょっと事情があってね、今は神様? の要請で動いてるんだよ。それで移動するのに困ってるんでノワールにも来てもらえないかと……」
『当然でござる! もう主殿とは離れないでござるよ!』

 ござるって、お前は武士か!
 でも即答してくれたのは嬉しい。じゃあ、時間も無い事だし、さっさと戻るか。

―――――――――――――――――――――――――――

 自転車でこけました。
 身体中、打撲と擦り傷で痛いです。
 特にこける時に右手をついたので、右手の親指以外の四本の指が超痛いです。キーボード操作もキツイです。
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