異世界転生者の図書館暮らし1 モフモフと悪魔を添えて

パナマ

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6終わらない夜の歌と、星の巫覡

6- 7.終わらない夜の歌と、星の巫覡

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もしも、こちらの世界で母や父、それに兄弟達と会えなかったらきっとすごく悩んだに違いない。
でも、大切な人は皆ここにいる。

「イグドラシル、そして星蝉セイダン、飛来した惑星外来悪腫を取り除くために、できることを教えて欲しい」

目の前の大樹が光りに包まれる。
かつてイグドラシルが取り込んだ、太歳を構成する物質。
千年に及ぶ解析により、その物質を崩壊させる振動数。そして、対消滅しないため、発生したエネルギーを吸収するためのプロセスを、異次元で星蝉が請け負う。
なるほど、十年前に自分が星蝉と出会ったこと、イグドラシルの司書となったことすら、この太歳駆除の計画の一部であったのだと理解する。
レベル7であれば、完全にイグドラシルの巫覡フゲキとなれる。

イグドラシルだった光が、神降ろしのようにその御霊ミタマがソゴゥへと集約する。
やがて、その姿がイグドラシルと星蝉を合わせた精霊の様な姿へと変化し、星蝉に力を送り続けていた悪魔の前でその目を開ける。

くるりと回転し、太歳へと向き直り、幾星霜イクセイソウの間、宇宙を渡り沢山の星を壊し続けてきた白い物体に近寄る。
弱体化を計れても、完全に消滅させることは出来なかったウイルス。
星蝉にとっては、いくつものを壊されてきた恨み、イグドラシルにおいては、導き築きあげてきた文明や文化の破壊や消失の悲しみ。
この世界にいらないものなど何一つないのだという。ただ、この星に、太歳はいらないというだけだ。
ソゴゥは羽を羽ばたかせ、光の粉をき散らしながら、太歳のもとへと飛ぶ。
太歳に比べ、あまりに小さい羽虫のような存在だが、その手が、太歳の白い体表に触れた瞬間、太歳の崩壊が始まった。

それはあまりに静かで、あまりにあっけない最期だった。
衛星が落ちてきたのかと思う程の巨大な球体は、集合状態を保てなくなった後、その繊維の一つ一つが砕け散るように霧散ムサンしていった。

やがて、ソゴゥが大地に降り立つと、その場所から波紋ハモンのように地を覆う白い物体もまた一息に砕け、消え去った。
大地は色を取り戻し、空を覆っていた厚い雲さえも掻き消えるように青空へと変わり、灰色の世界が鮮やかにヨミガエった。
竪穴付近で倒れ込む兵士たちの一人に、ソゴゥは近寄り、その顔を息を確かめるように覗き込む。
ナーガ族の兵士は、冬眠から覚めたように徐に覚醒し、そこかしこから声が聞こえる。
ソゴゥは安心したように、後方で自分の名前を呼ばわる声を聴いて、そこへと飛んだ。

目の前で起こったことが信じられなかった。
太歳が崩壊したばかりでなく、白い大地に埋もれていた同胞たちが息を吹き返したのだ。
ヴァスキツは生まれて千年近く、ここまでの感情を覚えたことはない。
これは、感動というものだ。

「ソーちゃん!」
横でエルフが、あの信じがたい存在を呼んでいる。
この世界にあれほどの力を持った精霊がいたのかと、恐怖さえ覚えるのに、隣の声は至極暢気シゴクノンキで、拍子抜ヒョウシヌけする思いだ。
ガルダでさえ驚愕キョウガクに打ち震え、いや、むしろ興奮で震え、好戦的な目を炯々ケイケイと輝かせている。
こやつの五百年でも、ここまでの好敵手は見たことがないのであろう。
少しばかり、呆れた目をガルダに向けていると、エルフの呼びかけに答えるように、黄緑色の光の粉を撒き散らしながら、光る羽を震わせて精霊がこちらへ飛んでくる。
目の前に降り立つと、よこでナーランダは頭を垂れ、敬意を表し、ガルダもまた腕を胸に当てて、礼を示している。

「知っている精霊か?」
ガルダがエルフ達に尋ねる。
「私達の息子です」とエルフが答える。
「ソーちゃんです」
「母さん、ソーちゃんはまずいって、王様の前で」と精霊が小声でタシナめる。
「いや、本当に、そなた等の子供であるか?」
「エルフなのか? 精霊ではなくて?」
ソゴゥは明らかに、王の風格のあるナーガ族と、先ほど見たガルダ王の前に緊張しながら自己紹介を始める。
「私は、イグドラシル第一司書のソゴゥ・ノディマーです。ここへは、イグドラムより出奔した犯罪者を追ってきました」
「だが、太歳の中から出てきたであろう」
「はい、太歳の中にいた星蝉の中におりました。星蝉の中にはイグドラシルの記憶があり、私はイグドラシルに呼ばれて、その手伝いをいたしました。この姿は本来の姿ではございません。じきに戻るかと思います」
「それで、そっちの黒いのは」
いつの間にか、ソゴゥの後ろに控えていたヨルについて、ガルダが尋ねる。
「私の、いえ、イグドラシルの護衛の悪魔です。この度の同胞の不始末についてなど、この後のことは、そちらの、父、カデン・ノディマーに任せ、我々は罪人を連れてイグドラムへ戻ります」
ソゴゥはヴァスキツとガルダ、それにその場にいたナーランダにお辞儀をして、立ち去ろうとする。
「いや、待て!」
ソゴゥの腕を掴むガルダの腕を、ヨルが掴む。
「ヨル」
放すように、目で促す。
「何でしょうか、ガルダ王」
ましているが、兄イセトゥアンの神鳥を怒らせたら終わると、フラグともとれる言葉を思い出し、内心ドキドキである。
「我が国へ招待する。使者を送るから必ず来るように」
「それは、光栄です」
「こちらもだ、我が同胞を救ってくれたのだ、まずはうちへ来られよ」
「おい、ジジイ」
「何だ小僧」
「ソーちゃん、外国に行く口実が出来てよかったわね、ずっとイグドラシルにコモり切りだとつまらないものね」
「いや、この場合どうだろう。こんな緊張を強いられる外国訪問はちょっと」
ソゴゥが羽をフルフルと震わせ、頭を振ると、体中から光が垂直に天へと伸びた。
やがて、光が抜けきると、いつもの黒目黒髪で丸耳のソゴゥの姿へと戻る。
「人間だったのか?」とガルダ。
「いえ、エルフです。突然変異的なものです」
頭上で星蝉が空を悠々ユウユウと飛びながら、その黄緑色の光を回収するように纏わせて、やがて薄れて消えていった。

クールマ族の男が目を覚ますと、目の前にいた三觭獣ベヒモスもまた、その目を開けた。
一体何が起こったのか分からないが、窮地キュウチは脱していないらしい。
ところが、三觭獣は男に背を向け、来た道を山へと戻っていく。
まるで憑き物が落ちたように、全身から発散されていた怒りは消えていた。
「隊長!」
向こうから、ウッパラや隊員、それに子供達の元気な声が聞こえてきた。
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