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初めての仮面舞踏会
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「意外と戻り早かったな~。きっと親父のことだからもっとルイスと話し込むと思っていたのに。まさか会ってないとか?」
「もちろん大臣と公爵にはお会いしてきたさ。だが、次は男に手を出し始めたなんて知ったら、お父上は今度こそ寝込まれてしまうよ」
呆れ顔で歩み寄ってくるルイスに、クリストファーは相変わらず反省した様子はなく、けれどルイスもそれで気分を悪くする様子はなかった。前の時も思ったが、これが2人にとって普通なのかもしれない。
リリーはこのチャンスを逃さずそっと追い詰められた扉の前から横にずれて、ルイスの方へ移動しておいた。
(危なかった。ルイスが来てくれて本当に助かったわ。あのままじゃあ、私がリリー・イングバートンだってバレていたわ)
貴族であれば、美しい容姿をして少女と見まがうような外見の男子は全くいないわけではない。そう言うルイスもリリーと同じ歳頃の頃は、かなり美少年だったと聞いている。美形であることは変わりないが、今ではすっかり身長も伸びて肩幅もあり、男にしか見えないけれど。
軽く肩を竦めてクリストファーはおどけてみせた。
「見つかってしまっては仕方ない。ルイスに家督相続を脅しに使われる前に、退散するとしようかな」
「待ってくれ。実は折り入って相談があるんだ。クリスが王宮に来てくれて、ちょうどよかった。それをキミに相談しようと思って探していたのに、まさかリリーを口説いているなんてな」
「俺に?珍しいな。日頃ルイスには面倒かけてばかりだし、俺で力になれることならいくらでも相談に乗らせてもらうぜ?」
クリス自身も珍しいと言ったが、リリーも聞きながら意外に思う。この2人の関係なら、いつも問題ごとを起こすクリスに、ルイスがその場を穏便に済ませる後片付け役という印象があった。
「リリーは仕事に戻っていなさい」
「はい。失礼いたします」
ぺこりと、ルイスとクリスの両方に礼をしてからリリーはその場を後にしたが、ばれずに済んだと安心したのも束の間。気分は急下降である。
(きっと、またどこか触られていないか?ってルイスに疑われるわ……)
どこも触られていないと言っても、ルイスは信じてくれないだろう。2人で話していたというだけで、ルイスの機嫌は悪くなる。
少し前までリリーを面白半分にからかっているようなところがあったが、最近は常に傍にいさせようとする節があった。どうしても離れないといけない仕事の時は、できるだけ早く仕事を終えてルイスの元に戻る。
遅れてしまうとルイスに「遅かったね」と言われてしまう。もちろん、声は柔和なものだし、冷たい眼差しを向けられることは無い。だが、大概その日は夜部屋に来るように言われた。
(最初はお話しして一緒に寝るだけだったのに、この頃は頬に触れてきたり、腰に手をまわして抱きしめてきたり……何かあったのかな……?)
ベッドの中で手慰みのようにリリーの手を弄んでは、指にキスを落としたり、腕の中に捕らえられて動けないリリーの耳や首筋を食んだ時もあった。ベッドの中で抱きしめられているだけで胸がきゅっと締め付けられる。恥ずかしいからやめてほしいと乞うても、ルイスは微笑むだけで止めてはくれない。
荒げることのない落ち着いた声にきれいな笑顔。ルイスの触れるところが次第に気持ちよくなって、頭の中が真っ白になって何も考えられなくなり、少しづつ自分の知らない自分になっていく。
それがリリーには怖くてたまらない。
「リリー」
「ひぃっ!?」
ルイスの部屋に戻って考え込んでいたところに、背後から名前を呼ばれてリリーはビクリとした。
「……悲鳴はさすがに傷ついたよ」
「すいません。考えごとをしていて、驚いてしまいました……」
ルイスが部屋に戻ってきたのも気付けなかった。けれど、戻ってきたルイスの機嫌が予想に反して悪くなっていないことにリリーは驚いた。
(おかしいわ。クリスと2人で話していたのにルイスの機嫌が悪くないだなんて)
きっと部屋に帰ってくるなり私に何を話していたのか聞き質そうとしてくると思っていたのに、考え過ぎだったのかしら。よくよく考えれば、遠駆けしていた郊外と違ってここは王宮だ。さすがに貴族が王宮で不埒な真似は出来ないだろう。
「急遽だが明日パーティーに出席することになった」
「パーティーですか?分かりました。着て行く衣装の準備をしておけばいいのですね」
「違う。リリーも一緒に行くんだ」
「私もですか?しかし見習いの私がパーティーに行っても」
「俺のパートナーとしてね」
ルイスがニコリと微笑んで言った一言に、リリーの頭は真っ白になった。
ルイスのパートナーとして行くということは同伴者としてパーティーに出席するということになる。それは見習い騎士のリリー・ノヴァレスとしてではなく、公爵令嬢のリリー・イングバートンとしてだ。
「パートナーって、でも私は!」
「分かっている。リリーはまだ公爵と暮らしていて王都にはいないことになっている」
「でしたら私がパートナーになるのは無理なのでは?それに私はダンスは……」
「どちらも問題ない。ダンスはこれから俺が教えるよ」
だから、ね?とルイスに恭しく手を差し出された。それは正にパーティーに出るとき女性が紳士に手を差し出されるソレだった。
「もちろん大臣と公爵にはお会いしてきたさ。だが、次は男に手を出し始めたなんて知ったら、お父上は今度こそ寝込まれてしまうよ」
呆れ顔で歩み寄ってくるルイスに、クリストファーは相変わらず反省した様子はなく、けれどルイスもそれで気分を悪くする様子はなかった。前の時も思ったが、これが2人にとって普通なのかもしれない。
リリーはこのチャンスを逃さずそっと追い詰められた扉の前から横にずれて、ルイスの方へ移動しておいた。
(危なかった。ルイスが来てくれて本当に助かったわ。あのままじゃあ、私がリリー・イングバートンだってバレていたわ)
貴族であれば、美しい容姿をして少女と見まがうような外見の男子は全くいないわけではない。そう言うルイスもリリーと同じ歳頃の頃は、かなり美少年だったと聞いている。美形であることは変わりないが、今ではすっかり身長も伸びて肩幅もあり、男にしか見えないけれど。
軽く肩を竦めてクリストファーはおどけてみせた。
「見つかってしまっては仕方ない。ルイスに家督相続を脅しに使われる前に、退散するとしようかな」
「待ってくれ。実は折り入って相談があるんだ。クリスが王宮に来てくれて、ちょうどよかった。それをキミに相談しようと思って探していたのに、まさかリリーを口説いているなんてな」
「俺に?珍しいな。日頃ルイスには面倒かけてばかりだし、俺で力になれることならいくらでも相談に乗らせてもらうぜ?」
クリス自身も珍しいと言ったが、リリーも聞きながら意外に思う。この2人の関係なら、いつも問題ごとを起こすクリスに、ルイスがその場を穏便に済ませる後片付け役という印象があった。
「リリーは仕事に戻っていなさい」
「はい。失礼いたします」
ぺこりと、ルイスとクリスの両方に礼をしてからリリーはその場を後にしたが、ばれずに済んだと安心したのも束の間。気分は急下降である。
(きっと、またどこか触られていないか?ってルイスに疑われるわ……)
どこも触られていないと言っても、ルイスは信じてくれないだろう。2人で話していたというだけで、ルイスの機嫌は悪くなる。
少し前までリリーを面白半分にからかっているようなところがあったが、最近は常に傍にいさせようとする節があった。どうしても離れないといけない仕事の時は、できるだけ早く仕事を終えてルイスの元に戻る。
遅れてしまうとルイスに「遅かったね」と言われてしまう。もちろん、声は柔和なものだし、冷たい眼差しを向けられることは無い。だが、大概その日は夜部屋に来るように言われた。
(最初はお話しして一緒に寝るだけだったのに、この頃は頬に触れてきたり、腰に手をまわして抱きしめてきたり……何かあったのかな……?)
ベッドの中で手慰みのようにリリーの手を弄んでは、指にキスを落としたり、腕の中に捕らえられて動けないリリーの耳や首筋を食んだ時もあった。ベッドの中で抱きしめられているだけで胸がきゅっと締め付けられる。恥ずかしいからやめてほしいと乞うても、ルイスは微笑むだけで止めてはくれない。
荒げることのない落ち着いた声にきれいな笑顔。ルイスの触れるところが次第に気持ちよくなって、頭の中が真っ白になって何も考えられなくなり、少しづつ自分の知らない自分になっていく。
それがリリーには怖くてたまらない。
「リリー」
「ひぃっ!?」
ルイスの部屋に戻って考え込んでいたところに、背後から名前を呼ばれてリリーはビクリとした。
「……悲鳴はさすがに傷ついたよ」
「すいません。考えごとをしていて、驚いてしまいました……」
ルイスが部屋に戻ってきたのも気付けなかった。けれど、戻ってきたルイスの機嫌が予想に反して悪くなっていないことにリリーは驚いた。
(おかしいわ。クリスと2人で話していたのにルイスの機嫌が悪くないだなんて)
きっと部屋に帰ってくるなり私に何を話していたのか聞き質そうとしてくると思っていたのに、考え過ぎだったのかしら。よくよく考えれば、遠駆けしていた郊外と違ってここは王宮だ。さすがに貴族が王宮で不埒な真似は出来ないだろう。
「急遽だが明日パーティーに出席することになった」
「パーティーですか?分かりました。着て行く衣装の準備をしておけばいいのですね」
「違う。リリーも一緒に行くんだ」
「私もですか?しかし見習いの私がパーティーに行っても」
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ルイスのパートナーとして行くということは同伴者としてパーティーに出席するということになる。それは見習い騎士のリリー・ノヴァレスとしてではなく、公爵令嬢のリリー・イングバートンとしてだ。
「パートナーって、でも私は!」
「分かっている。リリーはまだ公爵と暮らしていて王都にはいないことになっている」
「でしたら私がパートナーになるのは無理なのでは?それに私はダンスは……」
「どちらも問題ない。ダンスはこれから俺が教えるよ」
だから、ね?とルイスに恭しく手を差し出された。それは正にパーティーに出るとき女性が紳士に手を差し出されるソレだった。
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