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女神と海の至宝
第一章 海運都市ラグナ視察
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馬4頭が緩やかな一定のスピードで走る4人乗りの貴族馬車の中から、窓から身を乗り出す勢いで、アイカは外の景色に釘付けになっている。
空と水平線は一直線に繋がり、太陽の光を受けて水面は宝石のように絶え間なく反射し、ところどころに行き交う船が浮いている。
「海だわ!すごい!水面がキラキラ反射してすっごく綺麗!それに街も!すごく大きい!建物みんな真っ白で屋根がオレンジなのね!」
この世界で初めて見る海だった。
海はどこまでも青く、波が反射し、帆を広げた船も見える。
「ああ、綺麗だろう。あれが俺が治める領土の中で最も大きく、カーラ・トラヴィス第二位の都、海運都市ラグナだ」
アイカはドレス姿ではなく、騎士団に見習いとして入団していたときに着用していた男物の服を着込み男装していた。そんなアイカに隣に座っているギルバートが苦笑しつつ、顔を出しすぎたら危ないと注意しつつアイカの身体を馬車の中に引き寄せた。
向かいには無言のグレンが座り、その膝の上にいるココも、アイカと同じように反対の窓に手をかけ外の風に吹かれながら気持ち良さそうにしている。
そして4頭引きの貴族馬車を取り囲み進むのは第4騎士団である。全員が馬に騎乗し、馬車と同じスピードで隊列を崩すことなく馬車を護衛していた。
▼▼▼
「ギルバート様、今年の視察見回りのスケジュールです」
「そうか、もうそんな時期か。すっかり忘れていた」
騎士団の執務室で書類に目を通していたギルバートは、グレンから差し出された例年の領地見回りのスケジュールを手渡され、そういえばと思い出す。
普段は王都アルバで生活し、将軍としての仕事をこなしているギルバートも、年に1ヶ月だけグランディ家が代々治める領土に戻り、領土内を視察見回りしていた。アルバにいながらも領地の仕事は出来るが、直接視察し領民の様子を見たり、実際に民の話を聞くのは欠かせない。部下からの報告だけでは気づけない問題に気づけることもあるのだから。
しかし、領地視察をするということはギルバートは王都を離れるということで、アイカとも必然離れることになる。
「今年はアイカも共に、それか今年だけ視察は無しに……」
せっかく心が通じたばかりなのに、仕事とはいえ離れたくない。熱は熱いうちに打てという名言もある。ちょっと離れている間に冷められてしまったら、一生後悔するだろう。
けれど、
「遊びで行くわけではありません。仕事で行くのです。それに今年はギルバート様が領地に戻るのに会わせて、海洋国家イユニ国のディアーノ王子が外遊・会談に来られる予定です」
「別に王子の暇つぶし外遊など俺が自ら相手をせずとも、お前が相手をすれば十分だろう?」
「王子とマリア様の婚姻について打診が来ております」
「なに?」
そんな話は聞いていないと眉尻を上げれば、スケジュールに続いて、もう一枚の報告書がグレンから差し出される。
それを受け取るとさっと目を通した。
「今朝届いた書簡です」
「以前から王子の外遊は決まっていたはずだ。なぜ俺が視察に戻る直前になって打診を?」
納得ができないとグレンに説明を求めれば、
「ギルバート様とアイカのことが伝わったのでしょう。わが国も他国に対して特に隠してもおりませんでしたし。ギルバート様の相手がほぼ決まったとなればマリア様の婚姻相手が確実に空いていることになる。ちょうどマリア様のお歳的にも婚姻適齢期ですので、他国から婚姻の打診が来てもおかしくはない話です」
「子を生めなくてもか?」
「両国の結びつきだけを取るならありでしょう。ただし、子を為さない女としてマリア様のへの風当たりはキツくなるのは必然かと。または、わが国に何かを仕掛けてくる算段であれば、人質としての価値がある」
「王族であろうと忌憚無い意見を言えるお前の神経を俺は貴重なものだと考えている。だが、マリアを人質とは聞いてるだけで不快だな。もう少し言葉をえらべ。マリアはカーラ・トラヴィスの王女だ」
「失礼いたしました。以後気をつけます」
咎められてグレンはすぐさま謝罪する。しかし言葉選びが問題なだけであって、指摘は間違ってはいない。昔から身体がとても弱く子が産めないということはカーラ・トラヴィスでは暗黙の了解である。
これは王であるセルゲイとギルバートでしか知らされていことだが、マリア自身の口から成人後は誰とも結婚することなく教会に入りシスターとして静かに暮らしていきたいと打ち明けられていた。王女として生まれながら、国のために子を為せないということがどれだけマリアを苦しめてきたかは想像に容易い。
もちろん、現国王であるセルゲイに子はマリア1人しかいない。現状ではマリアの希望が叶うことは難しい。
それこそギルバートが王に立った後でなければ。
「王子の王位継承はどうなっている?」
「ディアーノ王子は第3王子ですので、王位継承の可能性は低く、王子自身が子を望んでいないという線は全く無いわけではありません。お母君も側室です」
その内心、「本妻を別に立てて、マリアを側室に挿げ替えることもありえなくはない」とギルバートは疑念を抱く。王族にとって子を為すということがどれだけ大事なのか、ギルバート自身が知っている。
いくら子が産めないことをお互い了承した上で結婚したとしても、頃合を見て子を為せない女性をいつまでも正妻として立てることはできないと言われて、こちらは文句は言えないのだ。それは王子の考え云々ではない。周りの、国の意思もまた関わってくる。
「分かった。王子との会談には俺が出る。視察に行くまでにイエニの国内情勢と王子について調べておけ」
「かしこまりました」
了解し、視察についての打ち合わせはこれで終わりか?とグレンは逆に肩透かしを食らった心地だった。命令されたとおり、イエニとディアーノ王子については徹底的に調べ上げる。
しかし、この時期にアイカと離れることにギルバートはもっとごねると予想していたのに、
随分、あっさり引いたな
危惧していたほど公私混同するような方ではなかったのだと見直して、けれどグレンは1時間後後悔することになった。
将軍であってもギルバートは他の騎士たちと同じ食事を取る。
いちいち自分用に食事を作る手間があるなら、剣をすこしでも鍛錬しろというのが戦争中の教訓として今も残っているせいだ。
将軍であるギルバートが食堂で食事を取るのなら、他の騎士団長たちも自分だけ豪華な食事を取るわけにはいかない。日替わりだがメニューは1日1つのみ。ギルバートとグレンを中心に食堂の長テーブルに腰掛け、注文しなくても運ばれてくるランチを待つ。
「グレン。頼みがある」
隣に腰掛けるギルバートが運ばれてきたランチに全く手をつけず、両肘をつき、手は固く組まれた状態で、俯き加減にグレンに話を切り出してくる。
他の騎士団長たちもなぜギルバートが食事に手をつけないのか首をひねってこちらを見ている中、グレンは悪い予感しかしなかった。
「ダメです」
「まだ何も言っていない」
「そのお話し方はいやな予感しかしませんが。ここが食堂でまわりに沢山人がいて話を聞いていることをご承知の上で話されてくださいね」
「アイン・キャベンディッシュを騎士団に呼び戻せ。俺のラグナ領見視察で同行する騎士団に配属を」
「ダメです」
「なぜだ!」
バッと顔を上げたギルバートにグレンは激しい頭痛を覚えた。
まさか自分だけでなく他の騎士団長たち、それだけでなく部下の騎士たちも聞いている食堂で終わったと思っていた話を再び持ち出されるとは思ってもいなかった。
「アインはもう騎士団の見習い騎士ではありません。騎士でもない者を同行させるわけにはいきません。これは騎士団の規則です」
「そこをなんとかしろと言っているんだろう……?」
「危険です。分かっていらっしゃるでしょう」
「俺が守る」
「ギルバート将軍自ら見習い騎士の警護ですか?ご冗談を」
同じテーブルに座っている騎士団長たちの顔がグレンとギルバートを交互に行ったりきたりしていた。ギルバートがこれほど真剣に言っているのだから、国に関わる大事なのだろうが全く話が見えない。
2人が話しているアインとはつい先日、急用ができて騎士団をやめて田舎へ戻った見習い騎士だったと記憶しているが、ギルバートとグレンが2人して言い合うほど重要人物だっただろうか。
ただ1人、ハロルドだけが急に胃痛を覚えて、コップの水を一気に飲み干す。
「アインはこの国についてほとんど知らない。今回の見回りに同行させて見識を増やす機会を」
「それなら別の機会にアインを旅行にお誘いになっては如何でしょうか。ギルバート様も今回はお仕事でずっとつきっきりと言うわけには参りませんが、別途スケジュールを立てていけばじっくりこの国についてアインに教えることができますよ」
「グレン!ここまで言ってもダメか!?」
とうとう耐えかねて椅子から立ち上がったギルバートに、ダメだとグレンが言おうとした直前、思ってもいなかったところから声があがり、グレンだけでなくギルバートや騎士団長までも振り向いた。
自分達をいつのまにか他の騎士たちが円形に囲み、なぜかこれから敵軍に特攻でも仕掛ける直前のようなオーラを背負っている。
「アインでしたら自分達が面倒みますので!グレン様、ぜひともアインを呼び戻しを」
「お願いいたします!」
「なにとぞ!アインに同行許可を!」
取り囲んだ騎士たちが口々にギルバートに味方して懇願してきた。
まさかギルバートはこれを狙ってわざわざ食堂で話を切り出してきたのかと疑わずにはいられなかったが、すでに時遅く、グレンは騎士たちに取り囲まれていて逃げ出せない。
この人!アイカが絡むと本当に手段を選ばなくなってるな!
ギルバート1人が頼んだだけではグレンは頷かないと踏んで、まさか他の騎士たちを味方につけようとは遥か斜め上の奇襲で打ってこられた心地だった。
「お前たち、何を言っているのか分かっているのか!?」
「グレン様!ギルバート様が傍にいられない間はアインは俺たちが必ず守ってみせます!アインの見識が深まることは、将来この国にとっても必ずや財産になるはずです!」
「何よりアインが動けるとしたら今しかありません!別の機会と悠長なことを言っている間に、アインのお腹に何かが出来でもすればもう不可能です!」
「「「その通り!」」」
一糸乱れぬ連携で人垣が頷く。腹に何が出来るというのか、ツッコミどころがありすぎてグレンは急に身体が脱力していく。
そんな騎士たちをギルバートは感極まったように周りを見渡す。
「お前たち!」
「「「ギルバート様!」」」
「だがアインに手を出すのはゆるさんからな!?」
「「「イエッサー!!」」」
自分の味方に引き込みながら、釘を刺すところはしっかり射すあたりがギルバートらしい。
「もう、本当にあなた方は……、私は何があっても知りませんからね?」
「分かってる!ではアインの召還たのんだからな!」
「はぁ………」
折れたグレンにギルバートと騎士たちはまるで戦争に勝ったかのごとく喜ぶ。
その中で、騎士団長たちだけが話しについていけず、
「「「えええええ!?」」」
疑問符を浮かべていたのだった。
空と水平線は一直線に繋がり、太陽の光を受けて水面は宝石のように絶え間なく反射し、ところどころに行き交う船が浮いている。
「海だわ!すごい!水面がキラキラ反射してすっごく綺麗!それに街も!すごく大きい!建物みんな真っ白で屋根がオレンジなのね!」
この世界で初めて見る海だった。
海はどこまでも青く、波が反射し、帆を広げた船も見える。
「ああ、綺麗だろう。あれが俺が治める領土の中で最も大きく、カーラ・トラヴィス第二位の都、海運都市ラグナだ」
アイカはドレス姿ではなく、騎士団に見習いとして入団していたときに着用していた男物の服を着込み男装していた。そんなアイカに隣に座っているギルバートが苦笑しつつ、顔を出しすぎたら危ないと注意しつつアイカの身体を馬車の中に引き寄せた。
向かいには無言のグレンが座り、その膝の上にいるココも、アイカと同じように反対の窓に手をかけ外の風に吹かれながら気持ち良さそうにしている。
そして4頭引きの貴族馬車を取り囲み進むのは第4騎士団である。全員が馬に騎乗し、馬車と同じスピードで隊列を崩すことなく馬車を護衛していた。
▼▼▼
「ギルバート様、今年の視察見回りのスケジュールです」
「そうか、もうそんな時期か。すっかり忘れていた」
騎士団の執務室で書類に目を通していたギルバートは、グレンから差し出された例年の領地見回りのスケジュールを手渡され、そういえばと思い出す。
普段は王都アルバで生活し、将軍としての仕事をこなしているギルバートも、年に1ヶ月だけグランディ家が代々治める領土に戻り、領土内を視察見回りしていた。アルバにいながらも領地の仕事は出来るが、直接視察し領民の様子を見たり、実際に民の話を聞くのは欠かせない。部下からの報告だけでは気づけない問題に気づけることもあるのだから。
しかし、領地視察をするということはギルバートは王都を離れるということで、アイカとも必然離れることになる。
「今年はアイカも共に、それか今年だけ視察は無しに……」
せっかく心が通じたばかりなのに、仕事とはいえ離れたくない。熱は熱いうちに打てという名言もある。ちょっと離れている間に冷められてしまったら、一生後悔するだろう。
けれど、
「遊びで行くわけではありません。仕事で行くのです。それに今年はギルバート様が領地に戻るのに会わせて、海洋国家イユニ国のディアーノ王子が外遊・会談に来られる予定です」
「別に王子の暇つぶし外遊など俺が自ら相手をせずとも、お前が相手をすれば十分だろう?」
「王子とマリア様の婚姻について打診が来ております」
「なに?」
そんな話は聞いていないと眉尻を上げれば、スケジュールに続いて、もう一枚の報告書がグレンから差し出される。
それを受け取るとさっと目を通した。
「今朝届いた書簡です」
「以前から王子の外遊は決まっていたはずだ。なぜ俺が視察に戻る直前になって打診を?」
納得ができないとグレンに説明を求めれば、
「ギルバート様とアイカのことが伝わったのでしょう。わが国も他国に対して特に隠してもおりませんでしたし。ギルバート様の相手がほぼ決まったとなればマリア様の婚姻相手が確実に空いていることになる。ちょうどマリア様のお歳的にも婚姻適齢期ですので、他国から婚姻の打診が来てもおかしくはない話です」
「子を生めなくてもか?」
「両国の結びつきだけを取るならありでしょう。ただし、子を為さない女としてマリア様のへの風当たりはキツくなるのは必然かと。または、わが国に何かを仕掛けてくる算段であれば、人質としての価値がある」
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これは王であるセルゲイとギルバートでしか知らされていことだが、マリア自身の口から成人後は誰とも結婚することなく教会に入りシスターとして静かに暮らしていきたいと打ち明けられていた。王女として生まれながら、国のために子を為せないということがどれだけマリアを苦しめてきたかは想像に容易い。
もちろん、現国王であるセルゲイに子はマリア1人しかいない。現状ではマリアの希望が叶うことは難しい。
それこそギルバートが王に立った後でなければ。
「王子の王位継承はどうなっている?」
「ディアーノ王子は第3王子ですので、王位継承の可能性は低く、王子自身が子を望んでいないという線は全く無いわけではありません。お母君も側室です」
その内心、「本妻を別に立てて、マリアを側室に挿げ替えることもありえなくはない」とギルバートは疑念を抱く。王族にとって子を為すということがどれだけ大事なのか、ギルバート自身が知っている。
いくら子が産めないことをお互い了承した上で結婚したとしても、頃合を見て子を為せない女性をいつまでも正妻として立てることはできないと言われて、こちらは文句は言えないのだ。それは王子の考え云々ではない。周りの、国の意思もまた関わってくる。
「分かった。王子との会談には俺が出る。視察に行くまでにイエニの国内情勢と王子について調べておけ」
「かしこまりました」
了解し、視察についての打ち合わせはこれで終わりか?とグレンは逆に肩透かしを食らった心地だった。命令されたとおり、イエニとディアーノ王子については徹底的に調べ上げる。
しかし、この時期にアイカと離れることにギルバートはもっとごねると予想していたのに、
随分、あっさり引いたな
危惧していたほど公私混同するような方ではなかったのだと見直して、けれどグレンは1時間後後悔することになった。
将軍であってもギルバートは他の騎士たちと同じ食事を取る。
いちいち自分用に食事を作る手間があるなら、剣をすこしでも鍛錬しろというのが戦争中の教訓として今も残っているせいだ。
将軍であるギルバートが食堂で食事を取るのなら、他の騎士団長たちも自分だけ豪華な食事を取るわけにはいかない。日替わりだがメニューは1日1つのみ。ギルバートとグレンを中心に食堂の長テーブルに腰掛け、注文しなくても運ばれてくるランチを待つ。
「グレン。頼みがある」
隣に腰掛けるギルバートが運ばれてきたランチに全く手をつけず、両肘をつき、手は固く組まれた状態で、俯き加減にグレンに話を切り出してくる。
他の騎士団長たちもなぜギルバートが食事に手をつけないのか首をひねってこちらを見ている中、グレンは悪い予感しかしなかった。
「ダメです」
「まだ何も言っていない」
「そのお話し方はいやな予感しかしませんが。ここが食堂でまわりに沢山人がいて話を聞いていることをご承知の上で話されてくださいね」
「アイン・キャベンディッシュを騎士団に呼び戻せ。俺のラグナ領見視察で同行する騎士団に配属を」
「ダメです」
「なぜだ!」
バッと顔を上げたギルバートにグレンは激しい頭痛を覚えた。
まさか自分だけでなく他の騎士団長たち、それだけでなく部下の騎士たちも聞いている食堂で終わったと思っていた話を再び持ち出されるとは思ってもいなかった。
「アインはもう騎士団の見習い騎士ではありません。騎士でもない者を同行させるわけにはいきません。これは騎士団の規則です」
「そこをなんとかしろと言っているんだろう……?」
「危険です。分かっていらっしゃるでしょう」
「俺が守る」
「ギルバート将軍自ら見習い騎士の警護ですか?ご冗談を」
同じテーブルに座っている騎士団長たちの顔がグレンとギルバートを交互に行ったりきたりしていた。ギルバートがこれほど真剣に言っているのだから、国に関わる大事なのだろうが全く話が見えない。
2人が話しているアインとはつい先日、急用ができて騎士団をやめて田舎へ戻った見習い騎士だったと記憶しているが、ギルバートとグレンが2人して言い合うほど重要人物だっただろうか。
ただ1人、ハロルドだけが急に胃痛を覚えて、コップの水を一気に飲み干す。
「アインはこの国についてほとんど知らない。今回の見回りに同行させて見識を増やす機会を」
「それなら別の機会にアインを旅行にお誘いになっては如何でしょうか。ギルバート様も今回はお仕事でずっとつきっきりと言うわけには参りませんが、別途スケジュールを立てていけばじっくりこの国についてアインに教えることができますよ」
「グレン!ここまで言ってもダメか!?」
とうとう耐えかねて椅子から立ち上がったギルバートに、ダメだとグレンが言おうとした直前、思ってもいなかったところから声があがり、グレンだけでなくギルバートや騎士団長までも振り向いた。
自分達をいつのまにか他の騎士たちが円形に囲み、なぜかこれから敵軍に特攻でも仕掛ける直前のようなオーラを背負っている。
「アインでしたら自分達が面倒みますので!グレン様、ぜひともアインを呼び戻しを」
「お願いいたします!」
「なにとぞ!アインに同行許可を!」
取り囲んだ騎士たちが口々にギルバートに味方して懇願してきた。
まさかギルバートはこれを狙ってわざわざ食堂で話を切り出してきたのかと疑わずにはいられなかったが、すでに時遅く、グレンは騎士たちに取り囲まれていて逃げ出せない。
この人!アイカが絡むと本当に手段を選ばなくなってるな!
ギルバート1人が頼んだだけではグレンは頷かないと踏んで、まさか他の騎士たちを味方につけようとは遥か斜め上の奇襲で打ってこられた心地だった。
「お前たち、何を言っているのか分かっているのか!?」
「グレン様!ギルバート様が傍にいられない間はアインは俺たちが必ず守ってみせます!アインの見識が深まることは、将来この国にとっても必ずや財産になるはずです!」
「何よりアインが動けるとしたら今しかありません!別の機会と悠長なことを言っている間に、アインのお腹に何かが出来でもすればもう不可能です!」
「「「その通り!」」」
一糸乱れぬ連携で人垣が頷く。腹に何が出来るというのか、ツッコミどころがありすぎてグレンは急に身体が脱力していく。
そんな騎士たちをギルバートは感極まったように周りを見渡す。
「お前たち!」
「「「ギルバート様!」」」
「だがアインに手を出すのはゆるさんからな!?」
「「「イエッサー!!」」」
自分の味方に引き込みながら、釘を刺すところはしっかり射すあたりがギルバートらしい。
「もう、本当にあなた方は……、私は何があっても知りませんからね?」
「分かってる!ではアインの召還たのんだからな!」
「はぁ………」
折れたグレンにギルバートと騎士たちはまるで戦争に勝ったかのごとく喜ぶ。
その中で、騎士団長たちだけが話しについていけず、
「「「えええええ!?」」」
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