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そちらから婚約破棄?よろこんで!貴方なんて大嫌いだもの!
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朝早くから起きて準備をして、馬車で湖のほとりに辿り着き、釣り糸を垂らして、南に上った太陽は西に傾き始めている。
それぞれ椅子に座っているグレッグとリリーの間に置かれた桶の中には水しか入っていない。つまり漁獲は0匹である。
湖のほとりに作られた桟橋の先端に座り、リリーの日差し避けのために使用人たちがパラソルを設置してくれている。顔にはしっかり日焼け防止のオイルを塗って、顔以外は長手袋で指先までしっかり隠している。
(王都のご令嬢たちならびっくりして卒倒しそうね。日焼けもいいところよ。まわりには自分たちしかいなくてぼーっとするしかないからすぐに飽きちゃいそう。でも気持ちいい風。緑の山が遠くにあって湖もキラキラしてる。空も青くて、お昼寝に絶好の天気じゃない)
いつも誰かに見られているか男装がバレてしまわないか気の休まるときがほとんどなかった王宮と違い、ここならありのままの自分でいられる。思いっきり背伸びをしてもはしたないと小言を言う者も、いない。
屋敷からついてきた使用人たちも、呼ばれるか帰るときまでは湖畔でのんびりしている。
(お茶1つで熱いだの温いだの薄いだの難癖つけられないで、のんびり飲めるお茶ってなんて美味しいのかしら)
ポットに入れて持ってきたお茶を、この広大な光景を見ながら飲み、台所で料理人たちが作ってくれたサンドイッチを頬張る贅沢は王都では絶対に味合わえない。
しかし、お腹がいっぱいになると次の欲求が沸き起こってくる。
込み上げるあくびをかみ殺し、
「お父様、早起きし過ぎて眠くなってきたわ。少し向こうの木陰で休んでいてもいいかしら?帰る気分になったら起こしてちょうだい」
「釣りは長期戦じゃ。短気は大物を逃す」
「はいはい。私の分までお父様釣って」
「王宮から手紙が届いておったぞ」
持っていた釣竿を置いて椅子から立ち上がろうとしたタイミングで、いきなりグレッグは言い出すのだ。言い出すタイミングをずっと測っていたのかもしれないが、王宮の2文字を出されたらリリーも無視して木陰に逃げられなくなる。
椅子に座りなおし、
「ふーん。そうなのね」
興味ないふりをしてリリーは答えた。
(いつか聞かれる覚悟はしていたわよ。いきなり帰ってきて部屋に閉じこもって何もないなんて絶対思われないでしょうし。王宮からってことはルイスからかしら?)
「王妃様からだ。リリーは元気にしているか?と聞いておった」
「ぶっ」
まさかの手紙の送り主に、思わずリリーは吹いてしまった。男装していることを知りつつ、黙ってリリーを王宮奥の庭園へと誘った夫人、王妃エマ。
少しクセのある濃い金色の髪や笑ったときの雰囲気がルイスに似ていると思ったけれど、親子なら当たり前だろう。
「実はリリーが王都へ向かうとき、ルイス王子だけでなく王妃様にも手紙を送っておいたんじゃよ」
「王妃様にも?どうして?」
「どうしてって、お前は幼い頃にわしと共に田舎に引っ込んで王都暮らしがどんなものか、他の貴族たちとの付き合いのあれこれとか全く分からんだろう?もし機会があればお前の相談相手になってほしいと」
「相談!?王妃様に?そんなこと出来るわけ無いじゃない!いくらなんでも王妃様に対して失礼よ!」
相手はこの国の女性の中で最も地位の高い王妃に、田舎から出てきたばかりの娘が軽々しく相談なんて出来るわけがない。
「実は王妃様とお前の母のエレナは歳は少し離れていたが、2人はとても仲がよくてな。わしがエレナを妻にしたいと言い出したときは一番王妃様に反対された」
「王妃様に反対されたの?」
そんな話はリリーは初めて聞く。
「わしもあの頃は毎晩のようにどこぞの社交パーティーに出ては多数の女性たちと遊んでおったからな。お陰で身を固めるのが面倒で結婚も遅れて、その女癖の悪さを王妃様が心配したのだろう。もちろんエレナと結婚してからは女遊びは誓って一度もしてないぞ!」
遠い昔を懐かしむようにグレッグは豪快に笑うが、リリーにしてみればちっとも笑えない話だ。一度だけルイスが連れて行ってくれた舞踏会のようなパーティーに毎晩のように行って、多数の女性と遊びふけるなんて信じられない。
(お母様ってばよくそんな人と結婚する気になったわね……。私だったら絶対無理だわ……)
「結婚してからも王妃様はエレナをなにかと気にかけてくださって、エレナが亡くなったときは真っ先にリリーを心配されてルイスにくれと言い出された」
「私の婚約話ってお父様が言い出したんじゃなかったの!?王妃様だったの!?」
少なくともリリーはそう聞いていた。
「最初に言い出したのは王妃様じゃ。お前は毎日悲しみ泣くしか能がないのかと。めそめそ泣いている暇があったら残されたリリーのことを少しは考えろと叱られてのぅ。全くもって女性は強いわい。その話をリチャードとわしが聞いて、少し歳は離れておったがルイス王子ならいいかとお前との婚約話が進んだのじゃ」
自分とルイスの婚約にそんな背景があったのかと、リリーは呆気にとられて何も言えなくなった。
子供の頃は深く考えなかったが、確かに成長するにつれ、自分の婚約話に違和感を覚えはじめるようになったのは事実である。
(いくら友人だからって、貴族のお父様の方から娘と第一王子の婚約話を持ちかけるなんてどう考えたっておかしいわよ。自分の娘こそルイスの婚約者にって推す貴族たちが他にいっぱいいそうなものよ。そんな抜け駆け、他の貴族が黙っていないわ。でもお父様の国王陛下が友人だって言うから、そんなこともあるのかなって思っていたけれど)
王妃が最初に言い出した話であるなら納得できる。
「婚約してからも最初は心配だったのじゃが、2年に一度、必ずルイス王子はこのカデールまでいらっしゃってお前の様子を遠くから見ていた。それでルイス王子ならリリーを託しても大丈夫だとわしも安心しておった」
「ここにルイス来てたの?私知らないわ」
「こちらに来てもわしと少し話しをする程度で、リリーに直接会うことは無かったからな。リリーに見つからないよう遠くからお前の成長をいつも見守っていらっしゃった」
「そうだったの……」
「なぁ、リリー。ルイス王子と王宮で何かあったのか?わしにも話せないことなのか?」
優しく声をかけてくるグレッグにリリーは顔を俯かせる。だがどんなにグレッグが好きでもルイスの傍で男装して見習い騎士の真似事をしていたなんて話せない。
それに2年に一度、自分の様子を見に来ていたというルイスは、リリーに男装をさせ、嫌がるリリーをからかい楽しんでいたのだ。そんな相手と結婚などできない。
「お父様、私、ルイスとの婚約破棄したいの……」
「そうか……」
グレッグにリリーが婚約破棄について話すと、グレッグは頷くだけで黙ってしまった。
それぞれ椅子に座っているグレッグとリリーの間に置かれた桶の中には水しか入っていない。つまり漁獲は0匹である。
湖のほとりに作られた桟橋の先端に座り、リリーの日差し避けのために使用人たちがパラソルを設置してくれている。顔にはしっかり日焼け防止のオイルを塗って、顔以外は長手袋で指先までしっかり隠している。
(王都のご令嬢たちならびっくりして卒倒しそうね。日焼けもいいところよ。まわりには自分たちしかいなくてぼーっとするしかないからすぐに飽きちゃいそう。でも気持ちいい風。緑の山が遠くにあって湖もキラキラしてる。空も青くて、お昼寝に絶好の天気じゃない)
いつも誰かに見られているか男装がバレてしまわないか気の休まるときがほとんどなかった王宮と違い、ここならありのままの自分でいられる。思いっきり背伸びをしてもはしたないと小言を言う者も、いない。
屋敷からついてきた使用人たちも、呼ばれるか帰るときまでは湖畔でのんびりしている。
(お茶1つで熱いだの温いだの薄いだの難癖つけられないで、のんびり飲めるお茶ってなんて美味しいのかしら)
ポットに入れて持ってきたお茶を、この広大な光景を見ながら飲み、台所で料理人たちが作ってくれたサンドイッチを頬張る贅沢は王都では絶対に味合わえない。
しかし、お腹がいっぱいになると次の欲求が沸き起こってくる。
込み上げるあくびをかみ殺し、
「お父様、早起きし過ぎて眠くなってきたわ。少し向こうの木陰で休んでいてもいいかしら?帰る気分になったら起こしてちょうだい」
「釣りは長期戦じゃ。短気は大物を逃す」
「はいはい。私の分までお父様釣って」
「王宮から手紙が届いておったぞ」
持っていた釣竿を置いて椅子から立ち上がろうとしたタイミングで、いきなりグレッグは言い出すのだ。言い出すタイミングをずっと測っていたのかもしれないが、王宮の2文字を出されたらリリーも無視して木陰に逃げられなくなる。
椅子に座りなおし、
「ふーん。そうなのね」
興味ないふりをしてリリーは答えた。
(いつか聞かれる覚悟はしていたわよ。いきなり帰ってきて部屋に閉じこもって何もないなんて絶対思われないでしょうし。王宮からってことはルイスからかしら?)
「王妃様からだ。リリーは元気にしているか?と聞いておった」
「ぶっ」
まさかの手紙の送り主に、思わずリリーは吹いてしまった。男装していることを知りつつ、黙ってリリーを王宮奥の庭園へと誘った夫人、王妃エマ。
少しクセのある濃い金色の髪や笑ったときの雰囲気がルイスに似ていると思ったけれど、親子なら当たり前だろう。
「実はリリーが王都へ向かうとき、ルイス王子だけでなく王妃様にも手紙を送っておいたんじゃよ」
「王妃様にも?どうして?」
「どうしてって、お前は幼い頃にわしと共に田舎に引っ込んで王都暮らしがどんなものか、他の貴族たちとの付き合いのあれこれとか全く分からんだろう?もし機会があればお前の相談相手になってほしいと」
「相談!?王妃様に?そんなこと出来るわけ無いじゃない!いくらなんでも王妃様に対して失礼よ!」
相手はこの国の女性の中で最も地位の高い王妃に、田舎から出てきたばかりの娘が軽々しく相談なんて出来るわけがない。
「実は王妃様とお前の母のエレナは歳は少し離れていたが、2人はとても仲がよくてな。わしがエレナを妻にしたいと言い出したときは一番王妃様に反対された」
「王妃様に反対されたの?」
そんな話はリリーは初めて聞く。
「わしもあの頃は毎晩のようにどこぞの社交パーティーに出ては多数の女性たちと遊んでおったからな。お陰で身を固めるのが面倒で結婚も遅れて、その女癖の悪さを王妃様が心配したのだろう。もちろんエレナと結婚してからは女遊びは誓って一度もしてないぞ!」
遠い昔を懐かしむようにグレッグは豪快に笑うが、リリーにしてみればちっとも笑えない話だ。一度だけルイスが連れて行ってくれた舞踏会のようなパーティーに毎晩のように行って、多数の女性と遊びふけるなんて信じられない。
(お母様ってばよくそんな人と結婚する気になったわね……。私だったら絶対無理だわ……)
「結婚してからも王妃様はエレナをなにかと気にかけてくださって、エレナが亡くなったときは真っ先にリリーを心配されてルイスにくれと言い出された」
「私の婚約話ってお父様が言い出したんじゃなかったの!?王妃様だったの!?」
少なくともリリーはそう聞いていた。
「最初に言い出したのは王妃様じゃ。お前は毎日悲しみ泣くしか能がないのかと。めそめそ泣いている暇があったら残されたリリーのことを少しは考えろと叱られてのぅ。全くもって女性は強いわい。その話をリチャードとわしが聞いて、少し歳は離れておったがルイス王子ならいいかとお前との婚約話が進んだのじゃ」
自分とルイスの婚約にそんな背景があったのかと、リリーは呆気にとられて何も言えなくなった。
子供の頃は深く考えなかったが、確かに成長するにつれ、自分の婚約話に違和感を覚えはじめるようになったのは事実である。
(いくら友人だからって、貴族のお父様の方から娘と第一王子の婚約話を持ちかけるなんてどう考えたっておかしいわよ。自分の娘こそルイスの婚約者にって推す貴族たちが他にいっぱいいそうなものよ。そんな抜け駆け、他の貴族が黙っていないわ。でもお父様の国王陛下が友人だって言うから、そんなこともあるのかなって思っていたけれど)
王妃が最初に言い出した話であるなら納得できる。
「婚約してからも最初は心配だったのじゃが、2年に一度、必ずルイス王子はこのカデールまでいらっしゃってお前の様子を遠くから見ていた。それでルイス王子ならリリーを託しても大丈夫だとわしも安心しておった」
「ここにルイス来てたの?私知らないわ」
「こちらに来てもわしと少し話しをする程度で、リリーに直接会うことは無かったからな。リリーに見つからないよう遠くからお前の成長をいつも見守っていらっしゃった」
「そうだったの……」
「なぁ、リリー。ルイス王子と王宮で何かあったのか?わしにも話せないことなのか?」
優しく声をかけてくるグレッグにリリーは顔を俯かせる。だがどんなにグレッグが好きでもルイスの傍で男装して見習い騎士の真似事をしていたなんて話せない。
それに2年に一度、自分の様子を見に来ていたというルイスは、リリーに男装をさせ、嫌がるリリーをからかい楽しんでいたのだ。そんな相手と結婚などできない。
「お父様、私、ルイスとの婚約破棄したいの……」
「そうか……」
グレッグにリリーが婚約破棄について話すと、グレッグは頷くだけで黙ってしまった。
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