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7終章 家督継承

7- 後. 終章 家督継承

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これから王により、ヨドゥバシーのノディマー家の家督承継と十二貴族任命式、それとトーラス家へ、一族のティフォン事件で負う懲罰チョウバツ下知ゲチが行われる
合理性を重んじるエルフ族は、こうした事柄を分けて行わず同時に済ませてしまう。

ティフォン・トーラスをニトゥリーに引き渡すときの悲鳴は壮絶ソウゼツだった。
ニトゥリーの名は、悪者によく知れ渡っており、最近では言う事を聞かない子供に「悪いことをしたらニトゥリーが来るよ」と脅すらしい。
あの円盤状の武器の出所デドコロと、ティフォンを利用して今回の絵を描いた者を探るように、ニトゥリーには助言しておいた。
「任せろや、今まで生きてきた世界がいかに平和だったかを、ティフォンに教えてやるからのう」
ニトゥリーが凄絶セイゼツに笑うのを見て、ティフォンご自慢の毛髪が、ストレスで枯れ果てるのではと、やや不憫フビンに思った。

時間となり、謁見の間に通される。
正面の玉座にゼフィランサス王、王の左右にアンダーソニー王子と、ロブスタス王子、向かって左列にノディマー家、右列に第二貴族のトーラス家が並び、王の正面にヨドゥバシーと、トーラス家当主のガスト・トーラスがヒザマズく。
全員がソロったのを見届け、ゼフィランサス王が、まずヨドゥバシーに向かい声を掛ける。

「ノディマー家一族の多大なるイグドラムへの貢献コウケンと、功績をカンガみ、十二貴族との決議の結果、ヨドゥバシー・ノディマーをノディマー家当主と認め、十二貴族に同格として加え、今日この時より十三番目の貴族とし、十二貴族は十三貴族とする。ヨドゥバシー・ノディマーよ、こちらへ」
王の呼びかけに、さんざん練習したであろうなかなかに優雅な所作で立ち上がり、アンダーソニー王子より、三つの月をカタドった家紋のハタを受け取る。
「ヨドゥバシー・ノディマーよ、貴族とは、この国の全ての国民のためにその高い能力を使い、貢献するという事が出来る者である。より大きな問題を解決し、より多くの者の役に立ち、昼夜国民にできる事を献身的に考え、国家に尽くすものである。権力を振りかざし、国民をナイガシろににし、自己の利益のみを追求する者は貴族ではない。よくよくキモメイじた上で、最終的に問う、十三貴族として恥じぬ貢献を約束し任命を受けるか」
「お約束をタガえることがないと誓い、拝命賜ります」
隣で、母さんと父さんの鼻をススる音が聞こえる。
イセ兄やニッチとミッツに続いて、俺が園から出てすぐの頃、ヨドゥバシーは、ノディマー伯爵より家業を手伝ってほしいと頼まれ、十八で園を出て、いよいよノディマー家に養子に入るとなった時、初めて本当の父親だと聞かされたのだった。
他の兄弟たちは、ヨドゥバシーよりは早くに聞かされたり、自分で調べたり、勘づいたりして知っていた。
その後、母さんが大司書及び館長職を退き、皆に母親であることを知らせた後、夫婦は失われていた二人の時間を取り戻すように旅行三昧で、家のことはヨドゥバシーに押し付けていたようだ。
ヨドゥバシーも苦労しているんだなと、しみじみ思う。
イグドラシルの根っこ登りをやらされないだけ、俺よりはマシかも知れないが。

長男のイセトゥアンは王宮騎士で、今目の前にいるロブスタス王子に比肩ヒケンする位置にいるため、ロブスタス王子に目の敵にされているようだ。
だが、外遊でこの場にいない、王妃と王女の絶大な支持を得ている。
また、ニトゥリーとミトゥコッシー、それに俺は既に重要職にあるため、家業はヨドゥバシーに任せ、四男のヨドゥバシーが家督をぐことになったのだ。

「次に、ガスト・トーラスよ、トーラス家のティフォンによる不始末はティフォン一人の懲罰チョウバツではアラガうことはできない。貴族書の持ち出しを含め、諸外国へ多大なる迷惑をかけたばかりか、一歩間違えれば大陸中の生命を損なう事態となっていた。今回の責任を問い、一族全体への賠償バイショウを申し付ける。向こう百年の業務量、範囲の倍増、利益の領民への配布率の増加を課す。詳細をリスト化して送るので、これを必ず達成させよ。毎月の登城を定例化し、その報告をいたせ。トーラス家の能力で達成し得る内容であるため、未達成の報告は受け付けない。成果物と、期待値を超えた部分の報告をせよ」
「かしこまりました」
「貴族なのだから、当然できるであろう?」
「はい、懲罰を受け入れ、責任を果たし、確実に成果をご報告いたします」
ゼフィランサス王は頷き、今度はヨドゥバシーに「貴族とは、辞めたくても辞めることのできないものと心得、決してオゴり、慢心しないように」と告げ「期待しているぞ」と微笑んだ。
これが企業なら、誰かの首をげ替えたり、解散したりするのだろうが、貴族はそうはいかない。
爵位剥奪シャクイハクダツや、お家取り潰しなどは合理的でないと考え、悪いことをしたら徹底的にツグナわせるのがイグドラム流だ。
そのため、十二貴族以外が、これにとって代わるため十二貴族をオトシめようと画策カクサクしても無駄で、能力のない貴族はどうあがいても、十二貴族(いまは十三貴族)には決して成れないのだ。

家督継承と十三貴族入りを果たしたノディマー家の祝賀会が王宮で行われた。
緊張から脱して酔いまくっているヨドゥバシーが、領地にあるノディマー家の増改築を夏までに終わらせるから、遊びに来て欲しいと皆に言う。
イセ兄がプール、ニッチがバーカウンター、ミッツがサウナ、俺が大きな犬がいるなら行ってもいいと冗談で言って、その話が五回目になったころ、お開きとなって、それぞれの寮や家へと帰っていった。

夜、部屋のドアを開け、館内の廊下へ出る。
第七区画の通路を歩き、一階まで吹き抜けになっている場所で背中からダイブする。
天井のガラスから見える月を見ながら落下する感覚が、どうにもクセになる。
司書は図書館内で魔法が使えるため、減速しながらの落下だ。
灯の消えた夜の図書館内は静寂に満ちていて、世界に自分しかいないみたいだ。
第五区画に近寄らなければ、レベル5の司書達にこの真夜中の散歩に気付かれることもないだろう。
一階から中庭に出て、暗い道をスズランの様な形の灯を手に、ジェームス達が付いてくる。
彼らは夜目が利くはずなのだが、こういう形にこだわるところがたまらない。
中庭を進むと、目的の木がある。
樹齢千年とは思えないほど、細くて頼りない。けれども若々しい木だ。
その幹に触れる。
ほんのりと手のひらが温かい。

「力を貸してくれてありがとう」
気のせいか葉がサワサワという。
「それと、もし会ったらでいいんだけれど星蝉セイダンにも伝えておいて、ありがとうって」
何処かでヒリヒリッと虫ののような音が聞こえ、足元が幾何学模様の黄緑色の光が移動していくのが見えた。
「地面の中が好きなんだね」
光る地面に喜んで跳ねる樹精獣たちが可愛い、叶うなら写真を撮りたい。
俺はべたりと地面に横になって、それから空を見上げた。
最初は月が三つもあるなんて、って思っていたけど、今ではこの空も当たり前だ。

それに、ペットと暮らす図書館暮しは結構楽しい。
                                   END
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