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人間たちに狙われ、魔王に助けられる勇者
6、案内される魔王城
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よくよく考えれば、神様としては捧げ物の対価として、強い能力を持った勇者を転生召喚させさえすれば、後のことは知ったことじゃないのかもしれない。
しかし、転生召喚させられた当事者としてはたまったものじゃない。
強いチート能力を貰い、『俺つえええ』が出来ると踏んでいた勇者も、能力だけ貰って魔王とは戦わず逃げようとたくらんでいた勇者も、他人の言うことに従うだけの人形になり果ててしまうのだ。
「危なかった……。ほんと助けてくれてありがとう、ラウレス」
今日だけでもうなんどラウレスにお礼を言っただろう。
それでも全然言い足りない。この御恩は一生忘れてはいけない御恩だ。
この世界における私の位置づけを私がようやく理解したのだろうと伝わったのか、ラウレスは先ほどまでの厳しい声が優しいものへと変わる。
それでも真面目なままであることは変わりない。一時は助かろうと、今後も安心というわけではないのだろう。
「奴らは決してご主人様を諦めないでしょうが、これからは私がご主人様から片時も離れずお守りいたします。ご安心ください」
「諦めないんですか?私、なんの能力も持ってないですよ?」
「奴らはご主人様に他の勇者のような能力がないことは知りえません。私は神の声を直接聞き、経緯を知っているから、すぐさまお助けに行くことができたのです」
自己紹介しなくてもラウレスが私の名前を知っていたのはそういう流れだったのね。
こんなイケメンに片時も離れず守って貰えるなんて、なんて贅沢なんだろう。
「じゃあ、私が一つも能力持っていないことを話したら諦めてくれるかも」
せっかくがんばって神様にお願いして勇者を召喚した彼らには悪いが、魔王を倒す力がないと分かれば諦めてくれるかもしれない。もちろんラウレスの存在は黙っておく。
しかし話終わる前に、ラウレスの表情は険しくなり、
「あり得ません。むしろ能力がないと分かれば、逆にご主人様を血眼になって殺そうとしはじめるでしょう」
首を横に振った。悪いことをしておらず、なんの能力もない人間を殺そうだなんて人聞き悪い。 しかしラウレスは何も根拠なしに、適当なことを言っている様子は見られない。
「一度、勇者召喚の儀を行ってしまうと、その勇者が死ぬまで、次の勇者召喚の儀は行えないのです。勇者はどんな時代もひとりなのです」
「つまり、存在自体が邪魔と?」
無能なくせに、存在しているだけで次の勇者召喚を妨げる弊害となる存在。
それが転生したばかりの私の立場ということなのだろうか。
しかし、内心ほっとしたのも事実だった。
私が生きてさえいれば、次の勇者を召喚できず、拘束の冠をかぶせられた傀儡の勇者が現れることはないとわかったのだから。
最悪、傀儡勇者にならなかった私とは別に新しく召喚され、あの王様たちに命令された勇者と戦うこともないのだろうと胸をなでおろす。
私は無能でも勇者ではあるけれど戦う能力はなにもない。戦うことになるのは、おそらく隣に座っているラウレスだろう。
無関係なラウレスを巻き込んで、人間同士の無益な戦いをさせたくはない。
「そういうことになります。奴らはご主人様に能力が無いことを知りません。勇者が能力を持たずに召喚され、下僕が現れるというのは過去に一度もないのです。むしろ何かしらの能力があると思わせていた方が、反撃に合うと警戒することでしょう」
「そういうこと……理解できました………」
考えていた以上に『勇者召喚の儀』は闇が深いらしい。神様やラウレスの話以外にも、もっと驚愕の事実が出てきてもおかしくはない。
そうこうしているうちに眼下に広がっていた木々の向こうに開けた土地が見え、そこに大きな城を見つける。
巨大な城だ。外見的な印象はネズミの国の遊園地にあるお城を彷彿とさせるが、その大きさは比べ物にならない。高い塀に取り囲まれ、要塞みたいな印象すらある。
「あれが私の城、魔王城:ベルツガード城になります」
「ラウレスって、すごいお城を持って……」
いや、待て。このイケメン、さらっと何を言っただろうか。あんなに大きな城を持っていることは勿論すごいことだが、聞き間違えじゃなければ、お城を『魔王城』と呼ばなかっただろうか。
「ラウレスって魔王なんですか?」
ここで回りくどい質問をしても仕方ない。答えを聞くのが怖いけれど、隣を振り向き直球で勝負である。質問しておきながら、本音は否定してほしいと思っているが、確かに私の耳には『魔王城』という単語が聞こえた。
すると出会ってから一番と断言できるくらいキラキラした顔になり、思わずその眩しさに顔をそむけたくなった。
「そうです。私は勇者ご主人様の下僕であり、魔王でもあります」
「勇者って魔王を倒すために召喚されるんですよね?」
知らず頬がひくついてしまう。
「世間一般的にはおっしゃる通りです。しかしご主人様は神にこの世界で最も強い者を下僕にしたいと望まれました。そうして魔王である私が、世界で最も強い者として神に選ばれたのです」
下僕に選ばれただけなのに、そんな嬉しそうな顔を向けられても非常に困る。世界で一番強いのだろう魔王なのに、下僕に選ばれたのがそんなに嬉しいのだろうか。
それも勇者の下僕。一応、勇者と魔王はライバル関係じゃなかったかとツッコミたい。
そして小さな神様も神様だ。確かに魔王なら絶対強いだろう。人間たちが捧げものをして異世界から勇者を召喚しようとするくらいなのだから。
けれど、いくら私がチート能力の代わりに、強い仲間を願ったとはいえ、まさか勇者が倒すはずの魔王を仲間(下僕)に選ぶなんて。
「神様、私にどうしろっていうのよ……」
城まではもう目の前なのに、ふかふかの絨毯に脱力してしまった。
しかし、転生召喚させられた当事者としてはたまったものじゃない。
強いチート能力を貰い、『俺つえええ』が出来ると踏んでいた勇者も、能力だけ貰って魔王とは戦わず逃げようとたくらんでいた勇者も、他人の言うことに従うだけの人形になり果ててしまうのだ。
「危なかった……。ほんと助けてくれてありがとう、ラウレス」
今日だけでもうなんどラウレスにお礼を言っただろう。
それでも全然言い足りない。この御恩は一生忘れてはいけない御恩だ。
この世界における私の位置づけを私がようやく理解したのだろうと伝わったのか、ラウレスは先ほどまでの厳しい声が優しいものへと変わる。
それでも真面目なままであることは変わりない。一時は助かろうと、今後も安心というわけではないのだろう。
「奴らは決してご主人様を諦めないでしょうが、これからは私がご主人様から片時も離れずお守りいたします。ご安心ください」
「諦めないんですか?私、なんの能力も持ってないですよ?」
「奴らはご主人様に他の勇者のような能力がないことは知りえません。私は神の声を直接聞き、経緯を知っているから、すぐさまお助けに行くことができたのです」
自己紹介しなくてもラウレスが私の名前を知っていたのはそういう流れだったのね。
こんなイケメンに片時も離れず守って貰えるなんて、なんて贅沢なんだろう。
「じゃあ、私が一つも能力持っていないことを話したら諦めてくれるかも」
せっかくがんばって神様にお願いして勇者を召喚した彼らには悪いが、魔王を倒す力がないと分かれば諦めてくれるかもしれない。もちろんラウレスの存在は黙っておく。
しかし話終わる前に、ラウレスの表情は険しくなり、
「あり得ません。むしろ能力がないと分かれば、逆にご主人様を血眼になって殺そうとしはじめるでしょう」
首を横に振った。悪いことをしておらず、なんの能力もない人間を殺そうだなんて人聞き悪い。 しかしラウレスは何も根拠なしに、適当なことを言っている様子は見られない。
「一度、勇者召喚の儀を行ってしまうと、その勇者が死ぬまで、次の勇者召喚の儀は行えないのです。勇者はどんな時代もひとりなのです」
「つまり、存在自体が邪魔と?」
無能なくせに、存在しているだけで次の勇者召喚を妨げる弊害となる存在。
それが転生したばかりの私の立場ということなのだろうか。
しかし、内心ほっとしたのも事実だった。
私が生きてさえいれば、次の勇者を召喚できず、拘束の冠をかぶせられた傀儡の勇者が現れることはないとわかったのだから。
最悪、傀儡勇者にならなかった私とは別に新しく召喚され、あの王様たちに命令された勇者と戦うこともないのだろうと胸をなでおろす。
私は無能でも勇者ではあるけれど戦う能力はなにもない。戦うことになるのは、おそらく隣に座っているラウレスだろう。
無関係なラウレスを巻き込んで、人間同士の無益な戦いをさせたくはない。
「そういうことになります。奴らはご主人様に能力が無いことを知りません。勇者が能力を持たずに召喚され、下僕が現れるというのは過去に一度もないのです。むしろ何かしらの能力があると思わせていた方が、反撃に合うと警戒することでしょう」
「そういうこと……理解できました………」
考えていた以上に『勇者召喚の儀』は闇が深いらしい。神様やラウレスの話以外にも、もっと驚愕の事実が出てきてもおかしくはない。
そうこうしているうちに眼下に広がっていた木々の向こうに開けた土地が見え、そこに大きな城を見つける。
巨大な城だ。外見的な印象はネズミの国の遊園地にあるお城を彷彿とさせるが、その大きさは比べ物にならない。高い塀に取り囲まれ、要塞みたいな印象すらある。
「あれが私の城、魔王城:ベルツガード城になります」
「ラウレスって、すごいお城を持って……」
いや、待て。このイケメン、さらっと何を言っただろうか。あんなに大きな城を持っていることは勿論すごいことだが、聞き間違えじゃなければ、お城を『魔王城』と呼ばなかっただろうか。
「ラウレスって魔王なんですか?」
ここで回りくどい質問をしても仕方ない。答えを聞くのが怖いけれど、隣を振り向き直球で勝負である。質問しておきながら、本音は否定してほしいと思っているが、確かに私の耳には『魔王城』という単語が聞こえた。
すると出会ってから一番と断言できるくらいキラキラした顔になり、思わずその眩しさに顔をそむけたくなった。
「そうです。私は勇者ご主人様の下僕であり、魔王でもあります」
「勇者って魔王を倒すために召喚されるんですよね?」
知らず頬がひくついてしまう。
「世間一般的にはおっしゃる通りです。しかしご主人様は神にこの世界で最も強い者を下僕にしたいと望まれました。そうして魔王である私が、世界で最も強い者として神に選ばれたのです」
下僕に選ばれただけなのに、そんな嬉しそうな顔を向けられても非常に困る。世界で一番強いのだろう魔王なのに、下僕に選ばれたのがそんなに嬉しいのだろうか。
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そして小さな神様も神様だ。確かに魔王なら絶対強いだろう。人間たちが捧げものをして異世界から勇者を召喚しようとするくらいなのだから。
けれど、いくら私がチート能力の代わりに、強い仲間を願ったとはいえ、まさか勇者が倒すはずの魔王を仲間(下僕)に選ぶなんて。
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