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4モフモフと悪魔と朝ごはん
4- 7.モフモフと悪魔と朝ごはん
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「ガルトマーン主要港近海に小型船が二十艘、遠洋に大型の漁船が三隻、うち一隻は明朝に主要港へ帰港予定です」と女性隊員が早速報告する。
「了解した。第一司書殿、次のご指示を」
ミトゥコシーが畏まって言う。
ソゴゥ以外の他の者には見えてはいないが、目が笑っている。
「その漁船に連絡を取っていただきたい。内容は手紙に記しますので」
「承知いたしました。第一司書殿」
国王に匹敵する権力者の突然の来訪に、緊張で震える声を懸命に制御して隊員が応える。
「私の要件は以上です。ご協力感謝いたします」
ミトゥコシーと共に踵を返し、通信室を出ていくイグドラシルの第一司書の背を、その場の者たちはあからさま過ぎないようにガン見する。
イグドラシルからほとんど出ない世界樹の使いである司書、その中でも初代と同等の最高位の司書には、王侯貴族とは別の、崇拝に似た感覚をエルフは覚える。
滞在した空気に触れるだけでも、何かしらの御利益的なものがあるのではと、ソワソワするのを互いに悟られぬよう、皆がそれぞれソゴゥが立っていた場所を用もなく、行ったり来たりしていた。
「ミッツ、ありがとう。一瞬で話が済んだ」
「通信部の連中は、もっとソゴゥと話したかったかもしれんがのう、まあ、緊急事態だからしょうがない。俺も別動隊に志願しとる。ソゴゥと一緒がええが、役割があるからのう、側におれん。護衛の悪魔さんよ、ソゴゥを頼むのう」
最後はヨルに話しかけた。
「当然である」とヨルが答える。
「それじゃ、頑張ってこい」と、馬車まで見送りに来たミトゥコシーが、ソゴゥの髪をくしゃくしゃに掻きまぜながら言う。
ソゴゥは頷き、馬車に乗り込むとイグドラシルへ向かうよう伝える。
イグドラシルへ戻ると、指示を出した王宮騎士の二人はまだ来ていなかった。
ソゴゥはイグドラシルに戻るなり、八人のレベル5にソゴゥの執務室へ集まるよう召集を掛けた。
三々五々と集まるなか、アベリアは入室するなりヨルに目を止めて「館長、そちらの方はどなたですか?」と尋ねた。
ソゴゥは全員が集まったのを確認し、ヨルを紹介する。
「この者は、私が召喚した悪魔で、ヨルと言う。今後私の周辺警護を任せる予定だ。正式な王の承認を得て、イグドラシルに滞在させるので、覚えておいてもらいたい」
「その黒の司書服はどうされたのですか?」
ジャカランダの後任で司書長となった、サンダーソニアが質問する。
「樹精獣たちが持って来た」とソゴゥが答えると、皆のヨルを見る目にあった猜疑心が弱まった。
「イグドラシルに滞在とは、館長の私室に滞在するという事ですか?」
アベリアが尋ねる。
「そうだ、他に置いておくのも不安だし、私の目の届くところに居てもらうつもりだが、何か問題か?」
「いえ、そういうわけではないのですが・・・・・・・(館長の部屋、館長の部屋・・・・・・・)」
後半はブツブツと、聞き取れない声でアベリアが何か言っていたが、ソゴゥは己の思考にもぐってしまった彼女をよそに「他に何かこの件で意見がある者はいるか?」と尋ねる。
「現段階では、特に申し上げることはございません」と代表してサンダーソニアが言う。
「では、本題に入る。昨夜、第五指定図書の回収に十二貴族のティフォン・トーラスを尋ねた帰りに何者かの襲撃を受けた。目的はおそらく、私が回収した第五指定図書の奪取と思われる。襲撃が失敗に終わった直後に、首謀者と思われるティフォン・トーラスは、隣国のウィドラ国境を超えている。トーラス家の貴族書でティフォンが管理する、『大風の書』が国外に持ち出されてしまったことが分かっている」
事の重大さを何より理解している司書達から、怒りと、恐怖の気配が漂う。
「私はこれより、ティフォン・トーラスを追い『大風の書』を回収する。イグドラシルはこれより緊急事態とし、指定図書の閲覧と貸し出しを停止し、一部例外を除き、第四階層以上を閉鎖する」と司書達に通達する。
「かしこまりました」
それぞれの返答を確認し、ソゴゥはガイドのカギを取り出して、これを本来の槍のような大きさへ戻して手に握る。
「禁書庫閉鎖」と言って、床を突くと、カギを中心に光が周囲に広がっていく。
「私不在の間、イグドラシルのことをお願いします」と皆に伝え、司書長のエルフに向けて「サンダーソニア、後のことはよろしく頼みます」と言った。
「ええ館長、イグドラシルの事はお任せください。館長を襲撃したティフォン・トーラスを私が捕まえて捻り上げて差し上げたいところですが、どうかお気をつけて」
「館長、時間があったらで構いませんので、連絡をお願いします」と一人が発言すると、他にも「私からもお願いします。連絡をいただければ、私たちが安心します」と声があちこちで上がる。
「ああ、わかった。だが期待はしないでくれ」とソゴゥが応える。
執務室の扉がノックされ、シルバーブルーの司書服の者が「館長、王宮騎士の方がお見えです」と報告する。
「わかった、応接室に案内してくれ、直ぐ行く」と応え、ソゴゥはレベル5との打合せを終えて、ヨルを伴い執務室を後にする。
「了解した。第一司書殿、次のご指示を」
ミトゥコシーが畏まって言う。
ソゴゥ以外の他の者には見えてはいないが、目が笑っている。
「その漁船に連絡を取っていただきたい。内容は手紙に記しますので」
「承知いたしました。第一司書殿」
国王に匹敵する権力者の突然の来訪に、緊張で震える声を懸命に制御して隊員が応える。
「私の要件は以上です。ご協力感謝いたします」
ミトゥコシーと共に踵を返し、通信室を出ていくイグドラシルの第一司書の背を、その場の者たちはあからさま過ぎないようにガン見する。
イグドラシルからほとんど出ない世界樹の使いである司書、その中でも初代と同等の最高位の司書には、王侯貴族とは別の、崇拝に似た感覚をエルフは覚える。
滞在した空気に触れるだけでも、何かしらの御利益的なものがあるのではと、ソワソワするのを互いに悟られぬよう、皆がそれぞれソゴゥが立っていた場所を用もなく、行ったり来たりしていた。
「ミッツ、ありがとう。一瞬で話が済んだ」
「通信部の連中は、もっとソゴゥと話したかったかもしれんがのう、まあ、緊急事態だからしょうがない。俺も別動隊に志願しとる。ソゴゥと一緒がええが、役割があるからのう、側におれん。護衛の悪魔さんよ、ソゴゥを頼むのう」
最後はヨルに話しかけた。
「当然である」とヨルが答える。
「それじゃ、頑張ってこい」と、馬車まで見送りに来たミトゥコシーが、ソゴゥの髪をくしゃくしゃに掻きまぜながら言う。
ソゴゥは頷き、馬車に乗り込むとイグドラシルへ向かうよう伝える。
イグドラシルへ戻ると、指示を出した王宮騎士の二人はまだ来ていなかった。
ソゴゥはイグドラシルに戻るなり、八人のレベル5にソゴゥの執務室へ集まるよう召集を掛けた。
三々五々と集まるなか、アベリアは入室するなりヨルに目を止めて「館長、そちらの方はどなたですか?」と尋ねた。
ソゴゥは全員が集まったのを確認し、ヨルを紹介する。
「この者は、私が召喚した悪魔で、ヨルと言う。今後私の周辺警護を任せる予定だ。正式な王の承認を得て、イグドラシルに滞在させるので、覚えておいてもらいたい」
「その黒の司書服はどうされたのですか?」
ジャカランダの後任で司書長となった、サンダーソニアが質問する。
「樹精獣たちが持って来た」とソゴゥが答えると、皆のヨルを見る目にあった猜疑心が弱まった。
「イグドラシルに滞在とは、館長の私室に滞在するという事ですか?」
アベリアが尋ねる。
「そうだ、他に置いておくのも不安だし、私の目の届くところに居てもらうつもりだが、何か問題か?」
「いえ、そういうわけではないのですが・・・・・・・(館長の部屋、館長の部屋・・・・・・・)」
後半はブツブツと、聞き取れない声でアベリアが何か言っていたが、ソゴゥは己の思考にもぐってしまった彼女をよそに「他に何かこの件で意見がある者はいるか?」と尋ねる。
「現段階では、特に申し上げることはございません」と代表してサンダーソニアが言う。
「では、本題に入る。昨夜、第五指定図書の回収に十二貴族のティフォン・トーラスを尋ねた帰りに何者かの襲撃を受けた。目的はおそらく、私が回収した第五指定図書の奪取と思われる。襲撃が失敗に終わった直後に、首謀者と思われるティフォン・トーラスは、隣国のウィドラ国境を超えている。トーラス家の貴族書でティフォンが管理する、『大風の書』が国外に持ち出されてしまったことが分かっている」
事の重大さを何より理解している司書達から、怒りと、恐怖の気配が漂う。
「私はこれより、ティフォン・トーラスを追い『大風の書』を回収する。イグドラシルはこれより緊急事態とし、指定図書の閲覧と貸し出しを停止し、一部例外を除き、第四階層以上を閉鎖する」と司書達に通達する。
「かしこまりました」
それぞれの返答を確認し、ソゴゥはガイドのカギを取り出して、これを本来の槍のような大きさへ戻して手に握る。
「禁書庫閉鎖」と言って、床を突くと、カギを中心に光が周囲に広がっていく。
「私不在の間、イグドラシルのことをお願いします」と皆に伝え、司書長のエルフに向けて「サンダーソニア、後のことはよろしく頼みます」と言った。
「ええ館長、イグドラシルの事はお任せください。館長を襲撃したティフォン・トーラスを私が捕まえて捻り上げて差し上げたいところですが、どうかお気をつけて」
「館長、時間があったらで構いませんので、連絡をお願いします」と一人が発言すると、他にも「私からもお願いします。連絡をいただければ、私たちが安心します」と声があちこちで上がる。
「ああ、わかった。だが期待はしないでくれ」とソゴゥが応える。
執務室の扉がノックされ、シルバーブルーの司書服の者が「館長、王宮騎士の方がお見えです」と報告する。
「わかった、応接室に案内してくれ、直ぐ行く」と応え、ソゴゥはレベル5との打合せを終えて、ヨルを伴い執務室を後にする。
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