上 下
13 / 34
苦手が敵にバレてしまいました

しおりを挟む
「リリー、前から気になっていたんだけれど聞いていい?」
「なんでしょうか?」
「たまに俺から顔を思いっきりそらすよね?あれは何故?」

 問われて、ぎくりと心臓が跳ねて、運んでいた手紙の束を落としてしまった。もちろん常にルイスの側で補佐をしているロイドの目は険しい。

 どうしてそんなこといきなり言うのよ!?手紙を落としてしまったじゃない!もうちょっと時と場所を考えて質問しなさいよ!

 上質な紙の封筒に、綺麗な字で書かれた招待状。封は開けられていないけが、どれも貴族たちが自分の主催するパーティーへ出席して欲しいという招待状だろう。
 差出人を確認しするのはロイド。その中で直接ルイスが目を通したほうがいいと思われる手紙は封をあけずにそのままルイスへ。その他はロイドが封を開け中身を確認し、パーティーへの招待とその他と手紙を分別してルイスへ渡される。

 毎日大量の手紙が届けられるため、ルイス1人で目を通していては丸1日かかってしまう為らしい。国に関わるようなことはルイスの父である国王や大臣を経由して話が来るので、ルイスに直接くることは個人間の私用と考えていいのだという。

 「それは、その……、ルイス様の気のせいではないでしょうか?」

 実はルイスの笑顔が眩し過ぎて直視できないなんて、絶対言えないわ。言ったらルイスに「なにこの頭悪い子」って呆れられちゃうもの。それに最近ルイスってば、やたらと私に近づいてくるのよね。変に意味もなく手を握ってきたり、花と間違えてキスしてきたり、私をからかって遊んでいるのかしら?

 ただでさえルイスは美形中の美形なのに、それが笑顔になると光り輝くようなキラキラが攻めてきて眩しさで目が眩んでしまう。だからあんまり必要以上にこちらを見ないでほしい。

 よくロイドはあのルイスの笑顔を向けられて平然としていられるものだと思う。ルイスに仕えるようになって長いというし、その年月による経験でキラキラ耐久度が鍛えられたのだろうか。不思議でならない。

「気のせいねぇ?別に俺の気のせいだというなら、それでいいんだけれど」

 じっと私を見てくるルイスの眼差しは、言葉とは反対に疑いまくっている。
 落としてしまった手紙を手早く拾い集めてロイドのところへ持っていく。するとその大量の手紙の中からロイドは一通の手紙を抜き取り、執務机に座り書類にペンを走らせているルイスに差し出した。手紙を受け取り差出人を見るなり、苦笑いを浮かべたルイスはどことなく嬉しそうだ。

「また懐かしい名前だな。思い出したように手紙を送ってくる。しかも此方の予定も聞かずに勝手に予定を立てる図々しさは治っていないらしい」

そしてペーパーナイフで手紙の封を切り、一枚しか入っていない手紙を読む目元は穏やかだ。

「ロイド、明後日の予定は変更だ」
「どちらかに行かれるのですか?」
「郊外で遠駆けに出る」
「かしこまりました。護衛の衛兵は騎士団長へ私の方から連絡しておきます」
「それと…」

 ちらりとルイスが私を振り返った。

 何かしら。あの顔は嫌な予感しかしないわ。でもこの前もお茶で失敗しちゃったし、見習いの私が何か仕事を任されたりしないわよね?

 別にルイスが郊外で手紙の主と馬で駆けようといくらでも構わない。わたしは全く止めなんてしないし、ご友人と気が済むまで馬駆けを楽しめばいい。
なのにーー

「ルイス様、どうして、わざわざ此方に近づいて来られるのですの?そこで話されてもお話しは全然聞こえますのに……」

 しかも、後ずさる私をどんどん壁際に追い詰めて、逃げられないように顔の横に両腕をつかれてしまった。こちらを見下ろしてくるルイスは満面の笑みで、思わずそのキラキラに目をそらしてしまう。

「リリーは馬に乗るのが得意だって手紙に書いていたよね?」
「ずっと前に、そんなことを書いたこともありましたわね……」

 たしかルイスの手紙に刺繍はどうとかドレスはどうとか書かれていたから、全く関係ない馬のことについて適当に書いて送った気がする。たぶんそれで刺繍について返事をしていたら次は高価そうな刺繍糸が送られてきて、その刺繍糸で何か作って送り返さないといけなくなる未来が子供心にも想像できてしまい、そんな未来を馬で回避しようとしたのだ。

「リリーも一緒に馬駆けしよう」
「いえ、私はここに残っておりますわ。私のことはお気になさらず、せっかく久しぶりに会われるご友人の方と」

 心いくまで馬に乗って楽しまれてくださいませ、と言おうとして途中で壁についていたルイスの両腕が背中に回され抱きしめられてしまった。

 はわっ!?また抱きしめてきたわ!?もう十分壁に私を追い詰めているでしょう!?どうして抱きしめる必要があるのよ!?でもやっぱりルイスの腕は逞しくていい香りなのがくやしいぃ!!

 自然と抱きしめられた腕の中でルイスを見上げる形になり、あと少し屈めば唇が触れてしまいそうな至近距離でルイスは微笑む。そして耳に息を吹きかけるようにして

「一緒に行くよね?」
「……是非、ご一緒させてくださいませ」

 ルイスの低い美声が耳から全身へと駆け巡り、身体が震え、抵抗しようとした力が抜けてしまう。
 完全に蛇に睨まれたカエル状態で断るなんてできなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ! ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。 エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。 ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。 しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。 「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」 するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

男性アレルギー令嬢とオネエ皇太子の偽装結婚 ~なぜか溺愛されています~

富士とまと
恋愛
リリーは極度の男性アレルギー持ちだった。修道院に行きたいと言ったものの公爵令嬢と言う立場ゆえに父親に反対され、誰でもいいから結婚しろと迫られる。そんな中、婚約者探しに出かけた舞踏会で、アレルギーの出ない男性と出会った。いや、姿だけは男性だけれど、心は女性であるエミリオだ。 二人は友達になり、お互いの秘密を共有し、親を納得させるための偽装結婚をすることに。でも、実はエミリオには打ち明けてない秘密が一つあった。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

大嫌いな令嬢

緑谷めい
恋愛
 ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。  同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。  アンヌはうんざりしていた。  アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。  そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。

処理中です...