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家に帰って、シャワーを浴びる。

久し振りに太陽に当たったからか、身体はそれなりに疲れていて、程よい温度のシャワーが身体の疲れをほぐしていく。

シャワーを浴び終えると、冷蔵庫から冷え切ったコンビニのサンドイッチとペットボトルの水を持って、2階の自分の部屋へと向かう。

部屋の中は意外にも綺麗にまとまっていて、悠太が中学生のときから使っている小さめのテーブルにサンドイッチを置いて、ペットボトルの蓋を開け、一気に水を流し込む。

シャワーで失われた水分を取り戻すかのように飲み干し、あっという間にペットボトルは空となる。

ペットボトルをゴミ箱に捨ててから、自分のバックから本を取り出した。


かなり重厚な表紙で、なんだか言い知れぬ雰囲気を纏っている。


表紙を捲るのを躊躇させる雰囲気だったが、せっかく貰ってきたし!と意を決し、表紙を捲った途端、部屋の中が目も開けていられないほどの光に包まれた。



あんぐり。

言葉が出ない。

開いた口がだらしなく開いている。

開いているのはわかっているが、開いた口が塞がらない。

あんぐり。


悠太の目の前に広がるのは果てしなく続く草原。

そして、そんな草原に似つかわしくない白で統一されたテーブルとイスが3脚。

テーブルの上には、白のティーセットが用意されていて、イスの前には薄い青色の髪の毛を腰まで伸ばした人物が立って、手招きをしていた。

どうしていいのかわからないが、とりあえず、その人のところまで向かう。

近くに悠太が来ると、どうぞ、座って。といい、カップに紅茶を注ぐ。

辺りにふんわりとイチゴの香りが漂う。


「紅茶は…平気だったよね?」

「…あ、はい。」


急に聞かれて、答える。

カップに注がれたのは、イチゴのフレーバーティーだ。


「まあ、お茶でもどうぞ?」


そういうとその人はカップに口をつける。

それに習い、悠太も一口紅茶を飲んだ。

口の中に上品な香りが広がり、鼻から優しく抜けていく。

なんだか、気持ちが落ち着く紅茶だ。


「じゃあ、君の質問に答えようかな。甲斐悠太君。」

「なんで、俺の名前を?」


そういうと、優しく微笑んだ。


「私はエシュイール。世界と世界を繋ぐ者。君のことは現地の調査員から聞いたよ。」

「調査員?何のですか?」


俺、何かしたっけ?と思い、自分のしてきたことを考えてみる。

あ、本を貰ってきたこと?と思うが、貰ってきたわけだし、別に悪いことをしたわけじゃないので、考えから消す。


「んー…なんて説明したらいいんだろうな。」


口に人差し指をつけ、小首を傾げる。

はっきりいって、絵になるなと思った。

エシュイールは中性的な顔立ちで、容姿からも声からも男女どちらか窺い知ることが難しい。

身長は175センチくらいはあるのだろうか。

165センチという日本人の平均身長程度の悠太からしたら羨ましい。


「あ、私、男ですよ。」


エシュイールはにこっと笑った。

男でも女でも、はっきり言って美形だと思う。


「私は先程言ったように世界と世界を繋いでいるわけです。悠太君が住んでいた世界と、別の世界を繋ぐ役割を担っているんですね?」

「え?他にも世界ってあるの?」


初耳。

今まで自分が憧れていた、夢に見た世界が実は存在していた。


「はい。モンスターなどが出てくる世界もありますし、チキュウと同じ文明を持つ世界もあります。もっと進んだ高度な文明を持った世界なんかもありますね。」


身を乗り出した悠太に、エシュイールは微笑む。


「話を元に戻しますね。私はその中の各世界の《調和》が乱れたときに、もっとも適切であろう人材を他の世界へ誘います。」

「…ってことは、俺はどこかの世界へ行くのに適切な人間、ってこと?」

「そうですね。その適切な人間は一人ではない場合もありますし、何人かの候補者の中から選ばれた人間《選定者》を案内することもあります。」

「なるほど。…でも、俺、何の特技もないですよ?」


若干、自嘲気味に笑う。


「大丈夫ですよ。あなたの《子》があなたでいいと判断したのですから。」


エシュイールはそういうと何もなかったはずの空間に一冊の本が現れた。


「あ!」


悠太が声をあげる。

それはここに来る前に悠太が見ようとした、あの本であった。


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