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ルイスの手紙を犬に奪われました
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ルイスが書いた手紙や書簡をリリーがいつものように王宮郵便物へ届けに行った時だった。
王族が直筆で書いた手紙は、一般の郵便物とは異なり王宮の専門の配達夫たちが手紙を配達した。そして社交パーティーの返事くらいなら王宮配達夫たちが配達するが、公式な書簡となると数人の衛兵が直接手渡しで届ける。
(田舎にいたとき、ルイスが送ってきた手紙は書簡ではなかったけど毎回手渡しだったものね。私の場合、手紙だけじゃなくて何かしら贈り物がついていたからかもしれないけれど。あんな辺鄙な場所まで直接手渡しって、よくよく考えてみたら大変よね)
同じ王宮内であってもルイスのいる執務室から王宮の郵便物を、すべて預かり分類し配達員に渡す建物に持ってくるだけでも、結構な労働になるのだから。それが正式な書簡となると手渡しで王族から書簡を預かり、目的の人物に手渡すまでが仕事なのだから、衛兵たちの責任も重大である。
間違って無くしたり、落したり、はたまた奪われでもすれば大事になってしまう。
「やぁ、リリー。王子の手紙はこれで全部かい?」
郵便物の受付を行っている部屋に入ると、真っ先に初老のロビンがリリーに声をかけてきた。まだ郵便物の分配の仕方や渡し方について全く知らなかったリリーに、丁寧にやりかたを教えてくれたのもロビンだ。
事前に執務室でロイドと手分けして分類した手紙と、贈り物を入れた箱。これを人の手に抱えて長い廊下や階段を歩いて落としてはいけないので、ローラーのついたカートを使って運ぶ。お陰で女の非力であっても問題なく大量の手紙を運ぶことが出来た。
「今日の手紙はこれでしょ。あとこっちは贈り物付きの手紙」
「相変わらずルイス王子への手紙は大量だな。毎日のようにパーティーやお茶会への誘いの手紙が送られてくる。これに毎日返事を書くロイド様も大変だろうな」
箱に山のように盛られた封筒を見て、ロビンは呆れつつも大事にその手紙の箱を受け取る。
(本当なら直筆で断りの手紙書かないといけないんでしょうけど、こんな量を1人で返事を書くなんて無理だし、そもそもルイスは他に大事な仕事が沢山あるものね)
貴族夫人のように手紙を書いたり、パーティーを仕切ることが仕事ではないのだ。ルイスが直筆で返事を書くのは、報告書の返事かそれこそ稀に<出席する>時の返事くらいのものだ。
(まぁ、私の手紙がいつも直筆だったのは今ならちょっと感謝してもいいわよ……ちょっとだけだけど……)
ルイスの多忙具合を傍で見ているからこそ、手紙一通書く時間がどれくらい貴重なのか、リリーはようやく分かった。もっとも本人の前では恥ずかしいから絶対に言わないけれど。
「リリーもだいぶ仕事に慣れてきたかい?」
「ぼちぼちかな。でも慣れたと思って気を抜くとすぐミスしちゃうから」
「仕事なんて何でもそんなもんだ。慣れたと思ったときが落とし穴ってな。だがルイス様ならそうそうお怒りはしないだろう?あの方は昔から使用人にも分け隔てなく接してくださるお優しい方だ」
「え?そうなの?」
つい、本音が口に出てしまって、リリーは慌てて口を両手で塞いだ。
(ちょっとお茶が温いだの薄いだの、棚にほこりがあるとかお辞儀の角度が浅いとか、私にはチクチク言ってくるわよ?それに事あるごとにからかってくるし)
自分以外の使用人たちには優しいのだと思うと、胸の中が急にもやもやしてくる。
それに、ふと気を抜くと思い出してしまう。
いきなり夜に部屋へ来いとルイスが言ってきたのは驚いた。男の人の部屋に女が行くなどはしたないことだとずっと言われていた。けれど結局お茶を飲んでお父様や村のことをお話ししだだけで、とくに変な意味は無かったらしい。一人で勝手にびくびくして、後で考えると恥ずかしさしかなかった。
(でも話しているうちに眠くなって、いつのまにか寝ちゃってルイスのベッドで朝まで寝ていたのはダメよね…もっとしっかりしなくちゃ…目が覚めたら目の前にルイスの顔があってほんとびっくりしたわ……)
それだけでなくルイスに腕枕までされていた。
瞳は閉じて長い睫が頬に影を落とし、静かな呼吸音を立て、腕の中は温かで、ルイスの胸の鼓動も聞こえてきた。
「ルイス様への次の手紙はこいつだ。よろしく持って行って、おや、この手紙は……」
ロビンの声にはっと我に戻ってリリーは顔を上げた。手紙は出すものと届いたものを交換するように受け取る。ロビンの手には昼に届いたのだろうルイス宛ての一通の手紙があるが、リリーには他の手紙と大差ないように見える。
そしてふと、机の前に立つ横に、もふもふの毛並みを感じて振り返った。
「犬?」
綺麗に手入れされた毛の長い白い犬。しかも、大きい。背伸びして襲いかかられたらその体重で押し倒されてしまうだろう。
(この犬どこから紛れこんだの?王宮で犬なんて。誰かが連れてきたとか?それか番犬)
羊飼いの犬が王宮で必要とは思えない。しかし王宮に迷いこんだにしては、まるで王宮に住んでいるかのように建物に慣れた様子だ。
しかしどこから来た犬だろうとリリーが思っていると、ロビンが手に持っている手紙に犬は噛み付き奪ってしまった。
(うそっ!?ルイスの手紙なのに!)
「あっ!手紙!!」
「任せて!自分が取り返すから!」
慌てるロビンに自分が取り返すとリリーは手を振り、手紙を咥えて逃げる犬を走り追いかけた。
王族が直筆で書いた手紙は、一般の郵便物とは異なり王宮の専門の配達夫たちが手紙を配達した。そして社交パーティーの返事くらいなら王宮配達夫たちが配達するが、公式な書簡となると数人の衛兵が直接手渡しで届ける。
(田舎にいたとき、ルイスが送ってきた手紙は書簡ではなかったけど毎回手渡しだったものね。私の場合、手紙だけじゃなくて何かしら贈り物がついていたからかもしれないけれど。あんな辺鄙な場所まで直接手渡しって、よくよく考えてみたら大変よね)
同じ王宮内であってもルイスのいる執務室から王宮の郵便物を、すべて預かり分類し配達員に渡す建物に持ってくるだけでも、結構な労働になるのだから。それが正式な書簡となると手渡しで王族から書簡を預かり、目的の人物に手渡すまでが仕事なのだから、衛兵たちの責任も重大である。
間違って無くしたり、落したり、はたまた奪われでもすれば大事になってしまう。
「やぁ、リリー。王子の手紙はこれで全部かい?」
郵便物の受付を行っている部屋に入ると、真っ先に初老のロビンがリリーに声をかけてきた。まだ郵便物の分配の仕方や渡し方について全く知らなかったリリーに、丁寧にやりかたを教えてくれたのもロビンだ。
事前に執務室でロイドと手分けして分類した手紙と、贈り物を入れた箱。これを人の手に抱えて長い廊下や階段を歩いて落としてはいけないので、ローラーのついたカートを使って運ぶ。お陰で女の非力であっても問題なく大量の手紙を運ぶことが出来た。
「今日の手紙はこれでしょ。あとこっちは贈り物付きの手紙」
「相変わらずルイス王子への手紙は大量だな。毎日のようにパーティーやお茶会への誘いの手紙が送られてくる。これに毎日返事を書くロイド様も大変だろうな」
箱に山のように盛られた封筒を見て、ロビンは呆れつつも大事にその手紙の箱を受け取る。
(本当なら直筆で断りの手紙書かないといけないんでしょうけど、こんな量を1人で返事を書くなんて無理だし、そもそもルイスは他に大事な仕事が沢山あるものね)
貴族夫人のように手紙を書いたり、パーティーを仕切ることが仕事ではないのだ。ルイスが直筆で返事を書くのは、報告書の返事かそれこそ稀に<出席する>時の返事くらいのものだ。
(まぁ、私の手紙がいつも直筆だったのは今ならちょっと感謝してもいいわよ……ちょっとだけだけど……)
ルイスの多忙具合を傍で見ているからこそ、手紙一通書く時間がどれくらい貴重なのか、リリーはようやく分かった。もっとも本人の前では恥ずかしいから絶対に言わないけれど。
「リリーもだいぶ仕事に慣れてきたかい?」
「ぼちぼちかな。でも慣れたと思って気を抜くとすぐミスしちゃうから」
「仕事なんて何でもそんなもんだ。慣れたと思ったときが落とし穴ってな。だがルイス様ならそうそうお怒りはしないだろう?あの方は昔から使用人にも分け隔てなく接してくださるお優しい方だ」
「え?そうなの?」
つい、本音が口に出てしまって、リリーは慌てて口を両手で塞いだ。
(ちょっとお茶が温いだの薄いだの、棚にほこりがあるとかお辞儀の角度が浅いとか、私にはチクチク言ってくるわよ?それに事あるごとにからかってくるし)
自分以外の使用人たちには優しいのだと思うと、胸の中が急にもやもやしてくる。
それに、ふと気を抜くと思い出してしまう。
いきなり夜に部屋へ来いとルイスが言ってきたのは驚いた。男の人の部屋に女が行くなどはしたないことだとずっと言われていた。けれど結局お茶を飲んでお父様や村のことをお話ししだだけで、とくに変な意味は無かったらしい。一人で勝手にびくびくして、後で考えると恥ずかしさしかなかった。
(でも話しているうちに眠くなって、いつのまにか寝ちゃってルイスのベッドで朝まで寝ていたのはダメよね…もっとしっかりしなくちゃ…目が覚めたら目の前にルイスの顔があってほんとびっくりしたわ……)
それだけでなくルイスに腕枕までされていた。
瞳は閉じて長い睫が頬に影を落とし、静かな呼吸音を立て、腕の中は温かで、ルイスの胸の鼓動も聞こえてきた。
「ルイス様への次の手紙はこいつだ。よろしく持って行って、おや、この手紙は……」
ロビンの声にはっと我に戻ってリリーは顔を上げた。手紙は出すものと届いたものを交換するように受け取る。ロビンの手には昼に届いたのだろうルイス宛ての一通の手紙があるが、リリーには他の手紙と大差ないように見える。
そしてふと、机の前に立つ横に、もふもふの毛並みを感じて振り返った。
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しかしどこから来た犬だろうとリリーが思っていると、ロビンが手に持っている手紙に犬は噛み付き奪ってしまった。
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「あっ!手紙!!」
「任せて!自分が取り返すから!」
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