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第8章 「彼女の名前は」
第75話
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僕たちは屋敷を背に変えることに決めた。むしろこのほうがミカロたちにとっては都合がよかっただろう。せっかくの機会を失うことになっても、どこかで先に進む必要がある。何よりクエスターの活動を一週間行っていない僕にとっては、放っておくことのできない問題だった。
「行きますよエイビス。いくら呼んだって出てこないんですから仕方ないですよ」
彼女は動かなかった。僕は彼女の手を取り引っ張り動く。そのとき木の擦れる音がした。まさか......
僕たちが屋敷を見たとき、見えない誰かが玄関から顔を出しているように見えた。とはいえ新たな問題が浮上してきたことだけは間違いない。
困ったことに彼女たちの目は希望と冒険に光輝いていた。僕はこの瞬間だけは彼女たちを否定したいと思った。
「ほら、この時を待っていたのよ! あの家自体が私たちを招いているに違いないわ!」
「そうですわね! 参りましょう!」
「ちょっと待ってくださいよ! そのまま突き進んだらただの犯罪者......」
「いいのよ、ばれなきゃ! 見つからなければ何やっても不思議の中に消えてなくなるから!」
「本当の犯罪者がいうセリフじゃないですかそれ! 確かに僕だって入りたくないわけじゃないですけど......」
隣を見たときシェトランテさんの姿はなかった。彼女を直感が追ったとき、僕の目にはお屋敷が映った。
まさかと疑いたかったけれど、あそこまで話をしておいて彼女がバイクに戻っているわけがない。僕はエイビスと顔を合わせた。
「参りましょうシオンさま。金髪の女の子のことを信じていませんの?」
彼女の言葉に僕は反論できなかった。そうだ。金髪の女の子がここまで導いてきてくれたんだ。それを断ったら、僕は彼女に殺されてしまっても文句は言えない。そんな未来を僕は拒絶する。
僕は埃だらけの床を歩き始めた。ここが犯人の家......なのか?
「ちゃっちゃと来ないと置いていくわよー!」
「家の中なんだから落ち着いて探しましょうよ! 埃も舞いますし......平気ですか、エイビス?」
「……」
彼女は珍しく手を小刻みに横に動かしていた。前に2人だった時もそうしていた。まさかこんな埃まみれのところで......さすがに勘弁だ。
僕が彼女の肩を叩くと彼女は冷静になったのか、動きを止め顔を赤く染めた。エイビスだって一人の女性だ。好きな人がそばにいれば緊張するのも無理ないか。僕は幸せだ。
大きな暖炉の目立つ大広間。ここでなら好きなだけ暴れられそうだ。まぁそれは冗談だけれど。
彼女は僕が開けた扉の奥を見ると、不思議そうな顔をした。衣装ダンスやガラスケースが並べられ、十字路で運びやすいように用意されている。まさかこの中に?
「綺麗すぎますわね」
「どういうことですか?」
「ここで生活していらっしゃるかたでしたら、わざわざ一か所に物を集めませんもの。本来であればそのままにしておくのがベスト。ここを使う予定がないのでしょうか......」
僕が彼女に意見しようとした瞬間、箱が落ちる鈍い音がした。隣の部屋だ。まさかシェトランテさんが何かを探しているのか?
そう思ったけれど、彼女は大広間に振り返った先にいた。ということは......緊張が走り、彼女の感触と共に冷静さを取り戻した。彼女にはその場で待ってもらうことにし、僕は扉を勢いよく開けた。
人の姿はない。中には茶色の箱が僕の身長よりも高く積み上げられていた。これが落ちたのか。確かに人がいなくても崩れてしまいそうだ。重みもある。青い玉の重さとは違う。また外れか。
念のために中身を確認していく。テープを剥がし箱を開......
目の前に勢いのまま僕に突き進むピエロが現れた。僕は扉の外に体重を預ける。
「シオンさま!」
痛みは少ない。エイビスが僕を救おうと動いたので、僕はそれをかわし......
彼女は僕の中で輝く上目遣いで僕のことを見つめていた。高揚する息のままに、僕は彼女の頭を持ち上げ、目を閉じ......
「ていっ!」
「痛っ!」
僕の後頭部が鉄か何かで殴られた。僕は飛び上がりその犯人を確かめる。それは紛れもなく茶髪の女性。シェトランテさんだった。
血は出なかったものの、僕の後頭部は脈を簡単に感じることができるようになってしまっていた。変現をしているわけでなかったから、これ以上強い一撃をくらっていたらどうなっていたことか。
「危ないじゃないですか!」
「イチャつく場所くらい考えなさいよ! 捜索中なのよ! それでも彼氏? 流れに任せればいいってもんじゃないのよ!」
彼女の言っていることは確かに正論だ。僕が謝ると同時にエイビスも彼女に謝罪した。シェトランテさんはむしろ僕たちをからかおうとしたが、エイビスがお預けばかりに人差し指で僕の口を押さえた瞬間、僕は胸が熱くなった。
そして頭の中で何度も冷静になれる言葉を並べた。これ以上やったら光線が飛んできてもおかしくない。
「ほら、ちゃっちゃと次の部屋を探......」
僕の後頭部に銃が突き付けられた。僕は両手を挙げ不戦の意思を示すが、シェトランテさんとエイビスの眉の吊り上がった様子に不安を感じた。
「ここで何してるの?」
耳に透き通る女性の声。年齢もそう遠くない。僕たちと同じくらいかその上だ。けれど僕から銃の存在は消えない。
「実は探しものをしていてね。位置情報を発信している場所がここだったってわけ」
彼女は僕から銃を降ろししばらく何も語らなかった。僕が腕を下げると同時に彼女の声が聞こえた。
「ここはありえないよ。だって今日は1カ月ぶりにおそうじしに来る日だったんだから」
僕は振り向き彼女の姿を確認する。僕の予想はあながち間違いではなかった。そして困ったことに彼女の顔は僕が見たことがなかった。
すらりとした容姿に金色に輝く髪。マスク姿ではあるけれど、彼女の存在はそれだけでも僕にとっては重要度を増していた。
セレサリアさん、どうやらまだリストには漏れがあったみたいですよ。
彼女の顔は見ていない。マスクを外せば素顔がわかるけれど、そんなことをしなくとも理解できる。目の近くにほくろがある人は今までいなかったはずだ。
僕は解放されると同時に彼女に頭を下げた。
「勝手に侵入してすみません! 僕の大切なものを探している途中でここに行きついたんですが......掃除でも何でもします。ですから......」
彼女は考え事をしてから僕たちに笑顔を振りまいてくれた。答えはもちろんイエスだ。
「いいよ! それじゃあ分担して掃除ね! 君はゴミ出しお願い!」
「了解です!」
彼女も青い玉のことに協力してくれた。どこかにあるのなら持って行ってよいと言われたものの、残念ながらその姿を確認することはできなかった。けれど不思議なことに僕は彼女に魅了されていた。彼女が髪を束ね直す瞬間、僕は我を忘れてその瞬間を最後の最後まで見つめていた。
懐かしい感覚だ。髪を縛りポニーテールの形に整えてゆく。ミカロ。何人もポニーテールの人は見たことがあるのになぜか彼女の姿が浮かんだ。
そのたびにエイビスが寂しそうに僕の腕に抱き着いてきた。彼女は髪をなぞって不安に感じている。彼女らしさが消えるのはまずいので、僕は彼女の頭を何度も撫でた。彼女は満足そうな表情で清掃に戻った。
夕日が差し込むときには埃は姿を見せないほどお屋敷は綺麗なものに姿を変えていた。
彼女は髪を解き金色の輝きを僕たちに見せつける。
「ありがとうございます。一緒に探してくれて」
「いいよいいよ! 3人のおかげで早く片付いたし、青い玉は残念だったね」
「いえいいんですよ。僕たちは......そう言えば名前を聞いてませんでしたね。僕はシオン・ユズキ。あなたは?」
「キトゥル・ペルビニオスだよ。よろしくね!」
僕たちは遅めの自己紹介を果たし、シェトランテさんの謝罪と共に僕たちは彼女に別れを告げた。本当なら毎月ここにきて清掃を手伝いたいところだけれど、クエスターと掛け合いをするとなるとどうしても無理が出てくる。
僕は彼女の助けになれないことを心から悔やんだ。彼女が文句を言わなかったことが唯一の救いだった。
僕たちは港まで歩き、ラグルーシアに戻ることにした。
「シオンさま! ここで引き下がってしまわれるのですか?」
「しょうがないわよ。発信機の場所に対象物がなかったんだから、ここは引き下がるしかないわ。とはいえなんか気に食わないところがある気がするのよね」
「どこかであったことがあるんですか?」
「……女の勘ってやつよ」
根拠のない自信に僕はその場に立ち尽くしているのがやっとだった。科学を語るシェトランテさんでも一応そういうのは信じるのか。でも確かにキトゥルさんと出会ったとき変な感じがした。
なんというか天真の星屑(スターダスター)に戻って来た時みたいな感覚だ。暖かくて、ほっこりする感じだ。
僕が考え込んでいる途中にエイビスが僕の腕に抱き着く。彼女の目はなぜか潤んでいた。
「シオンさま......わたくしも金髪にいたしますわ! ですから......」
「そんなことしなくて大丈夫ですよ! 僕はエイビスの髪、大好きですよ! 触り心地もいいですし、手入れもしっかりされてますし!」
「シオンさまぁ~!」
彼女はより一層僕の腕に抱き着いてきた。胸が何度も当たっている、なんて野暮なことは言えない。彼女も誰かに嫉妬することがあるんだ。それが分かっただけで満足じゃないか。
とはいえエイビスが金髪にされると、ミカロと反射して見えにくくなるってことだけは伏せておこう。彼女の反感を買う気がする。
シェトランテさんは僕たちのことを気にしなかった。いや、むしろ僕に罪悪感を得ているのかもしれない。やっと掴めたはずの金髪の女性の手掛かり。けれどそれは突如として姿を消してしまった。
でも彼女のせいじゃない。守りきることのできなかった僕が悪いんだ。僕は船に乗りこみながらそう思った。
★☆☆
船が出発するなりエイビスは僕にもたれて眠ってしまった。この笑顔をいつまでも守りたい。けれどその前に聞かなければならないことをいよいよ正す時が来た。彼女に真相を語ってもらおう。
シェトランテさんは目を覚ましたかと思えば、真っすぐ僕の元へと向かってきた。彼女は僕と目を合わせると頭を下げた。彼女の目は少し赤らんでいた。
「ごめん、シオン。変に希望持たせるような言い方しちゃって。私もまだまだね」
僕は首を振り気にしなくていい、と語ると彼女は黒に染まる海を眺め始めた。これが僕の運命なんだと初めからわかりきっていた。恩人ですら守ることができない。暴れるだけで何の解決にもなっていない。できることといえば彼らを慰めることぐらい。
それに何より僕は僕のことを何も考えていない。記憶が戻ったら何をしたい? クエスターとして凄腕になること? エイビスとともに幸せになること? それともお金持ち?
どちらにしても僕はシオン・ユズキではない。自分の目標を決められないやつを、誰が自分だと思えるんだ。今更ながら情けない。
「ちょっと肩借りる」
「え......」
僕の反対を聞くまでもなく、シェトランテさんは僕に寄りかかった。ミカロがいなくてよかった。これはさすがに反論できない。おまけに動きも取れない。
けれどその瞬間、彼女のデバイスの青い光が動いていることを僕は見逃さなかった。
「船長、このルートに進んでください!」
「んぁ? けどよー......」
「お金なら払いますから!」
「あいよー!」
全くお金で動くのは勘弁してほしい。その姿を見せたら下手をすれば世界一周も承知してくれるような気がする。何よりこっちとしては気分が悪い。まぁ払うのはシェトランテさんの費用、正星議院が払うことになるから一向に構わないけど。
「行きますよエイビス。いくら呼んだって出てこないんですから仕方ないですよ」
彼女は動かなかった。僕は彼女の手を取り引っ張り動く。そのとき木の擦れる音がした。まさか......
僕たちが屋敷を見たとき、見えない誰かが玄関から顔を出しているように見えた。とはいえ新たな問題が浮上してきたことだけは間違いない。
困ったことに彼女たちの目は希望と冒険に光輝いていた。僕はこの瞬間だけは彼女たちを否定したいと思った。
「ほら、この時を待っていたのよ! あの家自体が私たちを招いているに違いないわ!」
「そうですわね! 参りましょう!」
「ちょっと待ってくださいよ! そのまま突き進んだらただの犯罪者......」
「いいのよ、ばれなきゃ! 見つからなければ何やっても不思議の中に消えてなくなるから!」
「本当の犯罪者がいうセリフじゃないですかそれ! 確かに僕だって入りたくないわけじゃないですけど......」
隣を見たときシェトランテさんの姿はなかった。彼女を直感が追ったとき、僕の目にはお屋敷が映った。
まさかと疑いたかったけれど、あそこまで話をしておいて彼女がバイクに戻っているわけがない。僕はエイビスと顔を合わせた。
「参りましょうシオンさま。金髪の女の子のことを信じていませんの?」
彼女の言葉に僕は反論できなかった。そうだ。金髪の女の子がここまで導いてきてくれたんだ。それを断ったら、僕は彼女に殺されてしまっても文句は言えない。そんな未来を僕は拒絶する。
僕は埃だらけの床を歩き始めた。ここが犯人の家......なのか?
「ちゃっちゃと来ないと置いていくわよー!」
「家の中なんだから落ち着いて探しましょうよ! 埃も舞いますし......平気ですか、エイビス?」
「……」
彼女は珍しく手を小刻みに横に動かしていた。前に2人だった時もそうしていた。まさかこんな埃まみれのところで......さすがに勘弁だ。
僕が彼女の肩を叩くと彼女は冷静になったのか、動きを止め顔を赤く染めた。エイビスだって一人の女性だ。好きな人がそばにいれば緊張するのも無理ないか。僕は幸せだ。
大きな暖炉の目立つ大広間。ここでなら好きなだけ暴れられそうだ。まぁそれは冗談だけれど。
彼女は僕が開けた扉の奥を見ると、不思議そうな顔をした。衣装ダンスやガラスケースが並べられ、十字路で運びやすいように用意されている。まさかこの中に?
「綺麗すぎますわね」
「どういうことですか?」
「ここで生活していらっしゃるかたでしたら、わざわざ一か所に物を集めませんもの。本来であればそのままにしておくのがベスト。ここを使う予定がないのでしょうか......」
僕が彼女に意見しようとした瞬間、箱が落ちる鈍い音がした。隣の部屋だ。まさかシェトランテさんが何かを探しているのか?
そう思ったけれど、彼女は大広間に振り返った先にいた。ということは......緊張が走り、彼女の感触と共に冷静さを取り戻した。彼女にはその場で待ってもらうことにし、僕は扉を勢いよく開けた。
人の姿はない。中には茶色の箱が僕の身長よりも高く積み上げられていた。これが落ちたのか。確かに人がいなくても崩れてしまいそうだ。重みもある。青い玉の重さとは違う。また外れか。
念のために中身を確認していく。テープを剥がし箱を開......
目の前に勢いのまま僕に突き進むピエロが現れた。僕は扉の外に体重を預ける。
「シオンさま!」
痛みは少ない。エイビスが僕を救おうと動いたので、僕はそれをかわし......
彼女は僕の中で輝く上目遣いで僕のことを見つめていた。高揚する息のままに、僕は彼女の頭を持ち上げ、目を閉じ......
「ていっ!」
「痛っ!」
僕の後頭部が鉄か何かで殴られた。僕は飛び上がりその犯人を確かめる。それは紛れもなく茶髪の女性。シェトランテさんだった。
血は出なかったものの、僕の後頭部は脈を簡単に感じることができるようになってしまっていた。変現をしているわけでなかったから、これ以上強い一撃をくらっていたらどうなっていたことか。
「危ないじゃないですか!」
「イチャつく場所くらい考えなさいよ! 捜索中なのよ! それでも彼氏? 流れに任せればいいってもんじゃないのよ!」
彼女の言っていることは確かに正論だ。僕が謝ると同時にエイビスも彼女に謝罪した。シェトランテさんはむしろ僕たちをからかおうとしたが、エイビスがお預けばかりに人差し指で僕の口を押さえた瞬間、僕は胸が熱くなった。
そして頭の中で何度も冷静になれる言葉を並べた。これ以上やったら光線が飛んできてもおかしくない。
「ほら、ちゃっちゃと次の部屋を探......」
僕の後頭部に銃が突き付けられた。僕は両手を挙げ不戦の意思を示すが、シェトランテさんとエイビスの眉の吊り上がった様子に不安を感じた。
「ここで何してるの?」
耳に透き通る女性の声。年齢もそう遠くない。僕たちと同じくらいかその上だ。けれど僕から銃の存在は消えない。
「実は探しものをしていてね。位置情報を発信している場所がここだったってわけ」
彼女は僕から銃を降ろししばらく何も語らなかった。僕が腕を下げると同時に彼女の声が聞こえた。
「ここはありえないよ。だって今日は1カ月ぶりにおそうじしに来る日だったんだから」
僕は振り向き彼女の姿を確認する。僕の予想はあながち間違いではなかった。そして困ったことに彼女の顔は僕が見たことがなかった。
すらりとした容姿に金色に輝く髪。マスク姿ではあるけれど、彼女の存在はそれだけでも僕にとっては重要度を増していた。
セレサリアさん、どうやらまだリストには漏れがあったみたいですよ。
彼女の顔は見ていない。マスクを外せば素顔がわかるけれど、そんなことをしなくとも理解できる。目の近くにほくろがある人は今までいなかったはずだ。
僕は解放されると同時に彼女に頭を下げた。
「勝手に侵入してすみません! 僕の大切なものを探している途中でここに行きついたんですが......掃除でも何でもします。ですから......」
彼女は考え事をしてから僕たちに笑顔を振りまいてくれた。答えはもちろんイエスだ。
「いいよ! それじゃあ分担して掃除ね! 君はゴミ出しお願い!」
「了解です!」
彼女も青い玉のことに協力してくれた。どこかにあるのなら持って行ってよいと言われたものの、残念ながらその姿を確認することはできなかった。けれど不思議なことに僕は彼女に魅了されていた。彼女が髪を束ね直す瞬間、僕は我を忘れてその瞬間を最後の最後まで見つめていた。
懐かしい感覚だ。髪を縛りポニーテールの形に整えてゆく。ミカロ。何人もポニーテールの人は見たことがあるのになぜか彼女の姿が浮かんだ。
そのたびにエイビスが寂しそうに僕の腕に抱き着いてきた。彼女は髪をなぞって不安に感じている。彼女らしさが消えるのはまずいので、僕は彼女の頭を何度も撫でた。彼女は満足そうな表情で清掃に戻った。
夕日が差し込むときには埃は姿を見せないほどお屋敷は綺麗なものに姿を変えていた。
彼女は髪を解き金色の輝きを僕たちに見せつける。
「ありがとうございます。一緒に探してくれて」
「いいよいいよ! 3人のおかげで早く片付いたし、青い玉は残念だったね」
「いえいいんですよ。僕たちは......そう言えば名前を聞いてませんでしたね。僕はシオン・ユズキ。あなたは?」
「キトゥル・ペルビニオスだよ。よろしくね!」
僕たちは遅めの自己紹介を果たし、シェトランテさんの謝罪と共に僕たちは彼女に別れを告げた。本当なら毎月ここにきて清掃を手伝いたいところだけれど、クエスターと掛け合いをするとなるとどうしても無理が出てくる。
僕は彼女の助けになれないことを心から悔やんだ。彼女が文句を言わなかったことが唯一の救いだった。
僕たちは港まで歩き、ラグルーシアに戻ることにした。
「シオンさま! ここで引き下がってしまわれるのですか?」
「しょうがないわよ。発信機の場所に対象物がなかったんだから、ここは引き下がるしかないわ。とはいえなんか気に食わないところがある気がするのよね」
「どこかであったことがあるんですか?」
「……女の勘ってやつよ」
根拠のない自信に僕はその場に立ち尽くしているのがやっとだった。科学を語るシェトランテさんでも一応そういうのは信じるのか。でも確かにキトゥルさんと出会ったとき変な感じがした。
なんというか天真の星屑(スターダスター)に戻って来た時みたいな感覚だ。暖かくて、ほっこりする感じだ。
僕が考え込んでいる途中にエイビスが僕の腕に抱き着く。彼女の目はなぜか潤んでいた。
「シオンさま......わたくしも金髪にいたしますわ! ですから......」
「そんなことしなくて大丈夫ですよ! 僕はエイビスの髪、大好きですよ! 触り心地もいいですし、手入れもしっかりされてますし!」
「シオンさまぁ~!」
彼女はより一層僕の腕に抱き着いてきた。胸が何度も当たっている、なんて野暮なことは言えない。彼女も誰かに嫉妬することがあるんだ。それが分かっただけで満足じゃないか。
とはいえエイビスが金髪にされると、ミカロと反射して見えにくくなるってことだけは伏せておこう。彼女の反感を買う気がする。
シェトランテさんは僕たちのことを気にしなかった。いや、むしろ僕に罪悪感を得ているのかもしれない。やっと掴めたはずの金髪の女性の手掛かり。けれどそれは突如として姿を消してしまった。
でも彼女のせいじゃない。守りきることのできなかった僕が悪いんだ。僕は船に乗りこみながらそう思った。
★☆☆
船が出発するなりエイビスは僕にもたれて眠ってしまった。この笑顔をいつまでも守りたい。けれどその前に聞かなければならないことをいよいよ正す時が来た。彼女に真相を語ってもらおう。
シェトランテさんは目を覚ましたかと思えば、真っすぐ僕の元へと向かってきた。彼女は僕と目を合わせると頭を下げた。彼女の目は少し赤らんでいた。
「ごめん、シオン。変に希望持たせるような言い方しちゃって。私もまだまだね」
僕は首を振り気にしなくていい、と語ると彼女は黒に染まる海を眺め始めた。これが僕の運命なんだと初めからわかりきっていた。恩人ですら守ることができない。暴れるだけで何の解決にもなっていない。できることといえば彼らを慰めることぐらい。
それに何より僕は僕のことを何も考えていない。記憶が戻ったら何をしたい? クエスターとして凄腕になること? エイビスとともに幸せになること? それともお金持ち?
どちらにしても僕はシオン・ユズキではない。自分の目標を決められないやつを、誰が自分だと思えるんだ。今更ながら情けない。
「ちょっと肩借りる」
「え......」
僕の反対を聞くまでもなく、シェトランテさんは僕に寄りかかった。ミカロがいなくてよかった。これはさすがに反論できない。おまけに動きも取れない。
けれどその瞬間、彼女のデバイスの青い光が動いていることを僕は見逃さなかった。
「船長、このルートに進んでください!」
「んぁ? けどよー......」
「お金なら払いますから!」
「あいよー!」
全くお金で動くのは勘弁してほしい。その姿を見せたら下手をすれば世界一周も承知してくれるような気がする。何よりこっちとしては気分が悪い。まぁ払うのはシェトランテさんの費用、正星議院が払うことになるから一向に構わないけど。
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