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婚約破棄してもらいに行ってきます!

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 16歳になった私は、腰を痛めているのに心配で自分もついて行くというお父様を残し、王都に行く決意をする。
 理由はただひとつ。

 (ルイスに直接会って婚約破棄を承諾させるのよ!)

 いかに親といえど、本人同士が嫌がっている結婚を無理矢理させはしない筈よ!相手が他所の国の人だったら政略結婚もありだし、それなら本人の意思は関係ないかもしれないけど、私たちは単に親がその場の勢いで友達同士で子供を結婚させようって決めただけなんですもの!

 思い出してみたって、ルイスと初めて会ったとき、最初ルイスは自分を見つめながら呆然としてた。
そりゃあそうだろう。22ともなれば、いろんな女性と知り合って遊べる一番楽しい時期に、親同士が決めた自分の婚約者が8歳のガキなら、誰だって茫然自失になるに決まってる。無言でじっと見られるこちらが、どれだけいたたまれなかったか。

(送ってくる手紙や贈り物にしたって、あんなに男の子たちと剣を振り回すのが好きとか、外で遊ぶほうが楽しいだとか書いたのに、女の子が好みそうな可愛らしい絵が描かれている本を寄越したり、王都で流行りのファッションだとか言ってアクセサリーなどを贈り付けてくるのは、嫌々婚約者になった私に対する嫌味にしか考えられないわね)

 とくに高価そうなペンを贈ってきたときは、よっぽど自分の字が汚くて読むに耐えないから、字を書く練習しろってことなんだとすぐに分かった。贈り物がペンだと分かった瞬間、思わずへし折って送り返してやろうかと思ったくらいだ。
 それでも国王陛下の命令だから嫌々ながら従っていたんでしょうけれど。

 あれから8年経って、私は16。
 そしてルイスは30歳。

 王族貴族の成人男子としても結婚適齢期がそろそろ過ぎようとしている。それだけは申し訳ないと思っている。こんなガキと婚約してしまったせいで、結婚したくても結婚できなかったのでから。でも社交パーティーでは婚約者がいると分かっているのにルイスに言い寄る令嬢は多過ぎて、そんな女性たちとの噂まで聞きたくもないのに田舎まで聞こえる始末。

 (さぞお楽しみだったことが覗えるし、もちろん私はそんなこと全く構わないわ。私に手紙を書く暇があるのなら、その女性たちと遊んでいてくれて良かったのに。きっと婚約破棄してたまらなかったのに、国王陛下の命令で破棄を申し出ることが出来ないことに同情してしまうくらいよ)

 私が結婚のとき、王都へ行くときに必要だろうとお父様が始末せずに残してくださっていた屋敷で身支度を整え、いざ王宮へ馬車を走らせる。
 屋敷を管理させるために、最低限の使用人を雇い、常に屋敷は手入れしていたみたいね。おかげで新しく屋敷を買ったり借りる手間が省けて助かったわ。王都にはお父様を覚えている商人もまだ残っていて、王宮へ向かうための衣装もすぐに揃えてくれた。

 高すぎでしょ!?
 立ちくらみがしたわ

 ドレスから靴から手袋、アクセサリーに髪飾り。
 何から何まで全部揃えたら目玉が飛び出るような金額を提示され、それでも屋敷の管理を一任されている執事が言うには破格の割引価格だというのだから信じられない。

 8年ぶりの王都。遠い記憶過ぎて、うろ覚えどころか全く覚えていなかった。
 通りは行き交う人や馬、馬車で溢れてそれだけで人酔いしそうになる。賑やかで通りの脇には田舎では絶対に見ないようなオシャレな服やおいしそうな食べ物の店店が沢山並んでいて、まぁ、それくらいならたまに王都にきてもいいわ。本当に、たまに、だけど。

 事前にお父様から国王陛下とルイスの方へ、私が王都へ行くという連絡をしてくださったお陰で、王宮へはすんなりと入ることができた。
 田舎でもそれなりに豪華な部類に入るんだろうと思っていた屋敷だったけど、王宮に比べたら月とスッポンね。豪華さだけでなく格も全然違うわ。廊下が広いこともだけれど、廊下に敷かれた絨毯の毛足が長いことと言ったら!!

 (履きなれないヒール履いているのに、こんなにフカフカしていたらヒールが沈んで転んじゃうじゃない!やめてよ!雨でぬかるんだ泥の道を歩いているみたい!)

「ご緊張されていらっしゃるのですか?」
「え!?ま、まぁそうですわね……」

 応接室へ案内してくれている衛兵に、いきなり話しかけられ声が裏返ってしまった。いきなり話しかけるなんて心臓に悪いったら無い。
 これから婚約破棄を申し出ようとしているのだから、それなりに緊張していると言えばしている。王宮に1人で来るっていうのも人生初にして最後だろうし。

 さっさと屋敷に帰りたいわ。
 このやたらヒールの高い靴は馬車に乗った瞬間脱いでやる。

「こちらの部屋でお待ちください」

案内された一室で、衛兵が消えた途端、部屋の中央に置かれているソファに真っ先に座った。

「脚が究極に痛いわ……こんな足が痛くなるような靴を発明したヤツは滅びるべきよ……」

 どうせボリュームのありすぎる裾で見えないだろうと真っ先に靴は脱いだ。そしてドレスの裾の中に手を入れ込んで、パンパンになったふくらはぎを揉む。まだ目的の相手に会ってすらいないのにこの疲れ具合を考えると、もう帰りがどうなっているか恐ろしい。
 いつ部屋に誰かが入ってくるか分からないので、びくびくしながらしばらく脚を揉んだりしていたけれど、一行にルイスがやってくる気配はない。

 (もしかして私が来てること忘れられているんじゃない?どれだけ人を待たせる気なのよ?もしかしてこれもルイスの嫌味だったりしないわよね?忙しいのに田舎娘がやってきたって言って!貴族同士の嫌がらせってヤバイって聞くしありえそう!)

 いい加減待ちくたびれて、手紙でも置いてもう帰ってしまおうかと考えていた矢先だった。部屋に護衛の後ろから入って来た人物が放つ後光に、思わず目を手で覆ってしまった。

 まっ!眩しい!!
 なにこの人!?
 人ってこんなに眩しくなれるものなの!?
 直視できないんですが!!

 輝くような金髪とサファイアよりも蒼い瞳は記憶のままだが、長身の体は一層逞しく、秀麗な顔立ちは年齢を重ねて精悍さを増している。ルイスのイケメン度がさらにスゴイことになっていると噂は聞いていたけれど、こんなにカッコよくなっているのは想像以上だった。

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