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6終わらない夜の歌と、星の巫覡

6- 4.終わらない夜の歌と、星の巫覡

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ソゴゥはアセり、握りしめた拳から血が流れていることにも気づかず、何か、何かと、太歳を退ける方法がないか考える。

もともと地下にいたのだから、地下へ戻す方法はないか。
それこそ、魔力の強い者を生贄イケニエにと言うのなら、自分がオトリになればいい。
そういえば、自分たちが生贄にされたときにいた、あの黒い虫の様な魔獣と文献の太歳とは形状が異なっている。

「おい」
ソゴゥは前にいるティフォンに声を掛ける。
「お前は、太歳を見たのか?」
ティフォンは窮屈キュウクツそうに首を曲げ、こちらに向く。
「はっきりと見てはいない」
「それでもいい、見たものを話せ」
ティフォンが応えないでいると、ヨルがティフォンの前髪を燃やした。
「やめろ!」
ご自慢のエルフらしい手入れの行き届いた金色の髪を燃やされ、ご立腹のようだ。
ソゴゥは無言でウナす。
「クッ、この横穴に地上から竪穴を掘って繋げたときに、陽の光が差し込む場所に動物の死骸を置いておいた。奥の方から、何かが騒めいて、白い煙の様なものが移動してくるのが見えた。そこからはすぐに最大速度で移動をしたから見てはいないのだ」
「白い煙のようなもの・・・・・・・それが、この巨大な横穴を掘って進む化け物の正体か」
ソゴゥは円形の穴の床から天上まで、土面に螺旋状ラセンジョウの細かな傷があることに気付いた。
そこに、何か白く埋もれているものを発見し、土掻竜の操縦をしているヨルに、土掻竜を止めるよう声を掛ける。

「これは何だろう?」
土掻竜から降りたソゴゥは、土の中に埋もれた白いカビの様なものに覆われた個所を見つめ、サザナミのように繊維が動いているのを確認した。
ソゴゥが躊躇タメラいなくそれに触れようとするのを、ヨルが制し「我が」と白いものに触れた。
その途端トタン、白い物がヨルの手から腕に取り付き白く覆っていく。
ヨルが黒い炎でそれを焼き払うと、炎と共に腕がなくなっていた。

「おい! ヨル、お前腕が!」
「腕ごと燃やさないと、体に侵食してくるところであった」
「そんな」
「大丈夫だ、心配には及ばぬ。暫くすれば、生えてくる」
「本当に?」
「ああ」とヨルが人間臭く笑う。
ソゴゥは壁から少し離れて、白い物体を観察する。
「これは、太歳から剝離ハクリした物体なのだろうか?」
そこから数歩下がり、火球を作ってそれを白い部分に放つ。
小さな火球だったが、大砲を打ち込んだように壁が凹み、土面を黒く焦がした。
だが、白い部分は繊維を波立たせただけで、焼けも、焦げもしない。
続けて氷結、風刃、電撃、蒸気、空砲、毒、酸、呪詛、祝福と思いつく限りの魔法を当てる。
まるで新しい素材の耐久テストのように、固定された試料に負荷を加え続ける。
しかし、状態に変化は見られない。
ヨルは再生した腕を振り、動きを確かめている。
「ヨル、この白い部分を、あの黒い炎で燃やせるか?」
ヨルが試すも、炎は物体の表面をカスめるだけで、燃焼までには至らない。
ソゴゥは土掻竜の上に積んでいた、ティフォンたちから回収した円盤状の武器を持ってきて、土掻竜と皆をずっと遠くに遠ざけてから、ティフォンに吐かせた操作方法でこれを対象へ投擲トウテキする。
武器は白い部分の周囲の土壁を削っただけで、物体そのものには傷をつけた様子がない。
その後も、ヴィント、ヨル、グレナダそして、ティフォンを押さえつけるのをヴィントと交代したブロンがそれぞれの魔法や技を当てるが、対象に変化は見られなかった。

「歌はどうでしょう?」
「歌? あの魔獣を眠らせた歌か」
グレナダが、セミの幼虫のような魔獣の腹の中で歌ったという歌を歌う。
エルフでは到底出せない高低が広い音域でグレナダが歌うも、やはり変化はなかった。
「俺たちが見たあの黒い魔獣は、やはり太歳ではなかったようだな」
「そうですね、私が読んだ本には太歳や災という表記では記されていませんでした。ただ、巨大で、地下に在るものについて記されていました」
「あの魔獣は何だったんだろう。どうして太歳と同じ穴にいたんだろう」
ソゴゥは思考から戻り、グレナダを見る。
「グレナダ、地下に在るものについて書かれていたという本の題を覚えているか?」
「はい」
グレナダから聞いた本を、ガイドでイグドラシルの蔵書から探し出す。
「これか」
本のページを猛烈な勢いでめくり、ソゴゥはある1ページをグレナダに見せた。
「これ、この旋律センリツ、歌える?」
「これは、眠りの歌とは違いますね」
しばらくを確認していたグレナダは、首を振った。
「私には、ここまでの広域な音階を発声することは出来ません」
ソゴゥは落胆ラクタンし目の前が回転していくような眩暈メマイを覚えたが、何とか堪える。
「他に何か、そうだ、楽器があればいけるのか?」と、思考を巡らせ続ける。
「マスター、我なら可能だ」
「ん? 何が?」
「その譜通りの音を発声することが出来る」
「本当か! それなら、ああ、もしかしたら!」
ソゴゥが興奮してよろけるのをグレナダとヨルが支える。
「直ぐに出発する」
ソゴゥは体勢を直して、土掻竜まで駆け戻って飛び乗る。
「『地に在るもの』を探すぞ!」
ソゴゥは、ヨルに前進を急がせる。
「どういうことですか?」
ヴィントの問いに、ソゴゥは「太歳の天敵が見つかったかもしれない」と答える。
「以前この地に、太歳とは別の魔獣がいたんだ。地中深くに存在し、星を巡る巨大な魔獣という共通点だけで、俺はその魔獣を太歳や災と呼ばれるものと同じだと思っていたが、一方は個体惑星に寄生して、地脈に取り付き惑星の寿命奪うもので、質量があり、個体、液体、気体に干渉する。もう一方は、惑星の地中深くをただ巡り、惑星の寿命に干渉せず、惑星の消滅時に羽化を果たして飛翔ヒショウし、他の星へ移動する星渡の魔獣。こちらは、物質の三形態とは異なる第四の形態を持って、基本的には質量がないと推測できる」
「質量がない生物など想像つかないのですが、幽鬼のようなものでしょうか?」
ヴィントが首をスクめる。
「実体が無いようなもの、成る程、たしかにまるで星の幽霊みたいだな」
ソゴゥはヴィントの怯えた様子には気付かず、納得したように呟いた。
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