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2 最新ファッション探訪
2-2. 最新ファッション探訪
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ヨドゥバシー様が収めるノディマー領は、夏でも涼しいから、まだ体力がない私達でも過ごしやすいと、地理の先生が教えてくれた。
他の場所だと、冷却魔法装置なしではこの時期は過ごせないくらい暑くなるらしい。
お腹にタオルを掛けていないと、先生やお世話をしてくれるエルフの人、それに西棟の監督を任されている馬酔木様や満天星様が「お腹は冷やしちゃだめだよ」と言って、タオルを掛けてくれる。
それがとても嬉しくて、わざとタオルを掛けないでしてしまうのは、露ちゃんやタビちゃんも一緒みたいだ。
いっぱい走って疲れて、気持ちよく幸せに微睡む。起きたら、どうしていいか分からないくらいワクワクしてしまう。
毎日が楽しくて仕方がない。アサ様にも見て欲しかったな、皆が笑っているところを。
西棟の白虎館と呼んでいる建物に視察と称して風呂に入りに来て、ヨドゥバシーに見つかった。屋敷に寄って母さんに挨拶し、西棟の館内着に着替えて、寝ていたヨドゥバシーを起さず、そのままここへ来た。ヨルには、第九領で起きている行方不明者の事もあり、ノディマー領全域に何か異変はないか父カデンと一緒に調査に行ってもらっている。
西棟の館内着は生成色で、ソゴゥが着ているものには、背中にノディマー家の家紋の三つの三日月が描かれている。
風呂に入る際に新しい一着を用意しておいて、着ていた汗で湿ったものは、後で自分で洗濯するのがここの決まりだ。
亡国の母と呼ばれていたアサさんは、島の皆の出産に立ち会い、生まれた日にちなんで花の名前を名付けていた。アサさんの側にいたヨルから聞いた話だが、アサさんの若い頃は、まだ島に古い書物が残っていたようで、その一つに誕生花を記したものがあり、日付で花の種類、暦で色などが複雑に決まっている様だった。アサさんは見たものを忘れることが出来ないため、一度読んだ本も、ずっと覚えていたという。
第二貴族のトーラス家の者に、特殊能力で三日間記憶を完全に保存できる犯罪者がいたが、アサさんの能力は保存する記憶を選ぶことも、一生忘れることもできず、悲しみや苦しみといった、忘れてしまいたい記憶も褪せることなく、その胸に圧しかかっていたのだろう。
アサさんのそんな知識で付けられた新ノディマー領民の名は、その背中に絵の上手な領民のエルフや、司書達に手伝ってもらい、由来の花の絵を家紋のように象徴記号にデザインしてもらったものを、服の背中に描いてあるのだ。
皆、自分の名の花が描かれた服を大事に手洗いして干して、また大事に着ている。
着心地と動きやすさ重視の、背中の絵以外に装飾のない上下別れた作務衣のような服だ。
本当なら、背中の絵も、ペイントではなく刺繍や染、または織にしたかったのだが時間がなかった。
皆には、織物などを学んでもらって、自分たちで作れるようになってもらい、ゆくゆくはそれを産業にしていけたらいい。
まあ、領民のことは、ヨドゥバシーに任せるべきだろう。
とは言え、秋冬ものはイグドラム国中を巻き込んで、他のナンバー貴族にも手伝ってもらうつもりで、コンテストの段取りを付けている。真夏に、真冬の服の選定を行うのだが、その先は大量生産が待っているわけだからそれでも時間がない方だ。
あと、靴。いまは、草履で過ごせているが、寒くなるとこの辺りはかなり雪が積もるため、ムートンブーツのように暖かでありつつも外側が撥水加工されたものが望ましい。
そんなことを考えつつ、浸かっている風呂の縁に腕を掛け、この大浴場の壁に窓から見える綺麗な三角の山を描いてみてもいいなと、木目調の壁を見て思う。
風呂から上がり、一休みした後、洗濯場で着ていた服を洗って、物干しに干す。
数千の生成色の服が風に靡いている様は、人の営みの一部が芸術に昇華されたような美しさがある。
ソゴゥが極東に向かった日、すでに、この場所にヨドゥバシーとイセトゥアンとニトゥリーの三兄弟に、移民受け入れの大工事の監修が言い渡されており、そのほとんどを、ヨドゥバシーが仕切っていたが、途中ヨドゥバシーが王女と共に、移民を乗せる客船の方を担当することになって抜けると、イセトゥアンとニトゥリーが現職を特殊任務として抜けて、この地の建築に付きっきりになっていたのだそうだ。
建物の設計図は、湖の畔に巨大な木造建築の楼閣のような旅館を建てるという、母ヒャッカと、父カデンの予算度外視の計画によって引かれていた図面がそのまま利用された。
一棟で三千人が暮らせるだけの建物が四棟作られ、仮設テントで過ごしてもらう事を予想していたソゴゥの想像を上回り、ソゴゥが極東に向かって、移民を連れて帰ってきた一か月ちょっとの間に完成させるという大業を成し遂げていた。
ノディマー領は、木と土地だけは売るほどあるため、保管されていた間伐材全てと、開拓した土地の木も利用され、ほとんどそれで材料が何とかなったのだという。
建物にガラス窓がないのは、工期の短縮と積雪時の防寒目的であり、その代わり障子窓になっているため、日本の豪雪地帯にある老舗旅館の趣と、ファンタジー世界の異質さを兼ね備えた、結果、とんでもない建物に仕上がっていたのだ。
他の場所だと、冷却魔法装置なしではこの時期は過ごせないくらい暑くなるらしい。
お腹にタオルを掛けていないと、先生やお世話をしてくれるエルフの人、それに西棟の監督を任されている馬酔木様や満天星様が「お腹は冷やしちゃだめだよ」と言って、タオルを掛けてくれる。
それがとても嬉しくて、わざとタオルを掛けないでしてしまうのは、露ちゃんやタビちゃんも一緒みたいだ。
いっぱい走って疲れて、気持ちよく幸せに微睡む。起きたら、どうしていいか分からないくらいワクワクしてしまう。
毎日が楽しくて仕方がない。アサ様にも見て欲しかったな、皆が笑っているところを。
西棟の白虎館と呼んでいる建物に視察と称して風呂に入りに来て、ヨドゥバシーに見つかった。屋敷に寄って母さんに挨拶し、西棟の館内着に着替えて、寝ていたヨドゥバシーを起さず、そのままここへ来た。ヨルには、第九領で起きている行方不明者の事もあり、ノディマー領全域に何か異変はないか父カデンと一緒に調査に行ってもらっている。
西棟の館内着は生成色で、ソゴゥが着ているものには、背中にノディマー家の家紋の三つの三日月が描かれている。
風呂に入る際に新しい一着を用意しておいて、着ていた汗で湿ったものは、後で自分で洗濯するのがここの決まりだ。
亡国の母と呼ばれていたアサさんは、島の皆の出産に立ち会い、生まれた日にちなんで花の名前を名付けていた。アサさんの側にいたヨルから聞いた話だが、アサさんの若い頃は、まだ島に古い書物が残っていたようで、その一つに誕生花を記したものがあり、日付で花の種類、暦で色などが複雑に決まっている様だった。アサさんは見たものを忘れることが出来ないため、一度読んだ本も、ずっと覚えていたという。
第二貴族のトーラス家の者に、特殊能力で三日間記憶を完全に保存できる犯罪者がいたが、アサさんの能力は保存する記憶を選ぶことも、一生忘れることもできず、悲しみや苦しみといった、忘れてしまいたい記憶も褪せることなく、その胸に圧しかかっていたのだろう。
アサさんのそんな知識で付けられた新ノディマー領民の名は、その背中に絵の上手な領民のエルフや、司書達に手伝ってもらい、由来の花の絵を家紋のように象徴記号にデザインしてもらったものを、服の背中に描いてあるのだ。
皆、自分の名の花が描かれた服を大事に手洗いして干して、また大事に着ている。
着心地と動きやすさ重視の、背中の絵以外に装飾のない上下別れた作務衣のような服だ。
本当なら、背中の絵も、ペイントではなく刺繍や染、または織にしたかったのだが時間がなかった。
皆には、織物などを学んでもらって、自分たちで作れるようになってもらい、ゆくゆくはそれを産業にしていけたらいい。
まあ、領民のことは、ヨドゥバシーに任せるべきだろう。
とは言え、秋冬ものはイグドラム国中を巻き込んで、他のナンバー貴族にも手伝ってもらうつもりで、コンテストの段取りを付けている。真夏に、真冬の服の選定を行うのだが、その先は大量生産が待っているわけだからそれでも時間がない方だ。
あと、靴。いまは、草履で過ごせているが、寒くなるとこの辺りはかなり雪が積もるため、ムートンブーツのように暖かでありつつも外側が撥水加工されたものが望ましい。
そんなことを考えつつ、浸かっている風呂の縁に腕を掛け、この大浴場の壁に窓から見える綺麗な三角の山を描いてみてもいいなと、木目調の壁を見て思う。
風呂から上がり、一休みした後、洗濯場で着ていた服を洗って、物干しに干す。
数千の生成色の服が風に靡いている様は、人の営みの一部が芸術に昇華されたような美しさがある。
ソゴゥが極東に向かった日、すでに、この場所にヨドゥバシーとイセトゥアンとニトゥリーの三兄弟に、移民受け入れの大工事の監修が言い渡されており、そのほとんどを、ヨドゥバシーが仕切っていたが、途中ヨドゥバシーが王女と共に、移民を乗せる客船の方を担当することになって抜けると、イセトゥアンとニトゥリーが現職を特殊任務として抜けて、この地の建築に付きっきりになっていたのだそうだ。
建物の設計図は、湖の畔に巨大な木造建築の楼閣のような旅館を建てるという、母ヒャッカと、父カデンの予算度外視の計画によって引かれていた図面がそのまま利用された。
一棟で三千人が暮らせるだけの建物が四棟作られ、仮設テントで過ごしてもらう事を予想していたソゴゥの想像を上回り、ソゴゥが極東に向かって、移民を連れて帰ってきた一か月ちょっとの間に完成させるという大業を成し遂げていた。
ノディマー領は、木と土地だけは売るほどあるため、保管されていた間伐材全てと、開拓した土地の木も利用され、ほとんどそれで材料が何とかなったのだという。
建物にガラス窓がないのは、工期の短縮と積雪時の防寒目的であり、その代わり障子窓になっているため、日本の豪雪地帯にある老舗旅館の趣と、ファンタジー世界の異質さを兼ね備えた、結果、とんでもない建物に仕上がっていたのだ。
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