1 / 5
1 ベッドに誰かが忍び込んでいるんですけど!?
しおりを挟む
第一王子ルイスとの婚約破棄に晴れて失敗ーーー誤解が解けてから、王妃エマの計らいでリリーはしばらく王宮に滞在することになった。
もちろんルイス付きの見習い騎士:リリー・ノヴァレスとしてではなく、侯爵令嬢リリー・イングバートンとしてだ。
王宮の召使いやメイドたちもリリーをルイスの婚約者として、丁重な対応でもてなす。
中にはリリーの顔を見て、見習い騎士をしていたリリー・ノヴァレスではないか?と勘付く者がいたが、疑問に思ってもそこは黙って口を閉ざした。
第一王子の婚約者が見習い騎士をしていたという噂を立てるなど、未来の王妃に失礼があってはならないのだから。
今回は特別に外国からの大使や重要な人物が泊まるときに使う部屋に、リリーは泊まらせてもらえることになり、カデール領に帰るまでのんびり過ごすことにした。
(はぁ~あ、せっかく婚約破棄寸前までいけたのに、結局破棄は流れちゃったわ。なんて勿体無いことをしちゃったのかしら。甘いんだから、私も)
ルイスがちゃんと王と王妃に婚約破棄を伝えられたら、婚約破棄をしない。逆に嘘などとついて婚約破棄をごまかそうとしたら、婚約破棄をする。
天の邪鬼な賭けをして、結果ルイスは正直に王と王妃に『婚約破棄』を報告してまい、結果はリリーが負けて『婚約破棄』の話は流れてしまった。
惜しいところまで行ったのに、ついルイスに情け心を出してしまった自分が恨めしい。
(でも婚約破棄が全くなしになったわけじゃないわ。単に降り出しに戻っただけよ)
夜、王宮に用意された部屋のベッドでリリーが横になって寝入っていると、リリーはふと意識が浮上してくる。
喉が乾いたわけでも、目が覚めたわけでもない。眠いのは変わらないし、瞼も重くて開けたくない。
ただ、気持ちいいのだ。
「ん…」
(なにかしら……何かふわふわしてて気持ちいい……)
脱力した身体を優しくマッサージされているかのような心地よさ。だから意識が目覚めかけようとしているのに、気持ち良くて起きれない。
この気持ち良さにずっと身を委ねていたい。
「あ……、ぁん……」
(勝手に声がでちゃうわ……)
気持ちいいことは変わりない。けれど、無意識に声が漏れてしまい、リリーはなんだろうと重い瞼を開いた。
天蓋付きのベッド内は天蓋布が全て閉ざされ真っ暗闇だ。しかし布団を被っている自分の上で、もそりと何かが動いたような気配がした。
「リリー……」
「え、あっ!誰っ!?」
暗くて見えないけれど、誰かが自分のベッドに入り込んでいる。そして自分に触れている。それを認識したとたん、リリーはそれまでの気持ちよさなど吹き飛んで、恐怖でさっと顔を青ざめた。
(誰か助けを呼ばなくちゃ!ここは王宮よ!?どうして私のベッドに狼藉者が忍び込んでいるの!?)
昼夜問わず警護しているだろう衛兵はどうしたのか。恐怖で体がガクガク震える。とにかく悲鳴を上げ逃げ出そうとしたリリーの口を大きな手のひらが覆った。
「しー、俺だよ。ルイスだ」
大声をあげられないようにリリーの口を塞いだ相手が、声を出さないようにと言ってくる。リリーが知る限り、ルイスという名前と男は一人しか知らない。そして見知った声に、それが本物だと悟る。
今、こうしてベッドの中で、リリーの上に覆いかぶさっているのは、婚約破棄しそこなったばかりの第一王子のルイスだ。
リリーが騒ごうとしたのをやめる気配を感じたのか、口を塞いでいた手をそっと離してくれる。
「ルイス!?何をしているの!?こんな時間に!」
まだリリーの心臓は驚きでばくばく鳴っている。
天蓋布が下ろされたベッドの中では、ルイスの表情はほとんど見えない。しかし、リリーの頬にそっと手を添えて撫でる仕草から、なんとなくルイスが微笑んでいる気がした。
「何って夜這いに来ただけさ」
「そう、夜這いね、夜這……ええっ!夜這い!?」
思わずリリーは聞き返してしまっていた。
(聞き間違えじゃないわよね!?第一王子のくせに夜這いに来たって言ったわよ!?)
もちろんルイス付きの見習い騎士:リリー・ノヴァレスとしてではなく、侯爵令嬢リリー・イングバートンとしてだ。
王宮の召使いやメイドたちもリリーをルイスの婚約者として、丁重な対応でもてなす。
中にはリリーの顔を見て、見習い騎士をしていたリリー・ノヴァレスではないか?と勘付く者がいたが、疑問に思ってもそこは黙って口を閉ざした。
第一王子の婚約者が見習い騎士をしていたという噂を立てるなど、未来の王妃に失礼があってはならないのだから。
今回は特別に外国からの大使や重要な人物が泊まるときに使う部屋に、リリーは泊まらせてもらえることになり、カデール領に帰るまでのんびり過ごすことにした。
(はぁ~あ、せっかく婚約破棄寸前までいけたのに、結局破棄は流れちゃったわ。なんて勿体無いことをしちゃったのかしら。甘いんだから、私も)
ルイスがちゃんと王と王妃に婚約破棄を伝えられたら、婚約破棄をしない。逆に嘘などとついて婚約破棄をごまかそうとしたら、婚約破棄をする。
天の邪鬼な賭けをして、結果ルイスは正直に王と王妃に『婚約破棄』を報告してまい、結果はリリーが負けて『婚約破棄』の話は流れてしまった。
惜しいところまで行ったのに、ついルイスに情け心を出してしまった自分が恨めしい。
(でも婚約破棄が全くなしになったわけじゃないわ。単に降り出しに戻っただけよ)
夜、王宮に用意された部屋のベッドでリリーが横になって寝入っていると、リリーはふと意識が浮上してくる。
喉が乾いたわけでも、目が覚めたわけでもない。眠いのは変わらないし、瞼も重くて開けたくない。
ただ、気持ちいいのだ。
「ん…」
(なにかしら……何かふわふわしてて気持ちいい……)
脱力した身体を優しくマッサージされているかのような心地よさ。だから意識が目覚めかけようとしているのに、気持ち良くて起きれない。
この気持ち良さにずっと身を委ねていたい。
「あ……、ぁん……」
(勝手に声がでちゃうわ……)
気持ちいいことは変わりない。けれど、無意識に声が漏れてしまい、リリーはなんだろうと重い瞼を開いた。
天蓋付きのベッド内は天蓋布が全て閉ざされ真っ暗闇だ。しかし布団を被っている自分の上で、もそりと何かが動いたような気配がした。
「リリー……」
「え、あっ!誰っ!?」
暗くて見えないけれど、誰かが自分のベッドに入り込んでいる。そして自分に触れている。それを認識したとたん、リリーはそれまでの気持ちよさなど吹き飛んで、恐怖でさっと顔を青ざめた。
(誰か助けを呼ばなくちゃ!ここは王宮よ!?どうして私のベッドに狼藉者が忍び込んでいるの!?)
昼夜問わず警護しているだろう衛兵はどうしたのか。恐怖で体がガクガク震える。とにかく悲鳴を上げ逃げ出そうとしたリリーの口を大きな手のひらが覆った。
「しー、俺だよ。ルイスだ」
大声をあげられないようにリリーの口を塞いだ相手が、声を出さないようにと言ってくる。リリーが知る限り、ルイスという名前と男は一人しか知らない。そして見知った声に、それが本物だと悟る。
今、こうしてベッドの中で、リリーの上に覆いかぶさっているのは、婚約破棄しそこなったばかりの第一王子のルイスだ。
リリーが騒ごうとしたのをやめる気配を感じたのか、口を塞いでいた手をそっと離してくれる。
「ルイス!?何をしているの!?こんな時間に!」
まだリリーの心臓は驚きでばくばく鳴っている。
天蓋布が下ろされたベッドの中では、ルイスの表情はほとんど見えない。しかし、リリーの頬にそっと手を添えて撫でる仕草から、なんとなくルイスが微笑んでいる気がした。
「何って夜這いに来ただけさ」
「そう、夜這いね、夜這……ええっ!夜這い!?」
思わずリリーは聞き返してしまっていた。
(聞き間違えじゃないわよね!?第一王子のくせに夜這いに来たって言ったわよ!?)
20
お気に入りに追加
1,429
あなたにおすすめの小説

愛されていたなんて思いもしませんでした
毛蟹葵葉
恋愛
ヴァイオレットは、自分がある物語の断頭台に消えた悪女に生まれ変わった。
彼女は、処刑されないために自分自身の行動に気をつけて、黒幕を救済するために動いた。
「私と婚約しませんか?」
「なぜ?」
「私には未来が見えます。といっても19歳までの未来ですが、このままでは私達は破滅してしまいます」
ヴァイオレットは、嘘をついて黒幕のアクセルと手を組んだ。
「貴方には、愛する人がいるでしょう?その人を死なせないために手を組みましょう。そうですね。18歳になったら婚約は解消しましょう」
そして、ヴァイオレットとアクセルは、処刑されない。という、ハッピーエンドを迎えた。
中長編の話をさらっとまとめています



王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト
待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。
不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった!
けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。
前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。
……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?!
♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。


元遊び人の彼に狂わされた私の慎ましい人生計画
イセヤ レキ
恋愛
「先輩、私をダシに使わないで下さい」
「何のこと?俺は柚子ちゃんと話したかったから席を立ったんだよ?」
「‥‥あんな美人に言い寄られてるのに、勿体ない」
「こんなイイ男にアピールされてるのは、勿体なくないのか?」
「‥‥下(しも)が緩い男は、大嫌いです」
「やだなぁ、それって噂でしょ!」
「本当の話ではないとでも?」
「いや、去年まではホント♪」
「‥‥近づかないで下さい、ケダモノ」
☆☆☆
「気になってる程度なら、そのまま引き下がって下さい」
「じゃあ、好きだよ?」
「疑問系になる位の告白は要りません」
「好きだ!」
「疑問系じゃなくても要りません」
「どうしたら、信じてくれるの?」
「信じるも信じないもないんですけど‥‥そうですね、私の好きなところを400字詰め原稿用紙5枚に纏めて、1週間以内に提出したら信じます」
☆☆☆
そんな二人が織り成す物語
ギャグ(一部シリアス)/女主人公/現代/日常/ハッピーエンド/オフィスラブ/社会人/オンラインゲーム/ヤンデレ

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる