神様、話が違いませんか?勇者として召喚されたはずなのに魔王に庇護されているんですが

ミチル

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勇者転生のトリセツ

1:死んだばかりの私は神様に勇者として目をつけられたみたいです

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誰かが異世界召喚や異世界転生するとき、どんな背景を考えるだろう?

 ①ドジな神様が間違えて召喚。あるある過ぎて王道テンプレ

 ②魔王に滅ぼされそうな国が、国をまもるために、そして魔王を倒すために異世界人を召喚

 ③たまたま異世界と繋がった。奇跡であると同時に、最悪の不運。

 だいたいの人がこの3つのどれかを思いつくんじゃないだろうか。
 どれもアニメやラノベの設定では王道テンプレ展開で連想しやすい。

 そういう私自身(桜木唯さくらぎ ゆい)、現役一浪生の18歳だが、現在進行形で変な場所にいたりする。
 あたり一面、真っ白で何もない世界。そこに立つ自分の目の前に、サッカーボールくらいの大きさの光る球体が浮かび、その球体に人の形と認識できる程度に最低限デフォルメされた小人が座っていた。
 丸い頭は髪の毛どころか目も口もない。
 どこでしゃべっているのか、見当もつかないけれど、『ボクは神様だよ』という相手の声は耳に聞こえてきた。

 指で頬をつねってみたけれど、痛い。夢ではないようだ。周囲を軽く見渡してみたけれど、どこにも人が隠れそうな建物はない。なにしろ周囲は真っ平なままでどこまでも広がっているのだから、誰かがしかけたドッキリという可能性は非常に低い。

 真っ先に考えたのは①。

 理由は王道テンプレ筆頭であること。どんな神様であっても『ドジ』なんて失礼だとは思う。けど、こんな特筆すべき才能も能力もない地味眼鏡な私なんかをチョイスしてしまう神様なのだから、ドジだったり、おっちょこちょいで抜けてる性格を連想してしまっても許してほしい。
 でも、何もしゃべっていないのに、小人の神様はケラケラ笑いだし、

「ざんねーん!はずれでーす」

「なんで私の考えていることが分かったんですか!?いえ!だったら正解は何なんです?」

 心の中で考えがバレてしまったことよりも、どうしてこんなヘンテコな世界に自分はいるのか、っちの方が今は重要だ。その理由をもったいぶってないで早く教えてほしい。
 
「唯は覚えてない?自分が死んだときのこと?」

 確認するように問われて、ぐっと口を閉ざす。
 さっき死んだばかりで忘れるわけがない。私は死んだ。予備校から帰る途中、工事しているビルの横を歩いていたら、ビルを覆い隠すようにしていた足場が崩れて下敷きになった。
 
 たまたまの偶然。くずれるタイミングで通りかかってしまったのは運が無かったとしか言いようがない。
 事故が起こって下敷きになっても、少しの間だけ意識はあったから、自分の身に何が起こったのかは理解することはできた。体は指一本動かせなかったけれど、幸いなことに神経をやられたのか、痛みを感じなかったのだけは不幸中の幸いと思う。
 同じ死でも痛みで苦しんで死ぬより、ぽっくり逝くか、痛みなしで死を迎えたい。

 けれど、倒れた自分の周りで、あたりに広がる悲鳴と喧騒が耳からだんだんと遠くなり、視界もぼやけはじめ、ああ、自分は死ぬんだって思ったあたりで意識を失い、次に目が覚めたらここにいた。
 おかげで真っ先にここはあの世だろうと思ったのに、それを否定したのも目の前の小人の神様だ。

「……覚えてます。私は死んだんです。ならこれから転生するっていうことですか?」

「惜しい。近いけど違うね。死んだら魂は勝手に転生しちゃうんだけど、ボクは別のだれかと間違って唯をここに転送させたわけじゃないよ。さすがに生きてる誰かを召喚するのは可哀そうでしょ?」

「そ、そうですね……」

 一生懸命生きている最中に、いきなり召喚されたんじゃたまったものじゃない。元の世界に心残りはいっぱいありだろう。さすがに神様もそこまで横暴ではなかったようだ。その点、死んだ直後の人間なら大丈夫だという、自称神様は自信満々に自我自賛を続ける。

 こちらがありったけの知識を総動員して答えているのに、この小人の神様は余裕ぶってなかなか答えてくれない。小人の神様の話を聞いてると、だんだんと腹立たしくなってくる。
 人間なんかって馬鹿にしているのかしら。私だって好きで死んだわけじゃないのに。

 けれど、苛立ちつつ、改めて実感している私も半分くらいいた。
 やっぱり私は死んでしまったらしい。
 心残りはもちろんある。来年こそは志望の大学に受かって、勉強とバイトを頑張りつつ、サークルにだって入ってみたかった。でも死んだのだと、軽い口調で小人の神様は笑う。
 
 人間いつかは死ぬものよね。
 死因は病気とか私にみたいに事故にあったり色々だけど、結局みんな寿命が来て死ぬんだもの。今更何を言ったって仕方ないか。
 
 そう考えたら、死んだことに対する悔しさや怒りは湧き起らなかった。
 代わりに大きなため息が一つでた程度だ。

「じゃあ、普通なら勝手に転生する魂を、わざわざここに呼び出したのは別の意味があるってことなんですよね?」

「うんうん。そうなんだけど、転生は転生でも赤子で生まれかわるんじゃなくて、その姿のまま転生だね。そして別の世界の人間たちに召喚されるんだ」

「別の世界……」

 咄嗟には理解できなかったけれど、異世界で赤ちゃんから再スタートというわけではなく、死んだ直後の姿からスタートということ?それって転生っていうの?と思いつつも、下手なことを言って、変なモンスターとかに生まれ変わっても困る。
 いや、ここは下手につっこまずに流しておこう。
 転生先の世界でどんな種族がいるのか分からないけれど、生まれ変わるならまた人間がいい。

「何のために召喚されるんですか?」

「もちろん魔王を倒すためさ。転生先はなんと勇者だよ」

「結局パターン②じゃないですか………」

 脱力感が半端なく、その場に崩れ落ちた。
 そりゃあ魔王を倒したいのに、勇者が赤ちゃんだったら困るでしょうよ。
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