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5原始の森と温泉宿

5-8.原始の森と温泉宿

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ヨルがティフォンの頭を鷲掴みにする。

「我はまやかしなどではないぞ、心優しいマスターの気遣いをケナす毒虫は駆除してやろう」
「あはははは、バカども! 私の勝ちだ!」
突如、高笑いを始めたティフォンが「大風よ!」と叫ぶ。
手には開いた状態の大風の書があり、トーラス家の者であれば発動が可能な大気流の永続発生魔法を唱えていた。
ソゴゥはオモムロに、大風の書を横から奪い、ティフォンの頭を叩いた。
「痛ッ!」
「痛ッ、じゃねえよ、バカが。ああ、疲れた、本も回収できたし、撤収テッシュウ!」
「なっ、何故魔法が発動しない! 偽物だったのか?」
「国外に持ち出し瞬間、所有権はトーラス家から、イグドラシルに返還されているつーの。トーラス家の者がいくら詠唱を行ったところで、応えはしないんだよ。貴族のくせにそんなことも知らなかったのか? 勉強不足だな、おい、俺たちが追ってきたのは、ただ、本を回収するためだけだ。お前の目論見など、端から成功する可能性はなかったんだよ。まったく、お前のようなおバカさんに付き合わされた、こっちの身にもなれよ」
「何という口の利き方、それが第一司書の有り様か!」
「お前に敬意を払っていないだけだ。お前も、俺にムカついていたんだろ、この髪が黒く、この瞳が黒く、この耳が丸いのが気に喰わなかったのだろう」
言うそばから、ソゴゥの髪は白銀に、瞳は亜透明の黄緑に、耳は尖りエルフのそれとなった。
「なっ、どういう・・・・・・・」
「俺の両親はエルフだ、父親はカデン・ノディマー伯爵、ちなみに母さんはヒャッカと言う。あんたが、誘拐を教唆キョウサして抹殺しようとしたレベル6の兄弟たちの末っ子が俺。俺だけ、髪色が違っていたから、兄弟と思われていなかったようだけれどな」
「なっ、お前がヒャッカ様の息子だというのか」
「あんた、屋敷に母さんの肖像画風のステンドグラス飾っておいて、俺の顔に気付かないなんて、その目は節穴か?」
「えっ、えっ、という事はソゴゥ様も、ご兄弟のイセトゥアン隊長も前大司書のヒャッカ様ご子息なのですか⁉︎」
ブロンとヴィントの方がティフォンより反応している。
「歴代のレベル6の子供たちは、誘拐されて不幸な目にあっているからね、大人になるまではと、公にされてこなかったんだよ。だから、末っ子の俺も血縁者とばれないように髪色を変えていたんだ(ウソ)」
「なるほど、似ていらっしゃるとは思っていたのですが、そういう理由でソゴゥ様は人間に寄せていらしたんですね」
ヴィントが真に受けて、納得する。
「聖女様に、カデンのような害虫の産ませた子など必要ない。『サイ』の餌になればいいと、スパルナ族にお前たちの存在を教えてやったのに、結局十年前はオスティオスの奴に邪魔されたがな。どのガキもしぶとく、国家中枢に食い込む浅ましさよ、だが、やはり私の勝ちだ、『災』は解き放たれた」
グレナダと有翼人たちが反応する。
「グレナダ、あの魔獣は数年前にこの地から移動したんだったよな?」
ソゴゥは、ティフォンの目的を二つ推測していたが、その一つが、この地に留まっていた黒い体躯に幾何学模様の緑の光を放っていた、あ虫のような姿の、魔獣への干渉カンショウだった。
「十年前のあの事件以降、魔獣のいた洞窟は国の監視下に置かれて観測され続けていましたけれど、二年ほど前に、魔獣は突如姿を消しています」
「ティフォン、あんたは『災』をどこで見た?」 
ティフォンは嫌な笑みを浮かべるだけで、ソゴゥの質問に答えない。
「ソゴゥ、魔獣の消えた後には、巨大な穴を掘り進んで移動していた痕跡がありました。移動先は、ウィドラ連邦国の方向です」
「第五指定図書、イグドラシルの図書館建造時に使用された工法や、大規模な工事魔法について記された書籍、あんなものをどう利用するのかと考えていたが、深い竪穴タテアナ掘削クッサクするために利用したのか」
「さすが第一司書殿、ご明察ですよ。もとより、ガルトマーン王国へ侵入するための経路として、地中深くに潜る穴を掘る必要があったわけですが、横穴は『災』が掘り進めてきたものをそのまま利用してこの地にやって来たわけです。『災』は地中にいる間は、星の気脈に取り付き、地表へ出れば生き物をムサボり始める、フフ、ああ、これからこの大陸の生き物はアマネく災の餌だ!」
「うるせえよ、幼稚ヨウチな事をワメくな。ウィドラ連邦国のガルトマーン王国国境付近、お前たちが昨日までいた場所だな、そこに災がいたという事か」
幼稚と言われたことに腹を立てて黙るティフォンの顔を、ヨルが掴む。
捕まれたこめかみから、頭蓋骨に穴が開くかと思うほどの締め付けに、タマらずティフォンは上ずった声で答える。
「ああ、いた、いたんだ。我々が掘った竪穴の奥に! ウィドラ連邦国の側だ」
太歳タイサイは物質的な質量を持った、星に取り付くウイルスのようなものだ」
ヨルが言い、さらに「太歳が地上に出たのであれば、その男の言う通り、未曾有ミゾウの災害をモタラすであろう。これから死する生物の数だけ、この男を殺し続けることもできるが、どうする?」と物騒な提案をしてくる。
「私も賛成です」
グレナダが怒りに燃えた目を、ティフォンに向ける。
「二人とも落ち着いて。まずは、ガルトマーン国王に報告した方がいい、同時に事実確認を行い、各国に対策を講じさせるために周知する」ソゴゥは言いながら、手紙を数通書いて、白い鳥を飛ばす。
「ティフォン、お前は、俺たちを災のもとへ案内してもらう」
ソゴゥは言い、土掻竜にティフォンを乗せた。
「我々も同行します」とブロンとヴィント、それにヨルが同乗する。
「私も行きます」
グレナダは他の有翼人に、このことの報告と、ティフォンの部隊の者達の身柄を任せる。
土掻竜上では、ソゴゥがイグドラシルの蔵書から「太歳」について記されているものを見つけ、その本の情報を呼び出して確認を始めていた。

ブロンが四肢を拘束されたティフォンを押さえ込みながら、太歳のもとへ案内するよう、促し、その横でヨルが脅しをかけていた。

「誤った道に進んだ時点で、四肢から順に腐食の炎で燃やしていくぞ」

ヴィントとグレナダがソゴゥを落ちないように支え、土掻竜はその大きさからは想像できないほどの速さで大地を蹴って走り出した。
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