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第1章 冒険者ギルドの契約職員なのです!

冒険者の悩みを聞くのもお仕事なのです―その3

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「ギルドから職員を送るから話を聞いてくれ、って連絡が来ていたけど、あなたね。カワイイ子じゃない。あるわよ。やる気さえあれば誰でもできて、それでいて冒険。そんなお仕事、なら」

 現在わたしティアは、商業部会担当のお兄さんから紹介を受けた工房におります。
 依頼主さんはサキュバスの男性でした。
 名前はミチオさん。紫に染めた髪を短くカットしてます。
 ツンツンと立てたヘアスタイルに、髪色に合わせたようなターコイズのピアス。引き締まった黒褐色の肌にぴったりと張り付くヘソ出しの上着とぴったりとした革パンツ。

 はう。随分と体のラインがはっきりわかる服なのですね。
 細い割に筋肉質な胸板にふたつのぽっちが浮き出ているし。
 それ以上に。詳しいことは言えませんがその革のパンツ。
 とっても、ぴったりすぎですよぉ。

 という感じで今回の依頼主さんからはアヤシげな芸術家の雰囲気がプンプンとしています。
 でもそれだけではないんですよ。
 それでいて気さくなお兄さん、って感じです。
 んー。お兄さんというか。むしろ頼れるお姉さんというか。
 不思議な人です。
 え?
 ちがいます。ミチオさんは間違いなく男の人です。
 なぜ男だとわかるのか、ですか?
 ……もしかして。答えはわかっているのにわたしに聞いていませんか?

 わたしがミチオさんの容姿に内心ではドキドキしている間、ミチオさんもわたしの姿をじーっと見ていました。
 まるで品定めをするみたいにです。
 芸術家な人の目って、笑っていても鋭いです。
 そしたらミチオさん。急に怒ったような顔になりました。
 今までのわたしに、何か落ち度があったでしょうか?

「あら、ダメよ女の子が髪のお手入れで手を抜くなんて。こっちに来なさい」

 まったく予想外な展開でした。
 ミチオさんは一瞬でわたしのうしろに立ち、どこから取り出したのかブラシを使って髪をなでてます。

「え、あの、これは、この状況は、いったい……?」

 そんなわたしの疑問なんてお構いなしで、ミチオさんは「ぷしゅぷしゅぷしゅ」と霧吹きで、いい匂いがする液体を髪に吹きかけてブラシを取り出し髪をすいてくれます。

「あの。あっ。あう……」

 不思議です。
 ブラシが髪の間を通り抜ける。ただそれだけで髪の毛が生き返ったような感覚が走るんです。
 そして、その気持ちよさと言ったら。
 わたし、禁断のカイカン、ってものに触れてしまったみたいで。依頼主さんにこんなことをさせている状況に慌てるよりも、もうちょっとこの感覚に浸っていたいと……あ、そこ、気持ちいいです、はう……。

「はい、最低限の応急処置は終わったわ。これからはちゃんとケアするのよ。営業には見た目も必要なのでしょ」

 はーはー……。あ。終わって。しまったのですね……。
 ええと、ありがとうございました……。

「あら。なんだか息が荒いけど、依頼の発注をしても大丈夫? だけど。いまのあなた、いい表情してるじゃない。乱れた艶っぽさが素敵……」

 ミチオさんの目がわたしを上から下までなで回すように動きます。わたしの目を見て、視線は胸のあたりで止まりウエスト部分に。そして腰回りへ。ミチオさんはぐるっとわたしの周りを一周します。
 いまはおしりをじっくり見られてるみたい。
 そんなに見つめられたら。

 体が熱いです。多分いま、わたしの顔って真っ赤です。
 汗が噴き出してます。
 ミチオさん、そんな近くでわたしを見つめないで、ください。
 汗のにおいに気付かれたら、と考えただけで悶えそうで。
 この状態でヒョーメン的には動揺を見せないで直立姿勢をしているのはつらい、のです。
 わたしの裸まで。
 いえ、心の中まで全部、セキララに見透かされてしまいそうで。

「うん、決めたわ。あなたも参加することが確定でなら、あなたに依頼を発注することにする、わ」

「は、はひ……。え、えええ? あ……。失礼しました。わたしも参加が必須で、ならご発注いただける、のですね」

「そうよ。報酬は割り増し。だけど難易度はやる気さえあればできるから『簡単』、そういう依頼よ。何しろ、わたしったらさっきまで困っていたことがあったの」

 ミチオさんはそういうとくるりと背を向けて、何やら積まれている棚の前でごそごそと手を動かしています。
 あう。あの革のパンツ、結構ローライズだとは思っていましたがまさかそこまで低いとは。
 あのヒモって。
 ミチオさんってば「みせぱん」履いているんですね。
 さすがはサキュバスさん、なのです。
 うー。普段なら目を背けますです、なのですが。
 依頼主さんをイヤラシい目で見ちゃダメなのですよ、わたし。

 わたしが心の中でカットーを繰り広げていると、ミチオさんは目的のものを見つけたみたいです。「これよこれ」と言ってます。

 手にしているのは布でした。
 結構長い布ですね。
 はて、布の端っこ、一方だけに紐がついてます。左右に二つ。
 え、あなたはあれが何か、もうわかったんですか?
 わたしはさっぱり、なのです。
 なんなのでしょう、あの布は。

「あなた、シェスティアちゃんと言ったわね」
「よろしければティアとお呼び下さい」

 わたしの言葉にミチオさんはふーん、と言い、わたしの両肩に両手を置きました。
 なんでしょう、がっちりホールドされたような気がします。
 もう退路は断たれたような、そんな気がして。
 汗がまた噴き出してきました。

「いいわ。じゃあティア。わたしからの依頼はね。ヒューマン族の知識からわたしが着想してつくったのがこれよ、この『フンドシ』なの。これを着用し発表会に出るモデルを冒険者に声をかけ集めてちょうだい。男女問わずよ」

 わたしは、言われたことがさっぱりわかりません。
 あれ、布ですよね。
 あれを着用?
 どこにでしょう。

「もちろん、あなたがモデルになるのが大前提だけどいいわよね。さっきも言ったけどわたし本当に困っていたのよ。モデルを集めるツテがなくて。だってわたしったら、恥ずかしがり屋さんだし。人に頼むのって苦手なのよね」

 ミチオさんは親指の爪を噛んで横を向き泣き顔をつくってます。
 んー。きゅーちょー懐にイズンバハンターもこれをシュートせず、って言いますし、きっとこれも何かのご縁。
 人助けは大事ですよね。

「わかりました。用件を整理しますと。一、わたしが着用モデルになる。二、男女問わず冒険者の中から着用モデルを募る。三、着用し発表会に出る。以上三点で間違いないでしょうか」

「ΟKよ、間違いないわ。成功したらこれだけの報償を出すわ。……それであなたは受理するの?」

 イベントでのモデル要請依頼は、数は多くはないですけどあります。しかしこの報償額は破格だと思います。
 これを見過ごす手はありません。
 わたしは依頼契約書を取り出し、依頼発注人の箇所にミチオさんにサインを書いてもらいました。
 そして担当者欄にはわたしの名前を。

 あれ?
 なんでミチオさん、ニコニコ微笑んでいるんです?
 そしてなんでわたしは……。
 まるで強い魔獣に遭った時のようにプレッシャーを今、感じているのでしょうか?
 なんと申しましょうか。「もう逃げられないわよ」、みたいな?

 それにしてもフンドシ、ですか。
 きれいな布地でしたが、肩からかけて着るのでしょうかね。
 それとも腰巻きみたいな服でしょうか。
 着用の仕方はあとでミチオさんが教えてくれる、らしいです。

「もちろん、服の上から付けてもらうわ。わたしは鬼じゃないから。でもあくまで教える時限定で、本番は違うのは当然よね。それと『上は自由』よ」

 現在わたしにはミチオさんが何を言っているのかさっぱりわかりませんが。
 でもよかったです。
 報酬の額がかなり高いから、最初はちょっとだけ「もしかしたらえっちな依頼なのかも」と思ってしまったんですよ。
 もっと人を信じなきゃ、なのですよ、ティア。

 それにしてもいい依頼がみつかったな、なのです。
 まりあさん、きっと喜んでくれますです。
 

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【依頼書】「新作衣料品『ふんどし』を着用し、新作発表会の場で披露する。依頼人が用意したふんどしの着用は厳守。上衣は自由、だが上衣の選択のセンス次第で報酬は変化する」
人数制限:なし
難易度:とても易しい
報酬:とても高い
備考:『ギルド契約職員・一般』のティアが同行します。
依頼遂行にあたりティアでもできる必要なこと、用意などありましたら、遠慮なくティアに申しつけください。

受理日:9月8日
担当職員:『ギルド契約職員・一般』のティア
管理:『リル大尉』のリル

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