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初めての仮面舞踏会
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街で購入した品々を種類に合わせて、リリーは片付ける。
買った品々は小さいものであれば、馬車に積んで王宮に持って帰ることが出来るが、大きかったり、量が多ければ馬車に乗せれない。そういう品々は、後ほど店から王宮へ届けられた。
もちろん王子宛として届くわけではなく、ロイド宛に届いた荷を受け取り、リスト通りに荷が届いていることを確認してから指定の場所にしまう。
後で教えてもらったが、ルイスの従者としてロイドの名は知られていても、実際に購入した品をルイスが使うとは限らないらしい。なのでロイド宛にしておけば迂闊に店側もルイスが購入したとは言えなくなるらしく、それを利用しているのだとこっそり教えてくれた。
(返礼の相手や送られて来た品に合わせるためとはいえ、すごい量ね)
ロイドは何事も無いように管理しているが、並大抵の者では出来ないだろう。
全ての品を収納しおえ、部屋を出たら扉に鍵を締める。誰でも部屋に入れては、高価な品々を盗んで行ってくれと言っているようなものだ。
「いたいた、可愛い侍従さん。こんなところにいたんだね」
部屋に鍵をして振り返りざまリリーは声をかけられ見上げた。
「貴方様は確かルイス様のご学友のクリストファー様でいらっしゃいますよね。先日、王子と馬で遠駆けをご一緒されていた」
ふりかえり様だったので相手はリリーのすぐ傍に立っていたけれど、一度会ったことのある相手だったお陰で、慌てることなく自然に対応することができた。
しかしその内心ではーー
(それよりもこの人!私にいきなり触ってきた人だわ!いくら友人だからって、あのあとルイスにどんな目に合わされたか!)
濡らした布で拭くためとはいえ、抱きしめられて、はだけた襟元から見える鎖骨を触れられた。思い出すだけで顔が熱くなってくる。
またクリスに触られないようにと、リリーはそっと距離を取った。
「正解。でもクリストファーなんて堅苦しいからさ、クリスでいいよ」
「はぁ。今日はルイス様にお会いにいらっしゃったのですか?ルイス様でしたら先ほど大臣の方が呼びにいらっしゃってそちらに行かれました。じきにお部屋に戻られるかと思いますがどれくらい時間がかかるか……。お急ぎでしたら部屋でお待ちになりますか?それか自分でよろしければ伝言を承りましょうか」
2人きりで長話などするより、用件を済ませて離れしまおうとするリリーに、
「いや、ルイスに会いに王宮へ来たわけじゃないから。父上にくっついて、陛下にご挨拶しに来たのさ」
「そうだったのですね。それはお疲れ様でした」
子供の頃とは違って成長した今なら分かる。一国の王に直接会うということは準備や緊張で、精神的にも酷く疲れるものだ。王宮に来たからと、ハイどうぞで通されると思ったら大間違いだ。
事前連絡はもちろん、王に謁見するための段階をいくつも踏んでようやく僅かな時間、目通りすることが許される。
服装も普段着から、王宮に来て王に会うのに相応しい正装をする必要があった。クリスは前の遠駆けの乗馬着から、藍色で落ち着いた貴族に相応しい王宮服を隙無く着込んでいた。
(確かルイスが婚約者に決まった時に、私も一度だけ国王陛下にお会いしたことがあるのよね。でもルイスが婚約者になった事の方が衝撃的すぎて、陛下のお顔なんて全然覚えていないわ)
ぼんやりとルイスの父親であれば多少顔や雰囲気が似ているのだろうと想像するくらいだ。しかしルイスに用もないのに、わざわざリリーを探していた素振りだ。何の用で探していたのか知らないが、ルイスの笑顔が、ルイスの外面によく似ているとリリーは思った。
「前の遠駆けのとき、キミの名前どっかで聞いた名前だな~って思っていたんだけどさ」
ぎくっ
前にマーガレットに名前を聞かれたときと同じ話の流れに、リリーの背中を冷や汗が伝う。クリストファーがことさら極上の笑みを浮かべる。しかし、美形の微笑みは絵になるけれど、その分、警戒しなくてはいけないものだとルイスに散々教え込まれていた。
「ルイスの婚約者と同じ名前なんだね」
「みたいですね。私も初めて知ったときは驚きました。こんな偶然あるものなのですね。そろそろ仕事に戻らないといけないので、それでは失礼します」
「待ってよ。前にも言ったけどさキミ、ホントに男?ルイスが男の格好をさせたリリー・イングバートンじゃないの?」
(やっぱりだわ!この人、私が女だって疑ってるだけじゃなくて、ルイスの婚約者だってことまで勘付いて!)
「そんなわけ……」
あるわけがないと否定しようとして、顔を近づけてくるクリスに言葉が途中で途切れてしまった。王宮でいきなり侍従に服を脱げなんてこと言い出すことはないだろうが、じりじりとクリスが近づいてくるのに合わせて、一歩、あと一歩と後ろに後ずさり、とうとうさっき入っていた部屋の扉にまで追い詰められてしまった。
(もう無理!ばれちゃう!)
ダメだとリリーが覚悟を決めた時、
「リリーを口説くのはやめてくれ。さっきキミのお父上と会ってくれぐれもキミを見捨てないでほしいと頼まれたところだ」
廊下の角から現れたのは、大臣に呼ばれて出て行ったはずのルイスだった。
買った品々は小さいものであれば、馬車に積んで王宮に持って帰ることが出来るが、大きかったり、量が多ければ馬車に乗せれない。そういう品々は、後ほど店から王宮へ届けられた。
もちろん王子宛として届くわけではなく、ロイド宛に届いた荷を受け取り、リスト通りに荷が届いていることを確認してから指定の場所にしまう。
後で教えてもらったが、ルイスの従者としてロイドの名は知られていても、実際に購入した品をルイスが使うとは限らないらしい。なのでロイド宛にしておけば迂闊に店側もルイスが購入したとは言えなくなるらしく、それを利用しているのだとこっそり教えてくれた。
(返礼の相手や送られて来た品に合わせるためとはいえ、すごい量ね)
ロイドは何事も無いように管理しているが、並大抵の者では出来ないだろう。
全ての品を収納しおえ、部屋を出たら扉に鍵を締める。誰でも部屋に入れては、高価な品々を盗んで行ってくれと言っているようなものだ。
「いたいた、可愛い侍従さん。こんなところにいたんだね」
部屋に鍵をして振り返りざまリリーは声をかけられ見上げた。
「貴方様は確かルイス様のご学友のクリストファー様でいらっしゃいますよね。先日、王子と馬で遠駆けをご一緒されていた」
ふりかえり様だったので相手はリリーのすぐ傍に立っていたけれど、一度会ったことのある相手だったお陰で、慌てることなく自然に対応することができた。
しかしその内心ではーー
(それよりもこの人!私にいきなり触ってきた人だわ!いくら友人だからって、あのあとルイスにどんな目に合わされたか!)
濡らした布で拭くためとはいえ、抱きしめられて、はだけた襟元から見える鎖骨を触れられた。思い出すだけで顔が熱くなってくる。
またクリスに触られないようにと、リリーはそっと距離を取った。
「正解。でもクリストファーなんて堅苦しいからさ、クリスでいいよ」
「はぁ。今日はルイス様にお会いにいらっしゃったのですか?ルイス様でしたら先ほど大臣の方が呼びにいらっしゃってそちらに行かれました。じきにお部屋に戻られるかと思いますがどれくらい時間がかかるか……。お急ぎでしたら部屋でお待ちになりますか?それか自分でよろしければ伝言を承りましょうか」
2人きりで長話などするより、用件を済ませて離れしまおうとするリリーに、
「いや、ルイスに会いに王宮へ来たわけじゃないから。父上にくっついて、陛下にご挨拶しに来たのさ」
「そうだったのですね。それはお疲れ様でした」
子供の頃とは違って成長した今なら分かる。一国の王に直接会うということは準備や緊張で、精神的にも酷く疲れるものだ。王宮に来たからと、ハイどうぞで通されると思ったら大間違いだ。
事前連絡はもちろん、王に謁見するための段階をいくつも踏んでようやく僅かな時間、目通りすることが許される。
服装も普段着から、王宮に来て王に会うのに相応しい正装をする必要があった。クリスは前の遠駆けの乗馬着から、藍色で落ち着いた貴族に相応しい王宮服を隙無く着込んでいた。
(確かルイスが婚約者に決まった時に、私も一度だけ国王陛下にお会いしたことがあるのよね。でもルイスが婚約者になった事の方が衝撃的すぎて、陛下のお顔なんて全然覚えていないわ)
ぼんやりとルイスの父親であれば多少顔や雰囲気が似ているのだろうと想像するくらいだ。しかしルイスに用もないのに、わざわざリリーを探していた素振りだ。何の用で探していたのか知らないが、ルイスの笑顔が、ルイスの外面によく似ているとリリーは思った。
「前の遠駆けのとき、キミの名前どっかで聞いた名前だな~って思っていたんだけどさ」
ぎくっ
前にマーガレットに名前を聞かれたときと同じ話の流れに、リリーの背中を冷や汗が伝う。クリストファーがことさら極上の笑みを浮かべる。しかし、美形の微笑みは絵になるけれど、その分、警戒しなくてはいけないものだとルイスに散々教え込まれていた。
「ルイスの婚約者と同じ名前なんだね」
「みたいですね。私も初めて知ったときは驚きました。こんな偶然あるものなのですね。そろそろ仕事に戻らないといけないので、それでは失礼します」
「待ってよ。前にも言ったけどさキミ、ホントに男?ルイスが男の格好をさせたリリー・イングバートンじゃないの?」
(やっぱりだわ!この人、私が女だって疑ってるだけじゃなくて、ルイスの婚約者だってことまで勘付いて!)
「そんなわけ……」
あるわけがないと否定しようとして、顔を近づけてくるクリスに言葉が途中で途切れてしまった。王宮でいきなり侍従に服を脱げなんてこと言い出すことはないだろうが、じりじりとクリスが近づいてくるのに合わせて、一歩、あと一歩と後ろに後ずさり、とうとうさっき入っていた部屋の扉にまで追い詰められてしまった。
(もう無理!ばれちゃう!)
ダメだとリリーが覚悟を決めた時、
「リリーを口説くのはやめてくれ。さっきキミのお父上と会ってくれぐれもキミを見捨てないでほしいと頼まれたところだ」
廊下の角から現れたのは、大臣に呼ばれて出て行ったはずのルイスだった。
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