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1.異世界で行き倒れを助けました。⑤

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「何ていうか・・・これは・・・」


 彼は目の前の光景に言葉をなくしていた。

 2人の乗った馬車は街の中を抜けて、一番奥にある館へと向かっていた。
 実は遠くからでも何となくその存在は見えていたし、少女がいいところのお嬢様なのではないか?という気持ちはあった。だから、心の中ではそういう覚悟は出来ていたはずだった。

 道の両脇に建っている家もなかなかオシャレで、きっとそれなりに高い身分の人たちが住んでいるんだろうなとは思っていたのだが、そこは完全にスルーして、どんどん奥へと進んでいく。

 途中で、まさか、とは思ったが、まさか本当に一番奥にそびえるこのお屋敷が少女の家だったとは・・・


「そういえば、さっきの兵士さんに怒鳴ってたけど、君って・・・」
「おや、言ってなかったか。」


 少女は彼のほうを見て微笑んだ。

 馬車がやたらと大きな門の前に止まると、ゆっくりと門が開く。
 馬車はそこからさらに十数分かけて、奥にある館へと辿り着いた。


『おかえりなさいませ。』


 そこにはメイドが何人もいた。
 馬車から少女が降りて、それに彼も続く。


「この方は私の客人だ。丁重にもてなすように。」


 少女がそういうと全員が返事をする。

 彼はそのまま館の一部屋へと案内され、少女は別の部屋へと連れていかれる。
 物腰柔らかなメイドが彼を部屋へと案内し、「準備が出来ましたらお呼びしますので、こちらでおくつろぎください。」と言って、部屋を出る。


「何だか落ち着かないな。」


 彼は手に持っていたスーパーの袋を手近なところへと置いて、豪華すぎる部屋で落ち着かない様子でうろうろとしていた。
 20分ほど時間が過ぎたところで、先程のメイドが部屋を訪れ、夕食の準備が出来たと伝えられ、彼は連れていかれる。

 着いたのは、驚くほどに広い部屋だった。

 随分と大きなテーブルに何人が座れるんだろう?と思えるほどの数の椅子が並んでいる。


「こちらへ。」


 彼は案内され、テーブルの奥で一際豪華な椅子に座る少女の前に座らされた。


「お待たせして申し訳なかった。」
「いや、大丈夫だよ。そんなに待ってないし。」


 そう答えた彼に、少女の隣にいた執事が何かを言いかけるが、少女がそれを制止したため、何も言わずに元の位置へと戻る。


「聞きたいことがあるんだけど。」
「何だ?」
「君はここの娘さん?」


 少女は彼の言葉に微笑む。


「私はこの国の巫女なのだ。」
「巫女?」


 少女はコクリと頷く。

 巫女と聞いてもいまいちピンとこない彼に少女は説明を続ける。


「この国―――レイルベーヌには唯一の神が存在する。名前はアルフェリーダ。主に豊穣や狩りなど、民の生活に沿った神だ。」


 少女は少女の後ろの銅像を見て、彼に言った。


「巫女は国に1人しか存在しない。巫女は神から神託を受け、決定される。そして、神と唯一交信の出来る人間だ。」
「神様と話せるってこと?」


 少女はその問いに頷く。

 神という存在が近しいものではなく、自分自身が無宗教なもので、彼には神の存在が信じがたい。
 まして、そのいるかいないかわからない神と話が出来るなんて、ちょっと疑わしく思える。


「実は私があそこに倒れていたのはアルフェリーダ様のお告げがあったからなのだ。」


 少女は彼に事の経緯を話し始めた。


「数日前に神から神託があって、あの草原に迎えと言われた。そこである人間に出会うであろうと。」


 彼のことを見る目が鋭くなる。


「主は《異世界人》か?」
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