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第1章 冒険者ギルドの契約職員なのです!

冒険者の悩みを聞くのもお仕事なのです―その6

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「仲間をー連れてーき……」
「ミユキが世話になっている。自分は『智多星』のノノと言う。ミユキでは会話が『非常に』長くなるので、あとは自分が話す」
「んーわかったー、ノノ。じゃーあとはまーかせーたー」

 女性ばかりのチーム「百花繚乱」。
 武のスターが『一丈青』のミユキ様だとしたら智のスターは『智多星』のノノさん、と言われています。
 ちなみにノノさんはエルフです。
 エルフと言えば……。

「いま何か考えたか、『契約職員・一般』のティア。先に言っておくが自分は引きこもりではない。なぜなら自分は役目を果たすために屋内作業を行っているのであり、ゆえに引きこもりという社会一般的な定義から外れる。何か異論はあるか?」
「い、いえ。滅相もありませんです。もちろん異論などあるはずはないです」

 ノノさんはジト目でわたしを見据えます。
 えっと。ノノさん、ってとっても美人なのです。
 すごくすごく知的な美女。
 身長は160センチちょい。わたしとあまり変わりません。

 ここで一旦エルフについての解説をさせて下さい。

 エルフの身体的特徴としてやや痩身中背。
 スタイルは人によりけり。細マッチョの男性やお胸が大きい人がいる一方、華奢だったりいわゆる「つるぺた」な人も多いです。
 とりわけ目立つのは髪色と目の色。
 髪は金または銀のブロンドが多く、一部緑色の髪色の人もいます。
 目の色は碧眼や金など多種で、左右で色が異なる方も見かけます。

 エルフが住んでいたニホンは、ヒューマンに言わせると「自分たちが住んでいたニホンがいずれなるかもしれない未来」なんだそうです。
 自宅から一歩も出ないでも働ける環境でジョーホー産業が発達。多くの人は知的作業に従事して、肉体労働はキカイがやるそうです。

 そのせいでしょうか。
 エルフの評価として、もうひとつ有名なのものに……。

「もうひとつ注意しておく。世に『エルフは着るものに無頓着』という風説が流布されているのを知ってるか。自分としては非常に遺憾だ」

 あ、ノノさんに先に言われました。
 虎人は着衣に無配慮、エルフは着衣に無頓着、そしてサキュバスの着衣は無法。アルカディアあるある、として観光ガイドにも書かれてます。

 田舎から出てきたお年寄りが鼻の下を伸ばしたり驚かれたりとガイドしている分には面白いのですが……。
 ええ、わたしがエルフの地雷を踏む当事者にさえならなければ、ですが。

「たとえば自分はきょう、自分が作業をする上で一番最適の服装で臨んでいる。つまり着衣を正しく選んでいるのである。にも関わらず根拠もない風説を無責任に流す者がいる。まったくもってけしからん話だ。いいか、そのような手合いがもしいたら、お前もギルド職員として正しく、情報を修正するように」

 『智多星』のノノさんは、言うだけのことは言ってわたしに握手を求めてきます。
 うん、思っちゃいけない、思っちゃいけない、のですよティア。
 この人、ノノさんって人の心を読んでしまうくらいスルドイ人なのですから。

「美人さん、なのに。外に出てくるのに。服装が寝間着パジャマのままってザンネンすぎるどころじゃないでしょ」とか考えちゃいけないのですよ、ティア。
「しかもビミョーに汗臭いんですけど」とかも考えちゃダメなんですよ、ティア。

 ああ、もうどうしよう。
 助けを求めようにもミユキ様は「あ、チョウチョだー」とか言いながらほわんとなされてますし、唯一の友軍だと信じていたまりあさんに目を向けると、そっと目を逸らされてしまいました。
 あう、シメンソの歌とはこういう状況、なのでしょうか?

「おーい、ノノよ。あまり契約職員をいじめるんじゃねえよ。さっきから契約職員ってば口をぱくぱくさせるしかできねえみたいじゃんか。大体、ほかのエルフはどうかは知らねえけどよノノ。お前が引きこもりで着るものに無頓着でしかも汗臭えのは、事実じゃん」

 なんど、孤立無援の我が軍を救い、その一方で無敵状態のノノさんを制する人が現れたじゃありませんか。

 盛大にエルフの、というかノノさん自身の地雷を踏みつつこちらにやって来た人。
 ノノさんに「キッ」と突き刺すような目線を向けられても一向に動じる気配を見せないこの人も。「百花繚乱」のメンバーさん、なのです。
 わたしでも知ってる有名な人です。
 むしろアルカディアに住んでいるのなら、子供でさえも知ってます。
 チームの精神性の柱とも言われ。困っている人がいればメンバーであるなしに関わらず救いの手を差し伸べる。
 いろんな性格の人がいる百花繚乱がひとつにまとまるのもこの巨星がいるからこそ、とそこまで言われている。偉大なる二番手……。

「おっとぉ、契約職員。アタイの自己紹介が遅くなったな。アタイは百花繚乱のサブリーダーやってる『及慈雨』のミスズ、見ての通りコロボックルだ。お前、ティアって言ったっけ? これからヨロシクな。今回はうちのチームからはアタイと、そこの『一丈青』と『智多星』、『双鞭』。それと最近チームに入った新人も厄介になるぜ」

 え、ほかにも人がいたのです?
 そう思って周りを見回すといました。
 分厚いマントをまとっているのでちらっとしか見えないのですが……。
 わずかにみえる四肢、背中は黄色と黒の虎縞です。
 つまり、虎人の女性、なのです。……のはず、なのです。
 ほかには……。
 ミドルに切りそろえた黒髪がとてもきれいで、で片目は前髪に隠れています。
 こう見ている分にはとってもおとなしそうで冒険者というより深窓の令嬢という感じです。

「……」

 目が合っちゃいました。
 するとその人は無言でこくん、と頭を下げてくれました。
 なんだか、とてもいい人っぽい、なのです。
 でもでも。
 虎人、で「百花繚乱」、でミスズさんは『双鞭』、と言いましたね。
 えっ、とつまり、ですよ。
 つまりあの方が双鞭使いとして有名な、あの『双鞭』のサシャさん、なのですか?
 えええ、こんなにおとなしそうな人だと思っていませんでした。
 あれ、わたしってサシャさんの冒険者カードを持っていなかったっけ……、 あ、サシャさんってカードでは、仮面付けているのですね。
 それにしても、カードではお胸が豊か。
 なのにいまのサシャさん、いまは仮面こそ付けてませんがマントでがっちりその身を隠しています。

 あれぇ? なのです。

 多分、わたしはちょっとだけ首をひねってしまった、のでしょう。
 すかさずわたしにツッコミを入れてくる人がいました。
 そう、心を読むことができるモノノケみたいな人が、です。

「ティア、お前がいま、黙り込んだ理由を想定した上で答えを与えよう。サシャは虎人、なのになぜ肌や顔を隠すのか不思議だ、と思ったか。その答えはサシャは対人恐怖症だからだ。サシャはこの容姿であり性格もよい。結果、トンデモなくモテすぎた、しかし元来おとなしいサシャは対応ができない。なのでこそこそ隠れてしまうクセがついたのだ。付け加えて言うが自分はモノノケの類いではない。お前が非常に心を顔に出しやすいからわかるだけだ」

 『智多星』の二つ名どおり、ノノさんは完全にわたしの心を看破した上で欲しかった答えを授けてくれました。
 もういや、今回の仕事。
 姿だけじゃなく心まで裸にされてしまいますです。

「なーに、人間、裸になってしまえば一皮ムけるじゃん」
 からからから、と快活にミスズさんは笑ってます。
 いえ、そんなカツレイはわたしには要らないです。
 あれ、カツレイ?
 割礼?
 え、なんでわたしってそんな言葉を知ってるの?
 いえ、カマトトぶっているつもりはないです。
 ただ。
 そんな風習、この世界には、ない……。
 
 あ、はい。つまりわたしは「割礼とはなんぞや」を知っているんですよ。この世界にそんな風習はない、のにも関わらず。

 夢の中で睡眠学習でもして、るんでしょうかね、わたしって。
 その、えっち方面の。
 でも、わたし。そっち方面えっちの経験ってないんですけど。
 わたしって欲求、不満、なんですかね。
 あうううう。

「で、おーい、ティア。アタイがシモの話を振ったからって頭の中で妄想すんな。意外とえっちなヤツだなあ、お前。で、いいか。こいつが、うちの新人がお前に会いたがっていたから連れてきてやったぞ」

 現在の状況も考えず妄想、というか疑問符のかたまりというか、とにかく思考の檻の中に閉じこもったわたし。
 その檻を壊したようにミスズさんが声を掛けてくれたので、わたしは現実に戻ってきました。
 サシャさんは心配そうにわたしを見てます。
 ノノさんは「何が起こった?」みたいな顔で。
 ミユキ様は……。ああ、チョウチョを眺めて楽しそうだからいいや。
 あれ、もうひとりの方がいますね。
 えっと、どこかでお会いしましたっけ?
 とてもおきれいな方です。
 唇も目もばっちりメイクして、大人の女性として素敵な感じ。
 髪は黒髪で。
 お胸は、とても大きいですね。
 ……、あれこのお胸は見覚えが。
 それにこの人が着ている服ってどこかで見覚えが。
 最近発売された強化服、その名も「体操着」ってやつでしたっけ?
 どことなく「すくみず」のような雰囲気まにあっくさを持ってる服ですねえ……。
 ん?
 すくみず?

「もしかして、あなたはアイコさんです、なのです?」
「そう、アイコだよ。だけどティアさん。どうしてわからないのかな?」

 ついこの間までヒューマンのコーコーセイだったアイコさんは、大人の女性に変貌してわたしの前に立っていました。
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