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女神と宝石
第四章 指輪と優しく甘美な罠 ※
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騎士団の自室には大量の伝承を纏められた本が山積みされ、その山の如き本に囲まれるようにしてギルバートは休憩も取らず椅子に深く腰掛け足を行儀悪く机の上に放り出し、一心に読み耽っている。
ここ最近は軍を動かさなくてはならないような諍いや、他国と政治的な衝突は落ち着いており、ギルバートがしばらく仕事をさぼっても問題ないだろう。
とはいえ、軍記物や歴史書ならいざ知らず、子供が寝るときに聞かせるようなお伽話や誰が言い始めたのか分からない言い伝えまで、グレンが仕えて久しい上司にはあり得ない光景だった。
しかも首元に薄っすら走る赤い傷跡。恐らく爪で引っ掻かれた跡だ。
(どこのじゃじゃ馬だ?この男に爪を立て、びしょ濡れにして逃げ去るような女がこの世にいたとはな)
ギルバートが足を開けと言う前に自ら足を開く女ばかりだと思っていたのに、世の中探せばいるものだとグレンは考えを改めることにする。
それに激しく爪を立てて暴れようが、どんなに魅力的な女性でも、一回抱いたらさっさと部屋から出て行く男が、こうも入れ込んでくれたのだ。
ギルバートをその気にさせたのであれば、体中引っ掻き傷だらけにしても、十分お釣りがくる。
ただ何故逃げ出したのだけが理解できない。
昨夜の夜会に出席した貴族であれば、夜会の本当の目的は分かっているだろう。名も告げずに去る意味がない。ギルバートと結婚できれば、いずれは国の王妃にもなれるというのに。
そして出席者の全員の身元を洗い出すのではなく、ひたすら古い伝承話を自分に集めさせ読み耽ってるギルバートも理解に苦しい。 代わりに出席者の情報を集めようとした自分すら無駄だと止められた。
夜会が催された王家所縁の屋敷は、普段なら王族が休暇を取るときや、療養の時に使う屋敷だ。使用しないときでも常に警備兵が屋敷を守り、階級の高い貴族であっても許可がない者は入れない。
そんな場所に身元不明の女が紛れこみ、屋敷から抜け出したギルバートと接触できる確率は極めて低い。
気になる言葉は一つ。びしょ濡れで戻ってきたギルバートが言っていた<女神>。
「ギルバート様、お忙しいところ申し訳ございません。いくつか質問してもよろしいでしょうか?」
「手短に言え」
読んでいる本から顔を上げることなく、ギルバートから質問の許可が出る。
「夜会から抜け出されて戻られたとき、ギルバート様は女神を見つけたとおっしゃられておられましたが、女神とはどういう意味でしょうか?」
「あの屋敷の敷地内の奥には湧き水がでている池がある。ガキの頃、あの屋敷に遊びに行ったとき、召使の老女から池には女神が住んでいるから池では遊ぶなと注意された」
「国王陛下の甥であるギルバート様が、誤って池で溺れたら大変ですからね。おとぎ話にかこつけた当然の注意ですね」
単純に池は危ないから遊ぶなと注意したところで、反対に子供は素直に聞かないものである。だからその老女も女神というひねりを加えたユーモアのある注意をしたのだろう。
「その池でギルバート様の目に叶った女神のごとき女性と出会われたのですか?」
「ごとき、ではない。女神その人だ」
「だから出席者の身元を洗い出すのは無駄だとおっしゃられるのですね」
「そうだ」
「相手が池に住む女神となりますとまたいつ現れてくれるか、人間ごとにきに女神を探すのは至難の業かと思われます。何か手がかりや心当たりがギルバート様にはあるのでしょうか?」
真面目な口調で質疑を重ねつつ、女神など存在するわけがないとグレンは冷めた気持ちだった。しかし仕えるギルバートが探すのであれば、部下である自分もギルバートの力になれるよう(表面上は)努めなければならない。
「だから女神に関する伝承を手当たり次第調べている。そして唯一の手がかりはこれだ」
くつろげた襟の中から、ネックレスのチェーンを指でひっかけ取り出すと、チェーンに一つの指輪が通されていた。間違ってもギルバートの太く節ばった指には通らない小さな指輪。
「彼女の落とし物だ」
ニヤリと口角を斜めにして、見せた指輪をまた大事そうに服の中に戻す。グレンとしては少し手に取って確認したかったのだが、この様子では触らせてもくれないだろう。
仕事一辺倒だったこれまでのギルバートのあまりの変わりように、随分とその女神にハマったものだとにわかに信じられない話を、半信半疑に受け止めつつ、グレンはより現実的な方法を模索する。
それはギルバートの言う女神を見つけられなかったときの対処だ。
「差し支えなければ、お探しの女神の特徴を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「歳のころは15、6。薄いピンクを帯びた長い銀髪、金の瞳。白く小さな顔立ち、細く華奢な体躯」
「15、6……」
思わず、ギルバートとの年齢差を考えてしまったのは仕方ないことだろう。まさか30半ばを過ぎたギルバートにそんな少女趣味があるとは一度も考えたことがなかった。
考えたことを勘づかれたのか、視線だけでギロリと睨まれたが、咳払いをして誤魔化す。
しかしギルバートが好む指向はだいたい分かった。あとは、この特徴と似た女性を何人か探し出し、女神本人と再会できず落ち込むギルバートにあてがえばいい。
本に囲まれながら夢幻に夢中になっているギルバートとは反対に、グレンは徹底した現実的な方法でギルバートを結婚させられないか考えていた。
▼▼▼
女神が誕生するのは雲一つない満月の夜。
1000年に1度あるかないかの奇跡。
その清浄な光を浴びて、幻想的な美が世界に具現する。
アイカが女神として生まれ変わってから2日後、満ちた月は少しづつ欠け始めていた。日、1日と月の光は弱まり、なくした指輪はどんどん見つけられなくなってしまう。
昨夜は雲が空を覆い、暗闇でほとんど探すことができなかった。今夜も雲が全くないというわけではないが、月の姿をたまに隠す程度で、昨晩よりは随分明るい。これであれば指輪を探すことができるだろう。
夜も十分に深まった夜半、池の中央から不自然な波紋が立つ。そこから顔半分を出して周囲に人影がないか確認してからアイカは池から姿を現す。
(よかった。誰もいないわ。いまのうちに指輪をさがそう)
すでに池の水の上を歩くのは慣れたもので、駆け足に岸に辿り着く。探すのはムーンストーンの石がはめこまれた銀の指輪だ。月の光があれば、少なからず光を反射してくれるはずだと、膝を地面につけてしゃがみこみながら地面に目を凝らす。
「ないわ。こんなに探しているのにどうして見つからないの?」
指輪を落とすなら、絶対男に捕まっていた時しかないのに、男に逢った周辺に指輪らしいものはなにも落ちていない。あまりにも見つからなくて、声も涙声になってしまう。
そこに、低い落ち着いた声が響いた。
「探し物はこれかな?」
不意に見覚えのある声が池の傍に立っている木の裏から聞こえて、アイカは振り向いた。
そこに立っていたのは2日前に自分を抱きしめキスをしてきた男で。しかし、その手に持ったネックレスチェーンの先にはずっと探していたものが下げられ、月の光を反射していた。
「私の指輪!」
どおりで見つからなかった筈だ。男が拾っていたのだから。
改めて男を見ると、真っ先に目に入ってくるのは月の明かりでもわかるほど、燃えるような真っ赤な髪をしている。そして着ている軍服の上からでも見て取れる鍛え上げられた体躯。
これではいくら自分が腕の中で暴れてもびくともしなかったはずだ。男にとってみれば、アイカの抵抗など幼子が嫌々をする程度のものだったろう。
それにあの逞しい腕に捕らわれているとき、すぐ近くで見た深いアメジストのごとき紫雲の瞳。切れ長の目に長いまつ毛、通った鼻梁と形のよい唇は自信に満ち溢れたようにな笑みをたたえている。
アイカに無体を強いているというのに、思わずその目に見惚れてしまった。突然襲ってきた相手だったが、ファンタジーの本の中にしか存在しない騎士が目の前に現れたような美しい容姿を男はしていた。
「返して!その指輪は私の指輪よ!」
「もちろん返すよ。どうぞ」
意外なほどあっさり男は手に持ったネックレスを自分の方に差し出してくる。ただし、返してほしければ受け取りに来いと言っている。
「こちらに投げて」
「騎士たるもの、女性にモノを投げつけるなんて真似はできないな」
軽く肩を竦めて、男は首を横に振る。
それらしい理由で、男に近づかずに指輪を返してもらうという狙いは拒まれてしまった。
(騎士たるものとか言いながら、この前は私をいきなり襲ってきたじゃない!)
矛盾していると不満に思えど、指輪は男の手の中だ。男には近づきたくないけれど、指輪は返してほしい。
その2つの葛藤にしばらく悩んでから、恐る恐る男の方へ一歩、また一歩と近づいていく。
男が変な素ぶりをしたらすぐに池に逃げ込むつもりだった。男は池の中までは追って来れない。あと少し、ほんの少し。あと半歩近づけば指輪に伸ばした指が届く。
(もうすこし、私の指輪)
女神の指輪に伸ばした指先が微かに触れたとき、獣より素早い動きでその手を男に取られていた。
「あっ!」
「捕まえた」
何が起こったのか、理解するよりはやく狙った獲物を捕らえた満足に満ちた声が、頭の上から聞こえてきた。
「……………」
捕らわれた腕の中から無言で男をにらみ上げる。男の腕の中で暴れても体力がなくなるばかりで無駄なことは先日の件で経験している。
「この前のように暴れないのかい?」
「暴れたら逃がしてくれるの?」
「……まいったな、そう来るとは考えてなかった」
男はてっきり自分が暴れると考えていたのだろう。困ったような顔になって、抱きしめる腕の力を緩めてくれた。けれど離してはくれないらしい。
「この前は悪かった。キミに無体を強いるつもりはなかった。ただキミを一目見て好きになった自分の気持ちを抑えられなかった。謝らせてほしい」
「変態の言うことなんて信じないわ。私が嫌だって何度も言ったのに、言うこときいてくれなかったもの」
腕の中に捕らわれながらも、アイカが睨み上げ、懸命に虚勢を張ると男は頬をひくりとさせた。
「変態………。自分でやったことだから言い訳はしないが、俺を変態と呼ぶのはやめてもらえないだろうか。俺の名前はギルバート。ギルバート・エル・グランディ。一応この国の将軍だ。キミの名前も教えてもらってもいいかな?」
「……アイカ」
「アイカ?」
「そうよ」
「素敵な響きの名前だ。女神アイカ」
「貴方の言う通り指輪を取りにきたわ。名前も教えたわ。もういいでしょう?指輪を返して」
さっき返すっていったじゃない。とうとう涙が堪えきれず目尻に滲みはじめてきた。やっぱりこの男は嘘つきだ。指輪を返してはくれない。
「済まない。泣かせたいわけじゃなかった。約束通り指輪は返すよ」
そう言ってギルバートは苦笑しながら目じりの涙を親指の腹で拭ってくれると、指輪の通されたネックレスを自分の首にかけてくれる。男の首まわりに合わせていたのだろうチェーンは自分がさげると少し長い。
「これで俺はアイカの言うとおり指輪を返し、約束を守ったことになる」
「そうね、ありがとう」
女神の証である指輪を指で撫でながら、指輪が戻った安堵でほっとしながら礼を言う。
指輪は戻った。あとはココが待つ池の中の洞窟に戻るだけだと、男の腕の中から出ようとして、しかし緩められていた腕がいきなり抱きしめてきた。
「待ってくれ。指輪は返した。だから今度は俺の願いを聞いてほしい」
「ギルバート?」
突然のギルバートの豹変に戸惑っていると、唇に触れるだけの口づけが降ってくる。
もちろん驚いた。けれど、あまりにも自分を見つめるその紫雲の瞳が悲痛そうに懇願してくるものだから、抵抗する気が一瞬削がれてしまった。
(なんて綺麗な目なのかしら。私を簡単に腕の中に閉じ込めてしまう人が、どうしてこんなに悲しそうに自分に懇願してくるの?)
その瞳に見つめられるとこちらまで胸が苦しくなってくる。
重ねられていた唇が離れ、
「前も言ったが、俺はアイカ、キミを愛している。俺の傍に、一緒にいてほしい。アイカの言うことならなんでも聞く。何でも叶える。だから俺のものになってくれ」
「そんなこと急に言われても……」
「アイカ、好きだ。池に帰らないでくれ」
出会って2度目でギルバートのことはほとんど知らない。そんな相手に一緒にいてほしいと言われても困惑するばかりだ。どうしたらいいのか分からず、戸惑っていると今度は触れるだけではない口づけが降ってきた。
「んっ」
すぐに舌が差し入れられて口内を堪能し始める。けれど2度目であることとギルバートの口づけが前回と違って、吐く息も吸われるほど激しいものではなかったことから、重ねた唇の角度を変えるときに隙間から息を吸う余裕もあってパニックに陥ることはなかった。
それよりも、
(もしかしてこの人、わたしが苦しくならないよう我慢してる?わたしを捕まえる腕も、痛くならないように気を使ってる?切羽詰まったような表情で本当は前みたいに思うままに自分を貪りたいのに、私のために我慢してる?)
そう考えているとギルバートに口づけされていても不思議と前のような恐怖は湧き起らず、されるがままに身をゆだねてしまっていた。
しばらくしてギルバートの舌が透明な糸を引きながら出ていくと、おもむろに着ていた上着を乱暴に脱ぎ捨て自分の頭にさっとかける。
「ギルバート、何を?」
「後ろに倒すぞ」
言うや、腰を抱かれ、後ろに倒される。ギルバートが背中を腕で庇ってくれたおかげで痛みはない。頭にかけてくれた上着がそのまま地面に敷かれる形になって髪やワンピースが地面触れて汚れることもなかった。
ゆっくりとギルバートが上から覆いかぶさってくる。その時点になって危険信号が鳴った。
(この人!わたしを抱く気だ!)
「待って!ギルバート!」
きっと聞いてはもらえないと思いながらも止まってくれるように頼む。前はどんなに頼んでもダメだった。けれど、腰に添えられていたギルバートの手はぴたりと止まり、唇を重ねられ抵抗する言葉を奪われることもなかった。
恐る恐る閉じていた目をあければ、じっとこちらを見つめながら本当に待っていてくれている。
「俺はアイカの言うことを何でも聞くと言っただろう?アイカが待てと言うなら、いいと言うまで待つ。前のような無理強いは2度とアイカにはしない」
「ほんとに?私の言うことを聞いてくれるの?」
「誓って女神に嘘はつかない」
と首から下げられたアイカの指輪を手に取って口づけ、ギルバートはその誓いを示す。
ギルバートが獣のような一面を持っているのを既に知っている。そのギルバートが自分の言うことを聞いてじっと待っている姿に、胸が急にどきどきして激しく高鳴りはじめていた。
(どうしたんだろう、わたし…。出会ってまだ間もないのに……。指輪を取り返したのなら、はやくココが待ってる池の中に帰らないといけないのに……)
切なそうなギルバートの紫雲の瞳に見つめられると、この腕から抜け出で池に戻ることを戸惑ってしまう。
(指輪も約束どおり返してくれたわ。だからほんの少しだけなら……)
「あ、あの……わたし、……はじめてで……」
「………」
「だから、その……優しいのなら、あと私がやだって言うのは絶対しないなら……守れる?」
「もちろんだ」
上目遣いに確かめると、満面の笑みでギルバートは微笑む。お願いしたとおり、ギルバートの口づけは優しいものだった。
何度も唇を食んでは、舌先で戯れるように、自分の舌先を絡めすぐに離れていく。
「んっ、ふぁ……ギルバート……あっ……」
腰に触れていた手がゆっくりと上へ移動しワンピースの上から胸に触れてくる。その手も強く揉みしだくことはなく、やわやわと上下に撫でててくれる。
「気持ちいいか?」
いつかも耳元で囁かれた言葉。蕩けかけた頭では思考が半分以上麻痺していて、言われた言葉を反芻するように返す。
身体中がフワフワしている。男の人に身をゆだねることがこんなに気持ちいいのだと初めて知った。
「気持ちいい……」
その言葉を聞いてニコリを微笑むと、重ねていた唇を離し、首筋をギルバートは舐める。
それが少しくすぐったくてアイカは身をわずかに捩った。まるで自分に懐いた大きな獣が自分に圧し掛かって舐められているような感じが近い。
「ふふふっ、くすぐったい」
「アイカ、そろそろ服を脱がせてもいいか?」
「だ、だめ!服は脱がさないで!恥ずかしい!」
裸を見られるなんて羞恥心で死んでしまいそうだ。ギルバートに触られるのは気持ちいいと分かったからいいけれど、裸は見られたくないと首を横に振る。
すると眉尻を下げたギルバートが、
「なら服を着たままでいいから、直接キミに触れたい」
ワンピースの中にそっと手を入れてきた。自分の言うことを聞いて服は脱がさないでいてくれたが、ギルバートの大きな手が内股を伝い、下腹部をあがって胸を直接揉み始めた。
「なんてすべらかな肌なんだ。それでいて手に吸い付くようだ」
うっとりとした声で呟き、左右の胸を交互にギルバートは触れてくる。決して大きいと言えない自分の胸は、ギルバートの大きな掌に余ってしまうだろう。それでも飽きることなく口づけしながら、先端を柔らかにつまんだり引っ張ったりして、胸を愛撫するのをやめない。
布1枚隔てるものがないだけで、与えられる気持ちよさは各段に違う。そして気持ちよさの中に、だんだんと別の違うものが湧き上がってくる。
「……何か、変っ……」
「どこも変じゃないさ。とても綺麗だ」
「そういうことじゃなくて……」
体の奥に疼き始めた熱に戸惑っているうちに、ギルバートの手は愛撫していた胸から離れ、スカートのさらに下、下着の中にするりと潜り込んできて、びくりとする。
咄嗟に覆いかぶさるギルバートの胸に両手でしがみつく。
「ギルっ!?」
「濡れてる。大分気持ちよかったみたいだな」
言いながらギルバートの指がまだ小さな花弁を見つけて押しつぶす。とたんに全身にしびれに似たものが駆け巡った。
反射的に下腹部の奥がぎゅっと収縮する。
「ひゃっ!だめ!そこ触っちゃだめ!」
「どうして?ここを触ればもっと気持ちよくなれる。アイカの言うとおり服は脱がせていない。見えないならいいだろう?」
「でも、そんなところ触るなんて……」
「優しくする。乱暴に触ったりしない」
「…………」
(そんな優しい顔でそんな優しいことは言わないで。今だって我慢しているの知ってるわ。ギルバートが本当は強引に乱暴することも知っているんだから)
ギルバートが自分の言うことを聞いてくれるのも、優しくしてくれるのも分かった。
けれど、言葉にして許可を出すのは恥ずかしく黙ったままでギルバートの厚い胸に顔をうずめると、それを許可と受け取って、また成長しきれていない花弁に再び触れてきた。
時折服の上から胸の尖りをギルバートはキスして甘噛みしてくる。
痛みというにはあと少し足りないチクリとした痛み。
「んぁ……あ、ぁっ……んぁ……」
快楽の波が何度も押し寄せてきてくる。はじめは触れられるのも恥ずかしかった股の間から、濡れた滑りを指にからめたギルバートの指にぬるぬると擦られて、感度を増した花弁に触れるたびに、えもいわれぬ気持ちよさで眩暈がした。
「ギルバートっ……や、なにか私っ……」
「わかってる。股の奥が痙攣しはじめている。そろそろイキそうなんだろう?」
花弁の奥にある滑りが溢れている入り口にギルバートの指先が触れると、その指を入り口がきゅっと物欲しそうに吸い付いたのが分かる。
ずっと快楽の波が押し寄せていたけれど、それよりも遥かに大きな波が来ようとしていのが分かって、怖くてたまらないのにもっとギルバートに触れられて弄られたい。
「やっ!あっ!もう私イッちゃぅ!」
一際大きな波が来て体の中ではじけた。
体中が痙攣して、ギルバートにしがみついてその大き過ぎる快楽に耐える。お腹の奥がきゅうきゅうと何度も痙攣している。そんな自分をギルバートは抱きしめてきて、その温かな体温に急に頭が真っ白になって意識が遠のいていった。
ここ最近は軍を動かさなくてはならないような諍いや、他国と政治的な衝突は落ち着いており、ギルバートがしばらく仕事をさぼっても問題ないだろう。
とはいえ、軍記物や歴史書ならいざ知らず、子供が寝るときに聞かせるようなお伽話や誰が言い始めたのか分からない言い伝えまで、グレンが仕えて久しい上司にはあり得ない光景だった。
しかも首元に薄っすら走る赤い傷跡。恐らく爪で引っ掻かれた跡だ。
(どこのじゃじゃ馬だ?この男に爪を立て、びしょ濡れにして逃げ去るような女がこの世にいたとはな)
ギルバートが足を開けと言う前に自ら足を開く女ばかりだと思っていたのに、世の中探せばいるものだとグレンは考えを改めることにする。
それに激しく爪を立てて暴れようが、どんなに魅力的な女性でも、一回抱いたらさっさと部屋から出て行く男が、こうも入れ込んでくれたのだ。
ギルバートをその気にさせたのであれば、体中引っ掻き傷だらけにしても、十分お釣りがくる。
ただ何故逃げ出したのだけが理解できない。
昨夜の夜会に出席した貴族であれば、夜会の本当の目的は分かっているだろう。名も告げずに去る意味がない。ギルバートと結婚できれば、いずれは国の王妃にもなれるというのに。
そして出席者の全員の身元を洗い出すのではなく、ひたすら古い伝承話を自分に集めさせ読み耽ってるギルバートも理解に苦しい。 代わりに出席者の情報を集めようとした自分すら無駄だと止められた。
夜会が催された王家所縁の屋敷は、普段なら王族が休暇を取るときや、療養の時に使う屋敷だ。使用しないときでも常に警備兵が屋敷を守り、階級の高い貴族であっても許可がない者は入れない。
そんな場所に身元不明の女が紛れこみ、屋敷から抜け出したギルバートと接触できる確率は極めて低い。
気になる言葉は一つ。びしょ濡れで戻ってきたギルバートが言っていた<女神>。
「ギルバート様、お忙しいところ申し訳ございません。いくつか質問してもよろしいでしょうか?」
「手短に言え」
読んでいる本から顔を上げることなく、ギルバートから質問の許可が出る。
「夜会から抜け出されて戻られたとき、ギルバート様は女神を見つけたとおっしゃられておられましたが、女神とはどういう意味でしょうか?」
「あの屋敷の敷地内の奥には湧き水がでている池がある。ガキの頃、あの屋敷に遊びに行ったとき、召使の老女から池には女神が住んでいるから池では遊ぶなと注意された」
「国王陛下の甥であるギルバート様が、誤って池で溺れたら大変ですからね。おとぎ話にかこつけた当然の注意ですね」
単純に池は危ないから遊ぶなと注意したところで、反対に子供は素直に聞かないものである。だからその老女も女神というひねりを加えたユーモアのある注意をしたのだろう。
「その池でギルバート様の目に叶った女神のごとき女性と出会われたのですか?」
「ごとき、ではない。女神その人だ」
「だから出席者の身元を洗い出すのは無駄だとおっしゃられるのですね」
「そうだ」
「相手が池に住む女神となりますとまたいつ現れてくれるか、人間ごとにきに女神を探すのは至難の業かと思われます。何か手がかりや心当たりがギルバート様にはあるのでしょうか?」
真面目な口調で質疑を重ねつつ、女神など存在するわけがないとグレンは冷めた気持ちだった。しかし仕えるギルバートが探すのであれば、部下である自分もギルバートの力になれるよう(表面上は)努めなければならない。
「だから女神に関する伝承を手当たり次第調べている。そして唯一の手がかりはこれだ」
くつろげた襟の中から、ネックレスのチェーンを指でひっかけ取り出すと、チェーンに一つの指輪が通されていた。間違ってもギルバートの太く節ばった指には通らない小さな指輪。
「彼女の落とし物だ」
ニヤリと口角を斜めにして、見せた指輪をまた大事そうに服の中に戻す。グレンとしては少し手に取って確認したかったのだが、この様子では触らせてもくれないだろう。
仕事一辺倒だったこれまでのギルバートのあまりの変わりように、随分とその女神にハマったものだとにわかに信じられない話を、半信半疑に受け止めつつ、グレンはより現実的な方法を模索する。
それはギルバートの言う女神を見つけられなかったときの対処だ。
「差し支えなければ、お探しの女神の特徴を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「歳のころは15、6。薄いピンクを帯びた長い銀髪、金の瞳。白く小さな顔立ち、細く華奢な体躯」
「15、6……」
思わず、ギルバートとの年齢差を考えてしまったのは仕方ないことだろう。まさか30半ばを過ぎたギルバートにそんな少女趣味があるとは一度も考えたことがなかった。
考えたことを勘づかれたのか、視線だけでギロリと睨まれたが、咳払いをして誤魔化す。
しかしギルバートが好む指向はだいたい分かった。あとは、この特徴と似た女性を何人か探し出し、女神本人と再会できず落ち込むギルバートにあてがえばいい。
本に囲まれながら夢幻に夢中になっているギルバートとは反対に、グレンは徹底した現実的な方法でギルバートを結婚させられないか考えていた。
▼▼▼
女神が誕生するのは雲一つない満月の夜。
1000年に1度あるかないかの奇跡。
その清浄な光を浴びて、幻想的な美が世界に具現する。
アイカが女神として生まれ変わってから2日後、満ちた月は少しづつ欠け始めていた。日、1日と月の光は弱まり、なくした指輪はどんどん見つけられなくなってしまう。
昨夜は雲が空を覆い、暗闇でほとんど探すことができなかった。今夜も雲が全くないというわけではないが、月の姿をたまに隠す程度で、昨晩よりは随分明るい。これであれば指輪を探すことができるだろう。
夜も十分に深まった夜半、池の中央から不自然な波紋が立つ。そこから顔半分を出して周囲に人影がないか確認してからアイカは池から姿を現す。
(よかった。誰もいないわ。いまのうちに指輪をさがそう)
すでに池の水の上を歩くのは慣れたもので、駆け足に岸に辿り着く。探すのはムーンストーンの石がはめこまれた銀の指輪だ。月の光があれば、少なからず光を反射してくれるはずだと、膝を地面につけてしゃがみこみながら地面に目を凝らす。
「ないわ。こんなに探しているのにどうして見つからないの?」
指輪を落とすなら、絶対男に捕まっていた時しかないのに、男に逢った周辺に指輪らしいものはなにも落ちていない。あまりにも見つからなくて、声も涙声になってしまう。
そこに、低い落ち着いた声が響いた。
「探し物はこれかな?」
不意に見覚えのある声が池の傍に立っている木の裏から聞こえて、アイカは振り向いた。
そこに立っていたのは2日前に自分を抱きしめキスをしてきた男で。しかし、その手に持ったネックレスチェーンの先にはずっと探していたものが下げられ、月の光を反射していた。
「私の指輪!」
どおりで見つからなかった筈だ。男が拾っていたのだから。
改めて男を見ると、真っ先に目に入ってくるのは月の明かりでもわかるほど、燃えるような真っ赤な髪をしている。そして着ている軍服の上からでも見て取れる鍛え上げられた体躯。
これではいくら自分が腕の中で暴れてもびくともしなかったはずだ。男にとってみれば、アイカの抵抗など幼子が嫌々をする程度のものだったろう。
それにあの逞しい腕に捕らわれているとき、すぐ近くで見た深いアメジストのごとき紫雲の瞳。切れ長の目に長いまつ毛、通った鼻梁と形のよい唇は自信に満ち溢れたようにな笑みをたたえている。
アイカに無体を強いているというのに、思わずその目に見惚れてしまった。突然襲ってきた相手だったが、ファンタジーの本の中にしか存在しない騎士が目の前に現れたような美しい容姿を男はしていた。
「返して!その指輪は私の指輪よ!」
「もちろん返すよ。どうぞ」
意外なほどあっさり男は手に持ったネックレスを自分の方に差し出してくる。ただし、返してほしければ受け取りに来いと言っている。
「こちらに投げて」
「騎士たるもの、女性にモノを投げつけるなんて真似はできないな」
軽く肩を竦めて、男は首を横に振る。
それらしい理由で、男に近づかずに指輪を返してもらうという狙いは拒まれてしまった。
(騎士たるものとか言いながら、この前は私をいきなり襲ってきたじゃない!)
矛盾していると不満に思えど、指輪は男の手の中だ。男には近づきたくないけれど、指輪は返してほしい。
その2つの葛藤にしばらく悩んでから、恐る恐る男の方へ一歩、また一歩と近づいていく。
男が変な素ぶりをしたらすぐに池に逃げ込むつもりだった。男は池の中までは追って来れない。あと少し、ほんの少し。あと半歩近づけば指輪に伸ばした指が届く。
(もうすこし、私の指輪)
女神の指輪に伸ばした指先が微かに触れたとき、獣より素早い動きでその手を男に取られていた。
「あっ!」
「捕まえた」
何が起こったのか、理解するよりはやく狙った獲物を捕らえた満足に満ちた声が、頭の上から聞こえてきた。
「……………」
捕らわれた腕の中から無言で男をにらみ上げる。男の腕の中で暴れても体力がなくなるばかりで無駄なことは先日の件で経験している。
「この前のように暴れないのかい?」
「暴れたら逃がしてくれるの?」
「……まいったな、そう来るとは考えてなかった」
男はてっきり自分が暴れると考えていたのだろう。困ったような顔になって、抱きしめる腕の力を緩めてくれた。けれど離してはくれないらしい。
「この前は悪かった。キミに無体を強いるつもりはなかった。ただキミを一目見て好きになった自分の気持ちを抑えられなかった。謝らせてほしい」
「変態の言うことなんて信じないわ。私が嫌だって何度も言ったのに、言うこときいてくれなかったもの」
腕の中に捕らわれながらも、アイカが睨み上げ、懸命に虚勢を張ると男は頬をひくりとさせた。
「変態………。自分でやったことだから言い訳はしないが、俺を変態と呼ぶのはやめてもらえないだろうか。俺の名前はギルバート。ギルバート・エル・グランディ。一応この国の将軍だ。キミの名前も教えてもらってもいいかな?」
「……アイカ」
「アイカ?」
「そうよ」
「素敵な響きの名前だ。女神アイカ」
「貴方の言う通り指輪を取りにきたわ。名前も教えたわ。もういいでしょう?指輪を返して」
さっき返すっていったじゃない。とうとう涙が堪えきれず目尻に滲みはじめてきた。やっぱりこの男は嘘つきだ。指輪を返してはくれない。
「済まない。泣かせたいわけじゃなかった。約束通り指輪は返すよ」
そう言ってギルバートは苦笑しながら目じりの涙を親指の腹で拭ってくれると、指輪の通されたネックレスを自分の首にかけてくれる。男の首まわりに合わせていたのだろうチェーンは自分がさげると少し長い。
「これで俺はアイカの言うとおり指輪を返し、約束を守ったことになる」
「そうね、ありがとう」
女神の証である指輪を指で撫でながら、指輪が戻った安堵でほっとしながら礼を言う。
指輪は戻った。あとはココが待つ池の中の洞窟に戻るだけだと、男の腕の中から出ようとして、しかし緩められていた腕がいきなり抱きしめてきた。
「待ってくれ。指輪は返した。だから今度は俺の願いを聞いてほしい」
「ギルバート?」
突然のギルバートの豹変に戸惑っていると、唇に触れるだけの口づけが降ってくる。
もちろん驚いた。けれど、あまりにも自分を見つめるその紫雲の瞳が悲痛そうに懇願してくるものだから、抵抗する気が一瞬削がれてしまった。
(なんて綺麗な目なのかしら。私を簡単に腕の中に閉じ込めてしまう人が、どうしてこんなに悲しそうに自分に懇願してくるの?)
その瞳に見つめられるとこちらまで胸が苦しくなってくる。
重ねられていた唇が離れ、
「前も言ったが、俺はアイカ、キミを愛している。俺の傍に、一緒にいてほしい。アイカの言うことならなんでも聞く。何でも叶える。だから俺のものになってくれ」
「そんなこと急に言われても……」
「アイカ、好きだ。池に帰らないでくれ」
出会って2度目でギルバートのことはほとんど知らない。そんな相手に一緒にいてほしいと言われても困惑するばかりだ。どうしたらいいのか分からず、戸惑っていると今度は触れるだけではない口づけが降ってきた。
「んっ」
すぐに舌が差し入れられて口内を堪能し始める。けれど2度目であることとギルバートの口づけが前回と違って、吐く息も吸われるほど激しいものではなかったことから、重ねた唇の角度を変えるときに隙間から息を吸う余裕もあってパニックに陥ることはなかった。
それよりも、
(もしかしてこの人、わたしが苦しくならないよう我慢してる?わたしを捕まえる腕も、痛くならないように気を使ってる?切羽詰まったような表情で本当は前みたいに思うままに自分を貪りたいのに、私のために我慢してる?)
そう考えているとギルバートに口づけされていても不思議と前のような恐怖は湧き起らず、されるがままに身をゆだねてしまっていた。
しばらくしてギルバートの舌が透明な糸を引きながら出ていくと、おもむろに着ていた上着を乱暴に脱ぎ捨て自分の頭にさっとかける。
「ギルバート、何を?」
「後ろに倒すぞ」
言うや、腰を抱かれ、後ろに倒される。ギルバートが背中を腕で庇ってくれたおかげで痛みはない。頭にかけてくれた上着がそのまま地面に敷かれる形になって髪やワンピースが地面触れて汚れることもなかった。
ゆっくりとギルバートが上から覆いかぶさってくる。その時点になって危険信号が鳴った。
(この人!わたしを抱く気だ!)
「待って!ギルバート!」
きっと聞いてはもらえないと思いながらも止まってくれるように頼む。前はどんなに頼んでもダメだった。けれど、腰に添えられていたギルバートの手はぴたりと止まり、唇を重ねられ抵抗する言葉を奪われることもなかった。
恐る恐る閉じていた目をあければ、じっとこちらを見つめながら本当に待っていてくれている。
「俺はアイカの言うことを何でも聞くと言っただろう?アイカが待てと言うなら、いいと言うまで待つ。前のような無理強いは2度とアイカにはしない」
「ほんとに?私の言うことを聞いてくれるの?」
「誓って女神に嘘はつかない」
と首から下げられたアイカの指輪を手に取って口づけ、ギルバートはその誓いを示す。
ギルバートが獣のような一面を持っているのを既に知っている。そのギルバートが自分の言うことを聞いてじっと待っている姿に、胸が急にどきどきして激しく高鳴りはじめていた。
(どうしたんだろう、わたし…。出会ってまだ間もないのに……。指輪を取り返したのなら、はやくココが待ってる池の中に帰らないといけないのに……)
切なそうなギルバートの紫雲の瞳に見つめられると、この腕から抜け出で池に戻ることを戸惑ってしまう。
(指輪も約束どおり返してくれたわ。だからほんの少しだけなら……)
「あ、あの……わたし、……はじめてで……」
「………」
「だから、その……優しいのなら、あと私がやだって言うのは絶対しないなら……守れる?」
「もちろんだ」
上目遣いに確かめると、満面の笑みでギルバートは微笑む。お願いしたとおり、ギルバートの口づけは優しいものだった。
何度も唇を食んでは、舌先で戯れるように、自分の舌先を絡めすぐに離れていく。
「んっ、ふぁ……ギルバート……あっ……」
腰に触れていた手がゆっくりと上へ移動しワンピースの上から胸に触れてくる。その手も強く揉みしだくことはなく、やわやわと上下に撫でててくれる。
「気持ちいいか?」
いつかも耳元で囁かれた言葉。蕩けかけた頭では思考が半分以上麻痺していて、言われた言葉を反芻するように返す。
身体中がフワフワしている。男の人に身をゆだねることがこんなに気持ちいいのだと初めて知った。
「気持ちいい……」
その言葉を聞いてニコリを微笑むと、重ねていた唇を離し、首筋をギルバートは舐める。
それが少しくすぐったくてアイカは身をわずかに捩った。まるで自分に懐いた大きな獣が自分に圧し掛かって舐められているような感じが近い。
「ふふふっ、くすぐったい」
「アイカ、そろそろ服を脱がせてもいいか?」
「だ、だめ!服は脱がさないで!恥ずかしい!」
裸を見られるなんて羞恥心で死んでしまいそうだ。ギルバートに触られるのは気持ちいいと分かったからいいけれど、裸は見られたくないと首を横に振る。
すると眉尻を下げたギルバートが、
「なら服を着たままでいいから、直接キミに触れたい」
ワンピースの中にそっと手を入れてきた。自分の言うことを聞いて服は脱がさないでいてくれたが、ギルバートの大きな手が内股を伝い、下腹部をあがって胸を直接揉み始めた。
「なんてすべらかな肌なんだ。それでいて手に吸い付くようだ」
うっとりとした声で呟き、左右の胸を交互にギルバートは触れてくる。決して大きいと言えない自分の胸は、ギルバートの大きな掌に余ってしまうだろう。それでも飽きることなく口づけしながら、先端を柔らかにつまんだり引っ張ったりして、胸を愛撫するのをやめない。
布1枚隔てるものがないだけで、与えられる気持ちよさは各段に違う。そして気持ちよさの中に、だんだんと別の違うものが湧き上がってくる。
「……何か、変っ……」
「どこも変じゃないさ。とても綺麗だ」
「そういうことじゃなくて……」
体の奥に疼き始めた熱に戸惑っているうちに、ギルバートの手は愛撫していた胸から離れ、スカートのさらに下、下着の中にするりと潜り込んできて、びくりとする。
咄嗟に覆いかぶさるギルバートの胸に両手でしがみつく。
「ギルっ!?」
「濡れてる。大分気持ちよかったみたいだな」
言いながらギルバートの指がまだ小さな花弁を見つけて押しつぶす。とたんに全身にしびれに似たものが駆け巡った。
反射的に下腹部の奥がぎゅっと収縮する。
「ひゃっ!だめ!そこ触っちゃだめ!」
「どうして?ここを触ればもっと気持ちよくなれる。アイカの言うとおり服は脱がせていない。見えないならいいだろう?」
「でも、そんなところ触るなんて……」
「優しくする。乱暴に触ったりしない」
「…………」
(そんな優しい顔でそんな優しいことは言わないで。今だって我慢しているの知ってるわ。ギルバートが本当は強引に乱暴することも知っているんだから)
ギルバートが自分の言うことを聞いてくれるのも、優しくしてくれるのも分かった。
けれど、言葉にして許可を出すのは恥ずかしく黙ったままでギルバートの厚い胸に顔をうずめると、それを許可と受け取って、また成長しきれていない花弁に再び触れてきた。
時折服の上から胸の尖りをギルバートはキスして甘噛みしてくる。
痛みというにはあと少し足りないチクリとした痛み。
「んぁ……あ、ぁっ……んぁ……」
快楽の波が何度も押し寄せてきてくる。はじめは触れられるのも恥ずかしかった股の間から、濡れた滑りを指にからめたギルバートの指にぬるぬると擦られて、感度を増した花弁に触れるたびに、えもいわれぬ気持ちよさで眩暈がした。
「ギルバートっ……や、なにか私っ……」
「わかってる。股の奥が痙攣しはじめている。そろそろイキそうなんだろう?」
花弁の奥にある滑りが溢れている入り口にギルバートの指先が触れると、その指を入り口がきゅっと物欲しそうに吸い付いたのが分かる。
ずっと快楽の波が押し寄せていたけれど、それよりも遥かに大きな波が来ようとしていのが分かって、怖くてたまらないのにもっとギルバートに触れられて弄られたい。
「やっ!あっ!もう私イッちゃぅ!」
一際大きな波が来て体の中ではじけた。
体中が痙攣して、ギルバートにしがみついてその大き過ぎる快楽に耐える。お腹の奥がきゅうきゅうと何度も痙攣している。そんな自分をギルバートは抱きしめてきて、その温かな体温に急に頭が真っ白になって意識が遠のいていった。
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