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第3章 「爆撃士」

第17話

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「誰がこの程度の低難易度クエストで認めると宣言しました?」

「え?」


 彼女の言葉は今まで刺されていたことに気が付いていなかったときのように、頭に響いた感触がなかった。けれど確実に血が流れだし僕を追い込んでいたことだけは間違いなかった。


「まさか人の弟子になれるのが安易なものだとは思っていなかったでしょう? あなたへの試練はまだ始まったばかりに過ぎないのですよ」


 彼女のその言葉を僕は素直に受け取った。ひょっとしたら彼女は僕を脅したかったのかもしれない。けれどそんなもので自分をあきらめられるほど、この件は簡単なことじゃない。僕は彼女に笑顔で挑戦の意思を見せ、その場を後にした。

 正星議院のロビーに戻るとミカロとアスタロトさんがケンカしているような仲良くしているような、そんなちぐはぐな状態の会話をしていた。ミカロはアスタロトさん弓矢の件を謝罪していたようで、アスタロトさんはそれを聞くなり“そうね、そこまで言うなら召使いにでもなってもらおうかしら”と彼女に冗談をかけた。

 彼女はミカロに手を振りスライムと共に去って行った。少し悲しいけれどお別れだ、今度は利用されないようにね。ミカロは少し怒るかと思ったけれど、なぜだかその表情は少し笑みを含んでいた。よかったですね、知り合いが増えて。

 男女4人組が僕たちの目の前に現れる。僕は鉾を構え戦闘準備を整える。けれど彼女は僕にそれをやめさせた。彼女は彼らに手を振り、口を開く。


「シオンにはまだ紹介してなかったね。私たち“天真の星屑スターダスター”の同期の“凛華の修研者フラソンマード”の4人だよ。せっかくの機会だから挨拶しよっか」


 担ぎ剣士の男に足に包帯を巻きつけている男。僕を見て目を逸らすおとなし気な印象の女性、そして相反する様子で僕を見つめる女性。リラーシアさんのときのようにストレートに強い、という感じはない。けれど何か違和感が引っかかる。

 そんな考えをまとめるさなか、僕は突撃してきた女性にミカロの隣を奪われた。


「ミカロ、もう彼氏作ったの?」

「違うわよ! シオンはちょっと特別な理由があるだけ!」

「ふ~ん、特別ね。そういうことにしておくわ。けど、周りの目には気をつけなよ。意外とあんたを狙ってるやつはいるって噂だよ」


 え、そうなのか? いやいやこの言い方は失礼だ。確かに素直に怒ってくるところを除けば彼女は魅力的な女性に見て取れる。彼女の眠っている姿を思い出せば彼らが憧れを持つのもなんとなくわかる気がする。

 ミカロは僕がいやらしいことを考えているように思えたらしく、再度僕に近づいてきた。僕はそれを否定しつつも、さっきの女性からミカロを守るよう言われた。彼女はそれを突っぱねて自分のことは守れると主張する。けれど特別な事情がゆえに僕が守った方が都合もよいと、女性は理に適っている発言をした。

 彼女はそれを聞くとまたうなだれた。相手の言葉に押し付けられた感じがいやだったりするのだろうか。

 ミカロは僕に守られるのが嫌なのかどうか尋ねると、彼女は嫌ではないけれど納得はしていない様子だった。たぶん守られることには悪いと思ってはいないのだろうけれど、どこまでも僕が付いてくることを良いとは思っていないのだろう。

 僕は4人にそれぞれ自己紹介してなぜか初日からカップルにされている誤解を消しておいた。

 彼らの話だとたびたび僕とミカロがクエストを選んだりリラーシアさんと歩いている所を見ていたりしていたようで、それで勘違いしてしまったようだ。とはいえまだ4人はその考えを捨てきれている様子ではない。はぁ、とりあえずそれは彼らの中だけにとどめておいてもらうよう頼み、僕はうなだれてソファーに座り込んでいるミカロの隣に戻ってきた。


「知らなかったですよ、ミカロが多くの視線を集めていたなんて。しばらくは傍にいますね」

「もーいいよ、そういうの。前々から目線には気が付いてたけど、どうせ話しかけてくる勇気もなさそうだしシオンがわざわざ見張らなくても大丈夫だよ」

「けど勇気がある人が来たらどうするんですか?」

「まぁ適当に話して逃げ出すかな。さすがにお手洗いって言えば付いてくる人はいないし。ほらこれで問題ないってわかった?」

「いえ、しばらくは傍にいさせてもらいますよ。ミカロに何か恩返しさせてください!」


 彼女は遠慮したがうれしそうな顔をしていたのも事実だ。その顔を見るとホッとする。さてと、これから忙しくなるぞ! リラーシアさんにどうにか認めてもらわないと!


☆☆★


 朝の陽光を感じつつ僕はまっすぐ小屋を目指す。鉾を構え静かに扉を開き侵入する。音を立てず慎重に手と足を同時に進める。

 ……よし。このポイントだ。ここまで来ればあとは飛び上がるだけ......

 僕の首元に剣が突き付けられる。天井にはパジャマ姿の赤髪の女性が僕のことを睨んでいた。……そう、僕はリラーシアさんの家に侵入することに失敗したのだ。

 あの日以来僕は何度も彼女の家に訪れ弟子入りを懇願している。けれど彼女はそれを受け入れてはくれない。まぁ犯罪行為をしているのだから当然か、と言われれば否定はできないのだけれど、それほど僕は彼女から学びたいことがあるという意思の表れでもある。そう考えれば僕の行動はあながち間違っていないのだということもできる。

 ……リラーシアさんにそんな冗談が通じるとは思っていないが。


「あなたも毎朝毎朝ご苦労様ですね。ひょっとして身辺警護などという冗談を言ったりはしませんよね?」

「あはは......バレちゃいました? ……すいません嘘ですごめんなさい」


 僕は彼女に頭を上げられない。いや実際上げるべきではないと思っている。それが師弟関係の基礎にあたる。上は立てておく、それが僕の持論だ。

 僕自身が学んだというよりは本に書いてあったことなのだけれど、それは言わないでおこう。

 リラーシアさんは自分の仕事のプライドがあるせいか僕が何度侵入しても正星議院に連絡を入れることはなかった。騒動を避けたいのもあるかもしれない。あれ、今更ながらだけれどこれって彼女に嫌われても文句を言えないのじゃないか僕は。

 ……まずい。自分で自殺を図っている可能性がある。いや現にそうしてしまっている。ここはどうするべきだ?

 考えをまとめようとしても答えは変わらない。僕はリラーシアさんの弟子になりたい。そのためにはどんな努力も困難にも立ち向かう覚悟がある。とはいえ言葉だけでは何とでも言える、と彼女は言いたいのだろう。

 今回は撤退して僕は新たな策を立ててリラーシアの家へと向かう。今回のものはいたって簡単だ。

 待つ。ただひたすらに彼女が起きるのを外で眺める。雨だろうと晴れだろうと寒暖の差があろうと関係ない。僕は彼女の家に訪れているわけではない、彼女の周辺の森林に訪れているのだ。悪くない策だ。少し卑怯な策ではあるけれどもリラーシアさんも納得せざるを得ないはずだ。

 そして彼女に剣を取らせ戦う。例えそれが負ける形となっても構わない。大切なのは何度も交えることだ。彼女にはその気がなくとも僕にとっては鍛錬になる。まぁ彼女もさすがに気が付くと思う。
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