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第3章 西の大陸
第05話 旅支度
しおりを挟むまた二部屋にするのを忘れてた。
仕方がないので、昨夜同様に川の字で寝るのだが、ソラとココアの二人は寝つきがいい。すぐに寝息を立てている。
私は寝なくても構わないのだが、やはり精神的には寝た方がいい。体力的にはもつのだが、寝た方が頭がすっきりする。
昨夜は久し振りのふとんという事もあり、しっかりと熟睡できたので凄く気持ちのいい朝だった。今日も宿で寝れるのだからしっかりと寝るつもりだ。
そして今日の反省をしっかりとしてから寝る予定だ。
しかし、この二人。いくら男が私だけとは言え、無防備すぎるな。
いや、何かしようという気持ちも無いんだが、ソラもココアも意外と発育してるのだ。
いやいや、変身なのでどうとでもできるのかもしれないが、なぜこの年齢に変身するのだろう。人間に換算するとこのぐらいの年齢なのだろうか。
変身ならばもっとグラマラスにもなれそうだし、もっと子供にもなれるのでは無いかと思うのだが……
何を基準にしてるのだろうか。
こんな事を考えてる場合じゃない、反省会だ、一人反省会。
本当なら、参謀のような仲間がいて複数人で反省会をするのが希望なんだが、ソラとココアではなぁ。
ソラとは反省会にはならないだろうし、ココアも優秀ではあるのだが、『ご主人様の思い通りに』とか『ご主人様のおっしゃる通りです』とかで話し合いにならない。
参考になる意見をくれる事も多いが、話し合いにはならないのだ。
「あー、仲間かぁ。参謀役ができる仲間がいればなぁ」
つい、ぼやきが入って口から出てしまった。
元の世界では独り言が多くなってきたと思っていたが、この世界に来てからはあまり無かったのだが。
―――スキル【仲間】起動します。
なっ! なんだって?
『【那由多】、今なんと言った?』
―――スキル【仲間】起動しました。
またか! 気にはなっていたんだ。スキルにあるが何も言わないと。
『それってあれか、【那由多】の時と同じなのか。
―――スキル【仲間】は【東の国】では起動できませんでした。妨害されていたようです。
『妨害って、誰にだ?』
―――分かりません。しかし、西の大陸に来ましたので、無事起動完了しました。
『起動完了って、この大陸に来てから、もう結構経つぞ?』
―――キーワード『仲間』を確認しましたので起動しました。
言ってなかったか…言ってそうな気もするが、【那由多】が言ってないって言うんだから言ってないのだろう。
『それで? スキル【仲間】とは?』
―――戦って倒した相手や名付けた相手を仲間にするスキルです。詳細は……
纏めるとこうだ。
【達成条件】
・仲間になるか? と、声を掛けて尋ねる。(五%)
・体力を削る。削れば削るほど仲間になる確率が上がる。(五~九〇%)
・物をあげる。その魔物にとって価値のあるものほど確率が上がる。(五~五〇%)
・魔物にしか使えない。
・同じ種類の魔物を仲間にする場合は確率が上がる。(一体増やすごとに五%上昇)
魔物にしか使えない時点でアウトな感じはするが、ソラやココアのように話せる者もいるかもしれないな。
もし、話せる魔物がいれば試してみよう。話せるのだから頭もいいのだろうし、参謀役ができる奴もいるかもしれないしな。話せない魔物には使わないように気をつけないとな。
だが、一度仲間にして、役立たずだったら取り消しは出来ないのだろうか。
『【仲間】スキルで仲間になった魔物を仲間から外すにはどうしたらいいんだ?』
―――できません。
うっ、それは困ったな。これは頭が悪い魔物を仲間にしてしまったら悲惨な目に合いそうだ。しっかりと見極めないと、だな。
あと、もう一つ気になってるスキルがある。【変身】だ。これも声に出さないと起動しないのか。
仕方が無い、言ってみるか。
二人を起こさないように小声で言ってみた。
「【変身】」
……
……
……
違ったのか……誰も聞いてないけど恥かしい……
『【那由多】、【変身】のスキルについて教えてくれ』
―――触れた人に変身できます。
ほぅ、それは凄いな。場合によっては便利なスキルかもしれないぞ。
―――レベルが上がれば装備の再現までできます。
レベル? 【変身】はスキルだから私のレベルの事か。服の再現までとは凄いな、再現が出来なければ裸というわけでもあるまい。元着ている服がそのままなんだろうな。
―――変身時間は五秒です。
ご、五秒? そんなんじゃ何の役にも立たないぞ。
『レベルが上がれば変身時間が増えないのか?』
―――増えません。
ダメだ、役立たずのスキルだ。こんなの持ってても無駄だな。そんなスキルもあるのが分かっただけでも良かったと前向きに捕らえよう。他のスキルにいいものが沢山あるんだから。その内、使い道があるかもしれないしね。
使うだけでダメージを食らうとかレベルが下がるとか、そんなマイナススキルなんかもあるかもしれないし、私の場合は使わなければいいだけだからな。
次は今回の依頼も含めて場所の確認だ。
まず、この町の名前はロンレーン、西の大陸の最西に位置する国の一都市だ。
ここより西にも陸は続くが町は無い。私達が【東の国】より飛ばされて来た祠もその西側にある謎の石碑もそうだったな。
三つの依頼を受ける事になってしまったが、その三つ目の依頼にこの西側が関係するんだったな。
初めに戻って一つ目の依頼が火龍だったか。この世界に来て龍はまだお目にかかったことは無い。
やっぱり物凄く大きくて物凄く強いのだろうか。今まで戦った中で、強敵だったのは虎刀牙かデュラハンのいずれかには違いない。どちらも強かった。
だが、私達は勝ったし、怪我もしなかった。結果だけ見れば圧勝なのだが、その虎刀牙やデュラハンよりどのぐらい強いのだろうか。
できれば、一度様子を見てから対策を立てたいのだが、偵察できたりするのだろうか。
周辺探索で遠くからでも強さはわかるが、それはあくまでもステータス値だと思う。スキルや熟練度でステータスの差などひっくり返されないか、非常に心配だ。
二つ目はケルベロスだったな。だが、まずは火龍からだ。ケルベロスの事は火龍の件が終わってからにしよう。
それと移動だな。この世界の人達はどうやって移動しているのだろう。
入門待ちの列で馬や馬車は見かけたが、それだけなのだろうか。
野宿はどうしてるのだろうか。場所の確保や寝具についても確認したい所だな。
他の冒険者がどうやってるのか知りたいな。誰か……『永遠乙女』はどうだろうか。一晩だけでも一緒に野営を頼めないだろうか。
明日は野営道具も揃えに走り回るか。
なら、明日は寝袋があれば寝袋を。無ければ毛布か、その代わりになる魔物の毛皮か。
どうせ明日も冒険者ギルドに行くのだ。無理やり依頼を受けさせたアラハンさんに無理を聞いてもらおう。
翌朝は、部屋で朝食を摂り、すぐ様冒険者ギルドに向かった。
何時から何時まで営業してるのか聞き忘れたが、開いてなければ人目を避けて料理の作り置きでも作って時間を潰せばいい。
収納はまだまだ入るし肉もある。容器が心許ないので、今日買い足しておこう。
冒険者ギルドに着くと、既に入り口は開いていた。
ここって閉まる事はあるのだろうか。
中に入るとリルリさんが受付にいた。
この人、いつもいるが、何時から何時まで働いているのだろう。休みはあるのだろうか。冒険者ギルドとは、まさかのブラック企業とは言わないよな。
かく言う私も昭和時代は週休一日だったし、日曜出勤が絡めば平気で半月ぐらいぶっ通しで働いてたものな。
今では週休二日に身体が慣れてしまって、今同じ事をしろと言われてもできないだろうがな。
そんな事を考えつつ、リルリさんと挨拶を交わした。
中はいつも来る時間より非常に賑わっていたが、受付に並んでる人はあまりいなかったので、すぐに挨拶できた。
ギルマスは? と聞くと、いらっしゃいますよ、どうぞ。と軽く言われたので、いいのか? と戸惑いつつも奥へと入って行った。
もう四度目だ、場所は分かるが案内なしで入ってもよかったのだろうか。
ノックをして入るとアラハンさんと秘書のマリオンさんがいた。既に仕事中だった。
この人達もいつ休んでるのだろう。
挨拶を済ませ、すぐに本題に入った。
「場所を調べたのですが、結構遠いですね」
「そうですね、馬車で一週間という所でしょうか」
「まだ冒険者になって三日目なのでよく知らないのですが、そういう長距離の時って皆さんどうやって移動してるのでしょうか」
「移動ですね、移動は基本徒歩ですね。次に多いのが馬車です。馬車といっても冒険者で馬車を持ってる人はほとんどいませんから、商人が輸送する馬車に護衛として付くか、お金を出して同乗していますね」
徒歩か馬車なのか。馬はどっちみち乗りこなせないだろうし、馬車もそういう意味では同じだ。
「どなたか、ヴァルカン山方面に行かれる商人に心当たりはありませんか」
「今はいないと思いますね。途中までも厳しいでしょう」
そういう時期なのか? まったくいないのだったら徒歩しかないか。
「ヴァルカン山の火龍のせいで、今は北へ向かう商人があまりいないのです。今回はそのための依頼でもあるのですよ」
そうだったのか。確かに普通に考えてそうだな。危険な方には誰も行きたくはないからな。
「もうひとつ伺ってもいいですか?」
「ええ、今回は高難度の依頼を快く三つも受けて頂いたのです。何でも聞いてください」
快くは受けてないんだが。アラハンさんに煽られてココアが乗せられてしまっただけだ。策士アラハンさんに嵌められたんだが、今思うと頭に来るな。ここはいい情報を引き出してチャラにしてやる。
「では、野営が得意な人、若しくはパーティを紹介してもらう事はできますか? 私達は我流なので、もっといい野営方法があれば教えてほしいと思ってるんです」
「それであれば『永遠乙女』さんは如何です? 彼女達、昨日から西の森の調査をお願いしてますが、寝る時は森から出たすぐの所で野営をしてるはずですよ」
昨日から朝早くからの依頼ってそういう事だったんだな。
「でも、急に行っても迷惑じゃないでしょうか」
「大丈夫だと思いますよ? 冒険者は単純で明るい方が多いですし、見張りは多い方がいいでしょう。彼女達はあなた達の事を気に入ってたようですし、問題ないかと思いますよ」
ま、見つけられればですがね。と軽く紹介するアラハンさん。
遠まわしに冒険者は単純バカって言ってるように聞こえるが、あえてスルーしておこう。
本当にいいのか迷ってしまうが、他に伝手も無いし、一度行ってみようか。どういう風に野営をするのか知りたいしな。
「そういう野営の道具を取り揃えているお店もあるのですか?」
「ええ、もちろんあります。この通りを門に向かって行き、門に突き当たったら左の通りを行けばそういうお店が何軒かありますね」
何軒もあるのか。固まってあるんなら一軒で済まさず全部見るつもりで回ってみるか。
昨日、最後に出して行った分の精算金を受け取り町に出た。
もう相当お金持ちになったが、使い道が無いのでどうも実感が湧かない。通貨も硬貨で馴染みが無いし、こういう時は高価な物を買うと実感が湧きそうだな。
で、その高価な物が思いつかないのだが……家ぐらいしか思いつかないな。
昨日の最後に出した精算金を受け取り、アラハンさんに教わった店に向かった。
馬車を買うのも手ですよ、お金は沢山持ってるでしょ。と馬車屋まで教えてくれた。
確かに持ってるが、馬車が使い捨てになりそうだから勿体無いと思ってしまう。
貧乏性なのかもしれないが、走っても馬車より速いと思うんだ。走るのも慣れたしな。
店では寝袋があったので購入しておいた。二枚革になっていて、外は固めの革で、内側は手触りのいい革だった。何でも、Cランクの魔物の皮で、この店自慢の逸品だそうだ。それなりに高かったが、金貨十枚程度なら私の懐はビクともしない。一つ日本円で百万円か、ふっ、大した事ないな。
他にも野営に必要そうなものを購入した。購入したものは収納バッグのフリをして【亜空間収納】で収納する。
店主は驚いていたが、購入代金をさらっと支払っているので、すぐに納得の表情を見せた。
馬車屋も折角教えてもらったので寄ってみたが、なんとなく食指が動かなかった。
馬車は快適そうには見えないし、馬も速そうには見えなかったのだ。
ここまで来たついでと、また鍛冶屋に行こうと歩いていると、大きな工房が目に入った。
何の気なしに見ていると、これだ! と目に止まるものがあった。
すぐ様工房に入って行き、それを確かめた。
それは小屋だった。
小さな小屋で、日本だとプレハブのような、窓付き物置のような、簡易小屋のような感じのものだった。
大きさは横三メートル、奥行き三メートル、高さ二メートル程度の小さな小屋だったが、三人寝るには十分な広さが確保できる大きさだった。四畳半は楽にありそうだ。中で料理はできないが、食事ぐらいはできるだろう。
これはいい! これを少し改良すれば野営に使えるのではないか?
小屋の周りをグルグル回っていると、工房の奥から声を掛けられた。
「兄さんに譲ちゃん、あんたら何しとるんじゃ」
ソラやココアより少し背の低い白髪のお爺さんが奥から現れた。
ただ、背は低いが横幅はソラとココアが並んだ分ぐらい幅が広くガッチリしていて口髭も顎鬚も凄い。
この工房の主だろうか。
「あ、すいません、勝手にお邪魔してます。この小屋がとても気に入ってしまって」
「ほぉ? この小屋がのぉ。気に入ってもらってなによりじゃ。じゃが、お前さんにゃ手が届かんかの」
高いのか? こんな小さな小屋が?
「えーと…おいくらぐらいするのでしょうか」
「そうじゃの、まだもう少しいじるが、完成したら金貨五〇枚というとこかの」
日本円で約五〇〇万円。確かに高いが今の私なら余裕だ。
「もう売り先が決まってるのでしょうか。決まってないのでしたら譲って頂きたいのですが」
「お前さん、儂の話を聞いとるか? 金貨五〇枚じゃぞ?」
「ええ、大丈夫です。それで売って頂けるのでしょうか」
「まぁ、こりゃ儂の趣味で作っとるようなもんじゃから構わんが、本当に金貨五〇枚じゃぞ?」
「ええ、お願いします」
本当に買うとは思われてなかったのか、金貨五〇枚を出すと「本当じゃったか」と驚いていた。
売るために作ってたのではないのか? なぜ言い値を払ったのに、そんなに驚かれたのか不思議でならない。
今から仕上げをするから時間をくれと言われたので、その間に鍋や皿や布団を買いに回った。寝袋も肌触りがよかったのであれでもいいんだが、折角の小屋だし、寝具を買い揃えた。
高い寝袋だったが、一度も使わずに死蔵してしまうかもしれない。
買い物を終え工房に戻ると、さっきのお爺さんが小屋の前で待っていた。
「できましたか?」
「おお、会心の出来じゃ。お前さんにも気に入ってもらえるじゃろう」
もう十分気に入ってるんだが、まだ何かあるんだろうか。外見はさっきと変わりないようだが。
「あんたの……まだ名前も聞いとらんかったな。儂はこの工房主でニーベルトと言うんじゃ。今は息子や弟子に本業を任せて、儂は趣味を楽しんどる。この小屋も儂の趣味じゃ」
「そうでしたか、素晴らしい趣味をお持ちなんですね。よろしくお願いします、ニーベルトさん。私はタロウ、こっちがソラで、こっちがココアです。最近冒険者になったばかりの駆け出しです」
本当に趣味で小屋を作ってたのか。冗談の上手い爺さんだと思ってたが本当だったのか。
「ほぅ、冒険者も景気が良くなったんじゃの。駆け出しでも金貨五〇枚をポンと出しよるようになったか」
「いえ、私達は偶々運が良かったので」
「まぁええじゃろ。まずは中に入ってみぃ」
どうやら仕上がった小屋を自慢したいようだ。
ニーベルトさんに促されるまま、小屋の中にお邪魔した。既にお金を払ってるので私のものだが、作り手のニーベルトさんが一緒だからお邪魔しますという気分になってしまった。
中に入ってみると、度肝を抜かれた。
「うおー! なんだこれは!」
「広いねー」
「これは魔法ですか?」
小屋の中の空間が異常に広いのだ。二〇畳ぐらいあるのではないだろうか。
外からの見た目と全然広さが違う。一体どうなってるのだ。
「ふぉっふぉっふぉっふぉ、驚いたかのぅ」
「はい、吃驚しました。何なのですか、これは」
「儂の趣味じゃ」
「趣味、広いー」
「趣味という魔法ですね」
二人とも、もう少し聞いてからにしようか。
「ふぉっふぉっふぉっふぉ、面白い譲ちゃん達じゃ。これはの、空間魔法で部屋の中を広げておるのじゃ」
おお、空間魔法だったのか。凄い魔法だな。
「ただのぉ、一つ問題があるのじゃ」
「問題? なんでしょうか」
今更欠陥なんて言わないでくれよ? 自分から欠陥とは言わないだろうが、理由によっては返品するぞ。
「この魔法は燃費が悪いのじゃ。ほれ、そこを見てみろ」
指された方を見てみると、角の柱に何か埋め込まれている。
「魔石なんじゃがの、この広さを維持しようと思うと、あれを一つ填め込んで、一晩しかもたんのじゃ。魔石の魔力が無くなると、元の広さに戻ってしまうのじゃよ」
柱を見ると確かに埋め込まれていたものは魔石だった。先日アクセサリー屋で売った魔石と同じぐらいの大きさだ。
あの大きさの魔石なら沢山あるし、もっと大きな魔石でも沢山ある。私にしたら困った問題では無いな。
「あの大きさの魔石が必要なんですね」
「そうじゃ、それも毎回いるのじゃ。それさえ解決すれば、もっと高値で売れるのじゃがの」
確か売値が銀貨十枚だったか。一泊一万円。そんなもんじゃないのか? いや、これは売値だから買値だったらもっと高いだろうな。
でも、それで野宿しないで済むのだったら安いものだ。しかも、私は魔石を沢山持ってる。これはいい買い物をしたな。
「凄く気に入りました。他もお願いしたいのですが」
同じ小屋を二つ注文した。一つはキッチン&ダイニングだけのものを。もう一つは風呂だけのものを作ってもらうように注文した。
お金も前金で支払い、内装分として金貨百枚を余分に取られた。
浴槽や大型コンロは高いそうだ。
浴槽にはお湯が出る魔道具も付けるし、大型コンロも魔石で使える魔道具だそうだ。
水廻り処理も小屋の中で完結できる排水処理用の魔道具も付けてくれるそうだ。
同じ排水処理魔道具は、初めの小屋にも付いていて、トイレで用をたしても後処理はなにもしなくても清潔なんだとか。
それは助かるな。今までは草むらの中だったからな。大の時は水魔法で洗い流して布で拭いてたが、物は埋めてたからな。これからも水で洗うのは同じだろうが、トイレの中で全てを流せるのは助かる。
最近では水魔法も上達してきて、温水洗浄便座みたいに、局部を洗い流せるようになってきた。本当に魔法が使えるようになって良かったとつくづく思ったよ。
今日の所は、仕上がった小屋を貰い受け、残りの二つについては後日引取りに来る約束をした。
ここでも収納バッグのフリをして【亜空間収納】に収納。ここで支払った金額もあり、ニーベルトさんは収納バッグ持ちだと簡単に信じていた。
【東の国】の武器屋のように割符は無かったが、ニーベルトさんなら誤魔化さないだろうと判断し、先払いのまま工房を出た。
私が小屋が気に入った事と、追加注文した事で、ニーベルトさんもノリノリだったから誤魔化すような真似はしないだろう。
野営の準備も整ったので、町を出て、『永遠乙女』がいると思われる西の森へと向かった。
今から向かうとちょうど日暮れ頃になるだろう。
周辺探索を使えば居場所も分かるだろうし、森の外に出てくれていれば、簡単に合流できるだろう。
問題は、一緒に野営してくれるかだが、アラハンさんには問題ないとは言われたが、こればかりは行ってみないと分からないな。
少し飛ばし気味に走ったので、予想より早く森の外縁に到着した。
森の中まで周辺探索で確認できたので『永遠乙女』の位置も既に確認している。まだ探索中のようだ。
だが、こちらに向かって来ているので、もう今日は探索を終えてそろそろ森から出てくるのではないだろうか。
時折、ひとつ所に留まり動きが慌しくなっているので、魔物と遭遇しているのでは無いかと思う。
地図に表示されている点の色は青色で、大きさはデュラハンの時より明らかに小さい。同程度の大きさの青点が五つ、思ったより点の大きさが小さいのに驚いている。この大きさだと、五人で束になって掛かってもデュラハンには到底敵わないのではないだろうか。オーガ相手でも危ないかもしれない。青点の場合は小さく表示されるようになっているのだろうか……
それならソラとココアは? 同じ青でも、デュラハンの倍ぐらいの大きさで表示されているのだが……彼女達が私の関係者、従者だから大きく表示されるのだろうか。同じパーティだからとか。
設定がよくわからんな。
少し待つと、予想通り『永遠乙女』の面々が森から出て来た。かなり疲れているように見える。向こうはまだ私達に気付いてないようだが、やはりここは私達の方が後輩なのだから、こちらから声を掛けるべきだろう。いくら年齢が倍ぐらい年上でもこちらから挨拶するべきだろう。倍以上かもしれないが、これからご教授頂けるのかもしれないのだ、手土産ぐらい持って行った方がいいだろう。
手土産と言っても、色々と購入したものと魔物と私の手作りの料理ぐらいしか持ってない。そこまで気が回らなかったので買ってきていない。この中からチョイスするしかないな。寝袋辺りはどうだろうか、いや、もうそれぐらいは持ってるだろうな。
「こんにちわー」
休憩している『永遠乙女』に声を掛けた。驚かせないように少し離れた所から声を掛けたのが悪かったのか、こちらに気付いてない。
いやいや、こういうのは緊張してしまうので、声が小さかったのかもしれない。
気付かれなかったショックもあり、今度はもっと近づいて大きな声で挨拶しよう。
「こんにちわ!」
!!!!!!
『永遠乙女』の面々に緊張が走り、臨戦態勢を取った。全員が武器を抜き、後衛職の人だろうか、すかさず投擲ナイフを連続で投げつけてきた。
そこまでショックだったのだろうか。それを見た私の方がショックなのだが。
「二点結ー」
ソラが箸……もとい式具を左右の地面に突き刺し、『二点結』と叫ぶ。
投げて来られた投擲ナイフが私達の目の前で、カカカカカカッ! と、音を立ててソラに張られた結界に当たり力なく地面に落ちた。
攻撃された事でココアも薙刀を出し、応戦体勢に入る。
いやいや、今のは余裕で避けれてただろ。という事は、ただの冗談だったのだろう。
ココアに薙刀をしまうように言い、『永遠乙女』に再び声を掛けた。
「すいません、驚かせてしまったみたいですけど、そんな冗談は危ないですよ。ゆっくりでも刃は刺さるのです、怪我をしたら大変ですから」
悪ふざけが過ぎますよ。と、投擲ナイフを拾って投げた女性に差し出した。確か、ミューさんだったか、宿を取りに走ってくれた方だ。
「……」
ソラの『二点結』(たぶん『四点結』の平面バージョンだと思う)を出て拾った投擲ナイフを差し出したのだが、受け取ってくれない。
まさか、もう忘れられてしまったのか。
式具を地面から抜き、ソラとココアも私の後に待機する。
しかし、便利なものだ。外からの衝撃は防いで中からは抵抗無く通れるのだな。今、ナイフを拾うために、つい手を延ばしてしまったのだが、何の抵抗も無く通れたので逆に慌ててしまった。
ソラもココアも何も言わない所をみると、彼女達の中では当たり前だったのかもしれない。慌てた事を隠すためにポーカーフェイスを努めたのだが、それがミューさんを警戒させてしまったのかもしれない。
他の面々を見渡すと、抜いた武器は下げているが誰も話しかけてくれない。
本当に忘れられてるみたいだ。
ショックは大きいが、ここまで来て何もせずに帰るのは無駄足になってしまうので、心を奮い立たせて話しかけた。一番離していたアンナさんがいいだろう。
「あの…先日お世話になったタロウです。急に押しかけてしまって申し訳ありません。夕食なんかもごいっしょしたのですが覚えてらっしゃいませんか?」
「お、おお…覚えているさ。い、今のはなんだい」
よかったぁ、覚えてくれていたか。今思い出したのかもしれないが、それでも私の心が挫けずにすんだ。
今の? ソラの技の事か?
「二点結だよー」
ソラ、その説明だと誰も分からないと思うぞ。
「二点結か、凄い技なんだな」
ミューのあれを簡単に防ぐとはね。と呟きが聞こえたが、冗談の悪ふざけなんだろうから余裕で防げると思うのだが。ソラの技がなくとも避けずに全部掴む事もできたと思う。
この世界で冒険者をしてる者なら、それぐらい誰でも出来ると思うのだが。魔物の討伐を生業としてるのなら当然できて当たり前ではないだろうか。
ようやく話が出来そうな雰囲気になってきたので、本題である野営のご教授についてお願いしてみた。
「野営の練習かい。今までだって野宿ぐらいやってきたんだろ? 別に決まりなんてないんだけど、見たいってんなら別に構わねーよ」
アンナさんには許可をもらえたようだが、他の人達はどうなんだろう。
そう思って視線を巡らせると、その視線に気付いたヘレンさんが答えてくれた。
「うちはリーダーは私なんだけど、こういう決定はアンナがするんです。アンナがこういうなら構いませんよ。この娘って勘が良くってね、こういう決断は任せる事が多いんです」
それはリーダーとしてどうかと思うが、アンナさんを見てるとよく先走りそうな気がする。リーダーとしては別の人の方がいいのだろう。
「ありがとうございます。それで報酬はどうすればいいですか? 何がいいのか分かりませんでしたので、準備できなかったのですが。お金でよろしければ支払う準備はあるのですが」
「別にいらねーよ! 同じエリアで寝るだけなんだ。こっちも見張りが増えて助かるってもんだよ」
「いや、しかしタダというわけには……」
「いらねーよ」
「タロウさん、アンナがこう言いだしたらもう変わりませんので、遠慮なく見ていってください」
「そうですか…ありがとうございます。では、遠慮なく勉強させて頂きます」
そして、『永遠乙女』達の野営を見学する事になった。
「あの…食事はそれだけですか?」
火は熾してるのだが料理が始まる気配が無い。いつ熾すのだろうと思ってたら皆パンを食べ始めたのだ。あと出てるのは干し肉か?
「ああ、野営の時は大体こんな感じだね」
「あの…料理はしないのですか? なんでしたら肉を提供しますが」
「おっ、肉って…そうか、タロウは収納スキルを持ってたな。でもよ、料理を出来る奴がいねーしな、だからいつもこんな感じだ。初日だけは串焼きがあったりするんだけどよ、生肉なんて持ち歩けば匂いで魔物も寄って来ちまうんだ、血や汁が付いて匂いが付いちまって中々匂いも取れないからな」
匂いの話は納得できたが、料理ができないって……焼くだけでもいいのでは?
「飲み物は…」
「ああ、メルリルの水魔法があるから水には困らねーのがうちのパーティの強みだな」
『永遠乙女』のメンバーはほとんどが革鎧装備なんだが、一人だけローブ姿がいる。あの人がメルリルさんなのだろう。魔法使いでローブ姿。ベタだな。
しかし、この夕食では全然満足出来ない。我慢させているが、ソラとココアも不満顔だ。
元々生でしか食べてなかった二人だが、私に合わせて料理を食べてきたので、最近は口が肥えてしまって不味いと文句を言うようになってきた。
確かに不味ければ私でも文句は言いたくなるが、お前達は生で食ってたじゃないか! 文句を言うんじゃねー! って言いたくなる。
だが今回は私も耐えられそうにない。というか、収納に入れて持ってるのだから我慢したくない。無いなら仕方が無いがあるのだから我慢しなくてもいいだろう。
という事で、提案させてもらった。
「すいません、大したものではないのですが、スープがありますので一緒に食べませんか?」
「「「スープ!?」」」
『永遠乙女』全員が驚いているが、さすがはアンナさんと言うべきか、すぐに食いついた。
「さすがは収納スキル持ちだな。もちろん食べるって。全員分あるのか?」
「はい」
味噌汁は馴染みが無いだろうから、オニオンスープにたっぷり肉を入れて塩で味付けしたものにした。
出汁は野菜と肉で取れてるし、灰汁も時間を掛けてしっかり取った。
料理の熟練度が上がってるからだろうか、手際も良くなってきてるし味付けも出汁以外は塩だけなのに、美味しく出来ている。日本でも店を出せるのではないかと思えるほど自画自賛している。
仕事はクビになっているだろうから、戻れたら料理屋でも始めようか。
寸胴の大鍋に満タン入っているスープを出し、深皿とスプーンを出して全員の分をよそいご馳走した。
「熱いよ、なんで熱いの!?」
「ほかほかだー」
「美味い!」
「美味しー!」
「野営でこんなの食べたの初めて!」
気に入ってもらえたかな? 表情を見る限り嬉しそうだから大丈夫かな?
ソラとココア以外で出すのは初めてだし、自信はあるけど調味料の種類が少ないから不安なのだ。家では粉末スープを愛用していたから。
「如何…ですか?」
「「「おかわり!!」」」
どうやら好評のようだ。
ソラもココアももちろん私も食べ、寸胴の大鍋が空になっても「おかわり」コールが続いた。
―――――――――――――――――
ストックが無くなったので、次の更新は少し間が開きます。
元作品から少しはずれてきてますが、元に戻って行きますので、そんなに時間は掛からない予定です。
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北鴨梨
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太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
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